認知症があり、暴言や暴力がみられると、「老人ホームには入れないのでは」と心配する家族は少なくありません。
しかし、暴言・暴力があることだけで入居不可と決まるわけではありません。重要なのは、どのような場面で起きるのか、頻度や強さはどの程度か、背景に痛み・不安・せん妄・環境変化などがないかを整理し、その人に合ったケアを行える施設を探すことです。
まず結論|「暴言・暴力があるか」ではなく、原因・頻度・対応方法まで伝えて施設を探す
暴言・暴力がある認知症の人でも、本人の状態と施設の認知症ケア体制が合えば入居できる可能性があります。施設へ伝えるべきなのは、①どのような言動があるか、②頻度と時間帯、③きっかけ、④これまで有効だった対応、⑤けがにつながったことがあるか、⑥医師の診察・薬の状況、⑦せん妄や身体的不調の可能性、です。「暴力あり」と一言で伝えるのではなく、実際の場面を具体的に共有してください。
暴言・暴力がある認知症でも老人ホームに入れるのか
受け入れ可能な施設はありますが、すべての施設が同じ対応をできるわけではありません。
暴言・暴力だけで一律に判断しない
大声で怒鳴ることが週に1回ある人と、毎日他者を殴ってけがをさせる人では、必要な支援体制が異なります。
また、特定の介助時だけ拒否が強い人と、予測できない場面で興奮する人でも対応方法は変わります。
施設側は「安全に生活できるか」を確認する
施設は本人だけでなく、他の入居者や職員の安全も考える必要があります。
そのため、暴言・暴力の有無だけでなく、発生状況、再現性、対応後の落ち着き方などを確認して受け入れ可否を判断します。
POINT
「認知症で暴力があります」とだけ伝えると、実際より重く受け取られることがあります。起きている行動を具体的に伝えるほうが、施設は受け入れ可能性を判断しやすくなります。
暴言・暴力はBPSDとして現れることがある
認知症では、記憶障害などの認知機能低下に加えて、行動・心理症状(BPSD)がみられることがあります。
興奮・不穏・妄想などが背景になることがある
本人が状況を理解できず不安になったり、「物を盗られた」と感じたり、介助されること自体を脅威と感じたりして、怒鳴る・手を払うなどの行動につながる場合があります。
暴言・暴力だけを切り取らず、その前後に本人が何を感じていた可能性があるかを見ることが大切です。
BPSDには身体・環境要因が関係することもある
厚生労働省の資料では、BPSDの要因として、身体症状、孤立・不安、不適切な環境やケア、睡眠・生活リズムの乱れなどにも目を向けることが重要とされています。
暴言・暴力が急に増えた場合は、認知症そのものの進行だけでなく、別の原因がないか確認する必要があります。
急に暴力が増えたときは身体不調やせん妄を確認する
以前は穏やかだった人が突然攻撃的になった場合は、介護方法だけでなく医療的な評価も重要です。
痛み・便秘・脱水などを確認する
厚生労働省のBPSD資料では、暴言・暴力への対応として、疼痛、便秘、脱水など本人が訴えられていない苦痛がないか確認することが示されています。
言葉で「痛い」と伝えられない人では、介助への抵抗として現れる場合があります。
せん妄の可能性を確認する
感染症、薬の影響、入院、睡眠不足などをきっかけにせん妄が起こり、急に興奮や混乱が強くなることがあります。
急激な変化があるときは、主治医へ相談し、必要に応じて原因を評価してもらってください。
施設へ伝えるべき「暴言・暴力」の内容
受け入れ相談では、抽象的な表現を避けて具体的に伝えます。
01
どのような言動があるか
怒鳴る、悪口を言う、手を払う、叩く、蹴る、物を投げるなど、実際に起きている行動を伝えます。
「暴力的です」という言葉だけでは、施設側が必要な支援量を判断しにくくなります。
02
どのくらいの頻度で起こるか
毎日なのか、週に数回なのか、月に数回なのかを整理します。
1回あたりどの程度続くのかも伝えると、施設側が対応を想定しやすくなります。
03
どんな場面で起こるか
入浴、排泄、着替え、服薬、食事、夜間など、起こりやすい場面を伝えます。
特定の職員・家族に対して起こりやすいなど、人との関係性も重要な情報です。
04
けがにつながったことがあるか
本人・家族・職員・他の利用者がけがをしたことがある場合は、程度も含めて正確に伝えます。
受け入れ判断に不利になりそうだからと隠すと、入居後の安全確保が難しくなる可能性があります。
これまで有効だった対応を施設へ伝える
問題行動の説明だけでなく、落ち着きやすい対応方法も重要です。
声かけの仕方
正面からゆっくり説明すると落ち着く、複数人で囲むと興奮するなど、本人に合う声かけを共有します。
家族や在宅介護職員が試して効果があった方法は、施設にとって有用な情報になります。
時間を置くと落ち着くか
介助を拒否したとき、無理に続けず10分後に再度声をかけると受け入れられる人もいます。
「今すぐ介助を完了させる」より、本人のペースを優先することで行動が落ち着く場合があります。
