多発性硬化症(MS)がある人の老人ホームを探すとき、「歩ける日と歩けない日があるけれど入居できる?」「再発したら施設でどう対応する?」「しびれや排尿障害があっても生活できる?」と不安になることがあります。
多発性硬化症は、中枢神経の炎症性脱髄疾患で、視覚障害、手足のしびれ・筋力低下、ふらつき、排尿・排便障害、疲労など多様な症状が出ることがあります。再発と寛解を繰り返すタイプもあり、日によってできることが変わる人もいます。
そのため施設選びでは、病名だけで受入可否を確認するのではなく、症状が安定している日の能力と、悪化した日にどの程度介助が必要になるかの両方を伝えることが重要です。
まず結論|多発性硬化症は「症状の変動」と「再発時対応」で施設を選ぶ
多発性硬化症がある人の老人ホーム選びでは、①歩行・移乗能力、②しびれ・筋力低下・ふらつき、③視覚症状、④排尿・排便障害、⑤疲労や体温上昇での症状悪化、⑥服薬・注射等の治療、⑦神経内科への通院、⑧急な再発時の受診・入院対応を確認します。今できる動作だけでなく、症状が悪化した日にも安全に生活できる施設か、入院後に介助量が増えても戻れるかまで確認してください。
多発性硬化症とはどのような病気?
多発性硬化症は、脳・脊髄・視神経など中枢神経に炎症が起こり、神経を覆う髄鞘が障害される病気です。
症状が人によって大きく違う
難病情報センターでは、視神経が障害されると視力低下、脳幹では複視や嚥下・発語の障害、小脳ではふらつきや手の震え、脊髄ではしびれ・運動麻痺・排尿排便障害などが起こることがあると説明されています。
再発と寛解を繰り返すことがある
症状が急に悪化する再発と、症状が改善・安定する時期を繰り返すタイプがあります。
進行性に障害が増える場合もある
病型によっては、明らかな再発がなくても徐々に歩行や日常生活機能が低下することがあります。
POINT
施設へは「MSです」だけでなく、「どの症状が残っているか」「再発時に何ができなくなるか」「普段との変化をどう見分けるか」まで伝えてください。
多発性硬化症でも老人ホームに入れる?
多発性硬化症があることだけを理由に、すべての老人ホームへ入れないわけではありません。
多くの施設種別が候補になり得る
介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、サ高住、特養など、本人の介護度・医療ニーズに応じて検討できます。
重要なのは現在の介助量
歩行、移乗、排泄、入浴、服薬などにどの程度支援が必要かで、施設側の受入判断が変わります。
再発時に一時的に介助量が増える可能性も伝える
普段は歩けても、再発時には車椅子や全介助が必要になる人もいます。
施設へ最初に伝えたい情報
入居相談で共有したい内容
- 多発性硬化症の病型・診断時期
- 直近の再発時期
- 現在残っている症状
- 歩行距離・杖・歩行器・車椅子の使用状況
- しびれ・筋力低下・ふらつき
- 視力・複視など視覚症状
- 排尿・排便障害
- 疲労の出やすさ
- 体温上昇で悪化する症状の有無
- 内服・注射等の治療内容
- 現在の神経内科・通院頻度
- 再発時の受診先
歩行能力は「良い日」と「悪い日」の両方を伝える
多発性硬化症では、日によって疲労や筋力低下の程度が変わることがあります。
普段どのくらい歩けるか
居室から食堂まで歩けるか、屋外では杖が必要かなど具体的に伝えます。
悪化した日はどうなるか
足が上がりにくい、ふらつく、立位が保てないなど、悪い日の状態も共有します。
車椅子を併用できるか
無理に歩行を続けるのではなく、体調に応じて車椅子へ切り替えられる施設か確認します。
転倒リスクを確認する
筋力低下、しびれ、失調、視覚障害があると転倒しやすくなることがあります。
過去の転倒歴を伝える
どの場面で転倒したかを施設へ共有します。
夜間トイレの動線を見る
