大腿骨骨折後の人の老人ホーム選び

大腿骨骨折の手術や入院を終えたあと、「自宅へ戻るのは難しいので老人ホームを探したい」「リハビリを続けられる施設を選びたい」と考える家族は少なくありません。

大腿骨骨折後の施設選びでは、単に「車いす対応」「リハビリあり」と書かれているかを見るだけでは不十分です。現在どこまで歩けるのか、立ち上がりや移乗にどの程度の介助が必要か、痛みや再転倒のリスク、骨粗鬆症治療、通院の必要性まで確認することが大切です。

まず結論|骨折後は「今の移動能力」と「これから回復させたい動作」に合う施設を選ぶ

大腿骨骨折後の老人ホーム選びでは、歩行できるかだけでなく、ベッドからの起き上がり、立ち上がり、車いすへの移乗、トイレ、入浴など日常動作ごとに必要な介助量を確認してください。そのうえで、理学療法士等によるリハビリ、日常生活の中で体を動かす機会、転倒予防、骨粗鬆症治療の継続、整形外科への通院体制を比較します。厚生労働省も、大腿骨近位部骨折では早期離床・早期荷重や、その後の外来・在宅でのリハビリテーションの重要性を示しています。

大腿骨骨折後でも老人ホームへ入居できる?

大腿骨骨折後であることだけを理由に、老人ホームへ入居できないわけではありません。

入居可否は現在の介助量で判断される

施設側が確認するのは、骨折した事実だけではなく、現在の移動能力や介護量です。

歩行器で歩けるのか、車いす中心なのか、ベッドからの移乗に一人介助か二人介助が必要なのかによって、必要な職員体制や設備は異なります。

手術後の経過も伝える

手術日、術式、退院予定日、荷重制限の有無、痛み、創部の状態など、病院から説明を受けている内容を施設へ共有してください。

「骨折後だから歩かせてはいけない」「手術が終わったから何でも歩いてよい」と家族だけで判断せず、主治医やリハビリ職の指示を引き継ぐことが重要です。

退院時の歩行状態を具体的に伝える

「歩けます」「歩けません」という二択では、施設側に必要な介助量が伝わりません。

01

ベッドから起き上がれるか

自力で起き上がれるのか、手すりや介助が必要なのかを伝えます。

02

立ち上がれるか

椅子やベッドから一人で立てるのか、一人介助・二人介助が必要なのかを伝えます。

03

移乗できるか

ベッドから車いす、車いすからトイレへの移乗方法を伝えます。

04

歩行補助具を使うか

杖、歩行器、シルバーカーなど、病院で使用している補助具を伝えます。

05

どの距離まで歩けるか

居室内のみ、トイレまで、食堂までなど、実際の生活距離で伝えます。

「リハビリあり」の内容を確認する

大腿骨骨折後は、老人ホームのリハビリ体制が重要な判断材料になります。

専門職がいるか確認する

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士などが施設内に配置されているか、外部サービスを利用するのかを確認します。

個別リハビリの頻度を見る

週に何回、何分程度行うのか、本人の目標に合わせて内容を設定するのかを聞いてください。

日常生活の動作練習も見る

リハビリ室で運動する時間だけでなく、食堂まで歩く、トイレへ移動する、立ち上がるなど、日常生活そのものを活動につなげている施設かを確認します。

POINT

「リハビリ設備があるか」より、「本人が退院時にできる動作をどう維持・改善するか」を具体的に聞く方が施設の実力を判断しやすくなります。

大腿骨近位部骨折では退院後のリハビリも重要

大腿骨骨折の中でも高齢者に多い大腿骨近位部骨折では、手術後の早期離床と、その後の継続したリハビリが重要です。

厚生労働省も早期離床・リハビリを重視している

厚生労働省の地域医療構想に関する資料では、大腿骨近位部骨折について、早期離床・早期荷重が重要で、周術期以降は外来・在宅でのリハビリテーションも有用とされています。

退院後も活動量を落とさない

病院で歩行練習ができるようになっても、施設入居後に車いすで過ごす時間が長くなると、筋力や生活機能が低下する可能性があります。

本人の安全を守りながら、できる動作を続けられる生活環境か確認してください。

老健と老人ホームのどちらがよい?

