認知症がある家族について、「介護老人保健施設(老健)へ入れるのか」「徘徊や夜間不眠があっても受け入れてもらえるのか」と心配になることがあります。
老健は、在宅復帰・在宅療養支援を目的に、リハビリテーション、必要な医療、介護などを提供する施設です。認知症があることだけで一律に入所できないわけではありませんが、症状の程度、行動・心理症状、医療ニーズ、リハビリの必要性、施設の認知症ケア体制によって受け入れ可否は変わります。
まず結論|認知症があっても老健へ入所できる可能性はある。ただし症状と施設体制の確認が必要
認知症がある人でも、要介護1〜5で老健の役割に合い、施設が必要なケアを提供できれば入所できる可能性があります。確認したいのは、①認知症の診断だけでなく具体的な症状、②徘徊・不眠・介護拒否・暴言等の有無と頻度、③夜間の見守り体制、④医療ニーズ、⑤リハビリの目標、⑥認知症ケアの経験、⑦退所後の生活先です。「認知症対応可」という言葉だけでなく、本人の状態で実際に受け入れ可能かを確認してください。
認知症があっても老健へ入所できる
老健は認知症の人を一律に対象外としている施設ではありません。
老健は要介護1〜5の人が対象
老健は、要介護1〜5の認定を受け、在宅復帰を目指しながらリハビリテーションや必要な医療、介護を受ける施設です。
認知症がある場合も、要介護認定や本人の状態、施設の受け入れ体制などを踏まえて入所可否が判断されます。
認知症の有無だけで判断しない
同じ「認知症」でも、軽い物忘れが中心の人と、夜間に歩き回る人、介助を強く拒否する人では必要な支援が異なります。
施設へは診断名だけでなく、実際の生活でどのような支援が必要かを伝えてください。
POINT
「認知症があります」だけでは受け入れ判断に必要な情報が不足します。症状、時間帯、頻度、きっかけ、現在有効な対応方法まで具体的に伝えることが重要です。
老健は認知症の「長期居住」だけを目的とする施設ではない
老健を選ぶときは、施設の役割を理解しておく必要があります。
在宅復帰・在宅療養支援が基本
厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、老健は在宅復帰を目指す人を受け入れ、可能な限り自立した日常生活を送れるよう、リハビリテーション、必要な医療、介護などを提供する施設とされています。
そのため、認知症がある人でも、今後の生活場所や在宅復帰の可能性を含めて支援方針を検討します。
「3か月で必ず退所」ではない
老健には全国一律の「入所から3か月で必ず退所」という制度はありません。
ただし、長期の居住だけを目的とする施設でもないため、本人の状態や退所後の生活について継続的に話し合う必要があります。
認知症の症状を具体的に伝える
入所相談では、認知症という診断名よりも、現在の生活上の状態が重要です。
記憶障害
同じ質問を繰り返す、食事をしたことを忘れる、物の置き場所が分からなくなるなど、日常生活への影響を伝えます。
声かけや予定表などで落ち着ける場合は、その方法も共有してください。
見当識の低下
時間、場所、人が分かりにくくなり、施設内で迷うことがあります。
新しい環境へ移ることで一時的に混乱が強くなる可能性もあるため、入所直後の見守り体制を確認します。
判断力・理解力の低下
危険を理解しにくい、説明を覚えていられないなどの状態がある場合は、事故予防のための見守りが必要です。
本人がどこまで説明を理解できるかも施設へ伝えてください。
徘徊・歩き回りがある場合
歩き回る行動がある人でも、施設によっては受け入れ可能です。
「徘徊あり」だけでなく行動内容を伝える
日中だけ歩くのか、夜間も歩くのか、外へ出ようとするのか、他室へ入ることがあるのかを具体的に伝えます。
事故歴や転倒歴があれば、その情報も重要です。
歩く理由を確認する
トイレを探している、家へ帰ろうとしている、不安が強いなど、歩く背景がある場合があります。
単に行動を止めるのではなく、本人の目的を理解して支援できる施設か確認してください。
夜間不眠・昼夜逆転がある場合
夜間の状態は、老健の受け入れ判断に影響することがあります。
夜間の行動を具体的に伝える
眠れないだけなのか、何度も起きるのか、歩き回るのか、大声があるのかを整理します。
夜勤職員の人数や見守り方法で対応可能か確認してください。
日中の活動も確認する
日中に眠っている時間が長い、活動量が少ない場合は、生活リズムの調整が必要になることがあります。
老健でのリハビリや日中活動をどのように組み立てるか聞いてください。
介護拒否がある場合
入浴、排泄、服薬、着替えなどを拒否する人もいます。
どの介助を拒否するか伝える
すべての介助ではなく、入浴だけ、男性職員だけ、急かされたときだけなど、条件がある場合があります。
拒否が起こりやすい場面を具体的に伝えてください。
有効な声かけ方法を引き継ぐ
時間を置くと受け入れられる、家族の話題を出すと落ち着くなど、有効な方法があれば共有します。
入所前のケア方法を新しい施設へ引き継ぐことで、本人の不安を減らしやすくなります。
暴言・暴力がある場合
暴言や暴力がある場合は、受け入れ可否をより具体的に確認する必要があります。
頻度・強さ・対象を伝える
月に数回なのか毎日なのか、介助時だけなのか、他の利用者にも向くのかで必要な対応は変わります。
けがにつながったことがある場合は、隠さず伝えてください。
原因となる体調変化を確認する
痛み、便秘、感染症、薬の影響、せん妄などで行動が強くなる場合があります。
認知症の症状と決めつけず、医師・看護師と原因を評価できる施設か確認することが重要です。
認知症の人へのリハビリはできる?