夜間に歩行が不安定になる人では、照明、手すり、トイレまでの距離を確認します。
福祉用具を柔軟に使えるか
杖、歩行器、車椅子を状態に応じて変更できるか確認します。
しびれ・感覚障害への対応を確認する
脊髄や脳の病変によって、手足のしびれや感覚低下が残ることがあります。
痛み・熱さに気づきにくい場合
感覚が鈍い人では、熱い物や皮膚損傷へ注意が必要です。
衣類・靴の圧迫
本人が違和感に気づきにくい場合、皮膚状態を定期的に確認できるか聞きます。
手指のしびれ
箸、ボタン、薬の取り出しなど細かい動作に支障がある場合、必要な介助を確認します。
視覚症状がある人は環境を確認する
視神経炎などによって視力低下が残っている人や、複視が出る人もいます。
照明
まぶしすぎないか、暗すぎないか、本人の見え方に合わせて調整できるか確認します。
家具配置
視覚症状とふらつきが重なる場合、動線上の障害物を減らせるか確認します。
急な視力変化
急に見えにくくなった、二重に見えるなどの症状が出たとき、再発の可能性も含め神経内科・眼科へつなげられるか確認します。
排尿・排便障害を確認する
難病情報センターでは、多発性硬化症で脊髄が障害されると尿失禁や排尿・排便障害が起こることがあると説明されています。
頻尿・尿失禁
トイレ回数が多い場合、居室からトイレまでの距離や夜間介助を確認します。
尿が出にくい場合
排尿困難や残尿がある人では、泌尿器科との連携が必要になることがあります。
排便管理
便秘・失禁等がある場合、排便記録や薬の管理を確認します。
疲労が強い人は生活リズムを確認する
多発性硬化症では、強い疲労感が生活へ影響することがあります。
午前と午後で状態が違うか
午後になると疲れて動きにくい人では、入浴やリハビリの時間調整が重要です。
休息できる環境
レクリエーションへの参加を強く求めず、必要なときに居室で休めるか確認します。
疲労を「やる気がない」と捉えない
本人が動けない理由を性格の問題とせず、症状として理解する施設かを見ます。
体温上昇で症状が悪化する人もいる
多発性硬化症では、体温が上がると一時的に神経症状が悪化する「ウートフ現象」が起こることがあります。
熱い入浴で悪化する場合
入浴温度や時間を本人に合わせて調整できるか確認します。
発熱時
感染症による発熱で、以前からあるしびれや筋力低下が一時的に強くなることがあります。
暑い季節
居室温度、外出時間、水分管理など、暑さを避ける工夫ができるか確認します。
体温上昇による一時悪化と「再発」は同じではない
熱や入浴で一時的に症状が悪化するウートフ現象と、新たな炎症による再発は別です。新しい神経症状や持続する悪化がある場合は、施設だけで判断せず主治医・神経内科へ相談してください。
再発のサインを施設と共有する
再発時は早めに医療機関へ相談することが重要です。
新しい視力低下
片目が急に見えにくいなど、これまでにない視覚症状が出た場合は受診を検討します。
新しい筋力低下
いつもより片足が動かない、急に立てなくなったなどの変化を記録します。
新しいしびれ・感覚異常
これまでなかった部位に症状が出た場合も主治医へ相談します。
長く続く神経症状
一時的な疲労だけでなく、明らかな変化が続く場合は医療的評価が必要です。
再発時の受診・入院体制を確認する
多発性硬化症では、急性増悪時に医療機関で治療が必要になることがあります。
どの病院へ連絡するか
現在の神経内科、かかりつけ病院、救急時の受診先を施設へ共有します。
夜間・休日の連絡方法
急に視力低下や麻痺が出た場合、誰が医師へ連絡するか確認します。
入院後に戻れるか
再発後に歩行能力が低下した場合でも、施設へ戻れるか確認してください。
服薬・注射等の治療を継続できるか
多発性硬化症では、再発予防・進行抑制のため疾患修飾薬が使われます。
