特別養護老人ホーム(特養)へ入所すると、介護サービス費だけでなく、食費・居住費・日常生活費などさまざまな費用がかかります。
そのうち一定の費用は、確定申告の医療費控除の対象になります。ただし、特養で支払った費用がすべて対象になるわけではありません。
まず結論|特養は「介護費・食費・居住費の自己負担額の2分の1」が基本的な医療費控除対象
国税庁では、指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)と指定地域密着型介護老人福祉施設について、施設サービスの対価として支払った介護費・食費・居住費の自己負担額の2分の1相当額を医療費控除の対象としています。一方、理美容代などの日常生活費や、本人の希望による特別なサービス費用は原則として対象外です。施設が発行する領収証には基本的に医療費控除の対象額が記載されるため、家族が独自に計算するより、まず領収証の「医療費控除対象額」を確認してください。
特養の費用は医療費控除の対象になる?
特養で支払う費用の一部は、所得税の医療費控除の対象になります。
指定介護老人福祉施設が対象。国税庁は、介護保険制度の下で提供される指定介護老人福祉施設、つまり特別養護老人ホームの施設サービスの対価について、一定額を医療費控除の対象としています。
地域密着型特養も同じ扱い。入所定員29人以下の指定地域密着型介護老人福祉施設についても、同様に一定額が医療費控除の対象です。
支払った全額ではない。特養の場合、施設サービスの対価として支払った介護費・食費・居住費の自己負担額の全額ではなく、その2分の1相当額が医療費控除の対象です。
医療費控除の対象になる3つの費用
国税庁が示している基本的な対象は、介護費・食費・居住費です。
01
介護費
特養の施設サービスについて、介護保険の自己負担として支払った費用が対象の基礎になります。
02
食費
施設で提供される通常の食事に係る自己負担額も、医療費控除対象額の計算に含まれます。
03
居住費
特養で生活するための居住費に係る自己負担額も、対象額の計算に含まれます。
これらを合計した自己負担額の2分の1相当額が、特養についての医療費控除の対象となるのが基本です。
なぜ特養は全額ではなく2分の1?
特養は、医療機関そのものではありませんが、所得税法上、病院や診療所に準ずる施設として位置づけられています。
療養上の世話等に相当する部分が対象。国税庁では、特養の施設サービスの対価のうち、療養上の世話等に相当する部分を、介護費・食費・居住費の自己負担額の2分の1相当額として取り扱っています。
老健・介護医療院とは扱いが違う
介護老人保健施設(老健)や介護医療院は、施設サービスの対価として支払った介護費・食費・居住費の自己負担額が医療費控除の対象となります。
「介護保険施設ならすべて半額」と考えず、施設種別ごとの取扱いを確認してください。
POINT
特養では「介護費だけの半分」ではなく、通常は介護費・食費・居住費に係る自己負担額を基にした2分の1相当額が対象です。最終的には施設の領収証に記載された医療費控除対象額で確認するのが分かりやすい方法です。
医療費控除の対象外になる費用
特養へ支払った費用でも、日常生活上の費用や特別なサービス費用は医療費控除の対象外です。
理美容代。散髪、美容など、日常生活で通常必要となる費用は医療費控除の対象となる施設サービス費には含まれません。
日用品等の日常生活費。本人が使用する日用品など、日常生活費として施設から請求されるものは原則として対象外です。
特別なサービス費用
本人の選択による特別なサービスなど、通常の施設サービスとは別に支払う費用は対象外となるものがあります。
請求書の総額をそのまま半分にしない
理美容代や日常生活費などが請求書に含まれている場合、請求総額の2分の1を医療費控除へ計上すると誤る可能性があります。施設が発行した領収証に記載されている医療費控除対象額を確認してください。
領収証の「医療費控除対象額」を確認する
特養の医療費控除で最も重要なのが領収証です。
施設側が対象額を記載する。国税庁では、指定介護老人福祉施設や指定地域密着型介護老人福祉施設が発行する領収証には、基本的に医療費控除の対象となる金額が記載されることとしています。
家族が一項目ずつ計算しなくてもよい。介護費・食費・居住費、日常生活費などを家族が独自に分けて計算するより、施設が示した対象額を確認する方が確実です。
記載が見つからないときは施設へ問い合わせる。「医療費控除対象額」「医療費控除の対象となる金額」などの欄が見つからない場合は、施設の請求担当者へ確認してください。
高額介護サービス費の払い戻しを受けた場合
介護保険の自己負担が一定の上限を超え、高額介護サービス費として払い戻しを受ける場合があります。
払い戻し分はそのまま医療費に含めない。国税庁では、高額介護サービス費として払い戻しを受けた場合、その金額を医療費から差し引いて医療費控除を計算することとしています。
特養の施設サービス費部分には2分の1の取扱いがある
指定介護老人福祉施設や指定地域密着型介護老人福祉施設の施設サービス費の自己負担だけに対する高額介護サービス費については、払い戻し額の2分の1相当額を医療費から差し引く取扱いが示されています。
払い戻しが後から決まる場合は確認する。年をまたいで払い戻し額が確定する場合など、申告方法に迷うときは税務署や税理士へ確認してください。
負担限度額認定を受けている場合は?
