老人ホームの入居時には、前払金、敷金、引っ越し費用、家具・日用品など、まとまった資金が必要になることがあります。
そのとき、長年加入している生命保険に解約返戻金があると、「これを入居資金に使えないか」と考えることがあります。生命保険を資金化できるケースはありますが、解約すれば保障がなくなり、契約者貸付には利息がかかります。税金が関係する場合もあるため、資金だけを見て決めないことが大切です。
まず結論|生命保険は入居資金に使える場合があるが、解約前に「保障・税金・返済」を確認する
生命保険に解約返戻金がある場合、解約して現金化したり、契約者貸付を利用したりして老人ホームの入居資金へ回せることがあります。ただし、解約すると保障は消滅し、再加入が難しくなる場合があります。契約者貸付には利息がつき、未返済なら将来の死亡保険金などから差し引かれます。満期保険金や解約返戻金の受取時には、契約者・保険料負担者・受取人の関係によって税務上の扱いも変わるため、保険会社と税務上の確認をしてから判断してください。
生命保険を老人ホーム入居資金に使う方法は主に3つ
生命保険から現金を用意する方法は、契約内容によって異なります。
01
解約返戻金を受け取る
解約返戻金がある保険を解約し、その返戻金を入居時費用などへ充てる方法です。
まとまった資金を確保できる可能性がありますが、保険契約は終了し、それ以降の保障はなくなります。
02
契約者貸付を利用する
解約返戻金の一定範囲内で、保険会社から貸付を受けられる契約があります。
保険を解約せず資金を用意できる一方、貸付金には所定の利息がつきます。
03
満期保険金・年金などを利用する
ちょうど満期を迎える養老保険や、受取開始時期を迎えた個人年金保険などがある場合、その受取金を施設費へ充てる方法があります。
受取方法によって税務上の扱いが変わることがあるため、入居資金として使う前に課税関係を確認してください。
解約返戻金とは?
解約返戻金は、生命保険契約を途中で解約したときに受け取れることがあるお金です。
すべての生命保険に十分な解約返戻金があるわけではない
解約返戻金の有無や金額は、保険種類、契約時の年齢、契約期間、経過年数などによって異なります。
公益財団法人生命保険文化センターでは、解約返戻金は通常、払い込んだ保険料総額より少なくなると説明しています。特に契約後短期間では、返戻金がほとんどない場合もあります。
まず現在の返戻金額を確認する
入居資金へ充てることを考える前に、現在解約した場合にいくら受け取れるのかを保険会社へ確認します。
保険会社のマイページや契約内容のお知らせで確認できる場合もありますが、正確な金額は契約先へ問い合わせると確実です。
解約すると保障がなくなる
解約返戻金を受け取るために保険を解約すると、その契約の保障は終了します。
死亡保障が必要な家族がいないか確認する
契約者・被保険者に万一のことがあった場合、死亡保険金を生活費や葬儀費用に充てる予定だった家庭もあります。
老人ホームの入居資金を確保できても、解約後に家族の生活保障が不足しないか確認してください。
一度解約した契約は元に戻せない
生命保険文化センターでは、解約した生命保険は元に戻せず、再加入する場合は年齢上昇によって保険料が高くなったり、健康状態によって加入できなくなったりすることがあると案内しています。
高齢者では新しい生命保険へ入り直す選択肢が限られることもあるため、解約は慎重に判断する必要があります。
解約返戻金の金額だけで決めない
「今いくら受け取れるか」だけでなく、「解約すると何の保障を失うか」「その保障を今後も必要としているか」を確認してください。
全部解約せず保障を見直せる場合もある
まとまった資金が必要でも、必ず保険契約をすべて解約しなければならないとは限りません。
保険金額を減額できる場合がある
契約内容によっては、死亡保険金額などを減額し、その減額部分に対応する返戻金を受け取れる場合があります。
保障を一部残せる可能性があるため、「全部解約」と「一部見直し」の両方を保険会社へ確認するとよいでしょう。
払済保険へ変更できる場合もある
生命保険文化センターでは、契約によっては保険料の払込みを中止し、その時点の解約返戻金をもとに保障額を減らした払済保険へ変更できると説明しています。
ただし、保険種類によって利用できず、特約が消滅する場合もあります。入居資金を確保する方法そのものではありませんが、今後の保険料負担を減らしたい場合の選択肢になることがあります。
契約者貸付なら保険を解約せず資金を借りられる場合がある
解約返戻金がある生命保険では、「契約者貸付」を利用できることがあります。
解約返戻金の一定範囲内で借りる仕組み
生命保険文化センターによると、契約者貸付は、契約している生命保険の解約返戻金の一定範囲内で貸付を受ける仕組みです。
一般的には、貸付中も契約自体は継続し、死亡保障なども残ります。
貸付なので利息がかかる
契約者貸付には保険会社所定の利息がつきます。
返済しない場合は利息が元金に組み入れられ、元利金が増えていきます。短期的な資金不足への対応として使うのか、長期間借り続けるのかで負担は変わります。
返済しないと死亡保険金等から差し引かれる
未返済のまま満期を迎えたり、被保険者が死亡したりした場合は、満期保険金・死亡保険金から貸付元金と利息が差し引かれます。
さらに、元利金が解約返戻金を超えるなど一定の状態になると、契約が失効する可能性もあります。
POINT
契約者貸付は「自分のお金を引き出す制度」ではなく、保険契約を担保にした貸付です。
入居資金へ使う場合は、利率、返済予定、将来の保険金への影響まで確認してください。
契約者貸付と解約はどちらを選ぶ?
