老人ホーム入居で自宅を売却する前に考えたいこと

親が老人ホームへ入居すると、自宅をそのまま残すか、売却して施設費に充てるかを家族で考えることがあります。

空き家の維持費を減らし、まとまった資金を確保できる点では売却にメリットがあります。しかし、一度売却すると簡単には元へ戻せません。本人が自宅へ戻る可能性、所有者本人の意思、税金、売却後のお金の管理まで整理してから判断することが大切です。

まず結論|老人ホーム入居直後に急いで自宅を売らず、「戻る可能性」と「売却できる条件」を先に確認する

老人ホーム入居を理由に自宅を売却する前に、①本人が自宅へ戻る可能性、②自宅の名義、③本人が売却を理解して意思表示できるか、④住宅ローンや共有者の有無、⑤売却時の税金、⑥売却代金を施設費として何年使えるかを確認します。本人の居住用不動産は生活の基盤となる重要な財産なので、家族だけの都合で急いで処分せず、本人の意思と今後の生活計画を基準に判断することが重要です。

老人ホーム入居後すぐに自宅を売らないほうがよい場合がある

施設入居が決まると、「空き家になるなら早く売ったほうがよい」と考えやすくなります。

しかし、入居直後は本人の体調や施設との相性がまだ安定していないことがあります。

短期間で自宅へ戻る可能性がないか確認する

体験入居や短期的な入居に近い状況であれば、施設生活が本人に合うかを見てから売却を判断する方法があります。

自宅復帰の可能性については、本人だけでなく、主治医、ケアマネジャー、施設の担当者などから現在の状態を聞き、現実的に考えてください。

施設が合わず住み替える可能性も考える

入居後に医療対応や認知症対応が合わず、別の施設へ移ることがあります。

自宅を残しておくことが必ず正解という意味ではありませんが、入居直後に大きな財産処分まで同時に進める必要があるかは慎重に考えることが大切です。

POINT

「施設に入ったから自宅は不要」とすぐ決めず、まず入居が長期化する見通しがあるかを確認します。

最初に自宅の名義を確認する

自宅を売却できるのは、原則としてその不動産の所有者です。

本人単独名義か共有名義かを確認する

親の単独名義だと思っていても、配偶者や子どもとの共有、相続後の共有状態になっている場合があります。

登記事項証明書などで所有者を確認し、共有の場合は誰の持分があるのかを整理してください。

住宅ローンや担保が残っていないか確認する

住宅ローンが残っている場合や抵当権が設定されている場合は、売却代金での返済や抵当権抹消などの手続きが必要になります。

売却価格がそのまま施設費として手元に残るとは限らないため、残債や売却経費も含めて資金計画を立てることが重要です。

本人が売却を理解して意思表示できるか確認する

自宅は本人の財産です。家族が介護をしているからといって、家族だけの判断で自由に売却できるわけではありません。

本人の意思を確認する

本人が売却の意味を理解できる場合は、「なぜ売るのか」「売却後に戻る家がなくなること」「売却代金をどう使うのか」を説明し、本人の意思を確認します。

本人が自宅への思いを強く持っている場合は、金銭面だけでなく心理的な影響も含めて話し合ってください。

判断能力に不安がある場合は勝手に契約を進めない

認知症などにより、不動産売却の内容や結果を十分に理解して意思表示することが難しい場合があります。

このような場合は、家族が本人名義の不動産を代わりに契約できると決めつけず、成年後見制度を含めた適切な手続きについて専門家や家庭裁判所の案内を確認することが重要です。

成年後見人でも居住用不動産を自由に売却できるわけではありません

成年被後見人の居住用不動産を成年後見人が売却する場合は、事前に家庭裁判所の許可が必要です。施設に入居して現在住んでいない家でも、本人の居住用不動産に当たる場合があるため、該当する場合は売買契約を進める前に確認してください。

自宅を売るメリットを整理する

売却には、施設入居後の資金計画を安定させやすいというメリットがあります。

01

老人ホーム費用の原資を確保できる

売却代金を施設の入居時費用や月額費用へ充てることで、預貯金だけに頼らず資金を確保できます。

ただし、売却代金が大きく見えても、何年分の施設費になるのかを計算しておくことが大切です。

02

空き家の維持費を減らせる

自宅を残すと、固定資産税、火災保険、修繕、庭の管理などの費用が続きます。

遠方の家族が定期的に管理する場合は、交通費や時間的負担も発生します。

03

将来の空き家管理を家族へ残さずに済む

長期間空き家になると、建物の劣化や防犯などの問題が起こることがあります。

本人が戻らない見通しが明確であれば、早い段階で売却して管理負担を整理する選択肢があります。

自宅を売るデメリットも確認する

売却にはメリットだけでなく、取り戻しにくい選択であるという面があります。

本人が自宅へ戻る選択肢がなくなる

施設生活が合わなかった場合や、状態が改善して在宅生活を検討したくなった場合でも、売却済みなら以前の自宅へは戻れません。

自宅復帰の可能性がどの程度あるのかを確認してから判断してください。

売却代金を長期間管理する必要がある

自宅を現金化すると、その資金を老人ホーム費用や本人の生活費として適切に管理する必要があります。

家族の生活費と混在させず、本人のお金として収支を明確にしておくことが重要です。

売却には税金や諸費用がかかることがある

仲介手数料、登記関係費用、譲渡所得に対する税金などが生じる場合があります。

売却価格の全額が本人の手元に残るとは限らないため、手取り額で資金計画を立ててください。

売却前に税金を確認する

自宅を売って利益が出た場合は、譲渡所得に対する税金が関係することがあります。

マイホームの3,000万円特別控除を確認する

一定の要件を満たす居住用財産を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円を控除できる特例があります。

