親が老人ホームへ入居すると、「別居になったから扶養から外れるのでは」「施設費を子どもが払っていれば扶養控除を受けられるのか」と迷うことがあります。
税務上の扶養は、同居しているかだけで決まるわけではありません。老人ホームへ入居していても、親と生計を一にしており、親の所得などの要件を満たせば、扶養控除の対象になる可能性があります。
まず結論|老人ホーム入居中でも税務上の扶養親族になれる可能性がある
親が老人ホームへ入居して別居になっても、それだけで扶養控除の対象外になるわけではありません。税務上は、親族であること、生計を一にしていること、親の合計所得金額が基準以下であることなどの要件を確認します。ただし、老人ホームを生活の本拠としている親は、原則として「同居老親等」には該当しません。70歳以上で扶養要件を満たす場合は、通常「同居老親等以外の老人扶養親族」として扱われます。
老人ホームに入っただけでは扶養控除から外れない
扶養控除では、「親と同じ家に住んでいること」が必須条件ではありません。
別居でも「生計を一にする」なら対象になる可能性がある
国税庁は、「生計を一にする」ために必ずしも同居は必要ないとしています。
勤務、修学、療養などの事情で別居していても、常に生活費や療養費などの送金が行われている場合などは、生計を一にしているものとして扱われます。
老人ホーム費用を子どもが負担している場合も判断材料になる
親の施設費や生活費を継続的に子どもが負担している場合は、「生計を一にしているか」を判断するうえで重要な事実になります。
ただし、施設費を一部負担しているだけで自動的に扶養控除を受けられるわけではありません。親の所得など、他の要件もすべて確認する必要があります。
扶養控除を受けるための基本条件
所得税の扶養控除では、扶養親族について複数の要件があります。
01
配偶者以外の親族であること
父母・祖父母などは扶養親族になり得る親族です。
親について扶養控除を検討する場合、この親族要件は通常満たします。
02
納税者と生計を一にしていること
同居していなくても、生活費や療養費などを継続的に負担している場合などは、生計を一にしていると判断されることがあります。
老人ホーム入居後に家計が完全に別になっている場合は、扶養要件を満たすか慎重に確認してください。
03
親の合計所得金額が基準以下であること
扶養控除では、親の「収入」ではなく「合計所得金額」で判定します。
2026年分の所得税では、令和8年度税制改正により、扶養親族の合計所得金額要件は62万円以下とされています。
04
事業専従者等に該当しないこと
青色申告者の事業専従者として給与を受けている場合などは、扶養親族に該当しない場合があります。
一般的な年金生活の親では該当しないことが多い項目ですが、自営業の家族は確認してください。
老人ホーム入居中の親は「同居老親等」になる?
70歳以上の親を扶養している場合、同居かどうかで扶養控除額が変わります。
老人ホームへ入居している場合は原則「同居」ではない
国税庁は、老人ホームなどへ入所している場合、その老人ホームが本人の居所となるため、「同居老親等」の同居には該当しないとしています。
入居前まで子どもと同居していたとしても、老人ホームで生活している期間については「同居老親等」として扱われない点に注意してください。
長期入院とは扱いが違う
病気の治療のために入院している場合は、入院期間が長期になっても「同居」として扱って差し支えないとされています。
一方、老人ホームは生活の場となるため、長期入院とは税務上の取り扱いが異なります。
老人ホーム入居=扶養控除不可、ではない
老人ホームへ入居すると「同居老親等」には該当しなくなりますが、扶養親族そのものから外れるとは限りません。「同居」と「扶養」は別の要件として整理してください。
70歳以上の親なら扶養控除はいくら?
その年の12月31日時点で70歳以上の控除対象扶養親族は「老人扶養親族」に該当します。
同居老親等以外は48万円
2026年時点の所得税では、老人扶養親族のうち同居老親等以外の人に対する扶養控除額は48万円です。
老人ホーム入居中の親が扶養要件を満たす場合は、通常この区分で判断します。
同居老親等は58万円
同居老親等に該当する場合の扶養控除額は58万円です。
ただし、老人ホームへ入居している親については、そのホームが居所となるため、この区分には原則該当しません。
POINT
老人ホーム入居後は「58万円か48万円か」だけでなく、まず扶養親族の所得・生計要件を満たしているかを確認します。
親の年金はいくらまでなら扶養に入れられる?
ここで間違えやすいのが、「年金の受取額」と「合計所得金額」を同じものと考えることです。
判定に使うのは年金収入そのものではない
老齢年金などの公的年金は、受け取った金額から公的年金等控除額を差し引いて雑所得を計算します。
そのため、年金収入が扶養親族の所得基準を超えて見えても、所得計算をすると基準以下になる場合があります。
他の所得も合算して確認する
親に不動産所得、給与所得、事業所得などがある場合は、公的年金の所得だけでなく、それらを含めた合計所得金額で判断します。
年金額だけを見て扶養に入れる・入れないを決めないことが重要です。
2026年分は所得要件の改正に注意する
国税庁では、2026年分から適用される扶養親族の合計所得金額要件を62万円以下と案内しています。
税制改正により基準額は変わることがあるため、年末調整や確定申告を行う年の最新基準を確認してください。
遺族年金を受け取っている親はどうなる?
親が遺族年金を受け取っている場合は、その年金が所得判定にどのように扱われるかを確認します。
遺族年金は非課税所得
国税庁は、遺族厚生年金や遺族基礎年金などの非課税所得は、扶養親族を判定する際の合計所得金額には含めないとしています。
そのため、遺族年金の受給額だけを理由に扶養控除の対象外になるとは限りません。
他の所得がある場合は別に確認する
老齢年金、不動産所得、給与など別の所得がある場合は、それらについて扶養要件を満たすか確認する必要があります。
親の老人ホーム代を払っていれば必ず扶養にできる?
