認知症のある家族が家の外へ出て歩き続ける、帰宅しようとして玄関へ向かう、夜中に施設内を歩き回るといった様子があると、「老人ホームへ入居できるのだろうか」と不安になることがあります。
徘徊があるからといって、すべての老人ホームで入居できないわけではありません。ただし、施設によって建物の環境、夜間の職員体制、見守り方法、認知症ケアの考え方が違うため、本人の行動を具体的に伝えて受け入れ可否を確認する必要があります。
まず結論|「徘徊があります」だけでなく、いつ・どこへ・どのように歩くかを伝えて施設を探す
徘徊がある認知症の人でも、本人の状態と施設の認知症ケア体制が合えば入居できる老人ホームはあります。施設へは、外へ出ようとする頻度、夜間の歩行、帰宅願望、過去の行方不明・転倒歴、声かけへの反応、落ち着く方法まで具体的に伝えてください。見学時は、職員が歩行を一律に止めるのではなく、安全を確保しながら本人の行動理由を考えて支援しているか、夜勤職員数、玄関・共用部の見守り、外出支援、退去条件を確認することが重要です。
徘徊があっても老人ホームへ入居できる?
徘徊があることだけで、老人ホームへの入居が一律に難しくなるわけではありません。
受け入れ可否は行動の程度と施設体制で判断される
施設側が確認するのは、「徘徊があるか・ないか」だけではありません。日中だけ歩くのか、夜間も歩くのか、玄関から外へ出ようとするのか、他の入居者の居室へ入ることがあるのかなど、実際の行動によって必要な支援は異なります。
本人の状態に対して施設の職員体制や建物環境で安全を確保できると判断されれば、入居できる場合があります。
施設によって受け入れ範囲は異なる
同じ「認知症対応」の施設でも、夜間の見守り体制、建物の構造、認知症ケアの経験、医療連携などは違います。
一つの施設で断られても、「徘徊がある人はどこにも入れない」と考えず、本人の状態に合う施設を探してください。
「徘徊があります」だけでは情報が足りない
施設へ相談するときは、行動をできるだけ具体的に説明します。
01
いつ歩くか
日中だけなのか、夕方に増えるのか、夜中にも起きて歩くのかを伝えます。
02
どこへ行こうとするか
家へ帰ろうとする、仕事へ行こうとする、玄関から外へ出ようとするなど、本人の言葉や目的を伝えます。
03
どのくらいの頻度か
毎日なのか、週に数回なのか、特定の時間帯だけなのかを伝えます。
04
これまでの事故歴
行方不明、転倒、道路への飛び出しなどがあった場合は隠さず共有します。
05
落ち着く方法
散歩すると落ち着く、家族写真を見ると安心する、特定の声かけが有効など、普段うまくいく対応も伝えます。
なぜ歩いているのかを考える施設か確認する
認知症の人が歩き続ける行動には、本人なりの理由がある場合があります。
「家に帰らなければ」と思っている
現在の場所を自宅だと認識できず、以前住んでいた家へ戻ろうとすることがあります。
昔の役割を続けようとしている
仕事へ行く、子どもを迎えに行く、家事をしなければならないなど、過去の生活習慣や役割が行動につながることがあります。
不安・退屈・排せつなどがきっかけになることもある
落ち着かない、することがない、トイレを探している、痛みや不快感があるなど、環境や身体状態が影響する場合もあります。
見学時には、「歩き回る人をどう止めますか」ではなく、「歩き続ける方には普段どのように対応していますか」と聞くと、施設のケア方針が分かりやすくなります。
POINT
歩くこと自体を問題と決めつけず、「なぜ歩くのか」「安全に歩ける環境をどう作るか」を考える施設かどうかを確認してください。
夜間の徘徊がある場合は夜勤体制を確認する
夜中にも歩く人の場合、日中の職員数だけでは施設の対応力を判断できません。
夜勤職員は何人いるか
施設全体で何人、1フロアまたは1ユニットに何人の職員がいるのか確認します。
夜間に一人で歩き始めたときの対応を聞く
センサーで気づくのか、定期巡回で確認するのか、職員が付き添うのかなど、具体的な見守り方法を確認してください。
他の入居者の対応と重なった場合も考える
夜間は、排せつ介助、転倒、ナースコールなど複数の対応が同時に起こることがあります。
「夜勤者がいる」という事実だけでなく、本人が歩き出したときに現実的に見守れる体制かを確認することが大切です。
建物のつくりを見る
認知症の人が安全に生活できるかは、職員の対応だけでなく建物環境にも左右されます。
廊下を安全に歩けるか
段差、床材、手すり、家具配置などを見て、歩行中につまずきやすい場所がないか確認します。
共用スペースに居場所があるか
