介護老人保健施設(老健)でリハビリや在宅復帰支援を受けたあと、「自宅へ戻るのは難しいので有料老人ホームへ移りたい」と考えることがあります。
老健から有料老人ホームへの住み替えは可能ですが、退所日と入居日の調整、費用、医療・介護情報の引き継ぎ、必要な介護サービスの確認など、事前に整理することが多くあります。
まず結論|老健から有料老人ホームへ移るときは、退所日より先に「次の生活条件」を決める
老健から有料老人ホームへ移るときは、①退所時期の見通し、②本人に必要な介護・医療、③月額費用と入居時費用、④空室状況、⑤入居審査、⑥契約内容、⑦薬・診療情報・ケア情報の引き継ぎ、⑧退所日と入居日の調整、を順番に確認します。老健は在宅復帰・在宅療養支援の役割を持つ施設なので、退所直前になって慌てて探すのではなく、今後自宅生活が難しいと分かった段階から住み替え先を探し始めることが重要です。
老健から有料老人ホームへ移ることはできる
老健を退所して、そのまま有料老人ホームへ入居することは可能です。
自宅へ戻れない場合の住み替え先になる
老健でリハビリを行っても、自宅の段差、家族の介護力、認知症、医療ニーズなどの理由で在宅生活が難しいことがあります。
その場合、有料老人ホームを含めた別の生活施設を検討します。
老健は長期居住だけを目的とする施設ではない
老健は、在宅復帰・在宅療養支援を行う介護保険施設です。
「何か月で必ず退所」と一律に決まるわけではありませんが、今後の生活場所について施設側と継続的に相談することが重要です。
POINT
有料老人ホーム探しは、老健の退所日が正式決定してからではなく、「自宅復帰が難しそう」と分かった段階から始めると選択肢を確保しやすくなります。
まず老健の退所見込みを確認する
住み替えを進める前に、老健側と今後の見通しを確認します。
退所候補時期を聞く
正式な退所日がまだ決まっていなくても、「いつ頃までに次の生活場所を検討したいか」を相談します。
有料老人ホーム側も入居可能日の見通しが分からないと調整しにくいため、ある程度の目安が必要です。
退所理由を整理する
在宅復帰が難しい理由が、身体機能、認知症、医療ケア、家族の介護力、住宅環境のどこにあるのか整理します。
この理由は、次の有料老人ホームに必要な条件を決める材料になります。
有料老人ホームの種類を確認する
有料老人ホームには複数の類型があり、介護サービスの提供方法が異なります。
介護付き有料老人ホーム
特定施設入居者生活介護の指定を受けたホームでは、施設の介護職員等が包括的に介護サービスを提供します。
介護量が多い人は、夜間体制や看護体制も含めて確認してください。
住宅型有料老人ホーム
住宅型では、住まい・食事・生活支援等を利用しながら、必要に応じて外部の訪問介護や通所介護などを組み合わせます。
介護量が増えると外部サービス利用も増え、自己負担やスケジュールが変わることがあります。
本人に必要な介護の受け方で選ぶ
「有料老人ホームならどこでも同じ」と考えず、本人に必要な介護を誰が、いつ、どのように提供するかを確認してください。
老健での生活状況をそのまま伝えると比較しやすくなります。
老健での現在の介護量を整理する
次の施設を選ぶときは、現在どの程度の介助を受けているかを把握します。
移動・移乗
歩行器で歩けるのか、車いすなのか、移乗に一人介助・二人介助が必要なのかを確認します。
有料老人ホーム側の人員体制で安全に対応できるか判断する重要な情報です。
排泄
トイレ誘導、ポータブルトイレ、おむつなど、現在の排泄方法を伝えます。
夜間の介助回数も重要です。
食事
自力摂取できるか、食事介助が必要か、食形態やとろみが必要かを整理します。
嚥下調整食への対応状況も候補施設へ確認してください。
医療ケアがある場合は先に伝える
老健から有料老人ホームへ移る際、医療ニーズは受け入れ可否に大きく関わります。
具体的な医療ケアを伝える
インスリン、血糖測定、在宅酸素、吸引、胃ろう、尿道カテーテル、ストーマなどがある場合は、頻度・時間帯まで含めて伝えます。
「医療対応可」という表示だけでなく、本人の条件で対応できるか確認してください。
老健ではできていても次の施設で同じとは限らない
老健には医師・看護職員等の配置があり、医療・リハビリとの連携を前提にしています。
有料老人ホームでは医療体制が施設ごとに異なるため、同じケアを継続できるか個別確認が必要です。
認知症の状態も具体的に共有する
認知症がある場合は、診断名だけでは受け入れ可否を判断できません。
生活上の行動を伝える
夜間に歩き回る、他室へ入る、大声がある、介助を拒否するなど、実際の行動を具体的に伝えます。
頻度、時間帯、きっかけも分かれば共有してください。
有効な対応方法も引き継ぐ
老健で落ち着く声かけ、生活リズム、好きな活動などが分かっていれば、新しい施設へ伝えます。
