老健(介護老人保健施設)へ入所した当初は自宅復帰を予定していても、本人の身体状態、認知症の状態、家族の介護力、自宅環境などによって、退所時点で「このまま自宅へ戻るのは難しい」と判断することがあります。
その場合に大切なのは、あわてて次の施設を決めることではありません。まずなぜ自宅へ戻れないのかを整理し、その理由に合う生活場所を選ぶ必要があります。必要な介護量が多いのか、継続的な医療が必要なのか、認知症への支援が中心なのか、住まいを変えれば生活できるのかによって、候補は変わります。
まず結論|自宅へ戻れない理由を整理してから次の行き先を決める
老健から自宅へ戻れない場合は、特養、有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、グループホーム、介護医療院などが候補になることがあります。ただし、どこでも入所できるわけではありません。本人の要介護度、認知症、医療の必要性、費用、待機期間、家族がどこまで支援できるかを整理し、老健の支援相談員などと早めに退所先を検討することが重要です。
老健から自宅へ戻れないと分かったら最初に整理すること
「自宅復帰が難しい」という結論だけでは、次にどの施設を探せばよいか決まりません。最初に、自宅生活を難しくしている原因を具体的に分けて考えます。
本人の身体状態が自宅生活に合わない
入所中にリハビリを続けても、移乗、排せつ、入浴、歩行などに多くの介助が必要なままということがあります。
家族だけでは必要な介助量を支えられない場合
本人が自宅で生活するために一日を通して頻繁な介助が必要で、同居家族だけでは対応が難しい場合は、長期的に介護を受けながら生活できる施設を検討する必要があります。
「歩けるかどうか」だけではなく、ベッドから車いすへの移乗、トイレ、食事、服薬、夜間の介助などを一つずつ確認し、実際に自宅で誰が対応するのかまで整理してください。
住宅環境が大きな障壁になっている場合
本人の能力だけでなく、自宅の段差、階段、浴室やトイレの構造、寝室の位置などが復帰を難しくしていることもあります。
住宅改修や福祉用具、在宅サービスを組み合わせれば自宅生活が可能なのか、それでも難しいのかを分けて考えることが大切です。住環境の調整で解決できる問題であれば、施設入居だけが選択肢とは限りません。
医療や健康管理の必要性が高い
退所後も医療的な管理が継続して必要な場合は、「介護を受けられる施設」という条件だけで選ばないことが重要です。
必要な医療を次の生活場所で継続できるか確認する
医療処置の内容、頻度、実施する時間帯、夜間の対応、受診方法などを整理し、候補施設が実際に対応できるか確認します。
看護職員がいる施設でも、24時間施設内に看護師がいるとは限りません。本人に必要な医療内容を具体的に伝えたうえで、受入可否を確認してください。
認知症の状態や見守りが自宅生活を難しくしている
身体的にはある程度動けても、認知症により一人での生活が難しい、昼夜を通じて見守りが必要、家族だけで安全を確保することが難しい場合があります。
「認知症がある」だけで行き先を決めない
必要なのは、認知症の診断名だけではなく、本人がどのような場面で支援を必要としているかを整理することです。食事、排せつ、服薬、外出、夜間の様子、他者との共同生活が可能かなどによって、向いている生活環境は変わります。
POINT
「自宅に戻れない」ではなく、「何があれば自宅で暮らせるのか」「何を整えても難しいのか」まで分けて考えると、次の行き先を絞りやすくなります。
長期的に介護が必要なら特養を検討する
常時介護が必要で、自宅での生活を続けることが難しい場合には、特別養護老人ホーム(特養)が候補になります。
特養は原則として要介護3以上が新規入所の対象
特養の新規入所は、原則として要介護3以上の人が対象です。要介護1・2の人は原則対象外ですが、居宅で日常生活を送ることが困難なやむを得ない事情がある場合には、特例入所の対象となる可能性があります。
要介護3以上でもすぐ入所できるとは限らない
要介護度の条件を満たしていても、申込みをすれば直ちに入所できるとは限りません。実際の入所は、本人の状況や介護の必要性などを踏まえて施設側で検討されます。
老健を退所する時期が見えている場合は、「退所日が決まってから探す」のではなく、特養を候補にする段階で申込み方法、現在の待機状況、入所判定の流れを施設へ確認してください。
