高次脳機能障害がある人の老人ホーム選びでは、「認知症があるかどうか」だけで施設を探すと、本人に必要な支援がうまく伝わらないことがあります。
高次脳機能障害では、記憶、注意、計画、感情・行動の調整などに障害が残ることがあり、身体機能が比較的保たれていても日常生活で大きな支援が必要になる場合があります。施設には、病名だけでなく「実際にどんな場面で困るか」を具体的に伝えることが重要です。
まず結論|高次脳機能障害は「症状名」より「生活場面で何が起きるか」を伝える
高次脳機能障害がある人の老人ホーム選びでは、①記憶障害、②注意障害、③遂行機能障害、④社会的行動障害、⑤失語・半側空間無視など併存症状、⑥見守り・声かけの方法、⑦PT・OT・ST等のリハビリ、⑧主治医・高次脳機能障害支援機関との連携、を確認します。「高次脳機能障害があります」だけでなく、「予定を忘れる」「一人で外へ出ようとする」「手順が分からなくなる」など、具体的な行動まで共有してください。
高次脳機能障害があっても老人ホームへ入れるのか
高次脳機能障害がある人でも、本人の状態と施設の支援体制が合えば老人ホームへ入居できる可能性があります。
身体が動けても生活支援が必要なことがある
歩行や食事が自立していても、予定管理、服薬、金銭、対人関係などで支援が必要になる場合があります。
見た目だけでは支援量が分かりにくいため、施設側に具体的な困りごとを伝えることが重要です。
認知症と同じ対応でよいとは限らない
高次脳機能障害と認知症では、原因や症状の現れ方が異なります。
認知症ケアの経験だけでなく、脳損傷後の障害やリハビリへの理解がある施設か確認してください。
POINT
入居相談では、診断名よりも「どの場面で、どの程度、どんな支援が必要か」を具体的に伝えると、施設は受け入れ可否を判断しやすくなります。
記憶障害がある場合の施設選び
高次脳機能障害では、新しい出来事を覚えにくい、予定を忘れるなどの記憶障害がみられることがあります。
予定・服薬を忘れる場合
食事時間、入浴予定、通院、服薬などを忘れる場合は、職員による声かけやスケジュール管理が必要です。
施設が本人ごとに予定を整理し、繰り返し確認できるか聞いてください。
メモ・掲示を活用できるか
口頭説明だけでは忘れてしまう人でも、メモや予定表があると行動しやすくなる場合があります。
本人に合う外的補助手段を施設生活に取り入れられるか確認します。
注意障害がある場合の施設選び
注意障害では、集中を続けにくい、周囲の刺激に気を取られる、複数のことを同時に処理しにくいなどの症状がみられます。
転倒・事故リスクを確認する
歩行中に周囲へ注意が向かず、障害物や段差に気付かないことがあります。
施設内の動線、見守り方法、福祉用具の使い方を確認してください。
刺激の少ない環境を選べるか
テレビ音、人の出入り、話し声などが多い環境では、食事や会話へ集中しにくい人もいます。
落ち着いた席や居室位置を調整できるか確認します。
遂行機能障害がある場合の施設選び
遂行機能障害では、物事の手順を考えたり、計画を立てたり、順番どおりに行動したりすることが難しくなることがあります。
着替え・入浴などで手順が止まる
身体は動くのに、何から始めればよいか分からず行動が止まることがあります。
一工程ずつ具体的に声をかける支援ができるか確認してください。
複数の指示を一度に出さない
「着替えて、薬を飲んで、食堂へ行ってください」と一度に伝えると混乱する人もいます。
施設職員が本人に合った伝え方を共有できるかが重要です。
社会的行動障害がある場合の確認ポイント
高次脳機能障害では、感情や行動のコントロールが難しくなることがあります。
怒りやすさ・感情の爆発
些細なことで強く怒る、待つことが難しいなどの行動がみられる場合があります。
どのような場面で起こりやすいか、何をすると落ち着きやすいかを施設へ伝えてください。
こだわり・固執
一度気になったことから切り替えられない場合があります。
否定して無理に変えさせるのではなく、気持ちを受け止めながら別の行動へ誘導できる施設か確認します。
意欲低下
自分から動こうとしない、何もしたがらないなどの症状が出ることがあります。
「やる気がない」と決めつけず、本人が参加しやすい活動を提案できるかが重要です。
失語・構音障害がある場合は意思疎通方法を共有する
脳損傷後には、高次脳機能障害とあわせて失語や構音障害が残る場合があります。
言葉が出にくい場合