日本神経学会は「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023」を公開しており、疾患修飾薬の選択や再発時治療、対症療法などを整理しています。
内服薬
施設が服薬管理を行う場合、毎日の服用時間や注意事項を正確に共有します。
自己注射・注射薬
本人が自己注射するのか、医療機関で投与するのか、看護師による支援が必要かを確認します。
医療機関での点滴等
定期的な通院治療が必要な場合、施設から通えるか、付き添いが必要かを確認します。
感染症への対応を確認する
治療薬によっては感染症への注意が必要になることがあります。
発熱・咳
普段と違う体調変化があれば看護職員や医師へ共有できるか確認します。
薬の継続可否は主治医へ
感染症時に薬をどうするかは治療内容によって異なるため、施設だけで自己判断しないようにします。
予防接種
ワクチンについては治療薬との関係もあるため、主治医と相談します。
リハビリ体制を確認する
多発性硬化症では、筋力低下、痙縮、ふらつき等に対してリハビリを行うことがあります。
理学療法
歩行、立位、筋力、バランス等を評価し、本人に合う運動を検討します。
作業療法
食事、更衣、家事動作など日常生活で困る動作を補う工夫を考えます。
無理をしすぎない
疲労や体温上昇で症状が悪化する人では、運動量・時間帯の調整が重要です。
痙縮・筋のつっぱりがある場合
脊髄障害などにより、足が突っ張る痙縮がみられることがあります。
移乗時の介助
急に足が突っ張る人では、本人の動き方を理解した介助が必要です。
関節拘縮を予防する
理学療法士等と相談しながら、無理のない範囲で関節を動かします。
薬物治療
痙縮に対する薬を使用している場合、服薬・副作用を施設へ共有します。
痛みへの対応を確認する
しびれに加えて、神経障害性疼痛などの痛みを感じる人もいます。
痛みを記録する
部位・時間帯・強さを施設で把握できるか確認します。
薬の管理
鎮痛薬や神経障害性疼痛治療薬等を使用している場合、正確に服薬管理できるか確認します。
痛みが急に変化した場合
いつもの症状と違う痛みがある場合は、再発以外の病気も含め医療職へ相談します。
認知機能の変化にも注意する
難病情報センターでは、大脳病変によって認知機能に影響が出る場合があることも説明されています。
記憶・注意
薬の自己管理や予定管理が難しくなっていないか確認します。
判断力
歩行能力に対して無理な移動をしようとする場合など、安全支援が必要になることがあります。
認知症とは限らない
認知機能の変化があっても、一般的な認知症と同じ経過とは限りません。主治医の評価を施設へ共有します。
通院を続けられるか確認する
多発性硬化症は、神経内科で長期的に経過をみることが重要です。
現在の主治医へ通えるか
施設から病院までの距離と移動方法を確認します。
施設職員の付き添い
通院同行が可能か、家族対応か、別料金かを聞きます。
専門医と訪問診療の役割
日常の体調管理は訪問診療、MS治療は専門医という形で連携できるか確認します。
入浴時の温度・時間を確認する
ウートフ現象がある人では、入浴で体温が上がると一時的にしびれや筋力低下が強くなることがあります。
熱すぎる湯を避けられるか
本人に合う温度へ調整できるか確認します。
長時間入浴を避けられるか
本人の体調に合わせて短時間の入浴やシャワー浴へ変更できるか確認します。
入浴後の休息
症状が一時的に悪化した場合、すぐ居室で休めるか確認します。
夏場の暑さ対策を確認する
暑さで症状が悪化しやすい人では、施設の温度管理も重要です。
居室の空調
本人に合わせて室温を調整できるか確認します。
外出時間
夏場は涼しい時間帯に散歩・受診できるよう調整できるか聞きます。
水分管理
排尿障害があっても、自己判断で水分を極端に減らさず、主治医の指示に沿って管理します。
施設見学で確認したいポイント
01
症状変動への柔軟性
歩行できない日や疲労が強い日に、車椅子・休息へ切り替えられるか確認します。