認知症があっても、本人の理解力や身体機能に合わせてリハビリテーションを行うことがあります。
身体機能の維持だけが目的ではない
歩行、移乗、着替え、食事などの日常生活動作を続けることも重要なリハビリです。
本人が理解しやすい声かけや、なじみの動作を使いながら取り組みます。
認知症に対するリハビリの評価制度もある
介護報酬には、一定の要件を満たす老健で認知症の入所者へ集中的なリハビリテーションを提供した場合に評価する仕組みがあります。
ただし、すべての老健が同じ認知症リハビリを提供しているわけではないため、実施状況を確認してください。
認知症ケア加算の有無だけで選ばない
介護報酬には、一定の認知症ケアを行う場合に算定される加算があります。
加算は施設体制を見る一つの情報
厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、老健について認知症ケア加算や若年性認知症入所者受入加算などの算定状況を確認できます。
加算の有無は参考になりますが、それだけで本人に合う施設か判断することはできません。
実際のケア方法を聞く
不安が強い人への対応、夜間の見守り、他利用者とのトラブル時の対応などを具体的に聞いてください。
本人と似た状態の人を受け入れた経験があるかも参考になります。
認知症専門棟・認知症対応フロアを確認する
老健によっては、認知症の人を主に受け入れる療養環境やフロアを設けていることがあります。
専門的な環境が本人に合うかを見る
少人数で落ち着ける、見守りしやすい環境になっているなどの特徴がある場合があります。
名称だけで判断せず、日中の過ごし方や職員配置を確認してください。
必ず専門棟が必要とは限らない
認知症があっても、一般の療養棟で問題なく生活できる人もいます。
本人の症状や人との相性を踏まえて施設側と相談してください。
医療ニーズが重なる場合は受け入れ条件を確認する
認知症だけでなく、医療ケアが必要な場合は確認項目が増えます。
糖尿病・インスリン
認知症によって自己注射や血糖測定ができない場合、施設側の看護体制が必要です。
注射回数と時間帯を伝えてください。
吸引・経管栄養・酸素など
喀痰吸引、胃ろう、在宅酸素等がある場合は、認知症ケアと医療ケアの両方へ対応できるか確認します。
チューブを触る、機器を外そうとするなどの行動がある場合は、そのリスクも共有してください。
食事・嚥下状態も確認する
認知症が進むと、食べ方に変化が出ることがあります。
食事を認識しにくい場合
食べ物だと分かりにくい、途中で食事をやめるなどの場合は、食事環境や声かけの工夫が必要です。
老健でどのような食事支援ができるか確認してください。
詰め込み・むせがある場合
一度に多く口へ入れる、飲み込み前に次を食べるなどがある場合は、誤嚥や窒息のリスクを評価する必要があります。
食形態、食事姿勢、見守り・介助方法を確認してください。
入所による環境変化で症状が一時的に強くなることがある
認知症の人は、生活場所や関わる人が変わることで不安が強くなることがあります。
入所直後の変化を想定する
「帰りたい」と訴える、眠れない、食事量が減るなどの変化が出る場合があります。
入所直後にどのように見守り、家族へ情報共有するか確認してください。
なじみの物を持ち込めるか確認する
写真、時計、使い慣れた衣類などが安心につながることがあります。
持ち込み可能な私物を施設へ聞いておくとよいでしょう。
身体拘束への考え方を確認する
歩き回りや転倒リスクがあるからといって、安易に身体拘束を行うことは適切ではありません。
安全対策をどのように行うか聞く
見守り、環境調整、福祉用具などを使って安全を確保できるか確認します。
本人が落ち着ける居場所や生活リズムを整えることも重要です。
家族の同意だけで拘束が常態化するものではない
身体拘束は例外的な取扱いであり、施設では適切な手続と継続的な見直しが必要です。
「転倒が心配なので縛ってください」と家族側から安易に求めるのも避けてください。
退所後の生活先を入所時から考える
老健は在宅復帰・在宅療養支援を担うため、入所時から退所後の生活を考えます。
自宅へ戻る場合
家族の介護力、訪問介護、デイサービス、ショートステイなどを組み合わせて生活できるか検討します。
認知症症状が在宅生活へどの程度影響するかも確認してください。
別の施設へ移る場合
特別養護老人ホーム(特養)、グループホーム、有料老人ホームなどを検討することがあります。