退院直後でリハビリの必要性が高い場合、介護老人保健施設(老健)と有料老人ホーム等のどちらにするか迷うことがあります。

老健は在宅復帰・生活復帰を支援する施設

介護老人保健施設(老健)は、病状が安定した要介護者に対し、リハビリテーションや介護、必要な医療を提供し、在宅復帰・在宅療養支援を行う施設です。

長期居住そのものを第一目的とする施設ではありません。

有料老人ホームは生活の場として比較する

介護付き有料老人ホームなどは、長期的な生活の場として選ぶことができます。リハビリ体制は施設ごとに差があるため、専門職配置や個別訓練の頻度を確認します。

退院時の目標で選ぶ

短期間で集中的に生活機能を高めて自宅復帰を目指すのか、長く暮らす施設で継続的に機能維持を図るのかによって適する選択肢は変わります。

移乗介助の体制を確認する

骨折後に歩けない時期があっても、ベッドから車いすへ安全に移れるかは生活の質に大きく影響します。

一人介助か二人介助か

退院時に二人介助が必要な場合、施設の人員体制で毎回対応できるか確認します。

福祉用具を使えるか

移乗ボード、移乗用リフトなどの福祉用具を活用する施設もあります。

本人の残存能力を使う介助か

すべて職員が持ち上げるのではなく、本人が足に力を入れられる、手すりを握れるなど、できる動作を生かした介助を行っているか確認してください。

トイレまで安全に移動できるかを見る

骨折後の生活では、排せつ動作が大きな課題になることがあります。

居室からトイレまでの距離

歩行器で移動できても、距離が長すぎると間に合わない場合があります。

手すりの位置

立ち上がりや方向転換に使いやすい位置に手すりがあるか確認します。

夜間の介助

夜中にトイレへ行こうとして転倒することがあります。ナースコールへの対応や夜勤職員数も確認してください。

居室・廊下の転倒リスクを確認する

大腿骨骨折後は再転倒を防ぐことが重要です。

段差が少ないか

居室入口、洗面所、トイレなどに小さな段差がないか確認します。

歩行動線が広いか

歩行器や車いすを使っても家具にぶつからず移動できるスペースがあるか見ます。

床が滑りにくいか

浴室、トイレ、洗面所など濡れやすい場所も確認してください。

夜間照明があるか

夜間にトイレへ移動する場合、足元を確認しやすい照明環境かも重要です。

転倒予防は「歩かせないこと」ではない

再骨折が怖いからといって、必要以上に本人の移動を制限すると活動量低下につながる可能性があります。

本人の転倒要因に合わせて対策する

厚生労働省の認知症ケア関連資料でも、転倒予防では体力低下などの内的要因と、段差などの外的要因を確認し、個人の危険因子に応じた対策を取ることが重要とされています。

見守りと環境整備を組み合わせる

手すり、歩行補助具、適切な靴、職員の見守りなどを組み合わせ、本人が安全に動ける環境を整えます。

骨折後だからといって一律に安静を続けるのではない

どの程度荷重してよいか、どこまで歩行練習を進めてよいかは手術内容や本人の状態によって異なります。主治医・リハビリ職の指示を施設へ引き継ぎ、安全な範囲で活動を続けることが大切です。

