老人ホームへ入居したあと、自宅をすぐに売却せず、しばらく空き家として残すケースがあります。
その場合は、単に戸締まりをして家を出ればよいわけではありません。郵便物、電気・ガス・水道、火災保険、防犯、定期的な換気や通水、固定資産税などを整理し、誰が空き家を管理するのか決めておく必要があります。
結論からいうと、老人ホーム入居後に自宅を空き家にするなら、「入居直前の停止・変更手続き」と「入居後の継続管理」を分けて準備することが重要です。
空き家は、人が住まなくなると不具合に気づきにくくなります。国土交通省も、空き家を所有し続ける場合は、通気・換気、通水、清掃、庭木の剪定、郵便物の整理、建物の破損確認などを定期的に行うよう示しています。
まず整理したい7項目
- 郵便物をどこで受け取るか
- 電気・ガス・水道を止めるか残すか
- 火災保険・地震保険の契約をどうするか
- 貴重品や重要書類をどこへ移すか
- 誰が鍵を持ち、定期的に見回るか
- 固定資産税などの納付を誰が管理するか
- いつまで空き家として持ち続けるか
老人ホーム入居前に済ませたい空き家の準備
空き家管理は、老人ホームへ移ってから考えるより、入居前に準備したほうがスムーズです。
家の中の貴重品・重要書類を整理する
現金、通帳、印鑑、権利証・登記識別情報、保険証券、契約書など、紛失すると困るものは空き家に置きっぱなしにしないようにします。
老人ホームへ持ち込めない物は、家族宅や貸金庫など、管理できる場所へ移します。
冷蔵庫・家電・給湯設備を確認する
電気を止める場合は、冷蔵庫や冷凍庫の中身を空にし、カビや臭いを防ぐため内部を清掃します。
給湯器、洗濯機、温水洗浄便座などについても、長期間使用しない場合の水抜きや電源の扱いを取扱説明書で確認してください。
鍵を誰が管理するか決める
所有者本人が老人ホームへ入居すると、急な雨漏りや近隣からの連絡があっても、すぐ自宅へ戻れない場合があります。
家族や管理業者など、必要時に現地へ入れる人を決め、鍵の保管場所と緊急連絡先を共有しておきます。
「家はそのまま残す」場合でも、誰が管理責任を実際に担うのかは入居前に決めておくことが重要です。
電気・ガス・水道は止めたほうがいい?
すべてを一律に解約する必要はありません。空き家をどのように管理するかによって、残したほうがよい設備もあります。
電気は管理に必要かで判断する
誰も住まない家でも、照明、防犯設備、警報器、除湿機などを使うなら電気契約を残す必要があります。
反対に、電気をまったく使用しないのであれば、契約を休止・解約できるか電力会社へ確認します。
ガスを使わないなら停止手続きを確認する
空き家でガスを使用しない場合は、ガス会社へ使用停止を申し込みます。
ただし、冬季の凍結防止などで給湯設備に特別な対応が必要な場合があります。停止前にガス会社や機器メーカーへ確認してください。
水道は「止めるか」と「通水管理」を分けて考える
国土交通省の空き家管理チェックリストでは、排水設備への通水が管理項目として示されています。
水道を完全に止める場合は、管理時の通水をどうするかも考える必要があります。水道契約を残す場合は基本料金等が続くため、管理頻度と費用を比較して決めてください。
寒冷地では水抜きも確認する
国土交通省のチェックリストでは、冬期の管理として給水管の元栓の閉栓なども示されています。
凍結しやすい地域では、水道事業者や設備業者へ具体的な方法を確認してください。
郵便物は老人ホームへ転送する
郵便受けに郵便物やチラシがたまると、重要書類を見落とすだけでなく、長期間不在であることが外から分かりやすくなります。
日本郵便の転居・転送サービスを確認する
日本郵便では、転居届を提出すると、旧住所あての郵便物等を新住所へ無料で転送するサービスがあります。転送期間は届出日から1年間です。
老人ホームを新しい郵便物の受取先にできるかは、施設の郵便受取方法も確認してください。