歩いた後に休める椅子や、職員・他の入居者と自然に関われるスペースがあるかを見ます。
玄関付近の見守り方法を確認する
職員から玄関が見える配置なのか、センサー等を利用しているのかなどを聞きます。
屋外を歩ける場所があるか
中庭や敷地内の散歩スペースなど、安全に外気に触れられる環境がある施設もあります。
「鍵をかけて出られなくする施設なら安心」とは限らない
行方不明事故を防ぎたい家族にとって、玄関管理は重要です。ただし、安全確保の方法は単純に本人の行動を制限すればよいというものではありません。
介護保険サービスでは身体拘束等は原則禁止
介護保険サービスの運営基準では、本人または他の利用者等の生命・身体を守るため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他の行動制限を行ってはならないことが定められています。
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)や特定施設入居者生活介護でも、この考え方が適用されます。
安全と本人の自由をどう両立するかを見る
職員による見守り、本人に合わせた声かけ、散歩への付き添い、生活リズムの調整、センサー等を組み合わせているか確認します。
徘徊があるからといって身体拘束を前提にしない
厚生労働省は、介護保険施設等での身体拘束等について、緊急やむを得ない場合を除き原則禁止としています。施設選びでは、「出ないようにする方法」だけでなく、本人の尊厳と安全を両立するケアを確認してください。
グループホームは徘徊がある人の選択肢になる?
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)は、認知症の人が少人数で共同生活を送りながら介護を受けるサービスです。
認知症の診断があることが基本
グループホームは認知症のある人を対象とする地域密着型サービスです。
要支援2・要介護1~5が対象
介護サービス情報公表システムに掲載されるグループホームでも、要支援2または要介護1~5を利用条件とする事業所が確認できます。要支援1は対象外です。
原則として施設所在地の市町村の住民が対象
地域密着型サービスのため、原則としてその事業所がある市町村の住民が利用します。市町村をまたいだ利用には条件があるため、候補施設や自治体へ確認してください。
徘徊があれば必ず入れるわけではない
共同生活への適応、他の入居者への影響、医療ニーズなどを含め、各施設が入居判定を行います。
「認知症専門だからどの症状でも必ず対応できる」と考えず、本人の具体的な状態を伝えて確認してください。
介護付き有料老人ホームも候補になる
介護付き有料老人ホームでも、認知症のある人を受け入れている施設はあります。
施設内で介護を受けられる
特定施設入居者生活介護の指定を受けた介護付き有料老人ホームでは、施設の職員が介護サービスを提供します。
認知症対応の幅は施設ごとに異なる
夜間の徘徊、介護拒否、他者とのトラブルなど、どの程度まで対応できるかは施設ごとに違います。
医療ニーズもある人は看護体制を見る
認知症に加えて糖尿病、心疾患、在宅酸素などがある場合は、認知症ケアだけでなく看護・医療連携も確認してください。
住宅型有料老人ホームを選ぶときの注意点
住宅型有料老人ホームでも認知症の人を受け入れている施設があります。
介護サービスの提供方法を確認する
必要な介護は訪問介護など外部サービスを組み合わせて利用する形が一般的です。
夜間の見守り体制を確認する
夜間に施設内にいる職員数や、徘徊が始まったときの見守り方法を確認します。
状態が進んだとき住み続けられるか
介護量が増えた場合や、行動・心理症状が強くなった場合の継続入居条件を確認してください。
特別養護老人ホーム(特養)も検討できる
常時介護が必要な認知症の人では、特別養護老人ホーム(特養)が候補になることがあります。
新規入所は原則要介護3以上
特養の新規入所は原則として要介護3以上が対象です。ただし、要介護1・2でも、やむを得ない事情がある場合は特例入所の対象になることがあります。
徘徊だけで優先入所が決まるわけではない
入所の必要性は、介護状況、本人の状態、家族の介護力など複数の事情を踏まえて判断されます。
施設ごとの認知症ケアを確認する
ユニット型か従来型か、夜間の人員、生活環境、医療連携なども比較してください。
本人が落ち着く生活リズムを伝える
徘徊のある人の受け入れでは、「問題行動」だけでなく、その人が落ち着いて暮らすための情報が重要です。
起床・就寝時間
何時ごろ起き、何時ごろ寝る生活なのかを伝えます。
好きな活動