所得・資産等の要件を満たす人は、特養の食費・居住費について介護保険負担限度額認定を利用できる場合があります。
実際に支払った自己負担額が基礎になる。医療費控除では、実際に本人側が負担した額を基に確認します。
軽減前の標準的な食費・居住費で計算しない。負担限度額認定によって本人の支払額が軽減されている場合、家族が軽減前の金額を使って独自に計算しないようにします。
領収証を確認する。施設から発行される領収証の医療費控除対象額を基準にしてください。
特養で受けた診療・薬代はどうなる?
特養の施設利用料とは別に、医師の診療を受けたり、医療機関・薬局へ医療費を支払ったりする場合があります。
通常の医療費控除のルールで確認する。医師・歯科医師による診療や治療の費用、治療・療養に必要な医薬品の購入費などは、一般の医療費控除の対象になり得ます。
施設利用料の2分の1とは別に整理する。特養の領収証に記載された施設サービスの医療費控除対象額と、病院・診療所・歯科・薬局等へ直接支払った医療費は分けて確認してください。
同じ費用を二重に計上しない。施設の領収証に含まれている費用と、別の医療機関の領収証を重複して計上しないよう注意します。
通院の交通費は対象になる?
入所中に施設外の病院へ通院することがあります。
治療のため通常必要な交通費は対象になる場合がある。医療費控除では、診療を受けるために通常必要な公共交通機関の交通費などが対象になる場合があります。
自家用車のガソリン代・駐車場代は原則対象外。家族が自家用車で通院に付き添った場合のガソリン代や駐車場代は、一般に医療費控除の対象とはなりません。
施設の通院同行費とは分けて確認する。施設へ支払う職員同行費などが医療費控除の対象になるかは、費用の性質を確認する必要があります。領収証の記載や税務署への確認をおすすめします。
誰が医療費控除を申告できる?
医療費控除は、特養へ入所している本人だけが申告するとは限りません。
本人または生計を一にする家族が支払った医療費。納税者が、自分自身または生計を一にする配偶者・その他の親族のために支払った医療費は、要件を満たせばその納税者の医療費控除の計算に含めることができます。
誰が実際に負担したかを整理する。本人の年金口座から支払っているのか、子どもが負担しているのかなど、支払者を確認します。
家族だから自由に好きな人が申告できるわけではない。家族関係だけでなく、生計を一にしているか、実際に誰が医療費を支払ったかが関係します。個別判断が難しい場合は税務署等へ確認してください。
医療費控除はいくらから使える?