転送だけで住所変更が完了するわけではない
郵便の転送サービスは、銀行、保険会社、年金関係、各種契約先などに登録されている住所そのものを変更する手続きではありません。
重要な契約・行政手続きについては、それぞれの届出先へ住所変更の要否を確認してください。
郵便受けも定期的に確認する
転送対象外の郵便物やチラシが残ることがあります。
国土交通省も、郵便物等の確認・整理を空き家の定期管理項目として挙げています。現地を見回る人に、郵便受けの確認も依頼しておくと安心です。
火災保険は解約せず、まず保険会社へ確認する
「誰も住まないから火災保険は不要」と考えて、すぐ解約するのは避けたほうがよいでしょう。
空き家でも、火災、風災、水災、盗難などのリスクは残ります。一方で、居住しなくなったことで契約条件や引受条件が変わる場合があります。
空き家になることを保険会社・代理店へ伝える
火災保険は商品・契約ごとに条件が異なります。契約時の建物用途や居住状況が変わる場合、保険会社への連絡が必要になることがあります。
老人ホームへの入居日と、自宅へ戻る予定があるか、完全な空き家になるかを伝え、現在の契約を継続できるか確認してください。
確認したい補償
- 火災
- 風災・雪災
- 水災
- 水ぬれ
- 盗難
- 建物外部からの物体の衝突
- 個人賠償等の特約
空き家化によって補償条件が変わるか、免責事項が増えないかも確認します。
火災保険の扱いは保険会社・商品・契約内容によって異なります。「空き家なら必ず契約できない」「今の保険をそのまま使える」とは判断せず、現在の保険証券を手元に用意して保険会社または代理店へ確認してください。
入居後は誰がどう空き家を管理する?
老人ホーム入居後に自宅を所有し続けるなら、定期的な管理が必要です。
国土交通省は、空き家を所有し続ける場合、建物の外部・内部の点検、通気・換気、通水、清掃などを定期的に行う必要があると案内しています。
室内で確認すること
- 窓を開けて通気・換気する
- 水回りを確認する
- 排水設備へ通水する
- 雨漏り・カビ・結露がないか見る
- 床や天井に異常がないか確認する
- 害虫・害獣の侵入がないか見る
屋外で確認すること
- 屋根・外壁の破損
- 窓・雨戸の破損
- 庭木の伸び
- 雑草
- ゴミの不法投棄
- 塀・門扉・擁壁の状態
- 郵便受け
台風・地震・大雪の後は臨時点検する
通常の定期管理とは別に、台風、地震、大雪などの後は屋根材、窓、外壁、雨漏り等に異常がないか確認します。
遠方で家族が確認できない場合は、空き家管理業者や修繕業者へ依頼する方法もあります。
管理頻度に全国一律の回数はない
「月1回見れば必ず十分」といった全国一律の回数が決められているわけではありません。
建物の築年数、地域の気候、庭木の有無、近隣環境などに応じて管理内容を決めます。見回り日と異常の有無を記録しておくと、家族間でも状況を共有しやすくなります。
防犯対策は「空き家だと分かりにくくする」だけでは不十分
郵便物をためないことは大切ですが、防犯対策はそれだけではありません。
現金・貴金属を残さない
空き家には、現金、貴金属、通帳、印鑑、個人情報を含む重要書類などをできるだけ残さないようにします。
窓・勝手口・物置まで戸締まりを確認する
玄関だけでなく、窓、勝手口、物置、車庫などを確認します。
古い窓や壊れた鍵がある場合は、入居前に修理しておくと管理しやすくなります。
管理している形跡を保つ
庭木や雑草が伸び放題、郵便物があふれている、破損箇所が放置されている状態は避けます。
防犯だけでなく、近隣への枝の越境や害虫などのトラブルを防ぐためにも、外回りの管理を続けてください。
家族が代わりに管理するなら役割を決めておく
本人が老人ホームに入居すると、実際の空き家管理は家族が担うことも多くなります。
