終末期に入り、これまで食べていた本人がほとんど食事を取れなくなると、家族は「このままで大丈夫なのか」「何とか食べさせた方がよいのでは」と強い不安を感じることがあります。
ただし、人生の最終段階では、体の変化に伴って食欲や水分摂取量が自然に低下していくことがあります。大切なのは、無理に食べさせることではなく、本人の苦痛を減らし、食べられる範囲で口からの楽しみを残しながら、医師・看護職員・介護職員・家族で今後の方針を話し合うことです。
まず結論|食べられなくなったら「量を増やす」より、原因と本人の苦痛を確認する
終末期に食事量が低下したときは、病状の進行による自然な変化なのか、口の痛み、便秘、吐き気、嚥下機能低下など別の原因がないかを確認します。そのうえで、本人が食べられる形・量・時間を探し、口腔ケアや苦痛緩和を続けます。厚生労働省の看取り支援資料でも、看取り期には食事や水分摂取量が低下することがあり、その変化について家族へ丁寧に説明することが示されています。本人の意思を中心に、点滴や経管栄養を含む医療・ケアの方針を医療・ケアチームと話し合うことが重要です。
終末期に食べられなくなるのは珍しいことではない
人生の最終段階では、体の代謝や活動量が低下し、食事や水分を以前と同じ量だけ必要としなくなることがあります。
厚生労働省の看取り支援資料でも食事量低下が示されている
厚生労働省が公開している特別養護老人ホームの看取り支援資料では、看取り期に食事や水分摂取量が低下してくることについて、家族が過度な不安を抱かないよう、自然な変化であることを伝えるよう示されています。
ただし、すべての食事量低下を「終末期だから」と決めつけるのではなく、本人の病状や原因を医療職と確認することが必要です。
まず「なぜ食べられないのか」を確認する
食べられなくなった理由によって、施設でできる対応は変わります。
01
病状の進行
全身状態の低下に伴い、食欲そのものが弱くなっている場合があります。
02
嚥下機能の低下
飲み込む力が弱くなり、むせや誤嚥の危険が高まって食べにくくなる場合があります。
03
口の痛み・義歯の問題
口内炎、歯の痛み、合わない義歯などで食べられない場合があります。
04
吐き気・便秘・痛み
身体的な不快感が食欲低下の原因になっている場合があります。
05
認知症・意識状態の変化
食べ物を認識しにくい、食べる動作が分からない、眠っている時間が長くなるなどの変化があります。
無理に食べさせることを前提にしない
家族は「一口でも多く食べてほしい」と願いますが、本人が強く拒否している場合や、飲み込む力が低下している場合に無理に食べさせると、むせや誤嚥につながることがあります。
量より本人の負担を見る
食事量を目標にするのではなく、本人が苦しそうではないか、疲れていないか、飲み込みに時間がかかっていないかを見ます。
眠っているときに無理に起こさない
覚醒が低い状態では安全に飲み込めないことがあります。食べるタイミングは本人の状態に合わせます。
「食べない=家族や施設の努力不足」ではない
終末期では、適切に支援していても食事量が減ることがあります。本人の身体が変化している可能性を理解し、医療職から説明を受けることが大切です。
POINT
終末期の食事では「どれだけ食べたか」より、「本人が苦痛なく、口から楽しめる範囲で食べられたか」を重視します。
食べられる時間帯を探す
一日の中でも、本人の覚醒状態や体調によって食べやすい時間帯が違うことがあります。
朝は食べられないが昼は食べられる
決まった食事時間にこだわらず、本人が比較的目を開けている時間に少量ずつ試せるか確認します。
一度に一食分を出さない
少量を何回かに分けることで、本人の負担を減らせる場合があります。
本人のペースを待てるか
飲み込みに時間がかかる人へ次々と口へ運ばず、一口ごとの反応を見ながら介助できるかが重要です。
好物を少量楽しめる場合がある
