特別養護老人ホーム(特養)へ入所すると、施設でどのような介護・生活支援を行うかをまとめた「施設サービス計画」が作成されます。一般には「施設ケアプラン」と呼ばれることもあります。
施設サービス計画は、単なる介護スケジュールではありません。本人の希望や生活上の課題を整理し、食事、排泄、入浴、機能訓練、健康管理、社会生活などをどのように支援するかを具体的に定める重要な計画です。
まず結論|特養の施設サービス計画は「本人の生活目標と支援方法」をまとめるケアプラン
特養の施設サービス計画では、本人・家族の意向、生活上の課題、長期・短期目標、介護・看護・機能訓練・食事等の具体的な支援内容を整理します。計画担当介護支援専門員が中心となって作成し、原案について本人へ説明し、文書で同意を得たうえで交付します。作成後も定期的に本人と面接し、実施状況を確認しながら、必要に応じて内容を見直します。
特養の施設サービス計画とは
施設サービス計画は、特養で提供する介護・生活支援の方向性と具体的な内容をまとめた計画です。
介護保険法上の「施設サービス計画」
介護保険法では、介護老人福祉施設に入所する要介護者について、施設が提供するサービスの内容や担当者などを定める計画を「施設サービス計画」としています。
特養では、この計画に基づいて、入浴、排泄、食事等の介護、日常生活上の世話、機能訓練、健康管理、療養上の世話などを行います。
「施設ケアプラン」と呼ばれることもある
現場では「施設ケアプラン」「ケアプラン」と呼ばれることがあります。
在宅のケアプランと同じように、本人の課題と目標を整理して支援内容を組み立てますが、特養内で提供する生活・介護全体を対象にする点が特徴です。
POINT
施設サービス計画は、施設側が一方的に決める予定表ではありません。本人の希望や生活歴、現在の心身状態を踏まえて作成する計画です。
誰が施設サービス計画を作るのか
施設サービス計画の作成では、計画担当介護支援専門員が中心的な役割を担います。
計画担当介護支援専門員が中心になる
厚生労働省の基準では、施設サービス計画の作成に関する主要な業務を、計画担当介護支援専門員が担当します。
本人や家族から話を聞き、介護職員、看護職員、機能訓練指導員、栄養職などの専門職と連携して原案を作成します。
一人の職員だけで決めるものではない
本人の生活全体を支えるには、介護、看護、リハビリ、栄養など複数の視点が必要です。
そのため、担当者から専門的な意見を集め、サービス担当者会議等を通じて内容を調整します。
まず本人の希望や生活上の課題を確認する
施設サービス計画を作る前に、本人がどのような生活を望んでいるかを確認します。
本人の生活歴・価値観を聞く
起床・就寝時間、好きなこと、これまでの仕事、家族との関係、日課などは、施設生活を考えるうえで重要です。
「介護が必要だから全部施設に合わせる」のではなく、本人らしい生活をできるだけ継続できるように考えます。
困っていることを整理する
歩行が不安定、食事量が減っている、夜間に何度も起きる、認知症で不安が強いなど、現在の生活上の課題を整理します。
困りごとの原因を確認し、「何を改善・維持したいのか」を目標へつなげます。
アセスメントで本人の状態を把握する
施設サービス計画の作成に先立ち、本人の状態を多面的に把握するアセスメントを行います。
身体状態を確認する
歩行、移乗、排泄、食事、入浴、視力、聴力、痛みなど、日常生活に必要な能力を確認します。
できないことだけでなく、本人が自分でできることも把握し、残っている能力を活かす支援を考えます。
認知機能・心理状態も確認する
認知症の症状、不安、抑うつ、睡眠、他者との関わりなども確認します。
行動だけを問題視せず、その背景や本人の気持ちを考えることが重要です。
家族・社会との関係も見る
家族との面会、地域との交流、趣味なども本人の生活の一部です。
厚生労働省の解釈通知でも、施設サービス計画は日常生活全般を支援する観点から総合的に作成することが重要とされています。
施設サービス計画には何を書く?
