老人ホームへ入居すると、家賃・管理費・食費・介護保険自己負担など、毎月の固定費はある程度見通しやすくなります。
一方で、実際の生活では、医療費、薬代、理美容、衣類、日用品、家族の面会交通費、急な入院など、月額料金表だけでは見えない支出も続きます。
そのため、施設費を支払った後の預貯金をすべて取り崩す前提にするのではなく、毎月使う生活予備費と、突発的な支出に備える緊急予備資金を分けて残すことが大切です。
まず結論|「施設費を払えるか」ではなく「施設費を払った後に余裕が残るか」で考える
老人ホーム入居後の資金計画では、家賃・管理費・食費・介護保険自己負担だけでなく、医療費、日用品、理美容、衣類、家族交通費などの生活費を別に見込みます。さらに、入院、補聴器、眼鏡、家電買い替え、退去・住み替えなどの突発費用に備え、すぐ使わない予備資金も残します。毎月の「生活予備費」と、年単位で備える「緊急予備資金」を分けて管理すると、施設生活を長く続けやすくなります。
老人ホームの月額料金だけでは生活費は完結しない
施設の料金表には、家賃・居住費、管理費、食費などが表示されています。
しかし、入居者が実際に生活するうえで必要なお金はそれだけではありません。
介護保険施設でも日常生活費は別に必要
厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、介護保険施設を利用する場合、介護サービス費の1〜3割負担に加え、居住費、食費、日常生活費が必要になると案内されています。
つまり、介護保険が適用される施設でも、生活上のすべての支出が介護保険で賄われるわけではありません。
民間施設でも追加費用が発生する
有料老人ホームやサ高住では、理美容、通院同行、買い物代行、個別洗濯、日用品などが別料金になる場合があります。
「月額○万円」と表示されている金額だけで資金計画を作ると、実際の支出との差が出やすくなります。
POINT
生活予備費は「余ったら使うお金」ではなく、施設料金表に含まれない日常支出を吸収するための予算です。
生活予備費は2つに分けて考える
予備費を一つの金額で管理すると、毎月の生活費と緊急時資金が混ざりやすくなります。
01
毎月使う生活予備費
医療費、薬代、日用品、理美容、衣類、嗜好品など、日常的に発生する支出へ充てます。
02
緊急予備資金
入院、補聴器、眼鏡、家電買い替え、住み替えなど、毎月は発生しない大きな支出に備えます。
毎月の生活予備費に入れたい項目
01
医療費・薬代
訪問診療、通院、歯科、処方薬などは、施設利用料とは別に医療保険の自己負担が発生する場合があります。
02
日用品
ティッシュ、歯ブラシ、化粧品、電池、飲料など、本人が日常的に使う物を見込みます。
03
理美容
訪問理美容を利用する施設では、カットやカラーなどを都度払いする場合があります。
04
衣類・靴
季節ごとの衣替え、下着、パジャマ、室内履きなどの買い替えが必要になります。
05
嗜好品・娯楽
本人が楽しみにしている新聞、雑誌、お菓子、飲み物、趣味用品なども生活費として考えます。
医療費は毎月一定とは限らない
施設入居後も、医療費は変動します。
定期診療以外の受診が増えることがある
高齢になると、歯科、眼科、皮膚科、整形外科など、複数の診療科を受診することがあります。
通常月より医療費が増える月があることを前提にしておきます。
薬の変更や検査で費用が変わる
病状によって検査や薬が増えることがあります。
毎月の平均医療費だけでなく、「高い月がどの程度あるか」を過去の支出から確認すると、予備費を決めやすくなります。
日用品は小さな支出でも積み重なる
一つひとつは少額でも、毎月必要になる日用品は長期入居では大きな差になります。
施設が用意する物と本人負担の物を分ける
ティッシュ、歯ブラシ、シャンプーなどを施設が一括提供する場合もあれば、本人側で用意する場合もあります。
おむつについても、施設種別やサービス内容によって費用の扱いが異なります。
個別購入を施設へ依頼すると手数料がある場合もある
買い物代行を利用する場合、商品代だけでなく代行料がかかる施設もあります。