栄養量を確保することが難しくなっても、本人が好むものを少量楽しめる場合があります。
好きだった味を確認する
プリン、アイス、果物、飲み物など、本人が以前から好んでいたものを家族から施設へ伝えます。
持ち込み可能か確認する
施設によって食品持ち込みのルールがあります。衛生管理や本人の嚥下状態を確認したうえで相談してください。
安全に食べられる形へ調整する
好きな食品でも、そのままでは飲み込みにくい場合があります。必要に応じて形態や量を調整します。
食形態を見直す
噛む力や飲み込む力が低下している場合は、食事の形を変えることで口から食べ続けられる場合があります。
やわらか食・ペースト食などを検討する
本人の嚥下状態に応じて、やわらかい食事やペースト状の食事などへ変更します。
刻めば安全とは限らない
細かく刻んだ食事は、本人によっては口の中でまとまりにくく、飲み込みにくいことがあります。
嚥下状態を確認して決める
医師、歯科医師、看護職員、言語聴覚士等と相談し、本人に合う形を検討してください。
水分が取れなくなったときも無理に飲ませない
終末期では、食事だけでなく水分を飲む量も減ることがあります。
むせる場合は嚥下状態を確認する
水やお茶でむせる場合は、とろみや一口量などの調整が必要になる場合があります。
覚醒が悪いときの飲水に注意する
眠気が強い、反応が弱い状態では、安全に飲み込めないことがあります。
飲水量だけを家族の目標にしない
どの程度の水分補給が本人にとって適切かは、病状や苦痛、本人の希望によって異なります。
口から飲めなくても口腔ケアは続ける
食事や水分がほとんど取れなくなっても、口腔ケアは大切です。
口の乾燥を和らげる
口腔内が乾燥すると、口の不快感が強くなる場合があります。
汚れを取り除く
歯、義歯、舌、粘膜などを本人の負担が少ない方法で清潔に保ちます。
本人の苦痛に合わせる
強く口を開けさせるのではなく、本人の反応を見ながら短時間で行うなど方法を調整します。
「点滴をすれば元気になる」とは限らない
本人が食べたり飲んだりできなくなると、家族は点滴を希望することがあります。
点滴の利益と負担は本人の状態で変わる
脱水などで一時的な改善が期待できる場合もあれば、人生の最終段階では点滴が本人の状態改善につながらない場合もあります。
むくみ・痰などへの影響も含めて医師へ確認する
本人の病状によっては、水分を多く入れることで負担になる可能性もあります。
家族だけで判断しない
「点滴をしないとかわいそう」「点滴は延命だからしない」と一律に決めず、本人の場合に期待できる効果と負担を医師から説明してもらってください。
胃ろう・経管栄養をどう考えるか
口から十分に食べられなくなった場合、経管栄養について説明を受けることがあります。
終末期だから必ず経管栄養になるわけではない
経管栄養を行うかどうかは、本人の病状、回復可能性、本人の希望、医学的な利益と負担などを考えて判断します。
本人の価値観を中心に話し合う
「できるだけ口から食べたい」「負担の大きい処置は望まない」など、本人が以前話していたことがあれば医療・ケアチームへ伝えてください。
家族だけで決断を背負わない
医師、看護職員、介護職員等から説明を受け、本人にとって最もよい方針を一緒に考えます。
本人の意思を中心に医療・ケアを決める
厚生労働省の「人生会議」では、もしものときに望む医療やケアについて本人が前もって考え、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合い、共有することが重視されています。
本人が意思を伝えられる場合
食事、点滴、入院、救急搬送などについて、本人がどう考えているかを確認します。
本人が意思を伝えられない場合
これまで本人が話していたこと、価値観、生活歴などから本人の意思を推定し、医療・ケアチームと話し合います。
一度決めても見直してよい
