認知症があり、施設の外へ出ようとする、同じ場所を何度も歩く、自宅へ帰ろうとするなどの行動があると、「外に出られない施設の方が安全では?」「徘徊対応の施設なら大丈夫?」と考えることがあります。
しかし、外へ出ようとする行動には、本人なりの理由があることがあります。「家に帰りたい」「仕事へ行かなければならない」「家族を迎えに行く」「トイレを探している」「落ち着かないので歩きたい」など、目的や不安を理解せずに行動だけを止めようとすると、かえって不安や興奮が強くなることがあります。
そのため施設選びでは、単に出入口の鍵やセンサーを見るのではなく、外出しようとする理由を探り、本人の尊厳を保ちながら安全を確保できるケア体制があるかを確認することが重要です。
まず結論|「出られない施設」より「理由を理解して安全を守れる施設」を選ぶ
認知症で徘徊・外出リスクが高い人の施設選びでは、①本人が外へ出ようとする時間・理由の把握、②日中・夜間の見守り体制、③出入口センサー等の安全対策、④外出・散歩の機会、⑤身体拘束に頼らないケア、⑥行方不明時の初動、⑦家族への連絡方法を確認します。「認知症対応可」だけで判断せず、実際に外出傾向がある人をどのように支援しているか具体的に聞いてください。
認知症の「徘徊」はなぜ起こる?
「徘徊」という言葉は、本人に目的がなく歩き回っているように見えますが、実際には本人なりの理由や目的が隠れていることがあります。
家に帰ろうとしている
現在いる場所を自宅と認識できず、「家族が待っている」「家へ帰らなければ」と考えて外へ出ようとすることがあります。
以前の生活習慣が残っている
長年働いていた人が朝になると「会社へ行く」、夕方になると「子どもを迎えに行く」と考えることがあります。
トイレ・食堂などを探している
目的地が分からず、施設内を歩き回っているように見えることがあります。
不安・退屈・身体的不快感がある
落ち着かない、することがない、便秘や痛みがあるなど、本人が言葉で説明できない不快感が歩行として表れる場合があります。
POINT
外へ出ようとする行動を止める前に、「何時ごろ」「どこへ行こうとしているか」「その前に何があったか」を確認する施設ほど、本人に合った対応を考えやすくなります。
まず家族が整理したい外出リスク
候補施設へ相談するときは、「徘徊があります」だけでは十分ではありません。
施設へ伝えたい内容
- 外へ出ようとする頻度
- 起こりやすい時間帯
- 「家に帰る」「仕事へ行く」など本人の発言
- これまで実際に外へ出たことがあるか
- 一人でどの程度歩けるか
- 道路へ出る危険があるか
- 夜間にも歩き回るか
- 外出時に白杖・杖・歩行器などを使うか
- 転倒歴
- 本人が落ち着きやすい声かけ・活動
- 警察へ行方不明届を出した経験があるか
「認知症対応可」だけで施設を決めない
多くの老人ホームが認知症のある人を受け入れていますが、外出リスクへの対応力は施設ごとに異なります。
外出傾向がある人の受入経験を聞く
認知症の受入実績だけでなく、「玄関から出ようとする人」「夜間に歩き続ける人」への対応経験を具体的に聞きます。
職員配置を確認する
日中だけでなく、夕方・夜間に何人の職員がいるか確認します。
本人の行動を一律に制止しないかを見る
歩くことそのものを問題行動と捉えず、安全な範囲で本人の行動を支える姿勢があるか確認します。
外へ出ようとする「時間帯」を確認する
外出リスクは一日中同じとは限りません。
夕方に増える場合
夕方になると「家へ帰らなければ」と訴える人がいます。夕食前後の職員配置や声かけを確認します。
夜間に増える場合
昼夜逆転や睡眠障害があり、深夜に居室から出る人では夜勤体制が重要です。
食後・入浴後など決まった時間に起こる場合
本人の生活リズムを把握し、先回りして活動や休憩を提案できるか確認します。
出入口の安全対策を確認する
外出リスクが高い人では、玄関や非常口の管理方法を確認します。
センサー・チャイム等
特定の出入口を通過したときに職員が気づける設備を使っている施設があります。
職員が気づいた後の対応
センサーが鳴るだけでは安全を守れません。誰が確認し、本人へどう声をかけるかまで聞きます。
非常口の安全と避難経路
外出防止と火災時の避難は両立させる必要があります。非常時に安全に避難できる管理になっているか確認します。
「鍵をかけて出られなくする」だけでよい?
