親が介護施設へ入るとき、「世帯分離をすると施設費が安くなると聞いた」という相談があります。
ただし、世帯分離をすれば介護施設の費用が一律に下がるわけではありません。介護保険料、高額介護サービス費、介護保険施設の食費・居住費の負担軽減など、それぞれ判定方法が異なるためです。
まず結論|世帯分離だけで「介護施設費が安くなる」とは判断できない
世帯分離によって影響する可能性があるのは、世帯の市町村民税課税状況などを判定に使う制度です。ただし、制度ごとに「世帯」の扱いが異なり、本人の所得・資産・配偶者の課税状況なども確認されます。特に介護保険施設の食費・居住費を軽減する負担限度額認定では、世帯を分けている配偶者も判定に含まれます。手続き前に、市区町村の介護保険窓口で本人の条件を確認することが重要です。
世帯分離とは何か
世帯分離とは、同じ住所に住んでいる家族などが、住民票上の世帯を分ける手続きです。
介護のために利用する特別な制度ではなく、住民基本台帳上の世帯を分ける手続きであるため、「介護費を安くするための制度」と考えないことが大切です。
住所を変えずに世帯だけ分かれる場合がある
同じ住所に住み続けながら、住民票上は別世帯になる場合があります。
一方、施設入居によって住所そのものを移す手続きとは意味が異なるため、「施設へ入る=世帯分離」というわけではありません。
世帯を分けても本人の所得や資産がなくなるわけではない
世帯分離をしても、本人自身の年金収入や所得、預貯金などはそのままです。
そのため、本人の所得・資産が判定要件に含まれる制度では、世帯分離だけで負担区分が変わるとは限りません。
世帯分離で確認したい費用は大きく3つ
介護施設に関係する費用のうち、世帯の状況が関係しやすいものとして、介護保険料、高額介護サービス費、介護保険施設の食費・居住費があります。
01
65歳以上の介護保険料
65歳以上の第1号被保険者の介護保険料は、市町村民税の課税状況や所得などに応じた段階で設定されます。
世帯全員が市町村民税非課税かどうかが判定に使われる区分もありますが、具体的な保険料額や段階設定は市区町村によって異なるため、居住地の窓口で確認が必要です。
02
高額介護サービス費
介護保険サービスの自己負担が一定の上限を超えた場合に、超えた分が支給される制度です。
所得区分によって世帯または個人の上限額が設定されており、ここでいう「世帯」は住民基本台帳上の世帯員を基準として扱われます。
03
介護保険施設の食費・居住費の負担軽減
所得や資産が一定以下の人について、介護保険施設などの食費・居住費に負担限度額が設けられる制度があります。
この制度は単純に住民票上の世帯だけで決まるものではなく、本人の所得や預貯金等の要件、配偶者の状況も確認されます。
介護保険料は世帯の課税状況が関係することがある
65歳以上の介護保険料は、市区町村ごとに基準額を設定し、本人の所得や市町村民税の課税状況などに応じて段階的に決まります。
「本人非課税」と「世帯全員非課税」は同じではない
本人に市町村民税が課税されていなくても、同じ世帯に課税されている家族がいる場合と、世帯全員が非課税の場合では、保険料の所得段階が異なることがあります。
そのため、世帯分離により住民票上の世帯構成が変わると、判定に影響する可能性があります。
実際の保険料は市区町村へ確認する
保険料の段階数や金額は市区町村ごとに設定されています。
世帯分離をした場合にいつの保険料から影響するのか、本人の所得ではどの段階になるのかは、手続き前に市区町村の介護保険担当窓口へ確認してください。
IMPORTANT
「世帯分離をすれば介護保険料が必ず下がる」とは限りません。本人の所得や自治体の保険料段階によって結果が異なります。
高額介護サービス費では住民票上の世帯が関係する
高額介護サービス費は、介護保険サービスの自己負担額が所得に応じた上限を超えた場合に、その超過分が支給される制度です。
世帯の利用者負担を合算して判定する区分がある
同じ世帯で複数人が介護保険サービスを利用している場合には、利用者負担を世帯で合算して上限額を判定します。
厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、高額介護サービス費における「世帯」は住民基本台帳上の世帯員と説明されています。
世帯分離すると合算できなくなる場合も考える
世帯を分けることで一人の負担区分に有利に働く可能性だけを見るのではなく、同じ世帯で介護サービスを利用する家族との合算関係が変わる可能性も確認する必要があります。
家族の中に複数の介護サービス利用者がいる場合は、分離前と分離後で高額介護サービス費がどのように扱われるか、市区町村へ具体的に確認してください。
施設の食費・居住費は「世帯分離すれば非課税扱い」ではない
特養、老健、介護医療院などの介護保険施設では、一定の低所得者について食費・居住費の負担を軽減する「特定入所者介護サービス費」があります。
利用するには負担限度額認定を受ける必要があります。
世帯全員の市町村民税非課税だけでは決まらない
負担限度額認定では、所得区分に加えて、預貯金等の資産要件も確認されます。
したがって、住民票上の世帯を分けた結果だけを見て「食費・居住費が安くなる」と判断することはできません。
別世帯の配偶者も判定対象になる
この制度で特に注意したいのが配偶者の扱いです。
厚生労働省の制度説明では、世帯を分離している配偶者も含めて市町村民税の課税状況などを判定します。そのため、夫婦の世帯を住民票上で分けただけでは、配偶者の課税状況を判定から外すことはできません。