本人の気持ちや病状は変化します。方針は必要に応じて何度でも見直すことができます。
食べられないときの苦痛を確認する
終末期のケアでは、「栄養を入れるかどうか」だけでなく、本人が苦しくないかを見ることが重要です。
痛み
がん、褥瘡、関節痛など、食欲低下につながる痛みがないか確認します。
吐き気
病気や薬の影響で吐き気がある場合は、医師へ相談します。
呼吸苦
息苦しい状態では食べること自体が大きな負担になります。
口の乾燥・不快感
食べられなくても、口腔ケアや保湿で不快感を和らげられる場合があります。
看取りを選んだから「何もしない」わけではない
食事量が減っても、痛みや呼吸苦の緩和、口腔ケア、清潔ケア、体位調整、本人への声かけなど、本人の苦痛を減らすためのケアは続きます。
家族が食事介助をするときに確認したいこと
家族が面会時に本人へ食べさせたいと希望する場合は、施設職員へ相談してから行います。
現在安全に食べられる形を聞く
入居時と現在では嚥下状態が変わっている場合があります。
一口量を確認する
本人に合ったスプーン量や飲み込みを待つ時間を教えてもらいます。
食べられないときは無理をしない
口を閉じる、顔をそむける、眠ってしまうなどの反応がある場合は中止し、施設職員へ相談してください。
家族が持ってきた食べ物を食べてもらえる?
本人の好物を持参したいと考える家族もいます。
施設の持ち込みルールを確認する
感染対策や食品衛生のため、持ち込み可能な食品や保管方法にルールがある場合があります。
現在の嚥下状態に合うか確認する
以前好きだった餅、せんべい、果物などが、現在の状態では危険になる場合があります。
少量から試す
本人の反応を見ながら、無理なく楽しめる量にします。
「食べる楽しみ」を残す工夫
栄養摂取が主目的ではなくなっても、味や香りを楽しめることがあります。
好きな味を少量口にする
本人が安全に飲み込める場合は、好みの食品や飲み物を少量楽しめることがあります。
口元を湿らせる
飲み込むことが難しい場合でも、医療職の指示のもと口腔内の乾燥を和らげるケアを行います。
香りや会話を大切にする
家族が食事の時間にそばに座り、本人が好きだった食べ物の話をするなど、食卓の時間そのものを大切にする方法もあります。
家族が「食べさせられなかった」と自分を責めないよう支援してもらう
食事量の低下は、家族にとって非常につらい変化です。
家族は「食べること=生きること」と感じやすい
食べない本人を見て、何もしてあげられないと感じることがあります。
施設から経過を説明してもらう
厚生労働省の看取り支援資料でも、看取り期には想定される経過や状態について具体的に説明し、家族の気持ちの揺れに対応することが示されています。
本人のそばにいることも大切なケア
食べさせることだけが家族にできることではありません。手を握る、声をかける、好きな音楽を流すなど、本人が安心できる関わりがあります。
医師から今後の見通しを聞く
食事が取れなくなったときは、今後どのような変化が予想されるかを医師から説明してもらうことが重要です。
回復の可能性がある状態か
感染症や便秘など改善可能な原因による食欲低下なのか、病状の進行によるものなのかを確認します。
どの程度の期間が予想されるか
正確な日数を予測できるとは限りませんが、医師から大まかな見通しを聞くことで家族が準備しやすくなります。
急変時の方針を確認する
呼吸状態の悪化や意識低下があった場合に、施設で看取るのか、医療機関へ搬送するのかを話し合います。
施設でできること・できないことを確認する
看取り対応をしている老人ホームでも、医療体制は同じではありません。
夜間の看護体制
看護職員が夜間も施設内にいるのか、オンコールなのかを確認します。
訪問診療
看取り期に医師がどのように関わるのか、定期診療・臨時往診・夜間連絡を確認します。
点滴等の対応
点滴などの処置を施設で行えるか、訪問看護を利用するのか、必要時は入院するのかを確認してください。
