老人ホームで看取りが近づいていると説明を受けたとき、家族は「何を決めればよいのか」「急変したら病院へ運ぶのか」「食べられなくなったらどうするのか」と迷うことがあります。
看取り前の話し合いは、家族だけで方針を決める場ではありません。本人が大切にしてきたことや希望を中心に、施設職員、医師、看護職員などと繰り返し確認しながら、その時点で最も本人に合う医療・ケアを考えることが大切です。
まず結論|看取り前は「救急搬送・苦痛緩和・食事水分・連絡方法・最期を過ごす場所」を具体的に話し合う
看取り前に家族が施設と確認したいのは、本人の希望を中心に、急変時に救急搬送するか、施設でどこまで症状緩和を行うか、食事や水分が取れなくなったときどう考えるか、夜間の医療連携、家族への連絡基準、面会・付き添い、亡くなった後の流れです。厚生労働省は、人生の最終段階における医療・ケアについて、本人による意思決定を基本とし、本人・家族等・医療ケアチームで繰り返し話し合うことを重視しています。
看取り前の話し合いは「何もしないと決める場」ではない
「看取り」と聞くと、治療をすべてやめることだと受け取ってしまう家族もいますが、そうとは限りません。
苦痛を減らす医療・ケアは続く
痛み、息苦しさ、不安、発熱、口の渇きなど、その人のつらさを和らげるための医療やケアは重要です。
本人にとって何を優先するかを考える
入院して積極的な治療を受けることを希望する人もいれば、慣れた施設で穏やかに過ごしたい人もいます。
どちらが正解というものではなく、本人の価値観や病状に合わせて考えます。
本人の意思を最初に確認する
厚生労働省の人生会議(ACP)の考え方では、本人がどのような医療やケアを望むかを前もって考え、家族等や医療・ケアチームと共有しておくことが重視されています。
本人がまだ意思を伝えられる場合
「どこで過ごしたいか」「苦しくなったとき病院へ行きたいか」「家族にそばにいてほしいか」など、本人が答えられる範囲で確認します。
一度決めたら変えられないわけではない
本人の気持ちは病状や環境によって変わることがあります。
厚生労働省も、人生会議では繰り返し話し合うことを重視しています。以前の希望がある場合も、現在の本人の気持ちを確認できるなら改めて聞くことが大切です。
POINT
家族の希望ではなく、本人なら何を大切にするかを中心に話し合います。本人の意思が変わる可能性も含めて、何度でも確認することが大切です。
本人が意思を伝えられない場合はどうする?
認知症や意識状態の変化などで、本人が自分の希望を十分に伝えられないことがあります。
これまで本人が話していたことを振り返る
「延命治療は望まない」「できるだけ施設で過ごしたい」など、過去に本人が話していた内容があれば医療・ケアチームへ伝えます。
本人の価値観から推定する
どのような生活を大切にしていたか、何を嫌がっていたか、どのような最期を望んでいた可能性が高いかを家族で振り返ります。
家族だけで結論を背負わない
厚生労働省のガイドラインでは、本人の意思確認ができない場合も、家族等の推定意思を尊重しながら、医療・ケアチームとして本人にとって最善の方針を慎重に検討することが重要とされています。
急変したとき救急搬送するかを確認する
看取り前に最も重要な確認の一つが、急変時の救急搬送です。
「何があっても搬送しない」と単純に決めない
看取り方針があっても、転倒による骨折、窒息など、本人の苦痛を減らすために医療機関での対応が必要になることがあります。
どの状態なら施設で対応するかを確認する
呼吸状態の変化、発熱、意識低下、出血などが起きた場合、施設で経過を見るのか、医師へ連絡するのか、救急要請するのかを話し合います。
家族へ連絡がつかない場合も決める
夜間や早朝に急変し、家族へすぐ連絡できない場合、施設がどの方針で対応するかを確認してください。
救急搬送を望まない場合も理由を共有する
