介護老人保健施設(老健)から自宅へ戻ることが決まると、「家で本当に介護できるのか」「何を準備すればよいのか」と不安になることがあります。
在宅復帰の準備では、退所日だけを決めるのではなく、本人が自宅でどのように生活するかを具体的に想定し、必要な介助・医療・住環境・福祉用具・介護サービスを退所前に整えることが重要です。
まず結論|退所前に「家での1日」を具体化する
老健から自宅へ戻る前には、移動・排泄・入浴・食事・服薬・夜間対応などを一つずつ確認し、「誰が」「いつ」「どのように」支えるかを決めます。必要に応じて老健職員による自宅訪問、ケアマネジャーとのサービス調整、福祉用具や住宅改修、主治医・訪問看護等への情報共有も進めます。退所後に困ってから準備するのではなく、老健にいる間に生活上の課題を洗い出すことが大切です。
老健から自宅復帰するときは何から準備する?
最初に行いたいのは、「自宅へ帰れるか」を漠然と考えるのではなく、退所後の生活を具体的な場面に分けることです。
老健では、本人の心身状態や病状、生活環境を踏まえて居宅生活が可能かを検討し、退所時には本人・家族への指導や、居宅介護支援事業者、退所後の主治医などとの連携に努めることが運営基準で定められています。
家族側も、施設職員から「自宅復帰できます」と言われた段階で終わりにせず、実際の生活で困りそうな場面を確認しておく必要があります。
本人が一人でできることと介助が必要なことを分ける
まず、現在の本人の状態を日常生活の動作ごとに整理します。
- ベッドから起き上がれるか
- 立ち上がりや移乗に介助が必要か
- 室内を歩けるか、車いすを使うか
- トイレへ行けるか
- 衣服の着脱ができるか
- 食事を一人で食べられるか
- 入浴にどの程度の介助が必要か
- 服薬を自分で管理できるか
- 夜間に見守りや介助が必要か
「できる・できない」だけではなく、見守りだけでよいのか、一部介助なのか、常に介助が必要なのかまで確認します。
老健でできていることが自宅でもできるとは限らない
老健では、手すり、広い廊下、段差の少ない床、介護ベッドなど、介護しやすい環境が整っています。
そのため施設内では歩けていても、自宅では廊下が狭い、玄関に段差がある、寝室からトイレまで遠いなどの理由で同じ動作が難しくなることがあります。
退所準備では、本人の能力だけでなく、その能力を自宅環境で発揮できるかまで確認することが重要です。
退所前に自宅の生活動線を確認する
自宅復帰を安全に進めるには、本人が実際に使う場所を中心に住環境を確認します。
家全体を大がかりに改修する必要があるとは限りません。まずは、本人が毎日使う動線に危険がないかを確認します。
寝室からトイレまでの動線
夜間も含めて使用頻度が高いため、寝室とトイレの間は特に重要です。
確認するポイント
- ベッドから安全に立ち上がれるか
- 手すりが必要な場所はないか
- 途中に段差や敷物がないか
- 歩行器や車いすが通れる幅があるか
- 夜間の照明を確保できるか
- トイレ内で方向転換や立ち座りができるか
夜間は眠気や暗さによって転倒リスクが高くなることがあります。昼間に移動できるから大丈夫と判断せず、夜間を想定して確認します。
玄関・廊下・階段を確認する
通院やデイサービスなどで外出する場合は、玄関まで安全に移動できる必要があります。
段差の高さ、手すりの位置、靴を履く場所、車いすで出入りできるかなどを確認します。
居室が2階にある場合は、階段を日常的に使えるのか、1階へ生活場所を移したほうがよいのかも検討します。
入浴は「自宅で行うか」から考える
浴室は滑りやすく、またぎ動作や立ち座りが必要になるため、介助負担が大きくなりやすい場所です。
自宅浴室を使う場合は、手すり、浴槽の高さ、浴室用いすなどを確認します。一方、自宅での入浴が難しい場合は、通所サービス等で入浴する方法を含めて検討します。
POINT
家族だけで判断せず、自宅を見てもらう方法もある
本人の動作と自宅環境が合っているか判断しにくい場合は、老健側に退所前の自宅訪問や住環境の確認が可能か相談してください。施設によって対応方法は異なるため、誰が訪問するのか、何を確認してもらえるのかを具体的に聞きます。
家族が行う介助を退所前に練習する