ただし、「近くに住む家族が何となく見る」だけでは、税金や修繕、保険更新などが抜けることがあります。
管理担当を決める
家族内で、少なくとも次の担当を決めておくと管理しやすくなります。
- 現地の見回り
- 郵便物の確認
- 固定資産税等の納付確認
- 火災保険の更新確認
- 修繕業者との連絡
- 近隣からの連絡窓口
所有者本人の意思も確認する
家族が管理を手伝っていても、自宅の所有者が本人であるなら、売却や賃貸など重要な処分を家族だけの判断で進められるとは限りません。
将来、自宅を売却・賃貸する可能性がある場合は、本人が意思表示できるうちに今後の方針を話し合い、必要に応じて司法書士・弁護士などへ相談してください。
空き家管理を業者へ頼む方法もある
老人ホームと自宅が遠い、家族が頻繁に訪問できないなどの場合は、空き家管理サービスを利用する方法があります。
国土交通省も、自分での点検・補修が難しい場合は、空き家管理業者や修繕業者などの利用を検討するよう案内しています。
委託内容を具体的に確認する
業者によってサービス内容は異なります。
| 確認項目 | 見るポイント |
|---|---|
| 巡回 | 頻度、外観のみか室内にも入るか |
| 換気・通水 | 実施箇所と時間 |
| 庭 | 草刈り・剪定が基本料金内か |
| 郵便物 | 回収・転送の範囲 |
| 異常時 | 写真報告、緊急連絡、修繕手配 |
| 災害後 | 台風・地震後の臨時巡回 |
鍵を預ける場合の管理方法も確認する
室内点検を依頼する場合は、業者へ鍵を預けることがあります。
鍵の保管方法、紛失時の対応、担当者以外が利用できるかなども契約前に確認します。
固定資産税と空家法で注意すること
老人ホームへ入居して自宅に住まなくなっても、所有している土地・家屋に対する固定資産税等が自動的になくなるわけではありません。
納税通知書を誰が確認し、どの口座から納付するかを家族内で決めておきます。
空き家になっただけで住宅用地特例が直ちに外れるわけではない
住宅の敷地には住宅用地に対する固定資産税の特例があります。
小規模住宅用地では、固定資産税の課税標準が最大で6分の1になる仕組みがあります。
ただし、この数字は「税額が必ず6分の1になる」という意味ではなく、税額計算の基礎となる課税標準に対する特例です。
管理不全空家等として勧告を受けると特例が外れることがある
2023年12月施行の改正空家法では、適切に管理されず、このまま放置すれば「特定空家」になるおそれがある建物を「管理不全空家」として、市区町村が指導・勧告できる仕組みが設けられました。
市区町村から勧告を受けた管理不全空家や特定空家の敷地は、固定資産税等の住宅用地特例の対象から外れます。
重要なのは「空き家にしたらすぐ税金が上がる」ではなく、「適切な管理を怠り、行政の勧告を受けるような状態まで悪化させない」ことです。
空家法では所有者に適切な管理が求められる
空家等対策の推進に関する特別措置法では、空き家の所有者等に適切な管理へ努める責務が示されています。
老人ホームへ入居したからといって、自宅の管理責任が自動的に自治体や家族へ移るわけではありません。
「管理不全空家」とは
管理不全空家は、適切な管理が行われていないことで、そのまま放置すれば特定空家になるおそれがある空き家です。
たとえば建物の破損や庭木の繁茂などを放置し、周辺への悪影響につながる状態は早めの改善が必要です。
「特定空家」とは
特定空家には、倒壊など著しく保安上危険となるおそれがある状態、著しく衛生上有害となるおそれがある状態、著しく景観を損なっている状態などが含まれます。
状態が悪化すると、市区町村による助言・指導、勧告、命令、代執行等の対象になる可能性があります。
自治体から通知が来たら放置しない
空き家について市区町村から連絡や指導があった場合は、その内容を確認し、必要な補修・清掃・除却等を検討します。