「病院へ運ばないでほしい」という希望がある場合は、その理由まで施設・医師と共有します。
慣れた場所で過ごしたい
病院への移動より、慣れた居室で家族や職員と過ごしたいという希望があります。
検査・治療の負担を避けたい
高齢で状態が弱っている場合、救急搬送や検査が本人に大きな負担となることがあります。
医療者と医学的な見通しを共有する
本人の病状で、搬送によってどの程度の回復が期待できるのか、施設でどのような症状緩和が可能なのかを医師から説明してもらい、判断材料にしてください。
心肺蘇生について話し合う
心停止や呼吸停止が起きた場合に、心肺蘇生を希望するかどうかも事前に確認することがあります。
言葉だけで決めない
「蘇生しますか」と聞かれても、具体的に何が行われるのか、本人の状態でどの程度の効果と負担が考えられるのかを理解して判断することが大切です。
医師から説明を受ける
心肺蘇生に関する医学的な見通しは本人の病状によって異なります。
施設職員だけでなく医師から説明を受け、本人の希望を踏まえて話し合ってください。
意思表示を記録する
話し合った内容を施設・医療者間で共有し、夜間の急変でも対応方針が分かる状態にしておくことが重要です。
食べられなくなったときの対応を話し合う
人生の最終段階では、食欲や飲み込む力が低下し、食事量が減ることがあります。
無理に食べさせることを前提にしない
食べられない理由が、病状の進行、嚥下機能低下、痛み、口腔内の問題などどこにあるかを確認します。
食べられる範囲を大切にする
少量でも本人が好むものを口から食べられる場合は、安全性を確認しながら楽しみとして続けることがあります。
むせ・誤嚥が増えた場合
食形態、とろみ、姿勢、一口量などを調整しても安全な経口摂取が難しい場合は、医療・ケアチームと今後の方針を話し合います。
水分が取れなくなったときも確認する
食事だけでなく、水分摂取も徐々に難しくなることがあります。
点滴を行うかどうかを話し合う
点滴が本人の苦痛緩和や状態改善につながる場合もあれば、病状によっては負担になることもあります。
口腔ケアで苦痛を減らす
水分を十分に飲めなくても、口腔内を清潔にし、口の乾燥を和らげるケアを行うことで不快感を軽減できる場合があります。
医師から見通しを聞く
「点滴をしないとかわいそう」と家族だけで判断せず、本人の病状での利益と負担を医師から説明してもらってください。
痛み・息苦しさをどう和らげるか確認する
看取り期には、本人の苦痛をできるだけ減らすことが重要です。
痛みへの対応
痛み止めをどのように使うのか、定時薬と頓服薬の管理、夜間に痛みが強くなった場合の連絡方法を確認します。
呼吸苦への対応
姿勢調整、酸素療法、薬物療法など、本人の状態に応じてどこまで施設で対応できるかを聞いてください。
不安・落ち着かなさへの対応
身体症状だけでなく、不安や混乱が強い場合に、職員がどのように本人を支えるかも確認します。
夜間の医療体制を確認する
状態変化は日中だけに起こるわけではありません。
夜間に看護職員がいるか
看護職員が施設内に常駐しているのか、オンコールで連絡する体制なのかを確認します。
医師へ連絡できるか
夜間・休日に状態が変化した場合、訪問診療医や協力医療機関の医師へどのように連絡するかを聞いてください。
死亡確認を誰が行うか
施設で亡くなった場合、どの医師がどのように死亡確認を行うのか、夜間・休日も含めて確認しておくと慌てにくくなります。
看取り時の家族への連絡基準を決める
家族の連絡先を登録していても、「どの段階で電話するか」までは決まっていないことがあります。
状態変化時の連絡
食事がほとんど取れなくなった、呼吸状態が変わった、意識が低下したなど、どの変化で連絡を受けたいか話し合います。
深夜でも連絡してほしいか
夜中でもすぐ連絡を希望する家族もいれば、明け方まで待ってほしいと考える家族もいます。
