介護老人保健施設(老健)を検討するとき、「老健ではどんなリハビリを受けられるのか」「毎日リハビリできるのか」「自宅へ戻れるまでどのように支援してもらえるのか」が気になる人は多いでしょう。
老健は、在宅復帰・在宅療養支援を大きな役割とする介護保険施設です。医師の指示のもと、理学療法士(PT)、作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)などが関わり、身体機能だけでなく、食事・排泄・移動・着替えなど実際の生活へつながるリハビリを行います。
まず結論|老健のリハビリは「訓練室で運動すること」だけではない
老健のリハビリは、歩行や筋力訓練だけでなく、ベッドからの起き上がり、トイレ移動、着替え、食事、会話、嚥下など、退所後の生活を見据えて行います。重要なのは「1日何分リハビリするか」だけではなく、①本人の目標、②PT・OT・ST等の配置、③個別リハビリの内容、④介護職と連携した生活リハビリ、⑤退所前の自宅環境確認、⑥退所後のサービスまで確認することです。
老健は在宅復帰を支援する施設
老健は、病院での治療を終えたあとなどに、在宅生活へ戻るためのリハビリや介護を受ける施設として利用されます。
リハビリだけを行う施設ではない
老健では、リハビリテーションだけでなく、必要な医療、看護、介護、栄養管理などを組み合わせて生活全体を支えます。
退所後に自宅等で暮らせる状態を目指して、生活機能の維持・回復を図ります。
長期居住だけを目的とする施設ではない
老健は特別養護老人ホーム(特養)のような長期生活だけを目的とする施設とは役割が異なります。
「3か月で必ず退所」という全国一律の決まりはありませんが、入所中から退所後の生活を見据えて支援することが基本です。
POINT
老健選びでは、「リハビリが多いか」だけでなく、「退所後に本人がどこで、どのように暮らすか」まで支援しているかを見ることが重要です。
老健で行うリハビリの目的
老健のリハビリは、単に筋力を上げることだけが目的ではありません。
身体機能を維持・回復する
歩行、立ち上がり、関節の動き、筋力、バランスなどを評価し、必要な訓練を行います。
病気やけがのあとに落ちた機能を回復するだけでなく、現在の能力をできるだけ維持することも大切です。
日常生活を自分で行える範囲を増やす
ベッドから起きる、トイレへ行く、服を着る、食事をするなど、実生活に直結する動作を練習します。
「歩けるようになる」だけでなく、「自宅のトイレまで安全に移動できる」といった具体的な生活目標につなげます。
理学療法士(PT)は移動・基本動作を支える
理学療法士は、起き上がり、立ち上がり、歩行などの基本動作を中心に支援します。
歩行練習
杖、歩行器、車いすなどを使いながら、本人に合う移動方法を検討します。
歩ける距離だけでなく、転倒リスクや疲労も確認します。
立ち上がり・移乗練習
ベッドから車いす、車いすからトイレなどへの移乗を練習します。
家族が介助する予定なら、退所前に安全な介助方法を共有することも重要です。
作業療法士(OT)は生活動作を支える
作業療法士は、着替え、食事、整容、家事など、生活に必要な動作を中心に支援します。
更衣・整容
片麻痺などがある人では、残っている機能を使って自分で着替えられる方法を練習します。
道具や衣類を工夫することで、自立できる範囲が広がることがあります。
家事や趣味につなげる
自宅へ戻ったあとに必要な家事動作や、本人が大切にしてきた趣味なども支援対象になります。
本人にとって意味のある活動を使うことで、生活意欲につながる場合があります。
言語聴覚士(ST)は会話・嚥下を支える
言語聴覚士は、言葉、コミュニケーション、食べる・飲み込む機能などを支援します。
失語症・構音障害への支援
脳梗塞後などで言葉が出にくい、発音しにくい人に対して、本人の状態に合わせた訓練を行います。
会話方法や意思伝達手段について家族へ助言することもあります。
嚥下機能への支援
むせ、飲み込みにくさがある人では、嚥下状態を評価し、安全な食べ方を検討します。
食事姿勢、食形態、介助方法などを他職種と共有することも重要です。
個別リハビリだけでなく生活リハビリも重要
リハビリ専門職と行う訓練時間だけが、老健のリハビリではありません。
日常生活そのものを訓練にする
食堂まで歩く、トイレで立ち上がる、自分で服を着るなど、日常の動作も重要なリハビリです。
介護職員とリハビリ職が支援方法を共有することで、生活の中で繰り返し練習できます。
介助しすぎないことも大切
安全のために職員がすべて代わりに行うと、本人が使える能力を使わなくなることがあります。
どこまで本人が行い、どこから職員が支援するかを決めることが重要です。
リハビリは計画に基づいて行う
老健では、本人の心身状態や退所後の生活を踏まえてリハビリの目標を設定します。
最初に状態を評価する
