老人ホームへ入居したものの、本人の状態変化、家族との距離、医療ニーズ、費用、施設との相性などを理由に、別の施設へ住み替えたいと考えることがあります。
住み替えでは、新しい施設探しだけでなく、現在の施設の解約、医療・介護情報の引継ぎ、荷物の移動、前払金や敷金の精算などを同時に進める必要があります。
特に注意したいのは、新しい施設の入居可否が確定する前に、現在の施設を先に解約しないことです。
まず結論|新施設の入居確定後に旧施設の解約日を調整する
老人ホームから別の施設へ住み替えるときは、①住み替え理由と必須条件を整理、②候補施設を比較、③見学・入居審査、④新施設の入居可否と入居日を確定、⑤現在の施設へ解約届を提出、⑥医療・介護情報を引き継ぐ、⑦引っ越し、⑧旧施設の最終精算、という順で進めます。先に旧施設を解約すると住まいが空白になる可能性があるため、契約終了日は新施設の受入日を確認してから決めるのが基本です。
老人ホームから別の施設へ住み替える主な理由
住み替えを検討する理由は家庭によって異なります。
01
介護度が上がった
入居時より介助量が増え、現在の施設では対応が難しくなることがあります。
02
医療ニーズが増えた
インスリン、在宅酸素、たん吸引、看取りなど、より強い医療連携が必要になる場合があります。
03
費用負担が重くなった
長期入居によって預貯金が減り、現在の料金を継続するのが難しくなることがあります。
04
家族の近くへ移りたい
面会、通院、緊急時対応をしやすくするため、家族の居住地近くへ住み替えるケースがあります。
05
本人と施設の相性が合わない
生活リズム、食事、職員との関係、他の入居者との環境などが本人に合わないことがあります。
最初に住み替え理由を具体化する
住み替えを成功させるには、「今の施設が嫌だから」だけで次を探さないことが重要です。
現在の施設で何が問題なのか整理する
介護、医療、料金、距離、食事、本人の不安など、住み替えたい理由を具体化します。
現在の施設で改善できないか確認する
居室変更、ケア内容の見直し、通院方法の変更などで問題が解決することもあります。
新施設に求める必須条件を決める
「24時間看護職員が必要」「家族の家から30分以内」「月額総費用はこの範囲」など、住み替えで解決したい条件を明確にします。
POINT
住み替えでは、「今の施設の不満」と「次の施設に必要な条件」を分けて整理してください。理由が曖昧なまま探すと、次の施設でも同じ問題が起こる可能性があります。
現在の施設を解約する前に新しい施設を探す
住み替えで最も避けたいのが、新施設が決まる前に旧施設を解約してしまうことです。
新施設には入居審査がある
空室があっても、本人の介護・医療状態によっては入居できないことがあります。
契約・書類準備に時間がかかる
診療情報提供書、健康診断書、面談、契約手続きなどが必要になることがあります。
入居日が希望通りとは限らない
居室清掃や前入居者の退去時期などにより、希望日から入れない場合があります。
先に旧施設を解約しない
新しい施設の入居審査が終わり、契約条件と入居日が確定してから、旧施設の解約日を調整するのが安全です。
新しい施設は「住み替え理由」を基準に比較する
新施設を探すときは、一般的な評判より、現在の施設で困っている問題を解決できるかを確認します。
医療理由なら看護・医療連携を優先する
看護職員の配置時間、訪問診療、協力医療機関、夜間対応などを確認します。
介護理由なら重度化後の体制を見る
二人介助、機械浴、認知症ケア、夜間介護など、本人に必要な支援へ対応できるか確認します。
費用理由なら月額総額で比較する
家賃・管理費・食費だけでなく、介護保険自己負担、医療費、日用品、追加サービスまで含めて比較します。
距離理由なら実際の移動時間を見る
家族の家からの距離だけでなく、公共交通、車、通院先までの移動も確認します。
公的情報も使って候補を比較する
施設からの説明だけでなく、公的な情報も比較材料にできます。
介護サービス情報公表システムを使う
厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、介護サービス事業所の基本情報、特色、運営情報などを確認できます。
複数事業所を比較する機能もあります。
重要事項説明書を確認する