自宅復帰後に家族が介助を担う場合は、説明を聞くだけでなく、可能であれば退所前に実際の介助方法を確認・練習しておくことが大切です。
移乗・立ち上がりの介助
ベッドから車いす、車いすからトイレなどへの移乗は、介助する側にも身体的な負担がかかります。
力任せに持ち上げると、本人の転倒だけでなく家族の腰痛にもつながります。本人が使える力を生かしながら介助する方法や、必要な福祉用具について、リハビリ職や介護職員へ確認します。
排泄介助
排泄介助では、トイレへの移動だけでなく、衣服の上げ下げ、便座への移乗、後始末まで含めて考える必要があります。
夜間に何回程度トイレへ行くのか、家族が毎回対応できるのかも確認します。
食事・飲み込みの注意点
食事形態や水分のとろみなどに指示がある場合は、自宅でも同じ対応ができるよう準備します。
食事の姿勢、一口量、むせたときの対応など、本人固有の注意点がある場合は退所前に確認してください。
家族一人でできない介助を把握する
退所準備で重要なのは、家族が無理にすべての介助を引き受けることではありません。
「この介助は一人では難しい」「毎日は続けられない」という部分を把握し、その部分を介護サービスや福祉用具で補うことを考えます。
「退所できる」と「家族だけで介護できる」は別です
本人が自宅で生活できる状態でも、必要な介助をすべて家族だけで担えるとは限りません。退所前に家族の仕事、体力、夜間対応の可否なども伝え、現実的な支援体制を組むことが重要です。
福祉用具・住宅改修を退所前に整える
自宅で必要な福祉用具は、本人の身体状態と住環境に合わせて選びます。
必要になりやすい福祉用具を確認する
状態によって、介護ベッド、手すり、歩行器、車いす、床ずれ防止用具などが必要になることがあります。
ただし、同じ要介護度でも必要な用具は異なります。本人の動作を確認せずに家族だけで購入すると、サイズや高さが合わないことがあります。
退所前にケアマネジャーや福祉用具専門相談員等と相談し、レンタル・購入の対象や設置時期を確認してください。
住宅改修は完成時期も確認する
手すりの設置や段差解消など住宅改修を行う場合は、退所日に間に合うかを確認します。
介護保険を利用する住宅改修では、事前申請が必要になるものがあります。工事を先に進めず、ケアマネジャーや市区町村へ手続きの流れを確認してください。
退所日の前に設置できるか確認する
介護ベッドなどが退所後に届くと、帰宅当日の寝場所や移乗で困ることがあります。
何をいつ搬入・設置するのか、本人が帰宅する前に使用できる状態になるのかまで確認しておくと安心です。
退所後の医療と服薬を引き継ぐ
老健から自宅へ戻ると、施設内で行われていた健康管理や服薬管理を、在宅の医療・介護体制へ引き継ぐ必要があります。
退所後の主治医を確認する
まず、退所後は誰が主治医になるのかを確認します。
以前から通院している医療機関へ戻るのか、新たに在宅医療を利用するのかによって準備が異なります。
老健の運営基準では、退所時に退所後の主治医への情報提供など、保健医療・福祉サービス提供者との連携に努めることとされています。
薬の内容と管理方法を確認する
退所時には、現在使用している薬について次の点を確認します。
- 薬の名前と目的
- 服用する時間
- 退所時に何日分処方されるか
- 次の受診日はいつか
- 本人が自分で管理できるか
- 家族の確認が必要か
入所前と薬の種類や量が変わっている場合もあるため、「以前の薬に戻せばよい」と自己判断しないことが重要です。
医療処置がある場合は誰が行うか決める
創傷処置、経管栄養、吸引、インスリンなど、退所後も医療的な対応が必要な場合は、誰がどの時間帯に対応するのかを退所前に確認します。
家族が行う必要がある処置については、医師や看護職員から具体的な方法と注意点を確認します。訪問看護等を利用する場合も、訪問できる頻度・時間帯と、訪問時間外の連絡先まで確認してください。
ケアマネジャーと退所後の支援体制を決める
介護保険の居宅サービスを利用する場合は、退所前にケアマネジャーと調整を進めます。
老健の運営基準でも、退所時には居宅サービス計画の作成等に役立つよう、居宅介護支援事業者への情報提供に努めることとされています。
退所当日から必要な支援を確認する
サービスは「いずれ利用する」のではなく、いつから必要なのかを確認します。