歩行、移乗、食事、認知機能、嚥下、生活環境などを確認します。
本人・家族が何をできるようになりたいのかも重要な情報です。
目標を具体的にする
「筋力をつける」だけではなく、「自宅の玄関を上がれる」「一人でトイレへ行ける」など、生活場面と結び付けます。
目標が具体的だと、退所可能かどうかも判断しやすくなります。
リハビリの頻度は施設や本人の状態で異なる
老健を探すとき、「毎日リハビリできますか」と確認する人は多いでしょう。
全員が同じ頻度ではない
本人の病状、体力、目標、入所時期、施設の体制などによってリハビリ頻度は異なります。
パンフレットの「リハビリ充実」という言葉だけで判断せず、本人の条件では週何回程度になる見込みか確認してください。
在宅復帰支援機能の評価ではリハビリ体制も見られる
介護報酬では、在宅復帰・在宅療養支援機能を評価する指標の中に、リハビリ専門職の配置や計画的なリハビリテーションなどが含まれています。
施設によって在宅復帰支援の体制には差があるため、実際の人員配置や実施状況を確認することが重要です。
入所直後に集中的なリハビリを行う場合がある
状態や算定要件に応じて、入所後の一定期間に集中的なリハビリテーションを行う場合があります。
誰でも同じ内容になるわけではない
集中的なリハビリが必要かどうかは、医師やリハビリ専門職が本人の状態を評価して判断します。
高齢だから多く行えばよいというものではなく、疲労や病状にも配慮します。
入所前に実施内容を確認する
どのような場合に集中的なリハビリを行うのか、対象期間や内容を施設へ確認してください。
本人の希望する目標と合っているかを見ることが重要です。
認知症があってもリハビリはできる
認知症がある人でも、理解力や生活状態に合わせてリハビリを行います。
分かりやすい方法で支援する
短い声かけ、同じ手順の繰り返し、なじみの動作などを使いながら取り組みます。
本人が混乱しにくい環境を作ることも大切です。
生活動作を中心にすることもある
訓練内容を覚えることが難しくても、毎日の食事・移動・更衣などを繰り返すことで能力維持につなげられる場合があります。
本人が取り組みやすい方法を施設へ確認してください。
自宅へ戻るなら住宅環境の確認が重要
施設内で歩けても、自宅で同じように生活できるとは限りません。
玄関・階段・トイレを見る
自宅には段差、狭い廊下、手すりのないトイレなど、施設とは異なる環境があります。
退所後の生活を考えるなら、実際の住宅条件に合わせた練習が必要です。
必要に応じて訪問で確認する
老健では、在宅復帰支援の一環として、本人の自宅を確認し、生活上の課題や福祉用具・住宅改修について助言する場合があります。
本人の施設がどのような退所前支援を行っているか確認してください。
家族への介助指導も在宅復帰支援の一部
本人が自宅へ戻る場合、家族が介助方法を理解していることも重要です。
移乗・歩行介助を練習する
家族が力任せに支えると、本人・家族双方の転倒やけがにつながることがあります。
本人に合う立ち位置や福祉用具の使い方を専門職から教えてもらいます。
家族が無理なく続けられるか確認する
施設では一人介助でも、家族の身体状況では難しい場合があります。
家族だけで担えない部分は、訪問介護等を組み合わせることを検討してください。
福祉用具を退所前に検討する
杖、歩行器、車いす、介護ベッドなどは在宅生活を支える重要な道具です。
本人の能力に合う物を選ぶ
施設で使えている歩行器でも、自宅の廊下幅に合わないことがあります。
実際の生活環境と本人の能力を合わせて選んでください。
退所日に間に合うよう準備する
退所後すぐ使えるよう、ケアマネジャーや福祉用具専門相談員と早めに調整します。
住宅改修が必要な場合は、施工日程も考慮してください。
在宅サービスまでつないで退所する
自宅へ戻ったあとに支援が途切れると、再び生活が難しくなることがあります。
訪問リハビリ
自宅で実際の生活環境に合わせてリハビリを受ける方法があります。
退所後も訓練が必要なら、利用できるかケアマネジャーへ相談してください。
通所リハビリ(デイケア)
老健等へ通い、リハビリや介護を受ける方法です。
本人の体力、送迎、通所頻度などを踏まえて検討します。
訪問介護・訪問看護
生活介助や医療的な管理が必要な場合は、訪問介護・訪問看護等を組み合わせます。
退所前からサービス担当者間で情報を共有できると安心です。
自宅復帰が難しい場合も退所支援を行う
リハビリを行っても、自宅で安全に生活することが難しい場合があります。
別の施設を検討する
特別養護老人ホーム(特養)、有料老人ホーム、グループホームなど、本人の状態に合う生活場所を検討します。
医療ニーズ、認知症、費用、待機状況を確認してください。
リハビリ結果を次の施設へ引き継ぐ
現在できる動作、必要な介助、福祉用具、注意点などを次の施設へ共有します。
住み替えによって支援方法が途切れないことが重要です。