家族が持参できるか、施設へ依頼するかで費用が変わります。
理美容・衣類費も生活予備費に入れる
老人ホームへ入居しても、散髪や衣替えは必要です。
理美容は年単位で平均化する
毎月利用しない場合でも、年間の利用回数と1回あたり料金を掛けて12か月で割れば、月平均の予算を作れます。
衣類はまとめ買いの月がある
季節の変わり目には、下着、パジャマ、上着などをまとめて買い替えることがあります。
毎月ゼロ円と考えず、年間予算として確保しておくと急な出費になりにくくなります。
本人のお小遣いも予算に入れる
施設生活だからといって、本人が自由に使えるお金が不要になるわけではありません。
本人が選べるお金を残す
売店で好きな物を買う、外出先で飲み物を買う、趣味用品を購入するなど、本人が自分で選べる支出は生活の満足度につながります。
金銭管理方法を施設と確認する
認知症などで本人が現金管理を難しく感じる場合、施設が小口現金を預かる仕組みを設けていることがあります。
預かり金の管理方法、記録、手数料などを確認してください。
家族側にかかる費用も忘れない
入居者本人の生活費だけでなく、家族が施設へ関わるための費用もあります。
面会交通費
電車代、高速道路料金、ガソリン代、駐車料金などが継続的に発生する場合があります。
遠方施設では、1回あたりの面会費用が大きくなることがあります。
通院同行時の交通費
家族が病院へ付き添う場合、施設から病院までのタクシー代などが必要になることがあります。
家族の宿泊費
遠方から面会・緊急対応に行く場合、宿泊が必要になることがあります。
施設選びでは、本人の料金だけでなく家族が関わり続けるための費用も含めて考えます。
緊急予備資金として備えたい支出
毎月は発生しないものの、一度発生するとまとまった金額になる支出があります。
01
入院
入院時の医療費、日用品、移動費などが必要になる場合があります。施設によっては入院中も家賃・管理費等が続きます。
02
補聴器・眼鏡・義歯
日常生活に必要な物でも、急な故障・紛失・作り直しでまとまった費用が発生することがあります。
03
家電・家具の買い替え
テレビ、冷蔵庫、加湿器など本人が持ち込んだ家電が故障すると、買い替えが必要になる場合があります。
04
住み替え・退去
別施設へ移る場合、引っ越し、原状回復、新施設の敷金・前払金などが必要になることがあります。
予備費はいくら残せばよい?
生活予備費に全国共通の適正額はありません。
本人の医療状況、生活習慣、施設の料金体系、家族がどこまで持参・対応できるかで必要額が変わるからです。
毎月分は過去の実績から出す
入居前の3〜6か月程度について、医療費、日用品、理美容、衣類、嗜好品などを合計し、月平均を出します。
施設入居後に不要になる支出を除き、新たに発生する費用を加えて調整します。
緊急分は「起こり得る支出」を個別に積み上げる
入院時にどの程度手元資金が必要か、補聴器を買い替える可能性があるか、住み替え時の初期費用はいくらかなど、本人ごとのリスクを洗い出します。
「高齢者なら○万円」と一律に決めるより、実際に起こり得る支出から必要額を積み上げる方が現実的です。
貯金をすべて入居一時金へ使わない
前払金方式の施設を選ぶ場合も、手元資金をすべて前払金へ充てると、入居後の医療・生活・緊急費用へ対応しにくくなります。入居後に自由に使える資金をどの程度残すかも含めて料金プランを比較してください。
毎月の資金計画は「固定費」と「変動費」に分ける
老人ホーム入居後の家計は、固定費と変動費に分けると管理しやすくなります。
01
固定費
家賃・居住費、管理費、定額食費、定額サービス費など、毎月おおむね同じ金額が発生する費用です。
02
変動費
介護保険自己負担、医療費、薬代、理美容、日用品、外出など、月によって変わる費用です。
固定費だけを年金で払えるかを見るのではなく、変動費の平均まで含めて毎月の不足額を計算します。
生活予備費を含めた月額不足額を確認する
資金計画では、月額施設費と予備費を合算してから、本人の収入を差し引きます。
