老人ホームへの入居が決まったら、施設との契約や引っ越し準備だけでなく、主治医への相談も早めに行っておきたい手続きの一つです。
特に、持病がある人、定期通院を続けている人、複数の薬を服用している人、医療処置が必要な人は、入居後も治療を途切れさせないための準備が重要になります。
主治医への相談では、単に「老人ホームへ入ります」と伝えるだけでなく、現在の病状、今後起こり得る変化、継続が必要な治療・薬、受診先を変えてよいか、施設へ渡す医療情報は何かまで確認します。
まず結論|入居前に「治療をどう引き継ぐか」を主治医と確認する
老人ホーム入居前には、現在の病気・服薬・必要な医療処置・通院頻度・急変時の注意点を主治医へ確認し、施設側へ正確に引き継げるよう準備します。通院を継続するのか、訪問診療へ切り替えるのか、協力医療機関へ変更するのかも事前に検討してください。診療情報提供書や薬剤情報が必要な場合は、施設の指定様式・提出期限を確認してから主治医へ依頼するとスムーズです。
老人ホーム入居前に主治医へ相談する理由
老人ホームへ移ると、生活環境だけでなく、医療の受け方も変わることがあります。
現在の治療を途切れさせないため
高血圧、糖尿病、心疾患、認知症などで定期的な治療を受けている人は、入居後も継続的な診療や服薬が必要です。
転居先が遠い場合、これまでの病院へ通い続けるのが難しくなることもあります。
施設が対応できる医療内容を確認するため
本人にインスリン、在宅酸素、経管栄養、たん吸引、褥瘡処置などが必要な場合、施設側がその対応を継続できるか確認する必要があります。
入居審査に必要な医療情報を準備するため
施設によっては、診療情報提供書、健康診断書、薬剤情報などの提出を求めることがあります。
POINT
主治医への相談は、施設に提出する書類を作ってもらうだけではありません。入居後の治療方針と、施設が支援できる範囲をつなぐための確認です。
まず主治医へ老人ホーム入居予定を伝える
候補施設がある程度決まったら、主治医へ老人ホームへの入居予定を伝えます。
入居予定日・施設名を伝える
入居時期が決まっている場合は予定日を伝えます。
施設名や所在地が分かれば、現在の病院への通院継続が現実的かも相談しやすくなります。
施設の医療体制も伝える
看護職員の配置時間、訪問診療の有無、協力医療機関など、分かっている範囲で施設側の医療体制を伝えます。
現在の治療をその施設で継続できるか、主治医の立場から注意点を聞いてください。
現在の病気と今後の見通しを確認する
施設選びでは、現在の状態だけでなく、今後必要になる可能性のある支援も重要です。
病状が安定しているか確認する
現在の病気が安定しているのか、近いうちに治療内容が変わる可能性があるのかを確認します。
今後必要になる可能性が高い医療処置を聞く
現在は不要でも、病状の進行により在宅酸素、注射、経管栄養などが必要になる可能性がある場合は、その見通しを聞きます。
将来の変化が予想される場合、入居予定施設がその状態まで対応できるか確認しておくと、短期間での住み替えを防ぎやすくなります。
入居後も今の主治医へ通院できるか確認する
長年診てもらっている主治医を変えたくない人もいます。
距離と通院手段を確認する
施設から現在の病院までの距離、本人の移動能力、車いす利用の有無などを踏まえ、通院を続けられるか考えます。
施設の通院支援を確認する
施設職員が付き添えるのか、家族同行が必要なのか、介護タクシー等を利用するのかを確認します。
主治医側が継続診療できるか確認する
本人が施設へ移った後も現在の病院で診療を続けられるか、主治医へ確認します。
通院が難しい場合は、紹介先を相談します。
訪問診療へ切り替える場合に確認すること
施設入居を機に、外来通院から訪問診療へ切り替えるケースもあります。
施設の訪問診療先を確認する
施設が特定の医療機関と連携し、定期的な訪問診療を受けられる体制を整えている場合があります。
現在の主治医から情報を引き継ぐ
診療先が変わる場合、病歴、治療経過、検査結果、薬、今後の注意点などを新しい医師へ伝える必要があります。
診療情報提供書などを使って引き継ぐことがあります。
専門医への通院が残る場合もある
訪問診療を利用しても、眼科、整形外科、がん治療など一部の診療は専門医への通院が必要になる場合があります。
訪問診療へ切り替えればすべての通院が不要になるとは限りません。
診療情報提供書が必要か確認する
施設や新しい医療機関へ医療情報を引き継ぐため、診療情報提供書の提出を求められることがあります。
施設指定の様式がないか先に確認する
