老人ホームを検討するとき、「費用は何年分を準備すればよいのか」と悩む人は多いでしょう。
3年分でよいのか、5年分か、10年分まで見ておくべきか。平均寿命や平均余命を調べて、その年数分を用意しようと考える人もいます。
しかし、平均余命は個人の施設入居期間を予測する数字ではありません。入居時の年齢、健康状態、要介護度、施設種別、医療ニーズなどによって、その後の生活期間は大きく異なります。
そのため、老人ホーム費用は「平均で何年住むか」から逆算するより、3年・5年・10年など複数の期間で資金が持つかを試算し、途中で費用が増えても対応できる計画を作ることが重要です。
まず結論|「平均余命分」ではなく複数シナリオで資金寿命を確認する
老人ホーム費用を準備するときは、平均余命をそのまま入居年数として使わず、まず月額総費用から年金等の収入を差し引いて「毎月の不足額」を出します。その不足額を3年・5年・10年など複数の期間で試算し、入居時費用、医療費、住み替え等の予備費を加えます。重要なのは「○年分あれば安心」と決めることではなく、入居期間が想定より長くなった場合にも資金が尽きないかを確認することです。
平均余命をそのまま施設入居年数にしない
資金計画を考えるとき、年齢別の平均余命を参考にしたくなることがあります。
平均余命は集団の統計値
厚生労働省の生命表では、各年齢の人が今後平均して何年生存するかを「平均余命」として示しています。
ただし、これはある年齢集団全体の死亡状況をもとにした統計値であり、特定の本人があと何年生活するかを示すものではありません。
健康状態、疾患、介護度、生活環境など、個人ごとの事情は平均余命だけでは反映できません。
施設入居時期も人によって違う
80代前半から施設生活を始める人もいれば、90歳を超えてから入居する人もいます。
また、施設へ入ってから長期間暮らす人もいれば、病状変化によって短期間で別施設や病院へ移る人もいます。
そのため、「平均余命が○年だから○年分の施設費を用意する」という計算だけでは、資金計画として不十分です。
POINT
平均余命は参考資料の一つですが、本人の入居期間を予測する数字ではありません。施設費は一つの年数に決め打ちせず、複数期間で試算する方が安全です。
最初に「毎月いくら不足するか」を計算する
何年分の資金が必要かを考える前に、まず毎月の収支を出します。
月額総費用を確認する
月額総費用には、家賃・居住費、管理費、食費だけでなく、介護保険自己負担、医療費、薬代、日用品、理美容、追加サービスなどを含めます。
施設のパンフレットに掲載された「月額利用料」だけでは、実際の支出を把握できない場合があります。
年金等の定期収入を差し引く
公的年金、企業年金、その他継続的な収入を月額換算します。
月額総費用から毎月の収入を差し引いた金額が、預貯金等から取り崩す「毎月の不足額」です。
資金計画の基本式
月額総費用 − 毎月の収入 = 毎月の不足額
3年・5年・10年で試算する
毎月の不足額が分かったら、一つの入居期間だけでなく複数の期間で試算します。
01
3年ケース
比較的短い期間として、現在の費用水準が3年間続いた場合の取り崩し額を確認します。
02
5年ケース
中期的なケースとして、5年間住み続けた場合の資金残高を確認します。
03
10年ケース
長期入居となった場合でも、預貯金が極端に早く尽きないかを確認します。
3年・5年・10年は「標準的な入居期間」という意味ではありません。資金耐久力を見るための比較シナリオとして使います。
試算では「毎月の不足額」だけを掛ける
施設費全額を年数分準備する必要があるとは限りません。
年金で払える部分は毎月の収入から支払う
例えば、月額総費用が25万円、年金等の収入が18万円なら、毎月の不足額は7万円です。
この場合、預貯金から取り崩す基本額は月7万円として考えます。
期間ごとの取り崩し額を出す
同じ不足額が続くと仮定すれば、3年間では252万円、5年間では420万円、10年間では840万円が不足分の単純計算となります。
ただし、実際には介護度、医療費、施設料金などが変化するため、この数字に予備費を加えて考える必要があります。
入居時費用は月額不足額とは別に確保する
老人ホームへ入るときは、毎月の費用とは別に初期費用が発生する場合があります。
前払金・敷金