毎月の不足額の考え方
施設の固定費 + 介護・医療費 + 生活予備費 − 年金等の収入 = 毎月の不足額
この不足額を預貯金から何年補えるか確認すると、資金寿命を把握しやすくなります。
楽観的な月だけで計算しない
医療費が少なく、理美容や衣類購入もなかった月だけを基準にすると、資金計画が甘くなります。
通常月だけでなく、支出が多かった月も含めた平均で考えてください。
預貯金の残高に「下限」を決める
預貯金を毎月取り崩す場合、残高がゼロになるまで同じ施設費を払い続ける計画は避けます。
見直しを始める残高を決める
例えば、「この残高まで減ったら料金プランや施設の見直しを始める」というラインを家族で決めます。
実際の金額は本人の収入、緊急予備資金、家族支援の有無などで異なります。
住み替えには時間とお金がかかる
資金がほとんどなくなってから施設を探し直すと、選択肢を比較する時間が足りない場合があります。
早めに資金状況を見直し、必要ならケアマネジャーや地域包括支援センター、市区町村へ相談します。
低所得の場合は負担軽減制度も確認する
介護保険には、所得や利用額に応じた負担軽減制度があります。
高額介護サービス費
介護保険サービスの1か月の自己負担が一定の上限を超えた場合、所得区分等に応じて超過分が支給される制度です。
ただし、食費、居住費、日常生活費などは原則として対象外です。
介護保険施設の食費・居住費軽減
特養、老健、介護医療院などでは、一定の所得・資産要件を満たす人について、食費・居住費の負担限度額認定の対象になる場合があります。
有料老人ホームの家賃・管理費などが同じ制度で軽減されるわけではありません。
対象条件は市区町村へ確認してください。
家族が管理する場合は使途を共有する
認知症などにより、家族が本人のお金を管理する場合があります。
生活予備費専用の記録を作る
医療費、衣類、日用品、理美容など、何にいくら使ったか記録します。
兄弟姉妹で費用を管理する場合にも、支出を共有しやすくなります。
本人が使える範囲は本人に任せる
本人が金銭管理できる範囲では、少額のお小遣いなど自分で決められるお金を残すことも大切です。
必要以上に本人のお金を制限せず、安全と自己決定のバランスを考えます。
施設見学で予備費のために確認したいこと
月額料金以外で聞きたい項目
- 医療費・薬代はどの程度別に必要ですか
- 日用品で施設が用意する物と本人負担の物は何ですか
- 理美容は月額に含まれますか
- 衣類の通常洗濯と外部クリーニングはそれぞれ有料ですか
- 買い物代行・通院同行は別料金ですか
- 入院中も発生する費用は何ですか
- 家電や家具が故障した場合は誰が負担しますか
- 退去・住み替え時に必要な費用はありますか
- 預かり金制度がある場合、管理手数料はかかりますか
- 過去に月額料金や生活支援費の改定はありましたか
年に1回は生活予備費を見直す
入居時に決めた予備費が、その後も適切とは限りません。
介護度や医療状況が変わる
要介護度が上がる、通院が増える、薬が増えるなどによって毎月の支出が変わります。
物価や施設料金が変わる
食費、管理費、理美容、外部サービスなどの料金が改定される場合があります。
少なくとも年1回程度は、過去1年間の実際の支出を確認し、翌年の予算を見直すと安心です。
まとめ|予備費は「毎月使う分」と「緊急時に残す分」に分ける
老人ホーム入居後は、月額利用料以外にも医療費、日用品、理美容、衣類、嗜好品、家族の交通費など、さまざまな支出が続きます。
さらに、入院、補聴器、眼鏡、家電の買い替え、退去・住み替えなど、突然まとまった支出が発生することもあります。
そのため資金計画では、毎月使う「生活予備費」と、普段は使わない「緊急予備資金」を分けて残すことが重要です。
予備費に一律の正解額はありません。本人の過去の医療費や生活費、施設の別料金項目を確認し、実際に起こりそうな支出から積み上げてください。
施設費をぎりぎり払えるかではなく、施設費を払った後にも生活上の選択肢と緊急対応の余裕を残せるかを基準にすると、長期の施設生活を続けやすくなります。