問題行動としてだけではなく、本人が安心できる方法まで引き継ぐことが重要です。
リハビリをどこまで続けたいか確認する
老健でリハビリを受けていた人は、住み替え後も同じ量のリハビリが受けられるとは限りません。
機能訓練の内容を確認する
有料老人ホーム内でどのような機能訓練を行っているか確認します。
理学療法士・作業療法士等の配置、個別訓練の頻度などは施設によって異なります。
外部サービスを利用する場合もある
住宅型有料老人ホームなどでは、訪問リハビリや通所リハビリ等を利用できる場合があります。
介護保険の支給限度額や他サービスとの組み合わせもあるため、ケアマネジャーへ相談してください。
費用は老健より高くなることがある
老健は介護保険施設ですが、有料老人ホームは民間施設が多く、費用体系が異なります。
入居時費用を確認する
敷金や前払金など、入居時にまとまった費用が必要な施設があります。
一方、入居一時金0円の料金プランを設けている施設もあるため、月額費用とセットで比較してください。
月額料金の内訳を見る
家賃、管理費、食費、介護保険自己負担、医療費、日用品費などを分けて確認します。
「月額○万円から」という表示だけでは、本人が実際に支払う総額が分からないことがあります。
長期的に支払えるか試算する
本人の年金収入と月額費用の差を計算し、預貯金で何年補えるか確認します。
家族援助が必要なら、入居前に負担方法を話し合ってください。
空室だけで施設を決めない
老健の退所が近づくと、「すぐ入れる施設」を優先したくなります。
空室がある理由も確認する
新規開設、退去、居室数の多さなど、空室にはさまざまな理由があります。
空いていること自体を悪いと考える必要はありませんが、介護体制・料金・退去条件を確認せずに契約するのは避けてください。
最低限の見学は行う
本人が見学できない場合でも、家族は居室、食堂、浴室、職員の様子などを確認したいところです。
遠方ならオンライン見学等が可能か相談してください。
入居審査には現在の情報を提出する
有料老人ホームでは、本人の状態を確認したうえで受け入れ可能か判断します。
診療情報・看護情報
病名、服薬、医療ケア、既往歴などを伝えます。
必要に応じて診療情報提供書や健康診断書などを求められることがあります。
介護情報
ADL、認知症症状、食事、排泄、移動、夜間の様子などを共有します。
老健の介護職員・ケアマネジャー等に、次の施設へ伝えるべき内容を相談してください。
重要事項説明書と契約書を確認する
有料老人ホームへ移る前には、契約内容を十分確認することが重要です。
費用とサービス内容を見る
厚生労働省の有料老人ホーム設置運営標準指導指針では、契約時に利用料等の支払方法やサービス内容などを事前に十分説明することとされています。
月額費用だけでなく、何が基本料金に含まれ、何が追加料金になるのか確認してください。
退去条件を見る
医療ニーズの増加、長期入院、認知症症状など、どのような場合に契約解除・退去となる可能性があるか確認します。
老健から移ったあとに再び短期間で住み替えにならないよう、将来の状態変化まで想定してください。
前払金・返還条件を見る
前払金がある場合は、償却期間、返還金の計算方法、短期間で退去した場合の扱いを確認します。
説明を受けた内容は、口頭だけでなく書面で確認してください。
老健の退所日と有料老人ホームの入居日を合わせる
住み替えでは、施設間の日程調整が重要です。
空白期間を作らない
老健を退所した翌日まで有料老人ホームへ入れない場合、家族宅やショートステイ等で過ごす必要が出ることがあります。
できるだけ退所日と入居可能日を連続させるよう調整してください。
契約開始日と実際の入居日を確認する
契約日、家賃発生日、居室引き渡し日、実際の入居日が同じとは限りません。
空室確保のため先に料金が発生する場合もあるため、契約前に確認します。
薬の引き継ぎを確認する
住み替え日に服薬が途切れないよう準備します。
何日分の薬を持って退所するか
老健から何日分の薬が渡されるのか確認します。
新しい施設の医師・薬局へいつ切り替わるのかも合わせて確認してください。
処方内容を共有する
薬剤情報提供書やお薬手帳などを新しい施設へ渡します。
頓服薬や外用薬なども漏れなく引き継いでください。
かかりつけ医が変わるか確認する
有料老人ホームへ移ると、医療機関との関係が変わる場合があります。
協力医療機関・訪問診療を確認する
施設と連携する医療機関や訪問診療医がいる場合、入居後の診療方法を確認します。
現在の主治医を継続できるかも聞いてください。
専門外来を継続できるか
整形外科、循環器科、泌尿器科などへ定期通院している場合は、入居後も通院できるか確認します。
送迎や付き添いを誰が行うかも重要です。
介護保険サービスの切り替えを確認する
老健を退所すると、介護保険サービスの利用形態が変わります。