有料老人ホームでは、重要事項説明書に事業者、職員体制、サービス、料金、契約内容などが記載されます。
新施設は見学前または契約前に確認してください。
新施設の入居審査を受ける
候補が決まったら、新施設の入居審査へ進みます。
現在の状態を正確に伝える
要介護度、日常生活動作、認知症、医療処置、服薬などを伝えます。
旧施設の職員にも情報提供を依頼する
本人の日常生活を最もよく把握しているのが現在の施設である場合があります。
新施設から求められた介護情報や生活情報について、本人・家族の同意のもと必要な引継ぎを相談します。
主治医の医療情報も準備する
診療情報提供書、薬剤情報など、新施設が必要とする医療書類を確認します。
新施設の入居条件を書面で確認する
「受入れできます」と口頭で言われただけで、旧施設の解約を進めないことが重要です。
正式な入居可否を確認する
入居審査が終わり、新施設から受入可能との正式な回答を受けます。
料金を確認する
初期費用、月額総費用、追加サービス、医療費などを確認します。
退去条件も確認する
今回の住み替え理由と同じ問題が起きないよう、重度化・医療依存度上昇・長期入院時の対応を確認します。
入居日を確定する
旧施設の契約終了日を決める前に、新施設へいつから入居できるかを確定します。
新施設が決まったら旧施設の契約解除を進める
新しい施設への入居が確定したら、現在の施設へ解約を申し出ます。
解約予告期間を確認する
入居契約書に「○日前まで」などの予告期間が定められている場合があります。
解約届を提出する
施設指定の書式がある場合は、それを使って正式に手続きします。
契約終了日を確認する
本人が新施設へ移る日と、旧施設の契約終了日が同じとは限りません。
旧施設と新施設の契約期間が重なる場合がある
住み替えでは、数日から一定期間、両施設の料金が重なることがあります。
完全に重複ゼロにしようとしない
旧施設を退去した日に新施設へ必ず入れるとは限らず、引っ越しや本人の体調によって調整が必要です。
二重払いになる費目を確認する
家賃、管理費、食費など、どの費用が旧施設と新施設で重なるか確認します。
安全な移動日程を優先する
費用を抑えるために無理な日程を組むより、本人の体調や移動時間を考えて調整します。
前払金・敷金の返還を確認する
旧施設で前払金や敷金を支払っている場合は、退去時精算を確認します。
前払金の返還方法
有料老人ホームの標準指導指針では、入居契約書に前払金の返還金の有無、算定方式、支払時期等を明示することが求められています。
敷金
未払い料金や原状回復費用などを精算したうえで、残額が返還される場合があります。
返還時期
新施設の初期費用へ旧施設の返還金を充てる予定なら、返金がいつになるか確認します。
旧施設からの返還前に新施設への支払いが必要になることもあるため、手元資金に余裕を持たせます。
医療情報を新施設へ引き継ぐ
住み替えで最も重要な引継ぎの一つが医療情報です。
主治医が変わるか確認する
現在の医師への通院を続けるのか、新施設の訪問診療医・協力医療機関へ切り替えるのかを決めます。
診療情報提供書を準備する
新しい医療機関への引継ぎが必要な場合は、現在の主治医へ相談します。
最新の薬剤情報を渡す
お薬手帳や薬剤情報を使い、薬の種類・量・服用時間を正確に共有します。
医療引継ぎで確認したいもの
- 診療情報提供書
- 現在の病名・既往歴
- 服薬内容
- 必要な医療処置
- 通院予定
- 急変時の注意点
- 新しい主治医・訪問診療先
介護・生活情報も引き継ぐ
医療だけでなく、本人の日常生活に関する情報も新施設へ伝えます。
移動・排せつ・入浴
どの場面で介助が必要かを具体的に伝えます。
食事・嚥下
食事形態、とろみ、食事介助、アレルギーなどを共有します。
認知症
帰宅願望、介助拒否、不安が強くなる場面、落ち着きやすい声かけなどを伝えます。
生活歴・好み
好きなこと、苦手なこと、睡眠時間、日課などを共有すると、新しい環境への移行を支援しやすくなります。
住み替え当日の流れ
01
本人の体調を確認する
発熱、食欲低下などがないか確認します。
02
薬・重要書類を本人と一緒に移動する
荷物と別便にして紛失しないよう、薬や介護保険関係書類などを管理します。
03
旧施設から新施設へ情報を引き継ぐ