以前住んでいた家については、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却することなどの要件があります。老人ホームへ移った後に売却を検討する場合は、売却時期によって税務上の扱いが変わる可能性があるため注意してください。

特例が使えるかは個別に確認する

所有期間、売却相手、過去に利用した税制特例などによって適用条件が変わります。

「老人ホームへ入ったから必ず3,000万円控除を使える」と判断せず、売却前に税務署や税理士へ本人の条件を確認してください。

売却代金で老人ホーム費用を何年払えるか計算する

自宅を売る目的が老人ホーム費用の確保なら、売却後の資金計画まで作る必要があります。

売却価格ではなく手取り額で計算する

売却代金から、ローン残債、仲介手数料、登記関係費用、税金などを差し引いた後に残る金額を確認します。

不動産会社の査定額をそのまま施設費として使える資金だと考えないことが重要です。

毎月の不足額で割って考える

年金などの収入で施設費をすべて賄えない場合は、毎月いくら不足するかを計算します。

売却後の手取り額をその不足額で補った場合、何年間資金を維持できるのかを確認すると、売却の効果を具体的に判断できます。

売却後の資金計画で確認する項目

  • 自宅の想定売却価格
  • 住宅ローンなどの残債
  • 売却にかかる諸費用
  • 税金の見込み
  • 売却後の手取り額
  • 本人の年金・その他の収入
  • 老人ホームの毎月の総費用
  • 医療費・日用品など施設外の支出
  • 毎月の不足額
  • 売却資金で補える年数

自宅を売る前に「貸す」「残す」との違いも考える

本人が自宅へ戻る可能性や家族の意向によっては、すぐに売却せず、一定期間残す方法もあります。

残す場合は維持費と管理者を決める

誰が換気、郵便物、庭、修繕などを管理するのかを決めます。

本人が施設費を支払いながら自宅の維持費も負担できるか、家計全体で確認してください。

貸す場合は簡単に戻れないことも考える

賃貸すれば家賃収入を得られる可能性がありますが、入居者との契約があるため、本人が戻りたいときにすぐ自宅へ戻れるとは限りません。

修繕、管理委託、税務なども関係するため、売却より必ず有利とは限りません。

家族だけで売却代金の使い方を決めない

自宅を売却したお金は、所有者である本人の財産です。

本人の生活費として管理する

老人ホーム費用、医療費、衣類、日用品など、本人の生活のために利用します。

家族が管理を手伝う場合も、本人のお金と家族のお金を区別し、入出金を記録しておくことが大切です。

兄弟姉妹で情報を共有する

売却額、諸費用、施設への支払い、預貯金残高などを家族で共有できる形にしておくと、後の認識違いを減らせます。

高額な財産を扱うため、一人だけで管理を抱え込まない仕組みを考えてください。

売却前に確認したい質問

自宅売却を決める前の確認項目

  • 本人が自宅へ戻る可能性は本当に低いか
  • 本人は自宅売却を理解し希望しているか
  • 自宅の名義は誰になっているか
  • 共有者はいるか
  • 住宅ローンや担保は残っているか
  • 判断能力に不安がある場合、どの手続きが必要か
  • 想定売却価格はいくらか
  • 売却後の手取り額はいくらか
  • 譲渡所得の税制特例を利用できるか
  • 売却代金で施設費を何年間補えるか
  • 自宅を残す・貸す場合と比較したか
  • 売却代金を誰がどのように管理するか

売却を急ぐ前に相談したい相手

自宅売却には、介護だけでなく不動産、税金、法律の問題が関係します。

介護・生活面はケアマネジャーや施設へ相談する

本人が自宅へ戻れる可能性や、今後必要になる介護について確認します。

施設費がどの程度増える可能性があるかも確認し、売却後の資金計画に反映してください。

売却価格は複数の不動産会社などで確認する

一社の査定だけで決めず、売却条件や手数料、売却までの見込み期間を比較します。

「早く現金化したい」という事情だけで大幅に条件を下げる前に、本人にとって妥当な売却かを考えることが重要です。

税金・法律上の問題は専門窓口へ確認する

譲渡所得の税制については税務署や税理士、成年後見や本人の財産処分に関する法律上の判断については司法書士・弁護士などへ相談する方法があります。

特に本人の判断能力に不安がある場合は、売買契約を進める前に必要な手続きを確認してください。

まとめ|自宅は「施設費を作る資産」である前に本人の大切な財産

老人ホーム入居をきっかけに自宅を売却すれば、施設費の原資を確保し、空き家の管理負担を減らせる可能性があります。

一方、一度売却すると本人が自宅へ戻る選択肢は失われます。また、本人の意思や判断能力、名義、共有者、税金、売却代金の管理なども確認しなければなりません。

売却を検討するときは、査定額だけでなく、諸費用や税金を差し引いた手取り額を計算し、その資金で老人ホーム費用を何年間支えられるかまで確認してください。

「施設費が必要だから売る」と急ぐのではなく、「本人は今後自宅へ戻らないのか」「本人のために売却することが適切か」を確認したうえで決めることが最も重要です。

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