外出事故を防ぐために出入口管理は必要ですが、本人の行動を一律に制限するだけでは適切なケアとはいえません。
厚生労働省の身体拘束廃止・防止の手引きでは、認知症の行動・心理症状には、本人のニーズが満たされないことや、適切な環境・ケアが提供されていないことが背景にある場合があり、強い言葉や物理的な行動制限で抑え込むのではなく、原因を探り不安や困難感の解消を目指すことが重要とされています。
本人の意思を尊重する
認知症があっても、本人の「歩きたい」「外へ出たい」という思いをできる限り理解することが必要です。
安全な代替方法を考える
職員と散歩する、中庭を歩く、施設内を自由に歩ける動線を作るなど、危険を減らしながら本人の行動を支える方法があります。
外出リスクだけを理由に安易な身体拘束を前提にしない
介護保険施設・事業所では、利用者本人や他の人の生命・身体を守るため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行わないことが原則です。施設見学では、「外へ出ようとしたらどうしますか」と聞き、鍵・拘束だけでなく原因分析や代替策を説明できるか確認してください。
自由に歩ける施設内環境かを見る
歩くこと自体が本人の習慣や安心につながっている場合、施設内で安全に歩ける環境は大切です。
行き止まりが多すぎないか
同じ場所を回遊できる動線など、本人が不安になりにくい環境か確認します。
休憩できる場所があるか
長時間歩いて疲れたときに座れる椅子があるか見ます。
段差・転倒要因が少ないか
床の段差、家具、配膳車などが歩行の妨げになっていないか確認します。
中庭・テラス等を利用できるか
外気に触れながら安全に歩ける場所があると、外出欲求を満たせる場合があります。
散歩・外出の機会を確認する
「外へ出ようとするから外出禁止」ではなく、安全に外出できる方法を持つことも重要です。
職員と散歩できるか
個別散歩に対応できるか、頻度や時間を聞きます。
家族との外出
家族が本人を連れて外出できるか、事前手続きや帰宅時間のルールを確認します。
外出サービスの費用
個別同行が追加サービス扱いの場合は、料金も確認してください。
夜間の見守り体制を確認する
夜間にも歩く人では、夜勤体制が施設選びの重要なポイントになります。
夜勤者数をフロア単位で聞く
施設全体の人数ではなく、本人が住むフロアを何人で担当するか確認します。
巡回方法を確認する
定時巡回だけか、センサー等を組み合わせているかを聞きます。
他の介助が重なった場合
排泄介助や急変対応が重なったときに、応援を呼べる体制か確認します。
本人が外へ出ようとしたときの声かけを聞く
同じ設備でも、職員の対応によって本人の安心感は大きく変わります。
強く否定しない
「帰れません」「ここにいなさい」と強く否定すると、不安や怒りが強くなる人もいます。
本人の言葉を聞く
「どちらへ行きたいですか」「誰に会いに行くのですか」と理由を確認するケアがあるか見ます。
別の行動へ自然に誘導する
お茶、散歩、食事、家事活動など、本人が関心を持てる行動へ誘う方法があります。
「帰宅願望」への対応を確認する
施設にいることを理解できず、「家へ帰る」と繰り返す人もいます。
本人の生活歴を活用する
以前住んでいた地域、仕事、家族構成などを施設が把握していると、本人の発言の意味を理解しやすくなります。
夕方の不安へ対応できるか
夕方に帰宅願望が強くなる人には、落ち着ける活動や職員の声かけが有効な場合があります。
本人をだます対応を常態化させない
その場をしのぐ言葉だけでなく、何が不安なのかを確認し、安心できる環境を作る姿勢があるかを見ます。
日中の活動量を確認する
日中にすることが少なく、退屈から歩き続ける人もいます。
本人が参加できる活動があるか
体操だけでなく、洗濯物たたみ、園芸、簡単な家事など本人の生活歴に合う活動があるか確認します。
本人の役割を作れるか
「何かしなければ」と落ち着かない人には、無理のない役割が安心につながることがあります。
昼寝が長すぎないか
日中に長時間眠ることで夜間覚醒が増えている場合は、生活リズムの調整も検討します。
体調不良が隠れていないか確認する
歩き回る、落ち着かないなどの変化が、認知症だけによるとは限りません。
便秘・尿意
トイレを探して歩き回っている場合があります。
痛み
痛みをうまく言葉にできず、落ち着きのなさとして表れることがあります。
感染症・脱水
急に行動が変わった場合は、発熱、食欲低下、水分摂取量など身体状態の確認が必要です。
薬の変更
新しい薬の開始・増減と行動変化が重なっている場合は主治医へ相談します。
GPS等の見守り機器は使える?