連絡順位を決める
第1連絡先につながらない場合に誰へ連絡するか、家族内で決めて施設へ伝えてください。
面会・付き添いのルールを確認する
看取り期には、通常の面会時間とは異なる対応を行う施設があります。
夜間面会ができるか
状態が悪化した場合、夜間や早朝でも家族が入館できるか確認します。
家族が泊まれるか
居室内で付き添えるのか、家族用ベッドや休憩場所があるのかを聞きます。
人数制限を確認する
感染症流行時などは、看取り期でも面会人数や時間に制限が設けられる場合があります。
本人が落ち着ける環境を確認する
看取り期には、本人にとって慣れた音、匂い、家族の声などが安心につながることがあります。
好きな音楽を流せるか
本人が好んでいた音楽やラジオを使えるか確認します。
写真・思い出の物を置けるか
居室に家族写真や馴染みの物を置けるか聞いてください。
照明や室温を調整できるか
本人が過ごしやすいよう、居室環境を柔軟に調整できるかも大切です。
看取り期の清潔ケアを確認する
入浴が難しくなっても、清潔を保つケアは続きます。
清拭や口腔ケア
ベッド上での清拭、口腔ケア、整容などをどのように行うか確認します。
本人の負担を見ながら行う
体調が弱っているときは、すべてを一度に行わず、本人の負担が少ない方法へ調整することがあります。
家族が参加できる場合もある
髪を整える、手を拭くなど、家族が本人へできるケアがあるか施設へ聞いてみてもよいでしょう。
褥瘡・体位変換への対応を確認する
ベッドで過ごす時間が長くなると、褥瘡や体の痛みへの配慮が必要になります。
体位変換の方法
本人の痛みや呼吸状態に配慮しながら、姿勢を調整できるか確認します。
マットレスの変更
必要に応じて体圧分散マットレス等へ変更できるか、費用も含めて確認してください。
皮膚状態を観察する
発赤や傷が生じた場合に、看護職員や医師へつなげる体制を確認します。
家族が看取りに参加できる範囲を確認する
看取りでは、家族が「何かしてあげたい」と感じることがあります。
手を握る・声をかける
特別なことをしなくても、そばにいることや声をかけることが本人の安心につながる場合があります。
好きなものを少量口にする場合
安全に口から食べられる状態なら、本人の好物を少量楽しめる場合があります。必ず施設・医療職へ確認してください。
無理に何かをしなくてもよい
本人のそばで静かに過ごすだけでもよく、家族が介護や医療行為を担う必要はありません。
家族内で意見が違う場合
看取り方針をめぐって、家族間で考えが分かれることがあります。
本人の価値観へ戻る
「自分ならどうするか」ではなく、「本人なら何を望むか」を軸に話し合います。
医療者から説明してもらう
病状の見通しや治療の利益・負担について家族の理解が違う場合、医師から一緒に説明を受けると整理しやすくなります。
一度で結論を出そうとしない
厚生労働省の人生会議でも、本人の気持ちや状況の変化に応じて繰り返し話し合うことが大切とされています。
看取りの同意書は内容を読んでから署名する
施設によっては、看取り介護に関する説明書や同意書を使用します。
「看取り」の範囲を確認する
施設内でどのような医療・介護を行い、できないことは何かを確認します。
救急搬送との関係を確認する
看取り同意書へ署名したからといって、どのような事故や急変でも一切病院へ行かないという意味とは限りません。
変更できるか確認する
本人や家族の意向が変わった場合、方針を再検討できるかを確認してください。
看取りの費用も確認する
看取り期には、通常の月額費用以外の支出が生じる場合があります。
医療費・薬代
訪問診療、往診、薬代などは医療保険の自己負担が発生します。
介護保険の加算
施設種別や要件によって、看取りに関連する介護報酬上の加算が算定される場合があります。
個別の実費
医療材料、家族用寝具など、施設独自の実費があるか確認します。