配偶者が課税されている場合は世帯分離だけで解決しない
介護保険施設の食費・居住費の負担限度額認定では、住民票上は別世帯でも配偶者が判定対象になります。夫婦間の世帯分離だけを理由に、必ず負担軽減を受けられると考えないでください。
有料老人ホームの家賃・管理費が世帯分離で安くなるわけではない
世帯分離と、施設が独自に設定する利用料金は分けて考える必要があります。
有料老人ホームの基本料金は契約で決まる
有料老人ホームの家賃、管理費、食費などは、施設ごとの料金体系に基づいて支払います。
住民票上の世帯を分けたことだけを理由に、施設の家賃や管理費が自動的に下がるものではありません。
変わる可能性があるのは公的制度による自己負担
介護保険サービスの自己負担上限や介護保険料など、所得・課税状況を判定する公的制度については影響する可能性があります。
「施設費全体が安くなる」のではなく、「施設で支払う費用の一部に関係する公的制度が変わる可能性がある」と理解すると整理しやすくなります。
特養・老健・介護医療院では負担限度額認定を確認する
介護保険施設へ入る場合は、世帯分離だけを検討するのではなく、食費・居住費の負担限度額認定の対象になるか確認することが重要です。
本人の年金・所得を確認する
本人の公的年金収入やその他の所得によって、利用者負担段階が決まります。
年金額だけを見ず、課税年金・非課税年金の扱いなどを含め、申請窓口で確認してください。
本人と配偶者の預貯金等も確認する
負担限度額認定には預貯金等の資産要件があります。
世帯が分かれていても配偶者がいる場合は、夫婦の資産状況を確認して申請する必要があります。
世帯分離を検討する前に市区町村へ確認したいこと
介護保険に関する負担判定は、制度ごとに条件が異なります。インターネット上の「世帯分離で安くなった」という体験談だけで判断しないようにします。
窓口で確認したい項目
- 現在の介護保険料の所得段階はどこか
- 世帯構成が変わった場合、介護保険料へどう影響するか
- いつの時点の世帯・課税状況で判定するか
- 高額介護サービス費の現在の上限区分はどこか
- 同じ世帯に他の介護サービス利用者がいるか
- 負担限度額認定の対象になる可能性があるか
- 本人の所得・年金でどの区分になるか
- 預貯金等の資産要件を満たすか
- 配偶者が別世帯の場合の判定はどうなるか
- 申請に必要な書類は何か
世帯分離だけで判断すると見落としやすいこと
世帯分離による介護費用への影響を考えるときは、一つの制度だけを見ないことが大切です。
別の制度で不利にならないか確認する
世帯の扱いは、高額介護サービス費や介護保険料だけに使われるものではありません。
介護以外の行政制度、医療保険、税、各種給付などへの影響が生じる場合もあるため、必要に応じて関係窓口へ確認してください。
家族間のお金の管理方法も整理する
住民票上の世帯を分けることと、実際に誰が施設費や生活費を負担するかは別の問題です。
本人の年金や預貯金でどこまで支払い、家族が援助する場合はいくら負担するのかも合わせて整理しておくと、施設入居後の資金計画を立てやすくなります。
「世帯分離したほうが得ですか」と聞くときの伝え方
市区町村へ相談するときは、一般論として「世帯分離は得ですか」と聞くより、本人の状況を具体的に伝えたほうが確認しやすくなります。
現在の世帯構成を伝える
本人が誰と同じ世帯なのか、配偶者がいるのか、同じ世帯に市町村民税課税者がいるのかを伝えます。
特に配偶者がいる場合は、別居や別世帯であっても制度上の判定に含まれる場合があるため、必ず伝えてください。
入居予定の施設種別を伝える
特養、老健、介護医療院、有料老人ホームなど、どの施設を検討しているか伝えます。
施設種別によって利用できる負担軽減制度が異なるため、「介護施設へ入る予定」だけでなく具体的な種別まで伝えることが重要です。
世帯分離を検討するときの順番
01
現在の施設費用を整理する
家賃・居住費、食費、介護保険自己負担、医療費など、何にいくらかかるかを確認します。
どの費用を下げたいのかが分からなければ、世帯分離が関係する制度も判断できません。
02
利用できる公的な負担軽減制度を確認する
高額介護サービス費や負担限度額認定など、本人が利用できる可能性のある制度を確認します。
世帯分離をしなくても対象になる制度がないか、先に確認してください。
03
世帯分離した場合の判定を窓口へ確認する
本人の年金、所得、資産、配偶者の状況を伝え、各制度にどのような影響があるか確認します。
制度名ごとに確認し、「介護費全体がどうなるか」という聞き方だけで終わらせないことが大切です。
04
介護以外の影響も確認してから判断する
必要に応じて医療保険、税、各種行政制度への影響も確認します。
一つの介護制度で負担が下がる可能性だけを見て手続きを決めないようにしてください。
まとめ|世帯分離ではなく「どの制度の判定が変わるか」を確認する
世帯分離によって介護施設の費用が変わる可能性はありますが、すべての人の負担が下がるわけではありません。
介護保険料、高額介護サービス費、介護保険施設の食費・居住費では、それぞれ判定方法が異なります。
特に食費・居住費の負担限度額認定では、世帯を分離している配偶者も判定に含まれ、本人や配偶者の所得・資産状況も確認されます。
「世帯分離をすれば得か」ではなく、「本人の場合、どの制度のどの判定がどう変わるのか」を市区町村へ確認してから手続きを判断することが大切です。