要介護1・2なら特例入所に該当するかを確認する
要介護1・2で自宅生活が難しい場合は、本人の事情だけで判断せず、老健の支援相談員や市区町村、申込先の特養に特例入所の対象となる可能性があるか確認します。
注意:「自宅へ戻れない=特養に入れる」ではありません。要介護度だけでなく、入所要件と実際の入所判定、空き状況を確認する必要があります。
長く暮らせる住まいを探すなら有料老人ホーム・サ高住を検討する
施設で継続的に生活することを希望し、本人の状態と費用条件が合う場合は、有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)も候補になります。
介護付き有料老人ホームは施設から介護を受ける仕組み
特定施設入居者生活介護の指定を受けた介護付き有料老人ホームでは、施設が作成する計画に基づき、入浴、排せつ、食事などの介護や日常生活上の支援を受けます。
介護量が多い場合は人員・夜間体制まで確認する
「介護付き」という名称だけで本人に必要な介護や医療へすべて対応できるとは限りません。夜間の職員体制、看護職員の勤務時間、認知症への対応、医療機関との連携、看取り方針などを本人の状態に合わせて確認してください。
住宅型有料老人ホームは外部の介護サービスを組み合わせる
住宅型有料老人ホームでは、必要に応じて入居者自身が訪問介護などの外部サービスと契約して介護保険サービスを利用するのが基本です。
必要な介護量とサービスの組み合わせを確認する
現在必要な介護を外部サービスでどこまで組めるか、夜間や緊急時はどう対応するかを確認します。また、家賃や管理費だけでなく、利用する介護サービスやその他の実費も含めて毎月の負担を確認してください。
サ高住は「介護施設」ではなく高齢者向け住宅が基本
サービス付き高齢者向け住宅は、高齢者向けの住宅として一定の設備基準を満たし、少なくとも安否確認と生活相談サービスを提供する仕組みです。
介護サービスの提供方法は住宅ごとに確認する
サ高住だから施設職員から24時間の介護を受けられるとは限りません。外部の訪問介護などを利用する住宅もあれば、特定施設入居者生活介護の指定を受けている住宅もあります。
老健退所時の介護量が多い場合は、現在必要な介助をどのサービスで補うのかを具体的に確認してから入居を決めましょう。
認知症があり共同生活が可能ならグループホームも候補
認知症があり、少人数での共同生活が本人に合う場合は、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)が候補になることがあります。
グループホームは認知症の人を対象とする地域密着型サービス
グループホームでは、認知症の利用者が少人数の共同生活住居で暮らしながら、食事、入浴などの日常生活上の支援や機能訓練を受けます。
原則として施設がある市区町村の住民が対象
グループホームは地域密着型サービスのため、原則として、その事業所が所在する市区町村の住民が利用します。老健がある地域ではなく、本人の住民票や利用条件を基準に確認してください。
認知症があれば誰でも入れるわけではない
共同生活に適しているか、必要な医療や介護へ対応できるかなども施設ごとに確認されます。本人の認知症の状態だけでなく、身体介護量や医療の必要性も伝え、受入可能か確認する必要があります。
長期的な医療と介護が必要なら介護医療院を検討する
長期にわたり医療と介護の両方が必要な場合には、介護医療院が候補になることがあります。
介護医療院は長期療養のための医療と介護を一体的に提供する
厚生労働省は、介護医療院を、長期的な医療と介護のニーズを併せ持つ要介護高齢者を対象に、日常的な医学管理などの医療機能と生活施設としての機能を兼ね備えた施設と位置づけています。
医療が必要という理由だけで対象になるわけではない
老健で医療を受けているから、そのまま介護医療院へ移れるという意味ではありません。長期療養の必要性や本人の状態を踏まえて、候補となる介護医療院へ受入条件を確認します。
必要な医療処置、日常的な医学管理の内容、本人の要介護度などを老健側と整理したうえで相談すると、受入可否を確認しやすくなります。
次の施設が決まらないときは「空き」だけで選ばない
