特別養護老人ホーム(特養)は、1施設だけにしか申し込めないわけではありません。地域や施設の運用によりますが、複数の特養へ同時に申し込むことは実務上行われています。
ただし、申込書の様式、必要書類、申込先、待機状況の確認方法、入所決定後の辞退手続きは自治体や施設によって異なります。複数申込みをする場合は、単に数を増やすのではなく、本人の条件に合う施設を選び、申込後も情報を更新することが重要です。
特養は複数施設に同時申込みできる?
まず結論|複数の特養へ同時に申し込むことは可能
特養は、複数施設へ同時に申し込むことができます。厚生労働省の入所申込者集計でも、複数施設への重複申込みがあることを前提に実人数へ近づける調整が行われています。ただし、申込方法や必要書類、辞退時の連絡方法は自治体・施設ごとに異なるため、各申込先へ確認が必要です。
大阪市のように、施設ごとの申込者数を公表する際「一人で複数施設に申し込んでいる場合は、それぞれの施設に計上される」と明記している自治体もあります。
なぜ複数施設へ申し込む人がいるのか
特養は、申込者が多い地域ではすぐに入所できるとは限りません。また、空床が出たとしても、入所の必要性や本人の状態、施設側の受け入れ体制などを踏まえて入所が決まります。
1施設だけでは入所時期を予測しにくい
特養は単純な先着順ではなく、入所の必要性が高い人を優先する仕組みです。そのため、「現在何番目だから何か月後に入れる」と正確に予測することは難しい場合があります。
複数施設へ申し込んでおくことで、いずれかの施設で空床が出たときに検討対象になる可能性が広がります。
施設ごとに空床状況や受け入れ条件が異なる
同じ特養でも、定員、居室構成、医療対応、認知症ケア、看取り体制などには違いがあります。
空床の出方も施設ごとに異なるため、複数施設を候補にすることで選択肢を持ちやすくなります。
複数申込みをするときは「どこでもよい」にしない
複数申込みは有効な方法ですが、条件を確認せずに多くの施設へ申し込むのはおすすめできません。入所の連絡が来てから「思っていた施設と違った」とならないよう、申込前に候補を絞ります。
01
本人の医療・介護ニーズに対応できるか
経管栄養、喀痰吸引、インスリン、在宅酸素などの医療的ケアが必要な場合、受け入れ可否は施設ごとに異なります。看護職員の勤務時間や協力医療機関も確認しておきます。
02
家族が通いやすい場所か
入所後も面会、衣類の入れ替え、通院付き添い、手続きなどで家族が訪れることがあります。距離だけでなく、公共交通機関や駐車場、家族の勤務先からの移動も含めて考えます。
03
費用を継続して支払えるか
特養は公的施設ですが、介護サービス費の自己負担、居住費、食費、日用品費などがかかります。ユニット型個室と多床室でも費用構成が異なるため、毎月の総額を確認します。
04
本人が生活しやすい環境か
居室だけでなく、共用スペース、職員の声かけ、入居者の様子、食事や入浴の支援、生活の自由度などを見学で確認します。入所の可能性だけでなく、入所後に本人が暮らせるかという視点が必要です。
申込方法は自治体・施設ごとに確認する
特養への申込みは、各施設へ直接申し込む方式が一般的ですが、地域によって申込書の様式や運用が異なります。
施設ごとに個別申込みが必要な場合がある
複数施設へ申し込む場合、それぞれの施設へ申込書を提出する方式があります。
必要書類も、介護保険被保険者証の写し、認定調査情報、主治医情報、担当ケアマネジャーの意見など、施設や自治体によって異なります。
共通申込書や一括申込みの仕組みがある地域も確認する
地域によっては共通様式を利用している場合があります。
申込時には、市区町村の高齢福祉担当窓口、地域包括支援センター、担当ケアマネジャー、各特養へ確認してください。
地域密着型特養は居住地の条件に注意
定員29人以下の地域密着型特別養護老人ホームは、原則としてその市区町村の被保険者が利用対象です。複数申込みをする場合でも、本人が対象地域の条件を満たしているか確認が必要です。
複数申込みをすると優先順位が下がる?
複数の施設へ申し込んでいることだけを理由に、特養への入所必要性が低いと判断されるわけではありません。特養では、介護の必要性や家族の状況などを踏まえ、入所の必要性が高い人を優先する仕組みです。
ただし、地域の入所指針や施設ごとの運用があるため、具体的な判定方法は申込先で確認します。
申込数より現在の生活状況が重要
入所判定では、要介護度、介護者の状況、在宅生活の困難さ、在宅サービスの利用状況などが重要です。
複数施設へ申し込んでいるかどうかよりも、本人が現在どの程度施設入所を必要としているかが中心になります。
第一希望・第二希望は家族内で決めておく
複数施設に申し込む場合、家族内では候補施設の優先順位を整理しておくと、入所打診が来たときに判断しやすくなります。
優先順位を決めるときの確認項目
- 本人の医療・介護ニーズに対応できるか
- 本人が施設の生活環境を受け入れられそうか
- 月々の費用を長期的に負担できるか
- 家族が通いやすいか
- 看取りや終末期対応の方針が希望と合うか
- 認知症が進行しても継続して生活できるか
- 居室タイプや生活単位が本人に合うか
「最初に連絡が来た施設へ必ず入る」と決める必要はありませんが、入所の打診を受けてから短期間で返答を求められることもあります。事前に家族で判断基準を決めておくと迷いにくくなります。
入所が決まったら他の施設へ辞退連絡をする
複数施設へ申し込んでいて、いずれかの施設への入所が決まった場合は、今後入所する意思がない施設へ速やかに辞退の連絡をします。
辞退連絡をしないと待機名簿に残ることがある
申込みをしたまま連絡しなければ、施設側の待機者名簿に残り続ける可能性があります。厚生労働省も全国の入所申込者数を集計する際、複数施設への申込みや申込み後の死亡などの重複要因を除外し、実人数に近づける処理を行っています。
入所先が決まった場合だけでなく、自宅での生活を継続することにした場合や、有料老人ホームなど別の住まいへ入居した場合も、不要になった申込みは取り下げます。
待機中は本人と家族の状況を更新する
特養へ申し込んだ後、待機中に要介護度や家族状況が変わることがあります。申込時の情報のままでは、現在の入所必要性が正しく伝わらない場合があります。
重要な変化は各申込先へ伝える
要介護度が上がった、認知症の症状が進んだ、介護者が入院した、独居になった、医療処置が必要になったなどの変化があれば、それぞれの申込先へ連絡します。
複数施設へ申し込んでいる場合、1施設へ連絡すればすべてに自動共有されるとは限りません。必要に応じて各施設へ情報を更新します。
POINT
複数申込みの目的は、待機者名簿に多く登録することではありません。本人に合う施設を複数候補として持ち、入所の可能性と選択肢を確保することです。
まとめ|特養は複数申込みできるが候補を絞って管理する
特養は複数施設へ同時に申し込むことができます。特に待機者が多い地域では、本人の条件に合う施設を複数候補として申し込んでおくことは現実的な方法です。
一方で、申込方法や必要書類、入所判定の運用は自治体・施設ごとに異なります。申込み後も本人や家族の状況を更新し、入所先が決まったら不要な申込みは速やかに辞退してください。申込数を増やすことより、本人が実際に暮らせる施設を複数選んでおくことが大切です。