好みや生活歴を伝える
好きな音楽、仕事歴、生活習慣、苦手なことなどは、本人中心のケアを考える手がかりになります。
暴言・暴力だけで本人を説明せず、普段の性格や安心できる環境も施設へ伝えてください。
認知症ケアに慣れた施設か確認する
施設名や種別だけでなく、実際の認知症ケア体制を確認します。
認知症のある入居者の割合・受け入れ経験
認知症の人を日常的に受け入れているか、BPSDがある人への対応経験があるかを聞きます。
経験が多い施設では、声かけや環境調整などの選択肢を持っている場合があります。
認知症介護研修を受けた職員がいるか
厚生労働省は、本人主体の認知症ケアやBPSDの予防・対応のため、認知症介護実践者研修等を推進しています。
施設見学時には、認知症ケアの研修体制や、困難事例を職員間で検討する仕組みがあるか確認してください。
職員個人ではなくチームで対応しているか
一人の職員だけが対応方法を知っている状態では、勤務交代時にケアが変わってしまいます。
ケア方法を記録・共有し、職員全体で同じ方向性を持っている施設か確認してください。
施設見学では環境面も確認する
BPSDは周囲の環境の影響を受けることがあります。
音・人の多さを確認する
テレビ音、人の出入り、食堂の混雑など、刺激が多い環境で不穏になる人もいます。
本人が静かな環境を好む場合は、居室位置や共用部の雰囲気を確認してください。
落ち着ける場所があるか
興奮したときに人から離れて落ち着ける場所があるか確認します。
本人を罰として隔離するのではなく、安心できる環境へ移動できるかという視点で見てください。
生活リズムを尊重できるか
起床、食事、入浴などを一律に進める施設より、本人の状態に合わせて時間を調整できる施設のほうが合う場合があります。
特定の介助時間に暴力が起きる人では、スケジュール調整ができるかも確認してください。
グループホームが合う場合もある
認知症のある人では、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)が候補になることがあります。
少人数の生活環境が合う人もいる
グループホームは認知症の人を対象とした地域密着型サービスで、少人数で共同生活を行います。
大規模施設の刺激が負担になる人では、落ち着きやすい場合があります。
暴力が強ければ必ず入れるわけではない
認知症専門の施設でも、他の入居者や職員へ重大な危険が続く場合などは受け入れが難しいことがあります。
認知症専門だから無条件に対応できると考えず、本人の実際の状態を伝えて個別に確認してください。
医療機関との連携体制を確認する
BPSDが強い人では、介護だけでなく医療との連携が必要になる場合があります。
主治医へ相談できる体制
急に興奮が増えた場合や、睡眠・食事・体調が変わった場合に、施設から主治医へ相談できるか確認します。
訪問診療を利用している施設では、どの程度の頻度で診察を受けられるかも確認してください。
認知症疾患医療センター等との連携
認知症疾患医療センターは、認知症の鑑別診断やBPSD、身体合併症に対する専門医療相談等の役割を担っています。
対応が難しい場合に、施設・主治医から専門医療へつなげられる体制があると安心です。
薬だけで抑える施設ではないか確認する
BPSDへの対応では、薬物療法だけに頼らず、原因の評価と非薬物的な対応を検討することが重要です。
まず原因を探る姿勢があるか
疼痛、便秘、不安、騒音、介助方法など、本人が興奮する背景を確認しているか聞きます。
「暴れたら薬」という一律の対応ではなく、ケアや環境調整を検討する施設か確認してください。
薬の変更は医師が判断する
施設職員の判断だけで向精神薬を追加・増量するものではありません。
薬が必要な場合は、主治医等が本人の状態や副作用を考慮して判断します。
暴言・暴力を「性格の問題」だけで片付けない
認知症に伴う暴言・暴力には、身体的不調、せん妄、不安、環境刺激、介助方法などが関係する場合があります。急な悪化や強い興奮がある場合は、介護だけでなく医療的な評価も検討してください。
身体拘束を前提にする施設ではないか確認する
暴力や転倒リスクがあるからといって、本人の行動を安易に制限してよいわけではありません。
安全確保と本人の尊厳の両方を見る
他者への危険を減らす必要はありますが、本人の自由や尊厳にも配慮した対応が必要です。
施設へは、興奮時にどのような手順で安全を確保し、職員間で対応を共有するのかを確認してください。
普段のケアで予防しているかを見る
本人が興奮してから力で抑えるのではなく、環境調整、声かけ、介助時間の変更などで予防する姿勢があるか確認します。
見学時には、職員が認知症の入居者へどのように接しているかも重要な判断材料です。
他の入居者とのトラブル歴を伝える
共同生活では、本人と他の入居者との関係も重要です。
特定のタイプの人とトラブルになるか
大声の人が苦手、他人が自分の物に触れると怒るなど、対人関係の特徴を伝えます。