老健の退所時期が近づくと、「空いているところへ早く申し込まなければ」と焦りやすくなります。しかし、空室があることと、本人に合うことは別です。
候補施設ごとに受入条件を確認する
本人の要介護度、認知症の状態、必要な介助、医療処置、食事形態などを整理し、候補施設へ具体的に伝えます。
| 確認すること | 見るポイント |
|---|---|
| 介護 | 現在必要な介助を継続できるか |
| 医療 | 必要な処置・受診・夜間対応が可能か |
| 認知症 | 本人の状態に合う支援体制があるか |
| 費用 | 入居時費用と月々の総額を払えるか |
| 入居時期 | 老健退所予定日までに入れるか |
入居待ちなら退所までのつなぎ方も相談する
第一希望の施設に空きがない場合は、別の候補を探すだけでなく、退所時期と次の入居時期の間をどうつなぐかを相談します。
老健にそのまま長期間いられる前提にしない
老健は在宅復帰・在宅療養支援を担う施設であり、長期居住そのものを目的とする施設ではありません。一方で、「3か月たったら必ず退所」という全国一律の決まりがあるわけでもありません。
退所時期は本人の状態や施設の支援方針などを踏まえて検討されるため、「次が決まるまで必ず老健にいられる」とも、「3か月で必ず出なければならない」とも決めつけず、現在の老健に具体的な見通しを確認してください。
老健の支援相談員と早めに退所先を検討する
自宅復帰が難しくなった場合、家族だけで次の施設を探す必要はありません。老健では退所後の生活へつなぐ支援も重要な役割です。
「自宅復帰できない理由」を共有する
家族が感じている不安と、施設側が見ている本人の状態が一致しているとは限りません。
「家では無理です」とだけ伝えるのではなく、夜間介護ができない、階段を使えない、家族が就労している、医療対応に不安があるなど、何が難しいのかを具体的に支援相談員へ伝えてください。
退所予定日から逆算して動く
施設によっては申込みから入所まで時間がかかります。自宅復帰が難しい可能性が見えてきた段階で、次の生活場所の条件整理を始めることが重要です。
確認する順番を決める
介護量、医療、認知症、住宅環境、家族の介護力などを分けて確認します。
24時間の介護が必要か、医療対応が必要か、認知症への支援が必要かなどを整理します。
要介護度、医療対応、地域要件、費用、空き状況を確認します。
次の施設がすぐ決まらない場合の対応を支援相談員と相談します。
介護、医療、服薬、食事、リハビリなど、継続が必要な支援を整理します。
家族が退所前に確認しておきたい質問
退所先の候補が見えてきたら、老健と次の施設の両方へ確認します。
老健へ確認すること
- 自宅復帰が難しい主な理由は何か
- 現在どの動作にどの程度の介助が必要か
- 今後も継続する必要がある医療・服薬は何か
- 認知症についてどのような支援が必要か
- 退所時期はどのように検討されているか
- 候補となる退所先について相談できるか
- 次の施設へどのような情報を引き継いでもらえるか
次の施設へ確認すること
- 本人の要介護度・状態で入所対象になるか
- 現在必要な介護を施設で継続できるか
- 必要な医療へ対応できるか
- 認知症の状態に対応できるか
- 入居できる時期はいつか
- 毎月必要な費用の総額はいくらか
- 状態が重くなったときの退去条件はどうなっているか
まとめ|「自宅へ戻れない理由」から次の生活場所を選ぶ
老健から自宅へ戻れない場合でも、次の選択肢は一つではありません。長期的な介護が必要なら特養、介護を受けながら暮らす住まいなら有料老人ホーム、住宅としての生活を重視するならサ高住、認知症に合わせた共同生活ならグループホーム、長期的な医療と介護が必要なら介護医療院などが候補になります。
ただし、施設名だけで行き先を決めるのではなく、本人が自宅へ戻れない原因と、次の生活で必要な支援を先に整理することが重要です。
退所先を決める3つのポイント
- 自宅生活を難しくしている原因を具体的にする
- 介護・医療・認知症・費用・入居時期の条件を整理する
- 老健の支援相談員と退所日から逆算して候補施設を確認する
自宅復帰が難しい可能性が出てきた段階で相談を始めれば、選択肢を比較する時間を確保しやすくなります。本人に必要な支援を整理し、「空いている場所」ではなく「退所後の生活を続けられる場所」を選びましょう。