どちらが有利かは、必要な資金額、保障の必要性、返済可能性、契約内容によって異なります。
保障を今後も残したい場合
配偶者の生活保障や葬儀費用など、死亡保障を残す必要がある場合は、解約前に契約者貸付や減額などが利用できないか確認する価値があります。
返済の見込みがない場合
老人ホーム入居後の収入が年金中心で、契約者貸付を返す見込みがない場合は、利息が長期間積み上がる可能性があります。
「保障を残せるから貸付の方がよい」と単純に決めず、返済しない場合の将来残高を保険会社に確認してください。
必要額が解約返戻金より大きい場合
生命保険だけで老人ホーム資金をすべて賄えないこともあります。
その場合は、預貯金、年金収入、家族支援、施設の料金プランなど他の資金源と組み合わせて考えます。
満期保険金を入居資金に使う場合の確認点
養老保険などの満期時期と施設入居が近い場合、満期保険金を入居資金として使えることがあります。
受取時期が施設契約に間に合うか確認する
老人ホームでは、契約時や入居前に前払金・敷金などの支払いを求められることがあります。
満期保険金が入金される日と施設への支払期限が合うか確認してください。
受取方法によって税金が変わることがある
国税庁では、保険料の負担者と満期保険金の受取人が同一の場合、一時金で受け取る満期保険金等は原則として一時所得になるとしています。
年金形式で受け取る場合や、保険料負担者と受取人が異なる場合は課税関係が変わることがあります。
解約返戻金を受け取ると税金がかかる?
生命保険を解約して受け取ったお金には、契約関係によって税金がかかる場合があります。
保険料負担者と受取人が同じ場合
国税庁では、生命保険契約の解約等により一時金を受け取り、保険料負担者と受取人が同じ場合は、原則として一時所得の対象になるとしています。
受取額の全額にそのまま課税されるわけではなく、既に払い込んだ保険料等との関係で所得を計算します。
保険料負担者と受取人が違う場合
保険料を負担した人と保険金等を受け取る人が異なる場合、贈与税の対象となることがあります。
老人ホーム費用を子どもが管理している家庭では、誰が契約者なのかだけでなく、「実際に保険料を負担した人」と「受取人」を確認してください。
税額は個別条件で変わる
契約変更の有無、受取方法、他の一時所得などによっても扱いが変わることがあります。
まとまった返戻金や保険金を受け取る場合は、保険会社が発行する支払明細を保管し、必要に応じて税務署や税理士へ確認してください。
保険の契約者と老人ホームへ入る本人が同じとは限らない
高齢の親が被保険者でも、契約者が配偶者や子どもになっている場合があります。
解約できるのは原則として契約者
生命保険文化センターでは、保険契約を解約できるのは契約者と説明しています。
老人ホームへ入る本人が被保険者でも、契約者が別の人なら、本人だけの判断で解約できない場合があります。
契約者本人の意思を確認する
生命保険は契約者の財産に関わるため、家族が施設費のために勝手に解約を進めることはできません。
認知症などで契約者本人の意思確認が難しい場合は、保険会社へ必要な手続きや代理手続きの可否を確認してください。
認知症になってから慌てないために契約内容を整理する
老人ホーム入居を検討する時期には、本人の判断能力が低下していることもあります。
元気なうちに保険証券・契約内容を整理する
どの保険会社と契約しているか、契約者、被保険者、受取人、解約返戻金の有無などを家族で把握しておくと、必要なときに確認しやすくなります。
保険証券を紛失していても、保険会社へ問い合わせることで契約内容を確認できる場合があります。
指定代理請求制度等と解約手続きは同じではない
保険金等の代理請求制度があっても、それによって家族が自由に契約を解約できるとは限りません。