医療費控除は、1年間に支払った対象医療費が一定額を超えた場合に、所得控除を受けられる制度です。
特養の費用だけで判定する必要はない。本人や生計を一にする家族について、その年に支払った病院・歯科・薬局等の対象医療費と合わせて計算します。
保険金などで補てんされた金額を差し引く。医療費控除額を計算するときは、生命保険の給付金など医療費を補てんする金額がある場合、所定の方法で差し引きます。
所得によって基準額が変わる場合がある
一般には医療費の合計から10万円を差し引きますが、その年の総所得金額等が200万円未満の場合は、総所得金額等の5%が基準になります。実際の計算は申告する人の所得状況で確認してください。
1月から12月までに支払った金額で考える
医療費控除は、原則としてその年の1月1日から12月31日までに実際に支払った医療費を対象に計算します。
請求月ではなく実際の支払時期に注意する。12月分の施設利用料を翌年1月に支払った場合などは、どの年の医療費になるか支払日を確認してください。
年ごとに領収証を整理する。施設の領収証、病院の領収証、薬局の領収証などを年別に整理しておくと申告しやすくなります。
医療費控除の明細書を作成する
確定申告では、医療費控除の明細書を作成して申告します。
領収証の対象額を基に整理する。特養については、施設が発行した領収証に記載された医療費控除対象額を確認して集計します。
医療費通知を利用できる場合もある。健康保険の医療費通知など、申告に利用できる資料がある場合は、国税庁の案内に沿って使用します。
領収証は捨てない。確定申告時に領収証を提出しない場合でも、法令上定められた期間の保存が必要です。申告が終わったからとすぐ処分しないようにしてください。
特養の領収証で確認したいチェックリスト
医療費控除の確認ポイント
- 施設が指定介護老人福祉施設または指定地域密着型介護老人福祉施設か
- 領収証に医療費控除対象額の記載があるか
- 介護費・食費・居住費が確認できるか
- 日常生活費が分けて記載されているか
- 理美容代等を含めていないか
- 特別なサービス費用を含めていないか
- 高額介護サービス費の払い戻しがあるか
- 負担限度額認定を利用しているか
- 別途支払った病院・歯科・薬局の費用があるか
- 誰が実際に費用を支払ったか
- 対象年中に実際に支払った金額か
家族がやりがちな計算ミス
特養の医療費控除では、「半分」という言葉だけを覚えていると間違いやすくなります。
請求総額をそのまま2分の1にする。請求書に日常生活費や理美容代などが含まれている場合、それらまで半分にして申告すると対象外費用が混ざる可能性があります。
食費・居住費は対象外と思い込む。特養では、通常の施設サービスに係る食費・居住費の自己負担額も、医療費控除対象額の計算に含まれます。
老健と同じ扱いだと思う。老健や介護医療院では施設サービスの対価に係る自己負担額が対象となるのに対し、特養はその2分の1相当額です。
高額介護サービス費の払い戻しを無視する。払い戻しを受けた場合は、国税庁のルールに沿って医療費控除額を調整する必要があります。
領収証に対象額がない・分からない場合
領収証を見ても医療費控除対象額が分からないときは、推測で申告しないことが大切です。
まず施設の請求担当者へ確認する。医療費控除対象額を記載した領収証や証明書を発行できるか確認します。
税務上の判断は税務署へ確認する。施設側は請求内容を説明できますが、最終的な税務判断について不明点がある場合は、所轄税務署や税理士へ確認してください。
前年の申告をそのままコピーしない。介護費、居住費、負担割合、払い戻し額などは年によって変わる場合があります。その年の領収証を使って確認します。
まとめ|特養の医療費控除は領収証の対象額を確認するのが基本
指定介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)と指定地域密着型介護老人福祉施設では、施設サービスの対価として支払った介護費・食費・居住費の自己負担額の2分の1相当額が医療費控除の対象となります。
一方、理美容代などの日常生活費や特別なサービス費用は、施設サービスとしての医療費控除の対象外です。
また、高額介護サービス費の払い戻しを受けた場合には、控除対象額から所定の金額を差し引いて計算する必要があります。
実務上は、家族が請求書の総額から独自に計算するのではなく、特養が発行する領収証に記載された「医療費控除の対象となる金額」を確認するのが最も分かりやすい方法です。
施設利用料とは別に支払った病院・歯科・薬局等の費用がある場合は、それぞれ通常の医療費控除のルールで確認し、同じ費用を二重に計上しないよう整理してください。