老人ホームへ入居した後、本人の状態変化、家族の事情、費用負担、施設との相性などを理由に契約を解除して退去することがあります。
一方、施設側から契約解除を申し出るケースもあります。
契約解除では、「いつまでに申し出るか」「いつまで料金が発生するか」「前払金や敷金はいくら戻るか」「原状回復費用はいくらか」など、複数の確認事項があります。
重要なのは、口頭だけで退去日を決めず、入居契約書・重要事項説明書・管理規程を確認し、契約終了日と精算内容を書面でそろえることです。
まず結論|契約解除は「申出日・契約終了日・明渡し日・最終精算」を分けて確認する
老人ホームの契約を解除するときは、①契約解除の申出方法、②解約予告期間、③契約終了日、④居室の明渡し日、⑤退去月の利用料、⑥前払金・敷金の返還、⑦原状回復・未払い費用を順番に確認します。有料老人ホームでは、入居者側・施設側双方の契約解除条項を契約書に定めることが求められています。施設側から解除される場合も、契約書上の要件と手続を確認してください。
老人ホームの契約解除とは
契約解除とは、入居契約を終了させ、施設での生活を終える手続きです。
本人・家族側から解除するケース
別の施設へ住み替える、自宅へ戻る、費用負担が難しくなった、本人が生活環境に合わないなどの理由で、入居者側から契約終了を申し出ることがあります。
施設側から解除されるケース
契約書に定めた重大な契約違反や、施設の体制では本人の安全な生活を支えられない状態になった場合など、施設側から契約解除を申し出るケースがあります。
ただし、施設側が自由に退去を求めてよいわけではありません。有料老人ホームの標準指導指針では、設置者側の契約解除条件は、信頼関係を著しく害する場合に限るなど、入居者の権利を不当に狭める内容としないことが示されています。
POINT
「退去してください」と言われた場合も、理由だけでなく、契約書のどの解除条項に該当するのか、いつまでに退去する必要があるのかを確認しましょう。
最初に入居契約書の解除条項を確認する
契約解除を考えたら、まず入居契約書を確認します。
本人側からの解約方法
書面で申し出るのか、何日前までに届け出るのか、指定の解約届があるのかを確認します。
施設側からの解除条件
どのような事由があると施設側から契約解除できるのかを確認します。
退去予告期間
「30日前まで」「○か月前まで」など、施設ごとに解約予告期間が定められている場合があります。
退去日を先に決める前に、契約上の予告期間を確認してください。
契約解除の手続きは書面で行う
電話や口頭だけで退去の意思を伝えると、後から「いつ申し出たか」で認識がずれる可能性があります。
施設指定の解約届があるか確認する
施設に所定様式がある場合は、その用紙を使って提出します。
提出日を記録する
解約予告期間の起算日になる可能性があるため、いつ誰へ提出したかを記録します。
受領確認を取る
郵送する場合は到着確認ができる方法を使うなど、施設が受け取ったことを確認できるようにします。
「退去日」と「契約終了日」は同じとは限らない
実際に施設を出る日と、契約上料金が終了する日は一致しない場合があります。
居室を出ても料金が続くことがある
本人が先に病院や新施設へ移っても、家具・荷物が残っていて明渡しが完了していない場合、契約が続くことがあります。
解約予告期間分の料金が発生する場合がある
急に退去しても、契約上の予告期間が残っていれば、その期間に対応する料金が必要になる場合があります。
日付を4つに分けて確認する
- 契約解除を申し出た日
- 本人が施設を出る日
- 居室を明け渡す日
- 契約上の終了日
退去月の利用料を確認する
契約解除時には、最終月の利用料がどのように精算されるか確認します。
日割りか月単位か
家賃、管理費、食費などは、費目ごとに日割り計算か月単位かが異なる場合があります。
食費は利用実績で精算するか
退去前に入院していた、食事を停止していたなどの場合、食費の扱いを確認します。
介護・医療費は後から請求される場合がある
介護保険自己負担、訪問診療、薬代、理美容などは、退去後に金額が確定することがあります。
前払金がある場合は返還金を確認する
有料老人ホームで前払金を支払っている場合、契約終了時に返還金が発生することがあります。
返還金の算定方法を見る
入居契約書には、前払金の返還金の有無、算定方式、支払時期を明示することが標準指導指針で求められています。
短期解約時のルールを確認する
前払金を受領する有料老人ホームでは、入居後3か月以内に契約が解除された場合や入居者が死亡した場合について、法令上の返還ルールがあります。
ただし、実際に利用した期間に対応する家賃等が控除される場合があります。
返金予定日も確認する
返還額だけでなく、「契約終了後何日以内に振り込まれるか」を確認してください。
敷金の精算も確認する
入居時に敷金を預けている場合、退去時に精算します。
原状回復費用などが差し引かれる場合がある
未払い料金や、契約上本人負担となる原状回復費用などを差し引き、残額が返還される場合があります。
差し引く金額の明細をもらう
「敷金から精算しました」という説明だけでなく、何にいくら充当したのかを確認します。
原状回復費用は居室状態を確認して精算する
退去時には、居室の傷や汚れについて原状回復費用が発生する場合があります。
通常の使用による損耗と区別する
長年生活して生じた経年変化まで、すべて入居者負担になるとは限りません。
有料老人ホームの標準指導指針では、敷金精算における原状回復について、国土交通省の原状回復ガイドラインを参考にする考え方が示されています。
可能なら退去確認へ立ち会う
施設担当者と居室を確認し、修繕対象箇所を一緒に確認します。
高額な請求は見積書を確認する
修繕箇所、作業内容、負担理由、金額の内訳を確認してください。
施設側から契約解除を求められたとき
施設側から「このまま入居を続けられません」と言われた場合は、すぐに退去先だけを探すのではなく、解除理由と手続きを確認します。
契約書の解除要件に該当するか確認する
本人の状態が変わったことだけで自動的に契約解除になるとは限りません。
契約書にどのような解除要件があり、今回どの条項に該当すると施設が判断しているのかを確認します。
改善・調整の余地があるか確認する
医療処置の方法を変える、外部サービスを利用する、居室を変更するなどで継続できないかを確認します。
退去までの期間を確認する
次の住まいを探す時間が必要です。退去期限、施設が紹介・調整を支援できるかも確認します。
施設側の解除条件は無制限ではない
有料老人ホームの標準指導指針では、施設側の契約解除条件は、信頼関係を著しく害する場合に限るなど、入居者の権利を不当に狭めないことが示されています。解除理由に疑問がある場合は、契約書と説明内容を確認し、必要に応じて自治体や専門窓口へ相談してください。
要介護度が上がっただけで退去になる?