老健を選ぶときはリハビリ専門職の配置を見る
施設によって、リハビリ専門職の人数や職種構成は異なります。
PT・OT・STの配置を確認する
理学療法士だけでなく、作業療法士や言語聴覚士がいるか確認します。
嚥下や失語などがある人は、STの配置や対応可能な内容が特に重要です。
人数だけでなく利用者数とのバランスを見る
専門職が多く見えても、入所者数が非常に多ければ一人当たりの関わり方は変わります。
本人が実際に受けられる頻度・内容を質問してください。
在宅復帰率だけで老健を選ばない
在宅復帰率は施設の特徴を知る参考になりますが、数字だけで良し悪しを決めることはできません。
本人と似た状態の人への支援を見る
骨折後、脳梗塞後、認知症など、本人と似た状態の人をどのように支援しているか確認します。
在宅復帰率が高くても、本人に必要なリハビリへ対応できなければ適した施設とは言えません。
退所後の支援まで確認する
訪問リハビリや通所リハビリなど、退所後も地域で支援を続けられる体制があるか確認します。
「退所できたか」だけでなく、「退所後も生活を続けられるか」を見ることが重要です。
入所相談時に伝えたいリハビリ情報
施設へ伝えたいこと
- 現在の病名・既往歴
- 入院前の生活状況
- 現在の歩行・移乗能力
- 食事・排泄・更衣の自立度
- 認知症の状態
- 失語・嚥下障害の有無
- 現在使用している杖・歩行器・車いす
- 病院で行っていたリハビリ内容
- 本人が希望する生活
- 退所後に戻る予定の住まい
- 同居家族・介助者の状況
- 自宅の段差・階段・トイレ環境
見学・相談で聞きたい質問
リハビリ体制の確認項目
- PT・OT・STはそれぞれ何人いますか
- 本人の場合、個別リハビリはどの程度受けられますか
- 入所直後に集中的なリハビリを行う場合がありますか
- 介護職とリハビリ職はどのように情報共有していますか
- 生活リハビリはどのように行っていますか
- 認知症があってもリハビリできますか
- 嚥下・言語のリハビリに対応できますか
- 自宅訪問による環境確認は行いますか
- 家族への介助指導はありますか
- 退所前に福祉用具・住宅改修を相談できますか
- 退所後に訪問・通所リハビリへつなげてもらえますか
- 自宅復帰が難しい場合の住み替え支援もありますか
「リハビリの回数」だけで老健を決めない
回数や時間は分かりやすい比較材料ですが、それだけでリハビリの質は判断できません。
本人の生活目標とつながっているか
ただ歩行練習を繰り返すのではなく、自宅でどの動作が必要かを考えている施設が望ましいです。
目標設定の際に本人・家族の希望を聞いているか確認してください。
職種間で同じ介助方法を共有しているか
リハビリ時間だけ立てても、普段の介護ではすべて職員が介助していると、生活動作を使う機会が減ります。
リハビリ職と介護職が同じ方向で支援しているかを見ることが重要です。
退所後の生活につながっているか
施設内でできる動作と、自宅で必要な動作は同じとは限りません。
住宅環境、家族介助、在宅サービスまで含めて支援しているか確認してください。
「毎日リハビリ=必ず早く回復」ではない
リハビリの内容・頻度は、本人の病気、体力、疲労、認知機能、生活目標などに応じて決めます。回数だけを増やすことが最適とは限りません。本人の状態に合う計画と、生活の中で継続できる支援になっているかを確認してください。
老健を比較するときの優先順位
01
本人の生活目標に合うリハビリがある
歩行、排泄、食事、嚥下など、本人が改善・維持したい機能へ対応できるか確認します。
職種配置と実際の訓練内容を見てください。
02
生活全体で自立を支えている
個別リハビリだけでなく、介護職員が日常生活の中で本人の能力を活かしているかを確認します。
介助しすぎず、安全とのバランスを取れることが重要です。
03
退所後までつなげる支援がある
自宅訪問、家族指導、福祉用具、住宅改修、訪問・通所サービスへの連携などを確認します。
老健を出たあとも生活を続けられることが、在宅復帰支援の重要なポイントです。
まとめ|老健のリハビリは「退所後の生活」から逆算して選ぶ
老健では、本人の心身機能の維持・回復と日常生活の自立を支えるため、理学療法、作業療法その他必要なリハビリテーションを計画的に行います。
施設によってPT・OT・STの配置、リハビリの頻度、生活リハビリ、自宅訪問、退所支援などには違いがあります。
また、厚生労働省は老健の在宅復帰・在宅療養支援機能を評価する中で、リハビリテーションマネジメントや専門職配置、退所前後の支援などを評価項目としています。
「何回リハビリできますか」だけではなく、「退所後に本人がこの生活をするために、施設では何を練習し、家族・自宅環境・在宅サービスまでどうつなげますか」と確認することが、老健のリハビリを比較するときの最も重要なポイントです。