特に一人暮らしや、家族が日中不在になる場合は、退所直後から支援が必要になることがあります。
退所後に利用できる介護サービスの種類そのものは別の記事で確認するとして、ここでは退所日までに利用開始日・頻度・役割を決めておくことが重要です。
家族が不在になる時間帯を伝える
ケアプランを考えるときは、本人の状態だけでなく、家族が支援できる時間も重要です。
- 日中は家族が仕事で不在
- 夜間は一人になる
- 毎日の食事準備が難しい
- 通院の付き添いが難しい
- 入浴介助は家族ではできない
このような事情を具体的に伝えると、不足している支援を検討しやすくなります。
退所直後に困りやすいことを事前に決めておく
退所準備では、通常どおり生活できる場合だけでなく、「予定どおりにいかなかった場合」も想定します。
転倒したとき
転倒したとき、どのような症状なら医療機関へ相談するのか、夜間は誰へ連絡するのかを確認します。
食事や水分が取れなくなったとき
食欲低下やむせが増えた場合に、主治医、訪問看護、ケアマネジャーなど、誰へ相談するかを決めておきます。
家族が介護を続けられなくなったとき
家族の体調不良や仕事の都合などで、予定していた介護ができなくなることもあります。
その場合の相談先をあらかじめ把握しておくと、問題が大きくなる前に支援内容を見直しやすくなります。
退所前の最終チェック
- 本人が自宅でできること・介助が必要なことを把握した
- 寝室・トイレ・玄関などの生活動線を確認した
- 家族が必要な介助方法を確認・練習した
- 必要な福祉用具を退所日までに用意できる
- 必要な住宅改修の手続きを確認した
- 退所後の主治医と次回受診日を確認した
- 薬の内容・残日数・管理方法を確認した
- 医療処置が必要な場合の担当者と時間帯を決めた
- ケアマネジャーと退所後の支援体制を調整した
- 退所当日から必要なサービスの開始日を確認した
- 夜間や急変時の連絡先を確認した
- 困ったときに相談する相手を家族も把握した
退所前の説明では具体的に質問する
退所前には、施設側から本人の状態や今後の生活について説明を受ける機会があります。
「何か注意することはありますか」と広く尋ねるだけではなく、生活場面ごとに質問すると必要な情報を得やすくなります。
本人の状態について聞く
- 一人で安全にできる動作は何ですか
- 必ず見守りが必要な動作は何ですか
- 家族が介助すべき動作は何ですか
- 転倒しやすい場面はありますか
- 自宅で続けたほうがよい運動はありますか
生活上の注意点を聞く
- 食事形態や水分量に注意はありますか
- 排泄で注意することはありますか
- 入浴は自宅で可能ですか
- 夜間はどの程度の見守りが必要ですか
医療について聞く
- 退所後の主治医へどの情報が引き継がれますか
- 次回受診はいつですか
- 薬は何日分ありますか
- どのような症状が出たら受診すべきですか
- 夜間・休日の相談先はどこですか
質問への回答は家族だけで抱え込まず、必要に応じてケアマネジャーや退所後に関わる事業所とも共有します。
CONCLUSION
最後に、本文で確認した内容を本人の状況に置き換え、施設・担当者へ具体的に確認して判断しましょう。
まとめ|自宅復帰は退所日ではなく「自宅で生活を続けられるか」で準備する
老健から自宅へ戻るときは、退所日を決めて荷物を準備するだけでは十分ではありません。
本人が自宅でどのような1日を過ごすのかを想定し、移動、排泄、入浴、食事、服薬、夜間対応などについて、誰がどこまで支援するのかを具体的に決めることが大切です。
特に確認したいのは、本人の現在の能力、自宅の生活動線、家族が実際にできる介助、福祉用具・住宅改修、退所後の医療、ケアマネジャーとのサービス調整です。
老健の運営基準では、退所時に本人・家族へ適切な指導を行い、居宅介護支援事業者や退所後の主治医などとの連携に努めることとされています。退所準備で不明な点があれば、老健の支援相談員、介護支援専門員、リハビリ職、看護職員などに具体的に確認してください。
そして、「家族だけで全部できるか」ではなく、必要な支援を組み合わせれば自宅で安全に生活を続けられるかという視点で準備を進めることが、自宅復帰後の負担や不安を減らすことにつながります。