外出リスクがある人では、GPS等の位置情報機器を活用する場合があります。
本人が身につけられるか
靴、衣服、バッグなど、本人が嫌がらず持てる方法か確認します。
施設のルールを確認する
持込み可能か、充電を誰が行うか、外出時に誰が位置情報を確認するかを決めます。
機器だけに頼らない
電池切れ、通信不能、本人が機器を外す可能性があります。GPSは見守りを補助する道具として考えます。
顔写真・服装情報をすぐ確認できるか
万一、所在が分からなくなったときには、正確な情報を早く共有することが重要です。
最近の顔写真
本人の特徴が分かる最新の写真を家族・施設で確認できるようにします。
当日の服装
外出時の服装を職員が把握できる方法があるか確認します。
よく向かう場所
以前の自宅、勤務先、駅、商店など、本人が行こうとしやすい場所を施設へ伝えます。
行方不明になったときの初動を確認する
出入口対策をしていても、行方不明リスクを完全にゼロにすることはできません。
何分で捜索を開始するか
「そのうち戻るだろう」と長く待たず、所在確認できない時点で施設内外を確認する運用か聞きます。
家族への連絡
どの段階で家族へ連絡するか確認します。
警察への届出
必要な場合に速やかに警察へ行方不明者届を出せる体制か確認します。
自治体ネットワーク
自治体によっては、認知症の人の行方不明時に地域の関係機関へ情報を共有する仕組みがあります。施設が地域の仕組みを把握しているか聞きます。
厚生労働省も、行方不明となった認知症高齢者等について、自治体をまたいだ捜索に役立つ情報提供を行っています。
行方不明後の再発防止を確認する
一度外へ出てしまった場合、責任追及だけで終わらせず、原因と環境を見直すことが重要です。
どこから出たか
玄関、非常口、職員用出入口など、経路を確認します。
その前に何があったか
家族面会後、夕方、職員交代時など、背景を確認します。
本人の目的を再確認する
どこへ行こうとしていたかを考え、日中活動や声かけを見直します。
家族と対策を共有する
設備変更、見守り方法、GPS等の利用について本人・家族と相談します。
身体拘束に頼らない施設かを見る
厚生労働省の身体拘束廃止・防止の手引きでは、本人中心の視点で丁寧にアセスメントし、認知症の行動の背景にある不安やニーズを理解することが重視されています。
「危ないから禁止」で終わらない
歩行・外出を一律禁止する前に、何が危険なのか、どの程度なら安全にできるか検討しているか確認します。
多職種で検討しているか
介護職員だけでなく、看護職員、ケアマネジャー、医師等が状態を共有しているか聞きます。
家族へ説明しているか
安全対策の理由と本人への影響を家族へ説明し、必要に応じて見直す施設か確認します。
グループホームも選択肢になる?
認知症グループホームは、認知症のある人が少人数で共同生活を送る地域密着型サービスです。
対象は要支援2または要介護1〜5で認知症のある人
要支援1は対象外です。また、地域密着型サービスのため、原則として事業所所在地の市区町村の住民が利用します。
少人数環境が合う人もいる
顔なじみの職員・入居者と暮らし、生活リズムが安定することで落ち着く人もいます。
外出リスク対応は事業所ごとに違う
グループホームだから外出リスクに必ず強いとは限りません。夜間職員数、建物環境、外出支援、行方不明時対応を個別に確認してください。
介護付き有料老人ホームでは何を見る?