契約者本人が手続きできなくなった場合の扱いは保険会社・契約内容によって異なるため、事前に確認してください。
生命保険を使う前に老人ホーム側の支払条件も確認する
資金を用意する前に、施設へ実際にいくら・いつ支払う必要があるのか確認します。
入居時に必要な総額を確認する
前払金、敷金、初月利用料、日割り料金などを含め、「契約から入居日までに必要な金額」を確認してください。
必要額が分からないまま生命保険を解約すると、必要以上に保障を手放す可能性があります。
複数の料金プランを比較する
有料老人ホームによっては、前払金方式と月払い方式など複数の料金プランがあります。
生命保険を解約して高額な前払金を用意する前に、初期費用を抑えたプランでも長期的に支払えるか比較してください。
生命保険を資金化する前のチェックリスト
老人ホーム入居資金に生命保険を使う前に確認すること
- 保険の契約者は誰か
- 被保険者は誰か
- 保険金・満期金の受取人は誰か
- 実際に保険料を負担した人は誰か
- 現在の解約返戻金はいくらか
- 解約すると何の保障がなくなるか
- 保険金額の減額ができるか
- 払済保険への変更ができるか
- 契約者貸付を利用できるか
- 契約者貸付の利率はいくらか
- 貸付金を返済する予定があるか
- 未返済時の死亡保険金への影響
- 満期保険金の受取時期
- 解約返戻金・保険金の税務上の扱い
- 老人ホームへ実際に必要な入居時資金
- 月払いプラン等で初期費用を抑えられないか
- 解約後も手元資金を十分残せるか
入居資金へ使い切らず生活予備費を残す
解約返戻金などでまとまった資金を得られても、その全額を入居時費用へ使うのは慎重に考えた方がよいでしょう。
入居後も医療費・介護費は続く
老人ホーム入居後には、月額利用料のほか、介護保険自己負担、医療費、薬代、日用品などが必要になります。
入居時点で預貯金を減らしすぎると、数年後の状態変化へ対応しにくくなる可能性があります。
住み替えや入院の費用も考える
医療ニーズが変わって住み替える場合や、長期入院となった場合は、新たな費用が発生することがあります。
生命保険を現金化するときは、入居時に必要な分だけではなく、その後に残る資産も確認してください。
判断に迷ったらどこへ相談する?
契約内容は保険会社へ確認する
解約返戻金、契約者貸付、減額、払済保険、解約時に失う保障などは、契約している生命保険会社へ確認します。
同じ保険会社でも契約時期・商品によって条件が異なるため、一般論だけで判断しないことが重要です。
税金は税務署・税理士へ確認する
解約返戻金や満期保険金を受け取った場合の税金は、保険料負担者と受取人などによって異なります。
金額が大きい場合や契約者変更がある場合などは、税務署や税理士へ個別に確認してください。
施設費は老人ホームへ見積もりを依頼する
保険を解約する前に、老人ホーム側から正式な料金表・見積もりを受け取り、本当に必要な現金額を把握します。
必要額が分かれば、預貯金と保険のどちらからいくら用意するか判断しやすくなります。
まとめ|生命保険は「現金化できるか」より「現金化した後」を考える
生命保険に解約返戻金がある場合、解約して老人ホームの入居資金へ充てられることがあります。
また、契約によっては、保障を継続したまま契約者貸付を利用したり、保障額を減額したりできる場合があります。
ただし、解約すれば保障はなくなり、契約者貸付には利息がかかります。解約返戻金や満期保険金には、契約関係によって税金がかかることもあります。
老人ホーム入居資金に生命保険を使うときは、「いくら受け取れるか」だけでなく、「保障を失ってもよいか」「税金はいくらか」「入居後の生活資金が残るか」まで確認してから判断してください。