所有者本人が手続きを行うことが難しい場合は、家族だけで抱え込まず、市区町村の空き家相談窓口、空家等管理活用支援法人、不動産・建築の専門家などへ相談します。
空き家をいつまで残すか期限を決める
老人ホームへ入居した直後は、「また自宅へ戻るかもしれない」と考えて、売却を決められないことがあります。
そのため、入居直後に売却しない選択自体は珍しくありません。しかし、期限を決めずに空き家のまま置くと、管理費用、固定資産税、保険料、修繕費が継続し、建物も劣化していきます。
まずは「戻る可能性」を確認する
短期的な入居なのか、長期入居になる見込みなのか、本人・家族・施設側で状況を整理します。
退院後やリハビリ後に自宅へ戻る可能性がある場合は、急いで売却せず維持管理を優先することもあります。
一定期間ごとに方針を見直す
空き家を保有し続ける場合も、定期的に「維持する・売る・貸す・解体する」の選択肢を見直します。
建物の状態が悪くなる前に方針を決めたほうが、売却や賃貸に使える可能性を残しやすくなります。
売却・賃貸へ進む前に本人の意思と権限を確認する
売却・賃貸は日常の空き家管理とは別の手続きです。
所有者、共有者、登記状況、本人の意思確認などが関係するため、具体的に進める段階では不動産会社だけでなく、必要に応じて司法書士、税理士、自治体の空き家相談窓口などへ相談してください。
空き家にするときの手続きと判断の順番
短期保有か長期保有かで、ライフラインや家財整理の方法が変わります。
無人になる前に、盗難や腐敗・漏水につながるものを片付けます。
すべてを解約するのではなく、空き家管理に何を残すか決めます。
家族で難しければ管理業者も検討します。
換気、通水、郵便物、庭、屋根・外壁、雨漏りなどを確認します。
空き家になっても続く支払いを一覧にします。
管理できない状態になる前に次の方針を決めます。
空き家にするときの最終チェックリスト
入居前に済ませること
- □ 貴重品・重要書類を移動した
- □ 冷蔵庫や食品を整理した
- □ 電気を残すか止めるか決めた
- □ ガスの停止手続きを確認した
- □ 水道と通水管理の方法を決めた
連絡・契約を整理すること
- □ 郵便の転送手続きを確認した
- □ 火災保険会社・代理店へ空き家化を相談した
- □ 鍵を管理する人を決めた
- □ 固定資産税等の納付方法を確認した
入居後の管理で決めること
- □ 定期的に換気・通水できる体制を作った
- □ 庭木・雑草・外壁・屋根を確認する人を決めた
- □ 台風・地震後の確認方法を決めた
- □ 自治体からの空き家関係通知を確認できるようにした
- □ 家族で空き家を保有する期限を話し合った
まとめ|空き家は「手続きを終えたら放置」ではなく継続管理が必要
老人ホーム入居後に自宅を空き家として残す場合は、入居前に郵便、ライフライン、保険、家財、鍵を整理し、入居後に誰が定期管理するのか決めておく必要があります。
特に重要なのは、換気・通水・清掃・庭木・郵便物・建物の破損などを継続して確認することです。
空き家になっただけで固定資産税の住宅用地特例が直ちになくなるわけではありませんが、適切に管理されず、市区町村から管理不全空家等として勧告を受けると、住宅用地特例が外れる可能性があります。
家族だけで管理するのが難しい場合は、空き家管理業者や自治体の相談窓口も利用し、「維持する・売る・貸す・解体する」の方針を定期的に見直してください。
制度確認:本記事は2026年10月21日時点で、国土交通省「空家等対策の推進に関する特別措置法」関連資料、空き家管理チェックリスト、政府広報、日本郵便の転居・転送サービス、火災保険会社の通知義務に関する公開資料等を確認して作成しています。実際の税額、保険契約、ライフライン停止方法、自治体の空き家対応は物件・契約・地域によって異なるため、所有する住宅の所在地の市区町村、各契約先へ確認してください。