子どもが施設費を負担していることは「生計を一にする」判断材料になりますが、それだけでは扶養控除は決まりません。
所得要件も同時に満たす必要がある
親に基準を超える所得があれば、子どもが施設費を全額負担していても扶養控除の対象にならない場合があります。
扶養親族の要件は一つずつ確認してください。
一時的な援助だけでは判断できない
入居時費用だけを一度負担した場合など、親の生活全体が別会計になっているケースでは、それだけで「生計を一にする」とは断定できません。
継続して生活費・施設費・療養費を負担しているかなど、実際の家計関係をもとに判断します。
別居している親への送金は記録を残す
老人ホーム入居中の親について扶養控除を受ける場合、生活費等の負担状況が分かるようにしておくと安心です。
銀行振込など記録が残る方法を使う
国税庁は、地方に住む親を扶養控除の対象にするケースについて、銀行振込や現金書留など、送金している事実を確認できる記録を残すことを勧めています。
老人ホーム代を子どもの口座から直接支払っている場合も、通帳や振込記録を保管しておくと、実際の負担関係を確認しやすくなります。
施設費以外の負担も整理する
医療費、日用品、衣類などを子どもが負担している場合は、領収書や支払記録をまとめておくと家計の実態を説明しやすくなります。
兄弟で施設費を負担している場合は誰が扶養控除を受ける?
兄弟姉妹で親の老人ホーム費用を分担している家庭もあります。
同じ親を複数人が重複して扶養控除にできない
国税庁は、兄弟が親へ均等に送金している場合でも、同じ親について扶養控除を受けられるのは原則として誰か1人としています。
「兄が半分払うから兄も扶養控除、弟も半分払うから弟も扶養控除」という扱いにはできません。
家族内で誰が申告するか確認する
年末調整や確定申告をする前に、兄弟姉妹の誰が親を扶養親族として申告するのかを確認しておくと、重複申告を防げます。
健康保険の「扶養」と税金の「扶養」は別
「扶養に入れる」という言葉は、所得税だけでなく健康保険でも使われるため、混同しやすいところです。
この記事で扱っているのは税務上の扶養
所得税の扶養控除は、納税者の所得から一定額を控除する制度です。
健康保険の被扶養者認定とは、要件も手続きも別です。
75歳以上は原則として後期高齢者医療制度
75歳以上の人は、原則として後期高齢者医療制度の被保険者となります。
そのため、子どもの勤務先の健康保険の被扶養者になるという話と、所得税の扶養控除を受ける話は分けて考えてください。
「税法上は扶養にできるが、健康保険では被扶養者ではない」ということがあります
老人ホーム入居中の高齢の親について「扶養」を確認するときは、所得税、住民税、健康保険を混同しないことが大切です。
扶養控除を受けると老人ホーム代そのものが控除される?
扶養控除は、支払った老人ホーム費用をそのまま所得から差し引く制度ではありません。
扶養控除は一定額の所得控除
扶養親族の年齢や同居区分などに応じて、一定額を納税者の所得から控除する制度です。
「施設費を年間200万円払ったから200万円を扶養控除できる」という仕組みではありません。
医療費控除は別の制度
老人ホームへ支払った費用の一部が医療費控除の対象になるかどうかは、施設種別や費用内容によって別に判断します。
扶養控除と医療費控除は制度が異なるため、別々に要件を確認してください。
年末調整・確定申告前に確認したいこと
老人ホーム入居中の親を扶養にする場合の確認項目
- 親が自分の扶養親族となる親族関係か
- 親と生計を一にしているか
- 施設費・生活費・療養費を誰が負担しているか
- 親の年間の合計所得金額
- 老齢年金以外の所得がないか
- 遺族年金など非課税所得の扱い
- 親がその年12月31日時点で70歳以上か
- 老人ホームへ入居しているか
- 同居老親等ではなく別区分になることを確認したか
- 兄弟姉妹が同じ親を重複して扶養申告していないか
- 施設費や生活費の送金記録が残っているか
- その年の最新の所得要件を確認したか
判断に迷う場合はどこへ確認する?
親に複数の所得がある場合や、兄弟で施設費を分担している場合などは、判断が複雑になることがあります。
所得税は税務署・国税庁の相談窓口へ
扶養控除の適用について個別判断が必要な場合は、税務署や国税庁の税務相談を利用できます。
親の年金源泉徴収票、その他の所得資料、施設費等の支払状況を整理して相談すると確認しやすくなります。
住民税は市区町村へ確認する
住民税にも扶養控除がありますが、所得税とは適用年度などが異なることがあります。
具体的な住民税への影響は、納税者が住む市区町村の税担当窓口で確認してください。
健康保険は加入先へ確認する
健康保険の被扶養者について確認したい場合は、勤務先の健康保険組合や全国健康保険協会など、加入している保険者へ確認します。
まとめ|老人ホーム入居中でも「生計」と「所得」の要件を満たせば扶養控除の可能性がある
親が老人ホームへ入居して別居になっても、それだけで所得税の扶養控除から外れるわけではありません。
親と生計を一にしており、親の合計所得金額など扶養親族の要件を満たせば、扶養控除の対象になる可能性があります。
ただし、老人ホームを居所としている70歳以上の親は、原則として「同居老親等」には該当しません。扶養要件を満たす場合は、「同居老親等以外の老人扶養親族」として扱われるのが基本です。
確認するときは「老人ホームに入っているか」だけで判断せず、親の所得、生計の実態、費用負担、年齢、他の家族による扶養申告の有無を整理し、その年の最新税制で判断してください。