要介護度が上がったことだけで、すべての老人ホームから退去しなければならないわけではありません。
施設の受入体制を確認する
重度化後も介護できる施設もあれば、一定の医療ニーズや介護量になると対応が難しくなる施設もあります。
契約時の説明を確認する
重度化した場合に居室変更、提携施設への住み替え、契約解除などを行う可能性がある場合、その条件・手続は契約書や管理規程で確認します。
本人の意思も確認する
住み替えや契約終了は本人の生活環境を大きく変えます。本人が意思を表明できる場合は、本人の希望を確認してください。
長期入院で契約解除になる?
長期入院した場合の扱いも施設ごとに異なります。
入院期間だけで自動退去とは限らない
一定期間の入院を契約解除条件として定めている施設もありますが、期間や手続は契約内容によります。
入院中の料金を確認する
居室を確保している間は、家賃・管理費などが発生する場合があります。
退院後に戻れる条件を確認する
退院時に医療ニーズが増えている場合、施設へ戻れるか再確認が必要になることがあります。
次の施設へ住み替える場合の手順
契約解除後に別の老人ホームへ移る場合は、旧施設と新施設の手続きを並行して進めます。
01
新施設の入居可否を確定する
入居審査や契約が終わる前に旧施設を解約すると、住まいが空白になる可能性があります。
02
入居日と退去日を調整する
引っ越し日、旧施設の契約終了日、新施設の料金開始日を確認します。
03
医療・介護情報を引き継ぐ
薬、診療情報、介護情報などを新施設へ共有します。
04
旧施設の最終精算を行う
返還金、未払い費用、原状回復費用などを確認します。
契約解除前に確認したい書類
手元にそろえる書類
- 入居契約書
- 重要事項説明書
- 管理規程
- 料金表
- 前払金の返還金計算に関する資料
- 敷金の預り証・領収書
- 直近の利用料請求書
書類が見つからない場合は、施設へ写しの交付を相談してください。
契約解除時に施設へ聞きたい質問
そのまま使える確認項目
- 解約は何日前までに申し出る必要がありますか
- 指定の解約届はありますか
- 契約終了日はいつになりますか
- 居室の明渡し期限はいつですか
- 退去月の家賃・管理費・食費は日割りですか
- 前払金の返還額はいくらですか
- 返還金の計算式を確認できますか
- 敷金から差し引く費用は何ですか
- 原状回復費用の明細をもらえますか
- 退去後に追加請求される可能性はありますか
- 返還金はいつ振り込まれますか
契約解除でトラブルになったとき
施設との話し合いで、解除理由、解約予告、前払金返還、原状回復費用などについて意見が合わないことがあります。
口頭説明ではなく書面を確認する
契約書、重要事項説明書、料金表、精算書、メール等をそろえます。
自治体へ相談する
有料老人ホームについては、都道府県・政令市・中核市などの担当部署が指導監督を行っています。
消費生活相談を利用する
契約や解約金、返還金等の消費者トラブルについては、消費生活センターへ相談する方法があります。
必要に応じて法律専門家へ相談する
高額な返還金や契約解除の有効性など、法的判断が必要な場合は、契約書を持参して弁護士等へ相談してください。
契約時から解除条件を確認しておく
契約解除のトラブルを減らす最も有効な方法は、入居前に解除条件を確認しておくことです。
本人側から解除する場合
解約予告期間、最終月の料金、前払金返還、原状回復などを確認します。
施設側から解除する場合
どのような状態・行為が解除要件になるのか、退去までどのような手続があるのかを確認します。
重度化・長期入院時
要介護度上昇、認知症進行、医療依存度上昇、長期入院などの場合に、継続入居できるかを確認します。
まとめ|契約解除は日付と精算条件を書面でそろえる
老人ホームの契約を解除するときは、単に退去日を決めるだけではありません。
契約解除の申出日、解約予告期間、契約終了日、居室明渡し日、退去月利用料、前払金・敷金の返還、原状回復、未払い費用を順番に確認する必要があります。
有料老人ホームでは、入居者側・施設側双方の契約解除条項を契約書に定めることが求められ、施設側の解除条件も入居者の権利を不当に狭める内容であってはならないとされています。
最も重要なのは、「いつ退去するか」だけでなく、「いつ契約が終わり、何を支払い、何が返還されるのか」まで書面で確認することです。
住み替えの場合は新しい施設への入居を確定してから旧施設の解約日を調整し、契約終了後も最終精算と返還金の入金まで確認してください。