02
排泄支援
頻尿・失禁・排尿困難等に応じたトイレ介助ができるか確認します。
03
服薬・治療管理
内服・注射・定期通院を継続できるか確認します。
04
再発時対応
新しい神経症状が出た場合に神経内科へ速やかに相談できるか確認します。
05
将来の介助量
車椅子中心・全介助になっても継続入居できるか確認します。
施設へそのまま聞ける質問
多発性硬化症の確認項目
- 多発性硬化症の人の受入実績はありますか
- 歩けない日だけ車椅子を使えますか
- 疲労が強い日は入浴・リハビリの時間を変更できますか
- 夜間のトイレ介助はできますか
- 排尿障害がある人への対応経験はありますか
- 注射薬や特殊な治療を継続できますか
- 神経内科への通院付き添いはできますか
- 新しい麻痺や視力低下が出た場合はどう対応しますか
- 再発で入院した後も施設へ戻れますか
- 介助量が増えて全介助になっても住み続けられますか
- 夏場・入浴時の温度調整はできますか
主治医へ入居前に確認したいこと
神経内科へ確認したい内容
- 現在の病型・活動性
- 再発時に出やすい症状
- 再発を疑う変化と受診目安
- 現在の疾患修飾薬と管理方法
- 感染症時の注意点
- 運動・リハビリの範囲
- 体温上昇で症状が悪化するか
- 排尿・排便障害の管理方法
- 今後介助量が増える可能性
- 施設生活で特に注意すること
入居前に病院から情報を引き継ぐ
症状が多岐にわたるため、家族の説明だけでなく医療情報を引き継ぐことが重要です。
診療情報提供書
病型、治療内容、再発歴、残存症状等を施設・新しい医療機関へ共有します。
服薬・注射情報
薬剤名、投与方法、受診予定など最新情報を整理します。
リハビリ情報
歩行能力、福祉用具、疲労しやすい動作、移乗方法などを共有します。
将来の介助量増加も考えて選ぶ
多発性硬化症は経過が人によって異なります。
歩行器から車椅子へ変わった場合
居室・トイレ・浴室を車椅子で使えるか確認します。
移乗介助が増えた場合
一人介助から二人介助へ変化しても対応できるか聞きます。
嚥下・認知機能へ症状が出た場合
食事形態の変更や認知面の支援にも対応できるか確認します。
入退院を繰り返した場合
入院期間中の居室・費用、退院後の再受入条件も確認してください。
多発性硬化症だけで施設を決めない
病気への理解は重要ですが、老人ホームは毎日生活する場所です。
本人の生活希望
外出、趣味、入浴、食事、家族との面会など、本人が続けたい生活を確認します。
職員の対応
症状が日によって変わる人を「昨日できたから今日もできる」と急かさず、その日の状態を確認する施設か見ます。
他の病気
糖尿病、高血圧、認知症など他の持病も含めて対応できるか確認します。
費用
施設利用料のほか、専門外来の通院、介護タクシー、外部リハビリ等の費用も確認します。
まとめ|多発性硬化症は「変化する症状」に合わせられる施設を選ぶ
多発性硬化症があっても、本人の症状と施設の介護・医療体制が合えば老人ホームへ入居できる可能性があります。
難病情報センターでは、多発性硬化症で視力低下、複視、しびれ、運動麻痺、ふらつき、排尿・排便障害など多様な症状が起こることがあるとされています。また、体温上昇によって一時的に症状が悪化するウートフ現象も知られています。
日本神経学会の「多発性硬化症・視神経脊髄炎スペクトラム障害診療ガイドライン2023」では、再発時治療、疾患修飾薬、対症療法などが体系的に整理されています。
最も重要なのは、「MSの受入実績がある施設」ではなく、「症状が良い日と悪い日の差を理解し、新しい神経症状が出たときに速やかに医療へつなぎ、介助量が増えた後も生活を続けられる施設か」を確認することです。
入居前には主治医から再発時のサイン、治療内容、運動・入浴・暑さへの注意を確認し、施設へ本人の症状変動を具体的に伝えたうえで選びましょう。