本人の要介護度、認知症症状、医療ニーズ、費用に合う施設を選びます。
グループホームとの違いを理解する
認知症がある人の施設として、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)を検討することもあります。
グループホームは認知症の人の共同生活施設
グループホームは、認知症の人が少人数で共同生活をしながら介護を受ける地域密着型サービスです。
要支援2または要介護1〜5で認知症があり、原則として事業所所在地の市区町村の住民であることなどが利用条件に関わります。
老健はリハビリ・医療との連携が大きな特徴
老健は在宅復帰を目指し、リハビリテーションや必要な医療、介護を組み合わせて提供します。
「認知症だからグループホーム」「身体介護が多いから老健」と単純に分けず、本人の目的と必要な支援で選んでください。
入所相談時に伝えたい認知症の情報
施設へ伝えたいこと
- 認知症の診断名・診断時期
- 現在の要介護度
- 記憶障害・見当識障害の程度
- 徘徊・歩き回りの有無
- 夜間不眠・昼夜逆転の有無
- 介護拒否の有無と場面
- 暴言・暴力の有無と頻度
- 過去の転倒・事故歴
- 食事・嚥下状態
- 排泄介助の内容
- 現在有効な声かけ・対応方法
- 医療ケアの内容
- 服薬内容
- 退所後に希望する生活場所
施設へそのまま聞きたい質問
認知症ケアの確認項目
- 認知症があっても入所できますか
- 本人と似た症状の人の受け入れ経験はありますか
- 徘徊・歩き回りにはどう対応しますか
- 夜間不眠がある場合の見守り体制はどうなっていますか
- 介護拒否がある場合はどう対応しますか
- 暴言・暴力が出た場合はどのように原因を確認しますか
- 認知症に対するリハビリは行っていますか
- 認知症専門棟・専用フロアはありますか
- 家族へどの程度の頻度で状態を知らせてもらえますか
- 医療ケアがある場合も受け入れられますか
- 症状が悪化した場合も継続入所できますか
- 退所後の生活先探しも支援してもらえますか
「認知症対応可」という表示だけで決めない
認知症への対応範囲は施設によって異なります。
夜間体制を見る
日中は落ち着いていても夜間に不眠・歩き回りが強い人では、夜勤体制が重要です。
夜間の職員数と見守り方法を確認してください。
医療と介護の連携を見る
認知症症状が急に悪化した場合、感染症やせん妄など医療的な原因が隠れていることがあります。
医師・看護師へ相談しやすい体制か確認します。
退所支援を見る
老健は退所後の生活を見据える施設です。
自宅復帰が難しい場合に、特養やグループホーム等への住み替えまで支援できるか確認してください。
認知症があることだけで受け入れ可否は決まらない
同じ認知症でも必要な見守り・介助・医療は大きく異なります。診断名だけで判断せず、本人の行動、夜間の状態、医療ニーズ、現在有効なケア方法を具体的に施設へ伝えてください。
老健を比較するときの優先順位
01
本人の認知症症状へ実際に対応できる
徘徊、不眠、介護拒否など、本人に現在ある症状を伝えたうえで受け入れ可能か確認します。
「認知症可」という一般論ではなく、本人の条件で判断してもらうことが重要です。
02
リハビリと生活支援の目標が合う
老健で何を改善・維持したいのかを明確にします。
歩行、移乗、食事、生活リズムなど、本人にとって意味のある目標を設定できる施設を選んでください。
03
退所後の生活まで一緒に考えられる
自宅復帰が難しい場合も想定し、家族と早い段階から次の生活場所を検討できる施設が安心です。
認知症の進行や家族の介護力まで含めて相談できるか確認してください。
まとめ|認知症の老健選びは「診断名」ではなく実際の生活状態で確認する
認知症がある人でも、本人の状態と施設の認知症ケア・医療・リハビリ体制が合えば老健へ入所できる可能性があります。
厚生労働省の介護サービス情報公表システムでも、老健は在宅復帰を目指す人へリハビリテーション、必要な医療、介護を提供する施設とされ、認知症ケア加算や認知症短期集中リハビリテーションに関する評価制度も設けられています。
一方で、徘徊、夜間不眠、介護拒否、暴言・暴力、医療ニーズなどへの対応力は施設ごとに異なります。
「認知症でも入れますか」だけではなく、「本人にはこの症状がこの頻度であり、この声かけなら落ち着きます。夜間も含めて施設で対応できますか」と具体的に確認することが、認知症の人の老健選びで最も重要です。