有料老人ホームでは、料金プランによって前払金を設定する施設があります。
また、敷金を受領する施設もあります。
引っ越し・家具・家電
衣類や家具の搬送、テレビ、冷蔵庫、収納用品などの購入が必要になることがあります。
自宅整理
家財整理、空き家管理、売却準備などに費用がかかる場合があります。
これらは「5年分の月額不足額」とは別枠で準備します。
前払金方式では「想定居住期間」を確認する
前払金がある有料老人ホームでは、施設側が料金計算のために「想定居住期間」を設定している場合があります。
想定居住期間は本人の余命予測ではない
厚生労働省の有料老人ホーム設置運営標準指導指針では、終身契約の前払金について、想定居住期間を設定して算定することを基本としています。
ただし、この想定居住期間は前払金の算定根拠であり、「この人はその期間で退去する」という予測ではありません。
想定期間を超えて住めるか確認する
終身契約では、想定居住期間を超えて契約が続く場合に備える金額を前払金へ含める考え方があります。
契約時には、想定居住期間を超えた後に追加の家賃等が必要なのか、契約書・重要事項説明書で確認してください。
施設の「想定居住期間」と本人の資金計画期間を混同しない
前払金計算のための想定居住期間は、本人が実際に何年住むかを保証・予測するものではありません。家族側では別に、長期入居となった場合の資金計画を作ってください。
介護度が上がったケースも作る
10年間ずっと現在と同じ費用が続くとは限りません。
介護保険自己負担が変わる場合がある
要介護度が上がると、施設サービス費や利用する居宅サービス量が変わり、自己負担額が増える場合があります。
保険外サービスが増えることもある
通院同行、個別対応、理美容、日用品など、本人の状態変化によって追加費用が増える場合があります。
現在費用と重度化後費用を両方試算する
候補施設へ「現在の要介護度での月額総額」と「要介護度が上がった場合の月額総額」を出してもらいます。
長期ケースでは、重度化後の金額も使って資金が持つか確認してください。
医療費が増えるケースも見ておく
高齢になると、介護費だけでなく医療費も変化します。
通院・訪問診療・薬が増える可能性
現在は内科だけでも、将来は歯科、眼科、皮膚科などの受診が増えることがあります。
医療費や薬代、病院までの交通費も資金計画へ入れます。
入院中も施設費が続く場合がある
長期入院しても居室を確保するため、家賃・管理費などが継続する施設があります。
入院費と施設費が重なる期間を想定した予備資金も考えておくと安心です。
物価・料金改定も考える
長期資金計画では、現在の料金が10年間まったく変わらないとは考えにくいでしょう。
食費・管理費等は改定される可能性がある
物価、人件費、光熱費などの変化によって、食費や管理費、生活支援費などが改定される場合があります。
契約書や管理規程で料金改定のルールを確認します。
余裕を持った試算にする
現在の月額費用だけで預貯金を使い切る計画ではなく、費用上昇に対応できる余裕を残します。
過去にどの項目をどの程度改定したかを施設へ聞くことも参考になります。
長寿リスクは「長生きすることが問題」という意味ではない
資金計画では、想定より長く生活した場合に資金が不足することを「長寿リスク」と表現することがあります。
問題は長生きではなく資金設計
長く生活できること自体が問題なのではありません。
想定期間を超えたときに、施設費を払い続けられない計画になっていることが問題です。
長期ケースでも生活の質を維持できるかを見る
10年ケースを試算するときは、施設費を払うだけでなく、医療、理美容、衣類、嗜好品など本人らしい生活に必要なお金も残せるか確認します。
夫婦の場合は一人分だけで計算しない
夫婦の一方だけが老人ホームへ入る場合、家計が二つに分かれます。
自宅に残る配偶者の生活費が必要
施設へ入る本人の費用だけでなく、自宅の家賃・固定資産税、食費、光熱費、医療費なども続きます。
夫婦共有の預貯金を施設費へどこまで使えるか慎重に考えます。
将来二人とも介護が必要になる場合を考える
現在元気な配偶者も、将来介護サービスや施設が必要になる可能性があります。
一人目の施設費で老後資金を使い切らない計画が重要です。
子どもの援助を前提にしすぎない