骨粗鬆症の治療を継続できるか確認する

高齢者の大腿骨近位部骨折では、背景に骨粗鬆症があることがあります。

骨折後も骨粗鬆症の評価・治療が重要

厚生労働省は、大腿骨近位部骨折後の二次性骨折を予防するため、骨粗鬆症の継続的な評価や治療を行う医療を診療報酬上も評価しています。

薬の継続方法を確認する

骨粗鬆症の薬には、毎日・週1回・月1回の内服、注射などさまざまな方法があります。

現在の治療を施設入居後も続けられるか、服薬管理や通院・注射の方法を確認してください。

次の骨折を防ぐ視点を持つ

一度骨折した人では、転倒予防だけでなく骨の状態を確認し、必要な治療を継続することが重要です。

痛みの管理を確認する

手術後の痛みが残っていると、立ち上がりや歩行を避けるようになり、活動量が低下することがあります。

痛みの程度を職員が確認できるか

本人が「痛い」と伝えられるかだけでなく、表情、動作、食欲などから変化を確認できる体制があるか見ます。

痛み止めの服薬管理

定時薬と頓服薬がある場合、どのように管理し、痛みが強いとき誰へ相談するか確認します。

急な強い痛みは医療へつなぐ

新たな転倒後に痛みが強くなった場合などは、再骨折や別のけがも考えられるため、医療機関へつなげる体制が必要です。

手術創・皮膚の状態も確認する

退院時期によっては、手術創の観察や処置が必要な場合があります。

創部処置が残っているか

抜糸・抜鉤が済んでいるか、ガーゼ交換等が必要かを病院へ確認します。

施設で対応できるか

看護職員による処置が必要なら、その時間帯や方法を確認してください。

異常時の連絡先を決める

発赤、腫れ、発熱などが出た場合、手術した病院へ連絡するのか、協力医療機関を受診するのかを確認します。

退院後の整形外科受診を続けられるか

骨折の手術後は、退院後も画像検査や経過確認のために整形外科を受診することがあります。

通院頻度を病院へ確認する

次回受診日や、その後の予定を退院前に確認します。

施設から病院までの移動方法を見る

家族送迎、施設車両、介護タクシーなど、誰が移動を支えるか決めます。

付き添い費用を確認する

職員同行が自費サービスになる施設もあります。受診回数が多い時期は費用への影響も確認してください。

認知症やせん妄がある場合

高齢者では、骨折・手術・入院をきっかけに混乱が強くなる場合があります。

退院時の認知状態を施設へ伝える

入院前から認知症があったのか、入院後に一時的な混乱が強くなったのかを伝えます。

夜間の行動も共有する

夜間不眠、ベッドから一人で立とうとするなどがある場合は、転倒リスクに直結します。

身体拘束を前提にしない体制を見る

転倒を防ぐために一律に動きを制限するのではなく、見守り、環境整備、センサー等を組み合わせる施設かを確認してください。

車いす中心になった場合も生活の範囲を見る

退院時に歩行が難しく、車いす中心になる人もいます。

自走できるか

本人が自分で車いすを動かせるのか、常に職員の介助が必要なのかを確認します。

食堂・浴室まで移動できるか

施設内の廊下幅、エレベーター、居室入口などを見ます。

車いすに座りっぱなしにならないか

長時間同じ姿勢になると、痛みや皮膚トラブル、活動量低下につながる場合があります。

離床や姿勢変換をどのように行っているか確認してください。

褥瘡予防も確認する

骨折後に寝ている時間が長くなると、褥瘡のリスクが高まる場合があります。

体位変換・離床の方法

本人の状態に応じて、ベッド上での姿勢変更や離床を支援できるか確認します。

マットレス等の福祉用具

体圧分散マットレス等が必要な場合、施設で用意するのかレンタルするのかを確認してください。

栄養状態も見る

食事量が少ない人では、栄養状態も皮膚の健康や回復に影響します。

入浴方法を確認する

骨折後は浴槽をまたぐ動作が難しくなることがあります。

個浴・機械浴などの設備を見る

本人の移動能力に合った入浴設備があるか確認します。

入浴時の移乗方法を見る

車いすから浴室への移乗を一人介助で行えるか、リフト等を利用するかを確認してください。

状態が改善したら方法を変えられるか

回復に伴い、機械浴から個浴へ変更するなど、本人の能力に合わせて見直せるかも重要です。

日常生活の中に運動機会があるかを見る

専門職による訓練時間だけでなく、普段の生活で体を動かす機会があることも大切です。

食堂まで移動する

安全に歩ける人を毎回車いすで運ぶのではなく、状態に応じて歩行機会を作っているか確認します。

立ち上がりを続ける

トイレ、着替え、移乗などで本人ができる動作を職員が奪わず支援しているかを見ます。

本人の目標を聞いてくれるか