施設サービス計画には、本人の意向や課題だけでなく、目標と具体的な支援内容を記載します。
本人・家族の生活に対する意向
「できるだけ自分で歩きたい」「家族との面会を続けたい」「好きな食事を楽しみたい」など、生活に対する希望を整理します。
家族の希望も参考にしますが、本人の意思・人格を尊重することが基本です。
生活全般の解決すべき課題
転倒リスク、食事摂取量低下、排泄介助、認知症による不安など、生活上の課題を整理します。
単に「要介護4だから全介助」といった形ではなく、本人固有の課題を明確にします。
総合的な援助方針
本人の希望と課題を踏まえて、施設としてどのような方向で支援するかをまとめます。
介護・看護・機能訓練・栄養などをばらばらに考えず、生活全体の方針として整理します。
長期目標・短期目標を設定する
施設サービス計画では、何を目指して支援するのかを具体的にします。
長期目標
「安全に施設内を移動しながら生活する」「口から食事を楽しみ続ける」など、一定期間を見据えた目標を設定します。
本人の生活にとって意味のある目標になっているかが重要です。
短期目標
長期目標へ近づくため、より具体的な短期間の目標を設定します。
たとえば「食堂まで職員見守りで歩く」「毎食後に口腔ケアを行う」など、実際の支援につながる内容にします。
介護内容を具体的に決める
目標に対して、職員がどのような介護を行うかを具体化します。
食事介助
自力摂取できる範囲、食事姿勢、食形態、見守り、一口量などを設定します。
嚥下障害がある人では、看護師や栄養職等とも連携して安全な方法を検討します。
排泄介助
トイレ誘導、ポータブルトイレ、おむつなど、本人の能力と生活リズムに合う方法を検討します。
「時間で一律に交換」ではなく、本人の排泄パターンを踏まえた支援が望まれます。
入浴介助
一般浴、個浴、機械浴などから本人の身体状況に合う方法を選びます。
本人が入浴を楽しめる時間帯や頻度も可能な範囲で考慮します。
看護・健康管理もケアプランに含まれる
特養は生活施設ですが、健康状態の把握も重要な支援です。
バイタル・体調観察
本人の病状に応じて、体温、血圧、脈拍、食事量などを確認します。
普段の状態と比べて異常があれば、看護師・医師へつなげる方法を整理します。
服薬管理
薬の保管、服薬介助、飲み忘れ防止など、本人が安全に服薬できる方法を決めます。
自己管理できる人では、必要以上に施設管理へ切り替えないことも検討します。
機能訓練・生活リハビリの目標も決める
特養では、生活動作そのものを活用して身体機能を維持することも重要です。
できる動作を続ける
立ち上がり、歩行、更衣、食事など、本人ができる部分はできるだけ自分で行えるよう支援します。
介助しすぎることで残っている能力を失わないようにします。
機能訓練指導員と連携する
必要に応じて、姿勢、移乗、歩行、関節可動域などについて専門職の助言を取り入れます。
訓練室だけではなく、日常生活の中で続けられる方法を計画に反映します。
食事・栄養についても計画する
高齢者では、低栄養、体重減少、嚥下障害などが生活全体へ影響します。
本人の食事量・体重を確認する
食事摂取量が減っている場合は、食事形態、好み、口腔状態、病気など原因を確認します。
必要に応じて管理栄養士、看護師、医師等と連携します。
食べる楽しみも考慮する
栄養量だけでなく、本人が食事を楽しめることも大切です。
好物、季節行事、家族との外食など、生活の楽しみを可能な範囲で計画へ反映します。
社会生活・家族との交流も計画の対象になる
施設サービス計画は身体介護だけを対象とするものではありません。
面会・外出
家族との面会や外出を希望する場合は、本人の体調・介助量を踏まえて支援方法を検討します。
家族との関係が本人の安心につながる場合、生活上の重要な目標になります。
趣味・行事
書道、音楽、園芸、散歩など、本人が楽しめる活動を取り入れます。
施設の行事や日課も施設サービス計画の内容に含まれ得ることが、厚生労働省の解釈通知で示されています。
本人への説明と文書による同意が必要
施設サービス計画は、施設側だけで決定するものではありません。
原案の内容を本人へ説明する
計画担当介護支援専門員は、施設サービス計画の原案について本人へ説明します。
どのような介護・支援を行うのかを本人が理解できるように説明することが重要です。
文書で同意を得る
厚生労働省の基準では、原案について入所者へ説明し、文書により同意を得ることが求められています。
本人の状態によっては、家族にも説明しながら本人の意思を確認・支援します。
作成した施設サービス計画は本人へ交付される
計画は職員だけが保管する内部文書ではありません。
本人へ交付することが基準で定められている
計画担当介護支援専門員は、施設サービス計画を作成した際に、その計画を本人へ交付することとされています。
家族が内容を確認する場合は、本人の意思・施設の取扱いを踏まえて施設へ相談してください。
内容が分からなければ質問する
専門用語や抽象的な表現が多く、実際の支援内容が分かりにくい場合があります。
「この目標のために毎日何をするのですか」と具体的に聞いてください。
作った後もモニタリングを行う
施設サービス計画は、一度作成したら終わりではありません。
定期的に本人と面接する
厚生労働省の基準では、計画担当介護支援専門員は、特段の事情がない限り定期的に本人と面接し、モニタリングを行うこととされています。
本人が計画どおり生活できているか、希望に変化がないかを確認します。
モニタリング結果を記録する
支援の実施状況、目標の達成度、状態変化などを記録します。
うまくいっていない場合は、本人に原因を求めるのではなく、支援方法そのものを見直します。
どんなときにケアプランを変更する?