介護付きでは施設サービスへ切り替わる場合がある
特定施設入居者生活介護の指定を受けた介護付き有料老人ホームでは、施設内で介護保険サービスを提供します。
具体的な自己負担と加算を確認してください。
住宅型では外部サービスを組み合わせる
住宅型有料老人ホームでは、訪問介護、訪問看護、通所介護などを個別に利用することがあります。
ケアマネジャーと相談し、必要なサービス量と費用を確認してください。
住民票・保険証等の住所変更も確認する
有料老人ホームへの入居に伴って住所を移す場合は、行政手続が必要になることがあります。
住民票を移すか確認する
実際の生活拠点や施設との契約内容を踏まえて、市区町村へ手続を確認してください。
住所を変更する場合は、マイナンバーカード等の住所変更も必要になります。
介護保険の住所地特例を確認する
一定の施設では、他市区町村の施設へ転居しても、転居前の市区町村が介護保険の保険者となる住所地特例が適用される場合があります。
本人のケースでどうなるか、自治体の介護保険窓口へ確認してください。
住み替え前に家族が整理したいこと
老健から有料老人ホームへ移る前の確認項目
- 老健の退所見込み時期
- 本人の現在の要介護度
- 移動・排泄・食事等の介護量
- 認知症症状と有効な対応方法
- 必要な医療ケアと時間帯
- 継続したいリハビリ内容
- 入居時費用
- 毎月の総額見込み
- 有料老人ホームの空室状況
- 入居審査に必要な書類
- 重要事項説明書・契約書の内容
- 退所日と入居日の調整
- 薬・診療情報の引き継ぎ
- 通院・訪問診療の方法
候補の有料老人ホームへ聞きたい質問
そのまま使える質問
- 老健から直接入居できますか
- 現在の介護状態で受け入れ可能ですか
- 必要な医療ケアへ対応できますか
- 夜間の介護・看護体制はどうなっていますか
- リハビリはどの程度受けられますか
- 月額料金に何が含まれますか
- 追加料金になりやすいサービスは何ですか
- 入居一時金・前払金はありますか
- 退去時の返還条件はどうなっていますか
- 長期入院した場合の契約はどうなりますか
- 医療ニーズが増えた場合も継続入居できますか
- 現在の主治医への通院を続けられますか
- 最短でいつから入居できますか
「老健を出なければならないから」で急いで契約しない
退所時期が近づくと、家族は焦って最初に空いている施設を選びやすくなります。
本人に必要な条件を先に決める
費用上限、医療対応、立地、介護体制など、譲れない条件を整理します。
条件が曖昧なまま見学すると、豪華な設備や営業説明だけで判断しやすくなります。
重要事項説明書を契約前に読む
厚生労働省の標準指導指針では、入居希望者が契約内容を十分理解できるよう、契約締結前に十分な時間的余裕をもって重要事項説明書と入居契約書を説明することとされています。
退所日が迫っていても、費用・サービス・契約解除条件を確認してから契約してください。
老健は「3か月で必ず退所する施設」ではない
老健は在宅復帰・在宅療養支援を担う施設ですが、全国一律に「入所から3か月で必ず退所」という制度ではありません。退所時期は本人の状態や今後の生活方針を踏まえて検討されます。住み替えが必要になりそうな場合は、老健の支援相談員等と早めに相談しながら次の生活場所を探してください。
住み替えを進めるときの優先順位
01
本人に必要な介護・医療へ対応できる
現在の介助量と医療ケアを具体的に伝え、本人の条件で受け入れ可能か確認します。
施設名や「医療対応可」という広告だけで判断しないことが重要です。
02
長期的に費用を支払える
入居時費用だけでなく、月額総額と将来の介護費増加まで確認します。
本人の年金・資産から無理なく継続できる施設を選んでください。
03
退所と入居の間を空けず情報を引き継げる
老健、新しい有料老人ホーム、医療機関で退所日・入居日と情報提供を調整します。
薬や介護方法が途切れない状態で住み替えることが重要です。
まとめ|老健から有料老人ホームへの住み替えは「次の生活条件」を先に整理する
老健から有料老人ホームへ移ることは可能です。自宅復帰が難しいと分かった場合は、退所直前まで待たずに住み替え先を検討してください。
老健は在宅復帰・在宅療養支援を担う施設であり、有料老人ホームとは役割が異なります。特に介護体制、医療対応、リハビリ、費用の仕組みは同じではありません。
有料老人ホームとの契約では、料金、サービス内容、退去条件、前払金等について重要事項説明書と契約書を確認し、現在だけでなく将来の状態変化も踏まえて判断することが重要です。
「老健をいつ出るか」から考えるのではなく、「退所後に本人がどの介護・医療を受け、どの費用なら長く暮らせるか」を先に決め、その条件に合う有料老人ホームへつなぐことが、住み替えを失敗しにくくするポイントです。