散歩、洗濯物たたみ、新聞、音楽、園芸など、本人が集中できることを伝えます。
過去の仕事・役割
仕事や家事の習慣が歩く行動につながっている場合があります。
安心する声かけ
否定すると興奮する、少し一緒に歩くと落ち着くなど、家族が経験上分かっていることを共有してください。
見学では職員の声かけを見る
認知症ケアは、パンフレットより日常の職員対応に表れます。
歩いている入居者をすぐ制止していないか
安全上問題がない場面で、本人の行動を一律に止めていないかを見ます。
本人の言葉を否定していないか
「家に帰る」と話す人へ強く否定するのではなく、気持ちを受け止めながら対応しているかを確認します。
職員との距離感を見る
命令口調や子ども扱いではなく、本人を一人の大人として接しているかを見てください。
見学では入居者の様子も確認する
施設全体の生活の雰囲気も重要です。
自由に歩ける雰囲気があるか
共用部を歩いている人がいても、周囲が過度に緊張していないかを見ます。
入居者の表情
全員が笑顔である必要はありませんが、強く萎縮していないか、職員とのやり取りが自然かを確認します。
日中の活動量
日中に何もすることがなく、ほとんどの人が座り続けていないかを見ます。
適度な活動や散歩が夜間の生活リズムにも関係することがあります。
玄関・エレベーターの安全対策を確認する
外へ出ようとする人では、玄関周辺の設計と職員の見守りが重要です。
玄関から道路までの距離を見る
扉を出るとすぐ交通量の多い道路なのか、敷地内に余裕があるのかでもリスクは変わります。
エレベーターの利用方法を見る
居室階から一人で1階へ移動できる構造なのか、職員がどのように見守っているか確認します。
センサー等の使用目的を聞く
離床センサーや出入口センサーなどを利用する施設があります。
単に行動を監視するためではなく、安全確保と必要な介助につなげるため、どのように活用しているかを聞いてください。
GPSなどの見守り機器は使える?
位置情報を確認できる端末や見守り機器を使う家庭もあります。
施設への持ち込み可否を確認する
本人が身につけるGPS端末等を継続利用したい場合は、施設へ相談してください。
機器だけに頼らない
充電切れ、持ち忘れ、本人が外してしまうなどの可能性があります。
見守り機器は職員によるケアや環境調整を補助する手段として考えることが大切です。
外出・散歩のルールを確認する
徘徊がある人でも、外へ出ること自体をすべて禁止する必要があるとは限りません。
職員付き添いの散歩があるか
本人が歩くことを好む場合、敷地内や近隣を散歩する機会があるか確認します。
家族との外出はできるか
面会時に家族と散歩や外食へ出られるか、事前連絡が必要かを確認します。
本人だけの外出をどう判断するか
本人の判断能力、交通安全、行方不明リスクなどに応じて施設の対応は異なります。
入居時に一律のルールだけでなく、本人についてどのように判断するか聞いてください。
薬で歩かなくさせることを前提にしない
家族が「薬で徘徊を止められないか」と考えることがありますが、歩く行動だけを理由に薬で抑えることを前提にはできません。
まず原因を確認する
不安、痛み、睡眠リズム、便秘、環境変化などが影響していないか確認します。
薬の調整は医師が判断する
認知症の症状や不眠などに薬を使用する場合も、本人の状態を診察した医師が必要性と副作用を踏まえて判断します。
施設の薬への考え方も確認する
歩き回る人に対し、すぐ受診や薬の増量を求めるのか、まず生活環境や関わり方を調整するのかを聞くとケア方針が見えやすくなります。
入居直後は徘徊が増えることも想定する
新しい環境へ移ると、場所が分からず不安になり、歩く行動や帰宅願望が一時的に強くなることがあります。
入居初日の対応を確認する
担当職員がどのように本人を迎え、居室や共用部に慣れてもらうか聞きます。
馴染みの物を持ち込む
写真、時計、使い慣れた家具など、本人が安心できる物を持ち込めるか確認してください。
家族の面会方法を相談する
入居直後に頻繁に面会した方が落ち着く人もいれば、家族を見るたびに帰宅願望が強まる人もいます。
本人の反応を見ながら施設と相談して調整してください。
本人を見学へ連れて行くタイミング
認知症の本人を何施設も見学へ連れて行くと、疲労や混乱につながることがあります。
最初は家族だけで候補を絞る
認知症対応、夜間体制、費用、医療条件などを家族が先に確認し、候補を2~3施設程度へ絞る方法があります。
最終候補で本人の反応を見る
候補を絞った後に本人と訪問し、職員との会話や施設内での表情を確認します。
本人が落ち着ける時間帯を選ぶ
夕方に不安が強くなる人なら、比較的落ち着いている午前中に見学するなど、本人の生活リズムに合わせてください。