主治医へ作成依頼をしてから「指定様式が必要だった」と分かると、再作成が必要になる場合があります。
先に施設へ書式・提出期限を確認してください。
必要な情報を施設と主治医でそろえる
病名、既往歴、治療経過、現在の処方、医療処置など、施設が確認したい内容を主治医へ伝えます。
診療情報提供書は医療連携のための資料
厚生労働省の資料でも、診療情報提供書や退院時サマリーなどは、医療機関間で診療・治療・ケアを適切に連携・継承するための情報共有に使われています。
服薬内容を整理する
施設入居では、薬の引継ぎが非常に重要です。
現在飲んでいる薬を一覧にする
薬の名前、用量、服用時間を確認します。
処方薬だけでなく、他院からの薬や市販薬を使用している場合も伝えます。
お薬手帳・薬剤情報を準備する
厚生労働省の高齢者の医薬品適正使用に関する指針でも、療養環境が変わる際には、お薬手帳や診療情報提供書などを用いて服薬情報を共有することが示されています。
自己判断で薬を整理しない
荷物を減らすために余っている薬を捨てたり、本人・家族の判断で服用を中止したりせず、主治医や薬剤師へ確認してください。
薬が多い場合は見直しを相談する
高齢者では、複数の病気を治療するため多くの薬を服用していることがあります。
薬の重複・副作用を確認する
複数の医療機関へ通っている場合、同じ作用の薬が重なっていないか、眠気やふらつきなどが出ていないかを確認します。
「薬が多いから減らす」と自己判断しない
必要な薬まで急に中止すると、病状が悪化することがあります。
入居を機に薬を整理したい場合は、主治医・薬剤師へ相談します。
施設で管理しやすい服薬方法も相談できる
本人の状態によっては、服用回数や薬のまとめ方について医師・薬剤師と相談できる場合があります。
入居時に持参する薬の日数を確認する
新しい施設・医療機関へ移る際、手元の薬が足りなくなると治療が途切れる可能性があります。
次回診察まで必要な薬を確認する
入居直後に新しい医師の診察を受けられるとは限りません。
施設へ、入居時に何日分の薬を持参すべきか確認してください。
処方時期は主治医へ相談する
通常の診察日と入居日が合わない場合、どのタイミングで受診・処方を受けるか相談します。
必要な医療処置を具体的に伝える
医療処置がある場合は、処置名だけでなく実際の方法・時間帯・頻度まで整理します。
主治医へ確認したい医療情報
- 処置の名称
- 1日に何回必要か
- 何時頃に必要か
- 看護職員による対応が必要か
- 本人自身でできる部分はあるか
- 状態悪化時の判断基準
- 救急受診が必要になる目安
施設側にも同じ情報を伝え、「対応可能」と言われた内容が実際の看護職員配置時間と合っているか確認します。
食事・嚥下について相談する
むせ、誤嚥、食欲低下がある人は、入居前に食事形態についても確認します。
現在の食事形態を伝える
常食、刻み食、ソフト食、ミキサー食など、現在どの形態で食べているか施設へ伝えます。
とろみの必要性を確認する
飲み物へとろみを付けている場合は、その理由や程度を共有します。
嚥下評価が必要か相談する
最近むせが増えた、食事量が落ちたなどの変化があれば、主治医へ相談し、必要に応じて専門的な評価につなげます。
糖尿病がある場合に確認したいこと
糖尿病でインスリン注射や血糖測定が必要な場合、施設の看護体制と密接に関係します。
注射する時間帯を確認する
看護職員の配置時間とインスリンの実施時間が合うか確認します。
低血糖時の対応を確認する
どのような症状が出る可能性があり、発生時にどう対応するかを主治医から確認して施設へ共有します。
食事量が変わったときの対応も確認する
入居直後は環境変化で食事量が変わることがあります。
食事摂取量と薬・インスリンの関係について、施設側がどのように主治医へ連絡するか確認してください。
認知症の薬・精神科薬についても共有する
認知症や不眠、不安などの薬を服用している場合、施設へ正確に伝えます。
薬を飲む目的を確認する
何の症状に対して処方されているのかを主治医へ確認します。
副作用として見てほしい症状を聞く
眠気、ふらつき、食欲低下など、施設職員に観察してほしい点を共有します。
環境変化で症状が変わる可能性を考える
老人ホーム入居に伴う環境変化によって、混乱や不安が強くなる人もいます。
本人に起こりやすい変化や、その際の対応について主治医と施設へ相談します。
急変時にどのような対応を希望するか考える
高齢者施設では、発熱、転倒、呼吸状態の悪化など、急な体調変化が起こることがあります。
救急搬送の目安を確認する