酸素・吸引など
呼吸状態の変化に伴って医療ケアが増えた場合の対応範囲も確認します。
救急搬送について事前に話し合う
終末期では、急変時に救急搬送を希望するかどうかも重要な話し合いになります。
搬送した場合に何が期待できるかを医師へ聞く
検査や治療で回復が期待できるのか、本人への負担が大きいのかを説明してもらいます。
慣れた施設で過ごす選択もある
本人が施設での看取りを希望し、施設の体制が整っている場合は、慣れた環境で症状緩和を受けながら過ごす選択肢があります。
一律に「搬送しない」と決めない
転倒、窒息など、本人の苦痛を減らすために医療機関での対応が必要になる状況もあります。
食事量・水分量の変化を家族へ共有してもらう
家族が毎日面会できない場合、本人の変化を施設から伝えてもらえると安心につながります。
食事摂取量
何割食べたかだけでなく、好きな物なら食べた、今日は口を開けなかったなど具体的な様子を共有してもらいます。
水分量
どの程度飲めているか、むせが増えていないかを確認します。
覚醒・会話の変化
眠る時間が増えた、会話が少なくなったなど、食事以外の変化も重要です。
本人が意思を示せるうちに確認しておきたいこと
終末期の食事・医療について話し合いたいこと
- できるだけ口から食べたいか
- 食べられなくなったとき何を大切にしたいか
- 点滴をどう考えるか
- 経管栄養をどう考えるか
- 入院を希望するか
- 施設での看取りを希望するか
- 救急搬送についての希望
- 苦痛を減らすことをどの程度優先したいか
- 家族にそばにいてほしいか
家族が施設へ確認したいチェックリスト
本人が食べられなくなったときの確認事項
- 食事量低下の原因を医師へ確認したか
- 現在の嚥下状態
- 食べられる食形態
- 水分のとろみの必要性
- 好物の持ち込み可否
- 食事時間を柔軟に変更できるか
- 少量頻回で対応できるか
- 口腔ケア・口腔保湿
- 痛み・吐き気・呼吸苦への対応
- 点滴を行う場合の目的と負担
- 経管栄養についての方針
- 夜間の看護体制
- 訪問診療・臨時往診
- 救急搬送の方針
- 家族への連絡基準
- 看取り時の面会・付き添い
看取り期は方針を何度でも見直してよい
食べられなくなった当初と、数日後・数週間後では、本人の状態や家族の気持ちが変わることがあります。
本人の意思が変わる場合
以前は「入院したくない」と話していても、その時点で本人が別の希望を示すことがあります。
家族の気持ちが揺れることも自然
点滴を希望したり、やはり施設で穏やかに過ごしてほしいと思ったり、家族の気持ちは揺れることがあります。
多職種で繰り返し話し合う
厚生労働省は人生の最終段階の医療・ケアについて、本人の意思決定を基本に、家族等や医療・ケアチームと繰り返し話し合うことを重視しています。
まとめ|食べられなくなったときは「食べさせる量」より本人の苦痛と希望を見る
終末期に本人が食べられなくなると、家族は強い不安を感じます。しかし、看取り期には食事や水分の摂取量が自然に低下していくことがあります。
厚生労働省の看取り支援資料でも、看取り期の食事・水分摂取量低下について家族へ丁寧に説明し、本人・家族がその変化を受け止められるよう支援することが示されています。
大切なのは、無理に食べさせることではありません。痛み、吐き気、便秘、口腔内の問題、嚥下機能など改善可能な原因がないか確認し、そのうえで本人が食べられる形・量・時間で支援します。
食べられなくなっても、口腔ケア、口の乾燥を和らげること、痛みや呼吸苦を軽くすること、安心できる声かけなど、施設で続けられるケアはあります。
点滴、経管栄養、救急搬送などについては、家族だけで決めるのではなく、本人の意思を中心に医師・看護職員・介護職員等と話し合ってください。本人ができるだけ苦痛なく、その人らしく過ごせることを最優先に考えることが大切です。