入居後に徘徊が強くなった場合の対応を聞く
入居時より症状が進む可能性も考えて施設を選びます。
夜間歩行が増えた場合
職員体制でどこまで対応できるか、見守り方法をどのように変更するか確認します。
外へ出ようとする頻度が増えた場合
本人の生活リズム、活動量、声かけ、環境調整などをどのように検討するか聞いてください。
他の入居者とのトラブルが出た場合
居室へ入る、物を持ち出すなどの行動が起きた場合、本人だけを責めずに環境やケア方法を調整する体制があるか確認します。
退去条件を必ず確認する
徘徊がある人の施設選びでは、「入れるか」だけでなく「住み続けられるか」が重要です。
どの状態になると退去相談になるか
他者への重大な危険が続く場合、常時医療行為が必要になった場合など、施設ごとに退去条件があります。
徘徊が増えただけで自動的に退去なのか確認する
症状が変化した場合、すぐ退去を求めるのか、ケア方法や医療相談を行ったうえで判断するのかを聞いてください。
契約書・重要事項説明書を見る
口頭で「大丈夫です」と言われるだけでなく、施設側から契約解除できる条件を入居前に確認します。
施設見学のチェックリスト
徘徊がある人の施設選びで確認したいこと
- 現在の徘徊の状態で受け入れ可能か
- 夜勤職員は何人いるか
- 夜間歩行への対応方法
- 玄関・エレベーターの見守り方法
- 共用部を安全に歩けるか
- 中庭・散歩スペースがあるか
- 職員付き添いの散歩ができるか
- 外出・外泊のルール
- センサー等をどう使用するか
- 身体拘束等を防ぐための方針
- 職員の認知症ケア研修
- 帰宅願望への声かけ
- 夜間不眠への対応
- 他の入居者の居室へ入った場合の対応
- 医療機関との連携
- 症状が進行した場合の対応
- 退去条件
施設へ伝える情報チェックリスト
入居相談時に隠さず伝えたいこと
- 認知症の診断名
- 要介護度
- 歩き始めやすい時間帯
- 外へ出ようとする頻度
- 帰宅願望の有無
- 夜間の睡眠状況
- これまでの行方不明歴
- 転倒歴
- 道路へ出たことがあるか
- 他人の居室へ入ることがあるか
- 介護拒否の有無
- 大声・興奮等の有無
- 落ち着きやすい声かけ
- 好きな活動・生活習慣
- 服薬状況
- 持病・医療処置
紹介サービスを使う場合も具体的な状態を伝える
老人ホーム紹介サービスを利用する場合も、「認知症・徘徊あり」という条件だけで探してもらうのでは不十分です。
夜間の行動まで伝える
日中だけなのか、深夜にも歩くのかで必要な施設体制は異なります。
事故歴を伝える
過去に警察へ捜索を依頼したことがある、道路へ出たことがあるなどの情報も共有します。
本人の良い面も伝える
会話が好き、散歩が好き、手伝いを頼むと落ち着くなどの特徴を伝えると、本人に合う環境を探しやすくなります。
見学時は本人の反応も判断材料にする
設備や人員だけでなく、本人がその場所でどう感じているかも大切です。
職員との会話を見る
本人が職員の声かけに自然に反応しているか、強く警戒していないかを見ます。
施設内を歩いたときの様子を見る
落ち着いて歩けるか、出口を探し続けるか、居場所を見つけられそうかを確認します。
家族だけで条件を決めない
認知症があっても、本人には心地よい環境と不安を感じる環境があります。
本人の表情や行動も、最終的な施設選びの材料にしてください。
まとめ|徘徊を止める施設ではなく、安全に暮らせる施設を探す
徘徊がある認知症の人でも、本人の状態と施設の認知症ケア体制が合えば、老人ホームへ入居できる場合があります。
施設探しで大切なのは、「徘徊あり」という一言で判断してもらうことではありません。いつ、どこへ、どの程度歩くのか、帰宅願望や夜間不眠はあるか、過去に事故があったか、どのような関わりで落ち着くかを具体的に伝えてください。
また、介護保険サービスでは、身体的拘束その他の行動制限は緊急やむを得ない場合を除き原則禁止されています。徘徊があるからといって、行動を一律に抑えることを前提にするのではなく、安全な歩行環境、見守り、生活リズム、本人に合わせた声かけを重視する施設かを確認することが重要です。
グループホーム、介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、特別養護老人ホーム(特養)などを比較し、夜勤体制、建物環境、認知症ケア、医療対応、退去条件まで確認してください。
選ぶ基準は「徘徊を完全に止められるか」ではありません。本人の尊厳を守りながら、歩く行動があっても安全に暮らし続けられる環境かどうかです。


