認知症のある人が「家に帰りたい」と繰り返すと、家族は「施設で暮らすのは難しいのではないか」と不安になることがあります。しかし、帰宅願望があることだけで施設生活が難しいと決まるわけではありません。
大切なのは、帰宅願望を単なる問題行動として抑えるのではなく、なぜ帰りたいのか、どのような場面で強くなるのかを理解し、その人に合った関わりができる施設を選ぶことです。
帰宅願望があっても老人ホームへ入居できる?
帰宅願望があるからという理由だけで、老人ホームへ入居できないとは限りません。実際には、帰宅願望の強さ、外へ出ようとする頻度、移動能力、認知症の状態、夜間の様子、他の医療・介護ニーズなどを含めて、施設ごとに受け入れ可否が判断されます。
帰宅願望の強さだけで判断しない
「家に帰りたい」と口にしても、実際に玄関から出ようとする人もいれば、声かけや役割づくりで落ち着く人もいます。入居相談では、言葉だけでなく、いつ・どこで・どの程度の行動があるかまで伝えることが大切です。
施設ごとに見守り体制は異なる
認知症ケアの経験が豊富な施設でも、建物の構造、職員配置、夜間体制、外出支援の考え方は異なります。同じ「認知症対応可」という表示でも、帰宅願望への対応力まで同じとは限りません。
帰宅願望の背景を理解する施設か確認する
認知症の行動・心理症状は、本人を取り巻く環境や不安、身体状態、生活歴などの影響を受けることがあります。そのため、帰宅願望が出たときに「止める」だけではなく、背景要因を探る姿勢が重要です。
「帰りたい」の意味は人によって違う
以前住んでいた家へ帰りたい場合もあれば、「家事をしなければ」「仕事へ行かなければ」「家族の世話をしなければ」といった過去の生活習慣や役割が影響している場合もあります。夕方に不安が強まりやすい人もいます。
体調や環境変化が影響していないかを見る
便秘、痛み、眠気、空腹、疲れ、騒音、慣れない人間関係などが落ち着かなさにつながることもあります。急に帰宅願望が強まった場合は、認知症だけに原因を求めず、体調変化も含めて確認できる施設が望ましいでしょう。
施設見学で確認したい認知症ケア
「帰りたい」と訴えたとき、どのような声かけや対応をしているか確認します。
これまでの仕事、家族関係、日課、好きなことなどをケアに取り入れているか確認します。
ただ居室で過ごすのではなく、本人が役割や楽しみを持てる環境かを見ます。
玄関付近や外出時の見守り、所在確認、職員間の情報共有方法を確認します。
帰宅願望の変化や対応内容を家族へどのように共有するか確認します。
職員が本人の言葉を否定していないか
見学時には、認知症のある入居者に対する職員の声かけも確認しましょう。本人の訴えをすぐに否定したり、強く制止したりするのではなく、気持ちを受け止めながら別の行動へつなげているかが参考になります。
本人が落ち着ける場所があるか
人が多い場所が苦手な人もいれば、職員の近くにいると安心する人もいます。共用部の雰囲気、居室との距離、日中に過ごせる場所など、本人が不安になったときに落ち着ける環境かも見ておきましょう。
外へ出ようとする人は見守り体制を詳しく確認する
帰宅願望が強く、実際に施設外へ出ようとすることがある場合は、安全面の確認が重要になります。ただし、安全確保と本人の尊厳の両方を考える必要があります。
「鍵をかけて出られなくする」だけでは不十分
事故防止のため建物の出入口管理が必要な場合はありますが、本人の行動を一律に制限することだけを対応策とする施設では、本人の不安が強まることもあります。外出や散歩を職員付きで行えるか、館内で歩ける場所があるかなども確認しましょう。
夜間の帰宅願望にも対応できるか
夕方から夜間にかけて落ち着かなくなる人もいます。夜勤職員の人数、夜間の見守り方法、玄関付近へ向かった場合の対応、転倒リスクへの配慮などを具体的に聞いておくと安心です。
過去に自宅やデイサービスから一人で出てしまったことがある場合は、施設へ必ず伝えましょう。行動歴を事前に共有することで、施設側が必要な見守り体制を検討しやすくなります。
グループホームと有料老人ホームはどう選ぶ?
認知症がある人の施設選びでは、グループホーム、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、特別養護老人ホームなどが候補になります。ただし、施設種別だけで帰宅願望への対応力を判断することはできません。
グループホーム
グループホームは認知症対応型共同生活介護で、少人数の共同生活を基本とします。原則として施設が所在する市区町村の住民が対象で、要支援2または要介護1〜5で認知症がある人が利用対象です。生活の中で役割を持ちやすい環境が本人に合うことがあります。
介護付き有料老人ホーム
介護職員による日常的な介護を受けられる一方、認知症ケアの方針や人員体制は施設ごとに異なります。帰宅願望や離設リスクのある人をどの程度受け入れてきたか、実際の対応例まで確認しましょう。
住宅型有料老人ホーム
生活支援を受けながら、必要に応じて外部の介護サービスを利用する形が基本です。認知症が進行したときの支援体制や、夜間の見守り、外出管理の考え方は施設ごとの差が大きいため、具体的な確認が必要です。
特別養護老人ホーム
新規入所は原則として要介護3以上ですが、要介護1・2でもやむを得ない事情がある場合は特例入所の対象となることがあります。帰宅願望への対応は施設ごとの認知症ケア体制や職員配置によって異なります。
入居前に施設へ伝えておきたい情報
施設側が適切な支援方法を考えるには、本人の生活歴や行動パターンの情報が重要です。
帰宅願望が出やすい時間帯、外へ出ようとした経験、本人が帰ろうとしている場所、過去の仕事や役割、落ち着きやすい声かけ、好きな活動、苦手な環境、睡眠状況、服薬内容、家族との関係を整理して伝えましょう。
本人を施設見学へ連れて行く
可能であれば、契約前に本人にも施設を見てもらいましょう。本人の表情や反応を見ながら、職員との相性、共用部の雰囲気、食事や活動への興味などを確認できます。
家族だけで「説得」し続けない
本人が施設入居に強い不安を示している場合、家族だけで結論を押し付けようとすると対立が深まりやすくなります。ケアマネジャー、主治医、地域包括支援センターなど第三者にも相談し、本人が理解しやすい説明方法や導入方法を検討しましょう。
帰宅願望が強い人の施設選びで確認したいこと
帰宅願望が強い人の老人ホーム選びでは、建物の安全性だけでなく、本人の気持ちを理解しようとするケアが行われているかが重要です。
見学では、帰宅願望が出た際の声かけ、見守り、外出支援、夜間対応、家族への連絡方法を具体的に聞きましょう。また、職員が本人の生活歴や役割を知り、それを日常生活に生かそうとしているかも確認してください。
「帰りたい」という言葉そのものをなくすことだけを目標にするのではなく、本人が安心して過ごせる時間を増やせる施設を選ぶことが大切です。