本人の年金・預貯金で不足する場合、子どもが費用を補助する家庭もあります。
月額援助が何年続けられるか考える
月3万円、5万円という金額でも、10年間続けば大きな負担です。
子ども自身の住宅費、教育費、老後資金などを圧迫しない範囲にします。
援助がなくても成り立つ施設を優先する考え方もある
可能であれば、本人の収入・資産だけで長期的に継続しやすい施設を探します。
家族援助が必要な場合は、誰がどの程度負担できるかを事前に共有してください。
資金が少なくなったときの「見直しライン」を決める
資金計画では、預貯金がゼロになるまで同じ支出を続ける前提にしないことが重要です。
一定残高で再計算する
例えば、預貯金が家族で決めた一定額まで減ったら、施設費、介護度、利用できる制度を再確認します。
見直しラインは本人の緊急予備資金や家族状況によって異なります。
住み替えは資金が尽きる前に考える
より費用の低い施設へ移る場合も、新しい施設探し、見学、契約、引っ越しに時間と費用がかかります。
手元資金がほとんどなくなってから動くのではなく、早めに選択肢を確認してください。
公的な負担軽減制度も資金計画に入れる
本人の所得や施設種別によっては、介護保険の負担軽減制度を利用できる場合があります。
高額介護サービス費
介護保険サービスの自己負担が一定の上限を超えた場合、所得区分等に応じて超過分が支給される制度です。
食費・居住費・日常生活費などは原則として対象外です。
負担限度額認定
特養、老健、介護医療院などの介護保険施設では、一定の所得・資産要件を満たす人について、食費・居住費の負担限度額認定を利用できる場合があります。
有料老人ホームや一般的なサ高住の家賃・食費へ同じ仕組みが適用されるわけではありません。
資金計画を作る5つの手順
01
本人の月額総費用を出す
施設費、介護、医療、生活費を含めて計算します。
02
毎月の収入を差し引く
年金等を差し引き、毎月の不足額を出します。
03
3年・5年・10年で試算する
一つの期間だけでなく、長期入居になった場合まで確認します。
04
重度化・医療費増加のケースを加える
現在より月額費用が増えたケースでも資金が持つか確認します。
05
緊急予備資金を残す
入院、補聴器、住み替えなどの費用を別枠で残します。
施設見学で資金計画のために確認したいこと
長期費用を確認する質問
- 本人の要介護度・負担割合で月額総額はいくらですか
- 要介護度が上がった場合はいくら程度変わりますか
- 別料金になる生活支援サービスは何ですか
- 医療費・薬代以外に見込むべき費用はありますか
- 長期入院中も発生する料金は何ですか
- 食費・管理費などの料金改定ルールはどうなっていますか
- 過去に料金改定はありましたか
- 前払金がある場合の想定居住期間は何年ですか
- 想定居住期間を超えた後に追加費用はありますか
- 途中退去時の前払金返還はどう計算しますか
家計表は年1回見直す
入居時に作った10年計画を、そのまま10年間使う必要はありません。
実際の支出を反映する
1年間生活すると、医療費、日用品、理美容、追加サービスなど実際の平均額が分かってきます。
最初の見積もりとの差を確認し、翌年の資金計画を修正します。
資産残高も確認する
預貯金が計画どおり減っているか、想定以上の取り崩しになっていないかを確認します。
少なくとも年1回、介護度や施設料金が大きく変わったときには都度見直してください。
まとめ|何年分かを決めるより「長期化しても持つか」を確認する
老人ホーム費用について、「5年分あれば安心」「平均余命分を準備すればよい」と一律に決めることはできません。
平均余命は集団の統計値であり、本人が施設で何年間暮らすかを予測するものではないからです。
まず、月額総費用から年金等の収入を差し引き、毎月の不足額を出します。そのうえで、3年・5年・10年など複数の期間で預貯金の減り方を試算します。
さらに、要介護度の上昇、医療費増加、料金改定、入院、住み替えなどを考え、予備資金を別に残します。
施設費の準備で最も重要なのは、「何年分を用意するか」ではなく、「想定より長く暮らした場合でも、本人の生活を維持しながら資金が続くか」を確認することです。
候補施設ごとに現在と重度化後の月額総額を出してもらい、毎年実績をもとに資金計画を見直すと、長期の施設生活に備えやすくなります。