質問の内容は理解できても、言いたい言葉が出てこないことがあります。
急かさず待つ、選択肢を示す、文字や絵を使うなど、本人に合った方法を施設へ伝えてください。
理解力と発話能力を分けて考える
うまく話せないからといって、本人が理解できていないとは限りません。
本人の意思を確認する機会を奪わず、意思決定へ参加できるよう支援する施設か確認してください。
半側空間無視がある場合は環境調整を確認する
脳損傷によって、左右どちらか一方の空間に気付きにくくなる半側空間無視がみられることがあります。
食事を片側だけ残す
皿の片側にある料理へ気付かず残してしまうことがあります。
食器配置や声かけを工夫できるか確認してください。
移動中にぶつかる
片側の壁や家具に気付かず接触する場合があります。
廊下や居室の家具配置、歩行時の見守り方法を確認します。
本人に合う声かけ方法を施設へ引き継ぐ
高次脳機能障害では、声かけの仕方によって行動しやすさが大きく変わる場合があります。
短く具体的に伝える
長い説明より、「まず靴を履きましょう」など、一つずつ具体的に伝えるほうが理解しやすい人もいます。
本人に有効な声かけを施設職員全体で共有できるか確認してください。
できたことを本人へ返す
失敗を繰り返し指摘されると、本人の自信や意欲が低下することがあります。
できた部分を伝えながら支援する姿勢がある施設かを見てください。
見守りの必要量を具体的に伝える
身体的には自立して見えても、高次脳機能障害によって常時または部分的な見守りが必要なことがあります。
外出・離設リスク
目的を忘れて一人で外へ出ようとする、帰り道が分からなくなるなどの行動がある場合は、施設へ必ず伝えてください。
玄関管理や外出ルールを確認します。
火・刃物・金銭管理
判断力や注意力の問題で、危険な物の扱いや金銭管理が難しい場合があります。
本人の自立を尊重しながら、必要な部分だけ支援できるか確認してください。
高次脳機能障害に詳しい職員・専門職がいるか確認する
高次脳機能障害は症状が多様なため、職員の理解が重要です。
脳卒中・脳外傷後の支援経験
脳卒中や脳外傷後の入居者を受け入れた経験があるか確認します。
認知症ケアだけでなく、高次脳機能障害の特徴を理解しているか具体的に聞いてください。
PT・OT・STとの連携
理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが関わることで、生活上の課題を具体的に評価しやすくなります。
施設内に専門職がいない場合は、外部リハビリ等へつなげられるか確認してください。
作業療法が生活支援につながるか確認する
高次脳機能障害では、作業療法士が日常生活上の課題へ関わることがあります。
生活動作を具体的に評価できるか
更衣、金銭管理、予定管理など、本人がどこでつまずくかを評価し、支援方法を考えます。
訓練室だけでなく、実際の施設生活に支援方法を反映できるか確認してください。
代償手段を活用できるか
メモ、カレンダー、タイマー、チェックリストなどを使って、自分でできることを増やす方法があります。
施設がこうした工夫を継続してくれるか確認します。
高次脳機能障害支援拠点機関との連携も検討する
国は、高次脳機能障害のある人や家族への相談支援を進めるため、都道府県等で支援拠点機関を設ける取組を進めています。
困難事例を相談できる先があるか
施設だけでは対応方法が分からない場合に、地域の支援機関へ相談できると支援の幅が広がります。
現在利用している支援機関がある場合は、入居後も連携できるか確認してください。
家族も相談できる
本人の行動変化への対応や、利用できる福祉サービスについて家族が相談できる場合があります。
施設入居後も家族がすべてを抱え込まない体制を作ることが大切です。
認知症との違いを施設が理解しているか確認する
高次脳機能障害と認知症は、症状の一部が似て見えることがあります。
発症時期や原因が明確な場合がある
脳卒中や脳外傷などをきっかけに、ある時点から症状が生じることがあります。
発症前の本人の能力や生活との違いを施設へ伝えてください。
一部の能力が保たれていることも多い
記憶は苦手でも会話や判断が保たれているなど、得意・不得意の差が大きい場合があります。
「認知症だから全部できない」と一括りにせず、本人の強みを活かせる施設が望ましいです。
感情・行動の変化がある場合は医療連携を確認する
怒りやすさ、抑うつ、意欲低下などが強い場合は、医療的な評価が必要になることがあります。