居室位置や食席を調整することでトラブルを減らせる場合があります。
過去のけが・事故を隠さない
他人を叩いてけがをさせたことがある場合は、経緯を含めて正確に伝えてください。
入居後に初めて判明すると、施設側が想定した体制では対応できず、本人にとっても急な住み替えにつながることがあります。
夜間に興奮しやすい場合は夜勤体制を確認する
昼間は落ち着いていても、夕方から夜間に不穏が強くなる人もいます。
夜勤職員数を確認する
夜間にどの程度の人数で何人の入居者を見ているか確認します。
夜間に個別対応が必要な人では、少人数の夜勤体制で十分に対応できるかを確認してください。
夜間の医療連絡体制を確認する
急な興奮、転倒、体調変化があった場合に、看護師や医師へ連絡できる体制があるか聞きます。
夜間看護師が不在の場合は、オンコールや救急受診の流れを確認してください。
入居相談時に施設へ伝える情報
暴言・暴力について伝えておきたいこと
- 具体的にどのような言動があるか
- 頻度
- 1回あたりの持続時間
- 起きやすい時間帯
- 起きやすい介助場面
- きっかけになりやすい言葉・環境
- 本人・他者のけが歴
- 自己傷害の有無
- これまで有効だった対応
- 逆に悪化しやすい対応
- 認知症の診断名・主治医
- 服薬内容
- 急な症状変化の有無
- せん妄・身体疾患の既往
- 入院歴・専門医受診歴
見学・面談で施設へ聞きたい質問
受け入れ体制を確認する質問
- BPSDがある認知症の人の受け入れ実績はありますか
- 暴言・介助拒否がある人にはどのように対応していますか
- 他者を叩く行動が出た場合はどう対応しますか
- 認知症介護の研修を受けた職員はいますか
- ケア方法を職員間でどう共有していますか
- 夜間に興奮した場合は何人で対応しますか
- 主治医・訪問診療へ相談できる体制はありますか
- 認知症専門医へつなぐことはできますか
- 家族への連絡基準はありますか
- どの程度の暴力になると継続入居が難しくなりますか
- 退去を検討する場合はどのような手順ですか
- 状態が悪化したときに住み替え先探しを支援してもらえますか
「受け入れ可」という返事だけで決めない
空室があるから受け入れ可能というだけでは、長く生活できるか分かりません。
本人の具体的な状況を説明したうえで回答してもらう
電話で「認知症で暴力がありますが入れますか」と聞くだけでは、正確な判断はできません。
診療情報、ケアマネジャーや現在の施設・病院からの情報を共有し、面談・実態確認を経て判断してもらうことが重要です。
退去条件まで確認する
入居時は対応可能でも、行動が強くなった場合に退去を求められる可能性があります。
どのような状態で継続困難と判断するのか、契約書・重要事項説明書と施設の説明を確認してください。
入居後に暴言・暴力が増えた場合の対応を確認する
環境が変わることで、一時的に不安や混乱が強くなる人もいます。
入居直後の変化を観察する
新しい場所、人、生活リズムに慣れるまで時間がかかる場合があります。
入居直後の行動だけで本人を評価せず、慣れるための支援を施設と相談してください。
急激な悪化は医療評価につなげる
発熱、便秘、疼痛、脱水、睡眠不足などが背景にある可能性があります。
普段と明らかに違う場合は、主治医・看護師等へ相談して原因を確認します。
ケア方法を家族と施設で見直す
どの場面で増えたか、職員によって差があるか、環境刺激が強くないかを一緒に振り返ります。
対応方法を記録し、施設全体で共有してもらうことが重要です。
施設を比較するときの優先順位
01
行動の原因を考える認知症ケアがある
暴言・暴力を単に「問題行動」として抑えるのではなく、背景にある不安・痛み・環境要因を考える施設を優先します。
本人中心のケアを実践しているか、具体的な対応例を聞いてください。
02
職員全体で対応方法を共有できる
特定の職員だけに頼らず、チームとして対応できることが重要です。
夜勤・休日も含めて同じ方針でケアできるか確認します。
03
医療と連携して状態変化へ対応できる
急な興奮や身体不調があった際に、主治医や専門医へつなげられる施設を選びます。
介護だけで抱え込まない体制があることが重要です。
まとめ|暴言・暴力がある認知症の施設選びは「行動の背景」と「対応力」を見る
認知症による暴言・暴力があっても、本人の状態と施設の認知症ケア体制が合えば入居できる可能性があります。
重要なのは、「暴力がある」という一言で判断せず、どの場面で、どの程度、何をきっかけに起きるのかを具体的に整理することです。
また、暴言・暴力には疼痛、便秘、脱水、せん妄、不安、環境刺激などが関係する場合があるため、急な変化があるときは医療的な評価も必要です。
「暴言・暴力がある人を受け入れていますか」ではなく、「本人にはこのような行動があり、この対応で落ち着きます。施設ではどう支援できますか」と具体的に相談することが、本人に合う老人ホームを見つけるためのポイントです。