本人の病気について、どのような症状があれば緊急受診すべきかを主治医へ確認します。
治療について本人の希望を確認する
本人が意思を表明できるうちに、今後どのような医療・ケアを希望するか家族と話し合っておくことも重要です。
施設の急変時対応と照合する
夜間の連絡体制、協力医療機関、救急搬送、家族への連絡方法を施設へ確認し、主治医からの注意事項と共有します。
看取りを希望する場合は早めに相談する
本人・家族が最期まで施設で暮らしたいと考えている場合、入居時から確認しておくことがあります。
施設の看取り方針を確認する
「看取り対応あり」という表示だけでなく、医師・看護職員との連携、夜間対応、状態悪化時の方針を確認します。
本人の意向を主治医にも伝える
今後の治療・ケアについて本人が大切にしていることを共有します。
意向は一度決めたら固定するのではなく、本人の状態や気持ちに応じて見直します。
歯科・眼科など他科の受診も整理する
「主治医」として内科だけを考えると、入居後に必要な受診を見落とすことがあります。
現在通っている医療機関を一覧にする
内科、整形外科、眼科、歯科、精神科など、現在利用している医療機関を整理します。
入居後も継続が必要か確認する
定期検査や治療が必要な診療科について、施設から通院できるか確認します。
訪問歯科などへ切り替えられる場合もある
施設に訪問歯科等の連携先がある場合、本人の状態によって利用を検討できます。
主治医へ相談するときに持参したい情報
診察時に整理しておきたいもの
- 入居予定施設の名称・所在地
- 入居予定日
- 施設の看護職員配置時間
- 訪問診療・協力医療機関の情報
- 施設から渡された医療関係書類
- 健康診断書・診療情報提供書の指定様式
- 施設から質問された医療項目
- 現在困っている症状
主治医へそのまま聞ける質問
入居前の確認項目
- 現在の病状は安定していますか
- 今後必要になる可能性がある医療処置はありますか
- 入居後もこちらへ通院を続けられますか
- 訪問診療へ切り替えた方がよいですか
- 新しい医師へ何を引き継ぐ必要がありますか
- 診療情報提供書を作成してもらえますか
- 現在の薬で特に中断してはいけないものはありますか
- 施設職員に観察してほしい症状はありますか
- 急変時に救急受診が必要になる目安は何ですか
- 食事・嚥下について注意点はありますか
施設へ主治医の情報を共有するときの注意点
主治医から聞いた内容は、施設の相談員・看護職員等へ正確に伝えます。
家族の記憶だけに頼らない
薬の名前や医療処置の内容を口頭だけで伝えると、誤りが起こる可能性があります。
診療情報提供書、お薬手帳、薬剤情報などの資料を活用します。
入居前に状態が変わったら更新する
審査後に入院した、薬が変わった、医療処置が増えたなどの変化があれば、入居前に必ず施設へ伝えてください。
古い医療情報のまま入居しない
入居審査から実際の入居まで期間が空くと、本人の状態や処方が変わることがあります。施設へ渡した情報に変更がないか、入居直前に再確認してください。
入居前に主治医と施設の両方へ確認する
医療については、主治医だけ、施設だけに聞けば十分というわけではありません。
主治医には「医学的に必要なこと」を確認する
治療、薬、医療処置、受診頻度、急変時の注意点を確認します。
施設には「実際に対応できること」を確認する
看護職員の配置、訪問診療、通院支援、夜間対応などを確認します。
両者の説明がつながるか確認する
例えば主治医が「毎日決まった時間に処置が必要」と説明しているのに、その時間帯に施設の看護職員がいない場合は、入居前に調整が必要です。
まとめ|主治医への相談は医療を途切れさせないための引継ぎ
老人ホーム入居前の主治医への相談では、現在の病状を確認するだけでなく、入居後の医療をどう継続するかまで整理します。
現在の主治医へ通院を続けるのか、訪問診療へ切り替えるのか、新しい医療機関へ紹介してもらうのかを決め、必要な診療情報を引き継ぎます。
服薬については、お薬手帳や薬剤情報を活用し、施設へ最新情報を共有してください。厚生労働省の高齢者の医薬品適正使用に関する指針でも、療養環境が変わる際の薬剤情報の連携が重視されています。
最も重要なのは、「施設に医療情報を提出する」ことではなく、「本人に必要な治療・薬・受診・急変時対応が、入居後も途切れず続く状態を作ること」です。
候補施設の医療体制が分かった段階で主治医へ相談し、主治医からの注意事項と施設側が実際に対応できる内容を照合したうえで、安心して入居日を迎えられるよう準備してください。