主治医へ相談できるか
症状が急に強くなった場合、薬の影響や身体疾患も含めて確認する必要があります。
施設から主治医へ相談できる体制があるか確認してください。
精神科・脳神経内科等へつなげられるか
本人の症状によっては、専門医への相談が必要になる場合があります。
必要時に医療機関へ紹介できる施設かを見てください。
入居相談時に施設へ伝える情報
高次脳機能障害について伝えたいこと
- 発症原因・発症時期
- 現在の診断名
- 記憶障害の具体例
- 注意障害の具体例
- 遂行機能障害の具体例
- 怒りやすさ・こだわり等の有無
- 失語・構音障害の有無
- 半側空間無視の有無
- 外出・離設リスク
- 金銭・服薬管理能力
- これまで有効だった声かけ
- 避けたほうがよい対応
- 現在のリハビリ内容
- 主治医・支援機関
- 身体麻痺・嚥下障害等の併存症状
見学・面談で施設へ聞きたい質問
施設へそのまま聞ける質問
- 高次脳機能障害がある人の受け入れ実績はありますか
- 記憶障害への予定管理はどのように行いますか
- 一工程ずつ声かけが必要でも対応できますか
- 怒りやこだわりが強い場合はどう対応しますか
- 外出・離設リスクがある人の見守りはどうしますか
- PT・OT・STはいますか
- 外部リハビリを利用できますか
- 高次脳機能障害支援機関と連携できますか
- 状態が悪化した場合は主治医へ相談できますか
- 夜間の見守り体制はどうなっていますか
- 認知症と高次脳機能障害を分けて支援できますか
- 介助量が増えた場合も継続入居できますか
「認知症対応可」だけで決めない
認知症ケアの経験があることは参考になりますが、それだけで高次脳機能障害に合うとは限りません。
本人の得意・不得意を見てくれるか
できないことだけでなく、保たれている能力を評価してくれる施設を選びます。
必要以上にすべてを介助すると、本人の自立性を損なう可能性があります。
一貫した支援ができるか
職員ごとに声かけ方法が変わると、本人が混乱しやすくなることがあります。
ケア方法を記録し、職員全体で共有できる施設か確認してください。
将来の状態変化まで確認する
高次脳機能障害のある人でも、加齢や別の病気によって必要な支援が変わることがあります。
身体介助が増えた場合
現在は歩行自立でも、将来は転倒や麻痺悪化で介助が必要になることがあります。
身体介護が増えても継続入居できるか確認してください。
認知機能が低下した場合
高次脳機能障害に加えて認知症を発症する可能性もあります。
見守りや介助量が増えた場合の対応力を確認します。
行動面の問題が強くなった場合
怒りやすさや離設行動などが強くなった場合に、すぐ退去となるのか、医療・専門機関と連携して支援を見直せるのかを確認してください。
「できない人」と一括りにしない
高次脳機能障害では、能力のばらつきが大きく、あることはできても別のことは難しい場合があります。本人の苦手な部分だけを補い、保たれている能力を活かす支援ができる施設かを確認してください。
施設を比較するときの優先順位
01
本人の具体的な生活障害を理解できる
病名だけでなく、記憶・注意・手順・行動など、本人の実際の困りごとを理解できる施設を優先します。
入居前面談で具体的な支援方法まで話せるか確認してください。
02
支援方法を職員全体で統一できる
短い声かけ、予定表、休憩の取り方など、本人に合う方法をチームで共有できることが重要です。
担当者が変わっても同じ支援を受けられるか確認します。
03
リハビリ・医療・地域支援へつなげられる
PT・OT・ST、主治医、高次脳機能障害支援機関などと連携できる施設を選びます。
施設だけで抱え込まず、必要な専門支援を活用できることが重要です。
まとめ|高次脳機能障害の施設選びは「できること・困ること」を具体的に伝える
高次脳機能障害があっても、本人の状態と施設の支援体制が合えば老人ホームへ入居できる可能性があります。
重要なのは、記憶障害、注意障害、遂行機能障害、社会的行動障害などの名称だけでなく、生活のどの場面で何が起こるかを具体的に整理することです。
また、身体機能が保たれている人ほど支援の必要性が見えにくいことがあるため、過去のリハビリ評価や有効だった声かけ方法を施設へ共有してください。
「高次脳機能障害でも入れますか」ではなく、「本人はこの場面で困り、この方法なら行動できます。施設では同じ支援を継続できますか」と確認することが、本人に合う老人ホームを選ぶポイントです。