「看取り対応だから総額いくら」と一律に考えず、本人の場合の費用内訳を確認してください。
亡くなった後の流れも事前に聞いておく
看取りの話し合いでは、亡くなった後の手続きについて確認しておくと、家族が慌てにくくなります。
医師による死亡確認
施設で亡くなった場合、連携する医師がどのように死亡確認を行うか確認します。
葬儀社への連絡
家族が葬儀社を決めるのか、施設から紹介してもらえるのかを確認してください。
居室からの搬送
亡くなった後、どの程度の時間まで居室で過ごせるのか、搬送までの流れを聞きます。
荷物の整理
居室内の荷物をいつまでに搬出する必要があるか、施設のルールを確認します。
家族が施設と話し合うチェックリスト
看取り前に確認したい項目
- 本人が大切にしていること
- 本人が希望する療養場所
- 救急搬送を希望する状況
- 心肺蘇生についての考え
- 食事が取れなくなった場合の方針
- 水分が取れなくなった場合の方針
- 点滴等をどう考えるか
- 痛み・呼吸苦への対応
- 夜間の看護体制
- 夜間に連絡できる医師
- 家族への連絡基準
- 深夜連絡の希望
- 面会時間・夜間面会
- 家族の付き添い・宿泊
- 看取り時の清潔ケア
- 褥瘡予防
- 死亡確認を行う医師
- 亡くなった後の搬送
- 葬儀社への連絡
- 居室の荷物搬出期限
施設側から説明を受けたら記録を残す
看取りに関する話し合いは、家族・施設・医療者の間で認識を合わせることが重要です。
決まった内容を書面にする
救急搬送、心肺蘇生、連絡先など、重要な内容は記録に残して共有します。
夜勤職員にも共有されるか確認する
日中の相談員や看護職員だけが知っていても、夜間急変時に情報が伝わっていなければ対応がずれる可能性があります。
変更したら記録も更新する
本人や家族の意向が変わった場合、古い方針のままにならないよう記録を更新してください。
「看取り対応あり」という表示だけでは決めない
施設選びや継続入居の判断では、「看取り対応」「看取り実績あり」だけでなく具体的な運用を確認します。
医師がどう関わるか
定期診療、臨時往診、夜間連絡など、実際の医療連携を聞きます。
看護職員が夜間にいるか
24時間常駐なのか、夜間オンコールなのかで対応方法は異なります。
過去の看取り方針を聞く
具体的な個人情報ではなく、どのような体制で家族と話し合い、看取りを支えているかを施設へ聞いてください。
話し合うタイミングは「最期が目前」だけではない
本人の状態が大きく悪化してから初めて話し合うと、短時間で難しい判断を迫られることがあります。
入居時
看取り対応の有無や、本人の大まかな希望を確認します。
病状が変わったとき
食事量低下、入退院の増加、寝ている時間の増加など、状態が変化した時点で方針を再確認します。
医師から人生の最終段階に近いと説明されたとき
具体的な救急搬送、症状緩和、家族連絡などについて詳しく話し合います。
まとめ|看取り前は「本人ならどうしたいか」を中心に具体的に話し合う
老人ホームでの看取り前に最も大切なのは、家族がすべてを一人で決めることではありません。
厚生労働省は、人生の最終段階における医療・ケアについて、適切な情報提供と説明を受けたうえで本人の意思決定を基本とし、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合って方針を決めることを重視しています。
施設とは、救急搬送、心肺蘇生、食事・水分、点滴、痛み・呼吸苦への対応、夜間医療、家族への連絡、面会・付き添い、亡くなった後の流れまで具体的に確認してください。
一度決めた方針も、本人の気持ちや病状が変われば見直せます。大切なのは「看取りを選んだから何もしない」という考えではなく、本人が最期までできるだけ苦痛を少なく、その人らしく過ごせるように何をするかを家族・施設・医療者で共有することです。