当日の状態を含め、必要な介護・医療情報を共有します。
04
新施設で持参品と契約内容を確認する
居室、薬、書類、預かり品等を確認します。
引っ越しは本人の負担を減らす
高齢者にとって生活環境の変更は大きな負担になることがあります。
本人を荷造りに巻き込みすぎない
体力や認知症の状態によっては、家族や業者が荷物整理を担当します。
使い慣れた物を持っていく
写真、時計、クッション、衣類など、本人が慣れている物を新しい居室へ持ち込むと安心につながることがあります。
移動時間を長くしすぎない
本人の体調に合わせ、休憩やトイレの時間を考えます。
住所変更・介護保険手続きも確認する
住み替えに伴って住所が変わる場合は、住民票や介護保険等の手続きが必要になることがあります。
同一市区町村内か市外かで異なる
転居先によって必要な行政手続きが異なります。
住所地特例に該当する場合がある
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅など、一定の施設では介護保険の住所地特例の対象となる場合があります。
本人のケースでどの保険者が継続するかは、市区町村へ確認してください。
施設へ住所変更時期を確認する
契約日、入居日、住民票異動日を必ず同じ日にするとは限りません。
施設と自治体へ確認して手続きを進めます。
住み替え後すぐに確認したいこと
引っ越しが終わっても、住み替え手続きは完了ではありません。
薬が正しく引き継がれているか
処方内容、服用時間、残薬を確認します。
次回受診日を確認する
訪問診療・外来通院の最初の日程を把握します。
本人の様子を見る
食欲、睡眠、不安、認知症症状など、環境変化による影響を確認します。
家族と施設で連絡方法を確認する
状態変化があったとき、誰へどのように連絡するか確認します。
旧施設の最終精算まで確認する
新施設へ移った後は、旧施設の費用精算を確認します。
退去月の利用料
家賃、管理費、食費などが日割りか月単位か確認します。
原状回復
居室の傷や汚れについて、本人負担となる修繕費がある場合は明細を確認します。
返還金
前払金・敷金などの返還予定日と振込額を確認します。
後日請求
介護保険自己負担、医療費、理美容、追加サービスなどが後日請求される場合があります。
住み替えでよくある失敗
01
新施設が決まる前に解約する
入居審査に通らないと住まいが空白になる可能性があります。
02
現在の不満だけで次を決める
住み替え理由を整理せず探すと、同じ問題が再発することがあります。
03
前払金の返金をすぐ受け取れると思う
返還には契約上の精算期間がある場合があります。
04
医療・薬の引継ぎを後回しにする
主治医変更や薬切れにより、治療が途切れる可能性があります。
住み替え前に確認したいチェックリスト
旧施設と新施設の両方へ確認すること
- 新施設の入居審査は完了しましたか
- 新施設の入居日は確定しましたか
- 旧施設の解約予告期間は何日前ですか
- 旧施設の契約終了日はいつですか
- 両施設の料金が重なる期間はありますか
- 前払金・敷金はいくら返還されますか
- 返還金はいつ振り込まれますか
- 医療情報は誰が新施設へ渡しますか
- 薬は何日分必要ですか
- 主治医は変わりますか
- 介護・生活情報は引き継がれますか
- 引っ越し当日の移動方法は決まっていますか
- 住所変更・介護保険の手続きを確認しましたか
まとめ|新施設確定→旧施設解約の順番を守る
老人ホームから別の施設へ住み替えるときは、新しい施設を探すだけでなく、旧施設の解約、医療・介護情報の引継ぎ、引っ越し、費用精算まで一つの流れとして考える必要があります。
厚生労働省の介護サービス情報公表システムでは、事業所の基本情報や運営情報等を比較できます。また、有料老人ホームでは重要事項説明書や入居契約書で料金・サービス・契約解除等を確認することが重要です。
最も重要なのは、新施設の入居審査と入居日が確定する前に、現在の施設を先に解約しないことです。
新施設が正式に決まった後で旧施設の契約終了日を調整し、医療・薬・介護情報を途切れなく引き継いでください。
住み替え後も、旧施設の最終請求・前払金・敷金の返還まで確認し、新しい施設で本人が安定して生活できているかを見ながら手続きを完了させましょう。