「トイレまで歩きたい」「家族と外出したい」など本人の目標をケアやリハビリに反映できる施設か確認してください。

退院前カンファレンスの情報を施設へ引き継ぐ

病院から老人ホームへ直接入居する場合、退院前の情報共有が重要です。

リハビリ職から動作情報をもらう

歩行器の種類、介助方法、してはいけない動作、現在の訓練内容などを施設へ伝えます。

看護サマリー等を共有する

創部、服薬、排せつ、認知状態、食事などの情報を引き継ぎます。

施設側の受け入れ担当者にも参加してもらう

可能であれば、退院前カンファレンス等で病院と施設が直接情報を共有できると、入居後の介助方法を合わせやすくなります。

施設見学で確認したいチェックリスト

大腿骨骨折後の施設選びで見ること

  • 現在の歩行・移乗状態で受け入れ可能か
  • 一人介助・二人介助へ対応できるか
  • 理学療法士等の配置
  • 個別リハビリの頻度
  • 日常生活で歩行・立位の機会があるか
  • 歩行器・車いすを使いやすい居室か
  • トイレまでの距離
  • 手すり・段差・床の状態
  • 夜間の転倒予防
  • 看護職員の勤務時間
  • 手術創への対応
  • 痛みの管理
  • 骨粗鬆症治療を継続できるか
  • 整形外科への通院方法
  • 通院同行の追加費用
  • 車いす中心になった場合の離床支援
  • 褥瘡予防
  • 本人に合った入浴設備
  • 状態悪化時の医療連携

入居前に施設へ渡したい情報

病院から引き継ぎたい内容

  • 骨折した部位
  • 手術日・術式
  • 荷重制限の有無
  • 現在の歩行能力
  • 使用中の杖・歩行器・車いす
  • 移乗の介助方法
  • トイレ動作
  • 入浴動作
  • 痛みの程度
  • 手術創の状態
  • 現在の薬剤
  • 骨粗鬆症治療
  • 認知症・せん妄の状況
  • 転倒歴
  • 次回整形外科受診日
  • リハビリ上の目標と注意点

どの施設種別を選べばよい?

大腿骨骨折後だから特定の施設種別だけが適しているわけではありません。

介護老人保健施設(老健)

病状が安定し、リハビリを行いながら在宅復帰・生活復帰を目指す段階で候補になります。

介護付き有料老人ホーム

長期的な生活の場として、施設内で介護を受けられます。リハビリ専門職や機能訓練体制は施設ごとに確認します。

住宅型有料老人ホーム

訪問介護や訪問リハビリ等を組み合わせる場合があります。必要な介助量を外部サービスで支えられるか、費用も含めて確認します。

サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)

高齢者向け住宅で、介護・リハビリの提供方法は住宅ごとに異なります。骨折後の介助量が大きい場合は、併設・外部サービスまで確認してください。

特別養護老人ホーム(特養)

常時介護が必要な人の生活を支える介護保険施設です。新規入所は原則として要介護3以上ですが、要介護1・2でもやむを得ない事情がある場合は特例入所の対象になることがあります。

施設を決める前に「3か月後の生活」を想像する

骨折直後の状態だけで施設を選ぶと、回復した後に生活と施設が合わなくなる場合があります。

歩けるようになった場合

施設内を安全に歩ける環境があるか、外出や散歩の機会があるか確認します。

回復がゆっくりだった場合

車いす中心でもトイレ、入浴、食事などを無理なく支援できるか確認します。

再び転倒した場合

急な痛みや転倒時に医療機関へつなげる体制があるか確認してください。

まとめ|大腿骨骨折後は「リハビリ」と「再骨折予防」の両方を見る

大腿骨骨折後の老人ホーム選びでは、退院時に歩けるかどうかだけで判断しないことが重要です。

ベッドからの起き上がり、立ち上がり、移乗、トイレ、入浴など日常生活の動作を具体的に整理し、その介助量に対応できる施設を選んでください。

厚生労働省は、大腿骨近位部骨折について早期離床・早期荷重や、その後の外来・在宅でのリハビリテーションの重要性を示しています。また、骨粗鬆症を伴う大腿骨近位部骨折では、二次性骨折を防ぐため継続的な骨粗鬆症評価・治療も重視されています。

施設を比較するときは、リハビリ専門職、日常生活での活動量、転倒しにくい環境、骨粗鬆症治療、整形外科への通院、痛みや手術創への対応まで確認してください。

最も大切なのは、「骨折した人を安全に預かれる施設」ではなく、本人が回復した力をできるだけ生活の中で使い続け、再転倒・再骨折を防ぎながら暮らせる施設を選ぶことです。

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