介護付き有料老人ホームでは、施設職員が介護を提供しますが、認知症ケアの方針には施設差があります。
フロア構成
大規模フロアか少人数単位か、本人が迷いにくい環境か確認します。
夜間職員配置
帰宅願望や夜間歩行がある場合、夜勤者がどのように見守るか聞きます。
外出・散歩支援
安全確保のために外出を一律禁止せず、職員同行等で外へ出る機会を作れるか確認します。
見学で職員の対応を観察する
設備だけでなく、実際のケアを見ることが重要です。
歩いている入居者へどう声をかけているか
すぐ座らせようとするのか、本人の目的を聞いているのかを見ます。
強い言葉で制止していないか
命令口調や叱責で行動を止めようとしていないか確認します。
職員同士で情報共有しているか
「この方は夕方になると玄関へ行きやすい」など、本人ごとの傾向を共有している施設は個別対応しやすくなります。
施設へそのまま聞ける質問
外出リスクの確認項目
- 外へ出ようとする認知症の人の受入実績はありますか
- 夕方・夜間は何人の職員で見守りますか
- 玄関・非常口にはどのような安全対策がありますか
- 本人が玄関へ行ったらどのように対応しますか
- 施設内を自由に歩ける範囲はありますか
- 中庭・テラス等を利用できますか
- 職員と散歩する機会はありますか
- GPS等の見守り機器を持ち込めますか
- 身体拘束を避けるためにどのような工夫をしていますか
- 所在が分からなくなった場合、何分で捜索を開始しますか
- 警察・自治体・家族への連絡手順はありますか
- 一度外へ出てしまった後も継続入居できますか
入居前に本人の生活歴を伝える
外出しようとする理由を理解するため、本人のこれまでの暮らしを施設へ伝えます。
仕事
長年の職業、出勤時間、退職後も続けていた習慣を共有します。
家族
本人が気にかけている家族、よく話題にする人を伝えます。
よく行っていた場所
スーパー、散歩道、駅、神社など本人にとってなじみの場所を伝えます。
好きな活動
園芸、掃除、料理、音楽など、落ち着きやすい活動を共有します。
入居直後は外出リスクが高まる可能性も考える
老人ホームへの入居は大きな環境変化です。
場所が分からず不安になる
「ここはどこだろう」と混乱し、自宅を探して外へ出ようとすることがあります。
家族と離れた不安
入居直後に帰宅願望が強くなる人もいます。
最初の数日間の見守り方法を確認する
施設が入居直後の行動をどのように観察し、家族へ共有するか確認します。
「絶対に外へ出さない」ことを安全と考えすぎない
家族にとって外出事故は大きな心配ですが、本人の生活すべてを制限することが安全とは限りません。
歩く力を維持する
安全に歩ける環境で活動を続けることは、身体機能や生活リズムの維持につながる場合があります。
本人の楽しみを守る
散歩や外気浴が本人の大切な楽しみなら、できる方法を施設と検討します。
安全と尊厳を両立する
事故を防ぐ設備・見守りと、本人の意思・生活を尊重するケアの両方を確認してください。
まとめ|外出を止める施設ではなく本人の理由を理解できる施設を選ぶ
認知症で徘徊・外出リスクが高い人でも、本人の行動パターンと施設の見守り・認知症ケア体制が合えば、老人ホームで生活できる可能性があります。
厚生労働省の身体拘束廃止・防止の手引きでは、認知症の行動・心理症状について、本人中心の視点で原因や満たされていないニーズを探り、不安や困難感を解消することが重要とされています。
また、行方不明となった認知症高齢者等については、警察・自治体による捜索や情報共有の仕組みがあります。万一に備えて、施設の初動、家族連絡、警察への届出、本人写真・服装情報の共有方法まで確認しておくことが大切です。
最も重要なのは、「鍵が厳重で外へ出られない施設」を探すことではなく、「なぜ外へ出ようとするのかを理解し、安全に歩く・外出する代替方法を考えながら、万一のときにはすぐ捜索できる施設」を選ぶことです。
入居前に本人の生活歴、外出しやすい時間帯、過去の行方不明歴、落ち着きやすい対応を施設へ具体的に伝え、見学では設備だけでなく職員の声かけとケア方針まで確認しましょう。