本人の状態や希望が変化した場合、施設サービス計画も見直します。
要介護認定が更新・変更されたとき
要介護更新認定や区分変更認定を受けた場合は、担当者から専門的な意見を求め、計画変更の必要性を検討します。
要介護度だけで機械的に内容を変えるのではなく、本人の実際の生活状態を確認します。
身体状態が変化したとき
転倒後に歩行能力が低下した、嚥下状態が変わった、入院後に医療ケアが増えたなどの場合は見直しが必要です。
新しい状態に合わせて目標・介助方法を調整します。
本人の希望が変わったとき
入所時は参加したくなかった活動に興味を持つなど、本人の気持ちは変化します。
計画を固定せず、現在の希望を反映してください。
サービス担当者会議では何を話す?
計画作成・変更時には、関係職員が情報を共有する機会があります。
各専門職から意見を出す
介護職員は日常生活、看護職員は健康状態、栄養職は食事、機能訓練指導員は身体機能など、それぞれの専門性から意見を出します。
一つの職種だけの判断に偏らないようにします。
本人・家族の意向を確認する
本人が望む生活を中心に考え、家族の希望も確認します。
家族の都合だけで支援内容を決めるのではなく、本人にとっての利益・生活の質を考えることが重要です。
家族がケアプラン作成時に伝えたいこと
家族だから分かる本人の生活歴や習慣は、計画作成の重要な情報になります。
家族から伝えておきたい情報
- 本人が大切にしている生活習慣
- 好きなこと・嫌いなこと
- 以前の仕事・役割
- 食事の好み
- 睡眠・起床の習慣
- 認知症がある場合に落ち着く声かけ
- 不安・興奮が強くなる状況
- 本人ができること
- 家族との面会・外出希望
- 医療・看取りに関する本人の希望
ケアプランを見るときに確認したいポイント
施設へ確認したい質問
- 本人の希望はどこに反映されていますか
- 現在の生活上の課題は何ですか
- 長期目標・短期目標は何ですか
- 目標達成のために毎日どんな支援をしますか
- 本人が自分で行うことは何ですか
- 介護職員・看護師・機能訓練職はそれぞれ何を担当しますか
- 食事・排泄・入浴の支援方法はどうなっていますか
- 本人と家族の希望が違う場合はどう調整しますか
- モニタリングはどのように行いますか
- 状態が変わった場合はいつ見直しますか
- 家族はケアプラン見直し時に意見を伝えられますか
「できないこと」だけのケアプランになっていないか確認する
要介護度が高い人でも、すべての生活動作ができないわけではありません。
本人ができることを残す
自分でスプーンを持てる、手すりがあれば立てる、好きな服を選べるなど、残っている能力を活かします。
職員がすべて代わりに行うことが本人にとって最善とは限りません。
介助量を減らすことだけが目標ではない
本人の安全、安心、楽しみ、尊厳も大切な目標です。
「歩けるようになる」だけでなく、「家族と食堂まで歩いて面会を楽しむ」など、本人の生活につながる目標が望ましいです。
家族の希望だけを優先しない
家族は本人を心配するあまり、安全を優先して活動を減らしたいと考えることがあります。
本人の意思を基本にする
特養は本人が生活する場所です。
本人が意思表示できる場合は、その希望を確認しながら支援方法を決めることが重要です。
安全と生活の質を両立する
転倒が心配だから一日中ベッドで過ごすのではなく、見守りや福祉用具を工夫して活動機会を確保する方法もあります。
「危険をゼロにする」だけでなく、本人らしい生活とのバランスを考えてください。
入所後に家族がケアプランを確認する意味
施設へ任せきりにせず、家族も計画の方向性を理解しておくと、本人の変化に気付きやすくなります。
支援内容と実際の生活を比べられる
面会時に「計画では歩行を続けることになっているが、実際はどうか」など確認できます。
気になる点があれば、批判するのではなく事実を共有して相談してください。
本人の新しい希望を伝えられる
家族との会話で「外へ散歩したい」「この行事に参加したい」など新しい希望が分かることがあります。
本人の意向として施設へ伝え、必要なら計画見直しを相談してください。
ケアプランは「署名して終わり」の書類ではない
施設サービス計画は、本人の生活を支えるために実際のケアへ反映し、モニタリングしながら必要に応じて変更するものです。内容に疑問がある場合は、署名・同意の前後を問わず計画担当介護支援専門員へ具体的に確認してください。
施設サービス計画を比較するときの優先順位
01
本人の希望が具体的に反映されている
誰にでも当てはまる目標ではなく、本人の生活歴・価値観が反映されているかを確認します。
本人が何を大切にして暮らしたいのかが分かる計画が望ましいです。
02
目標と実際の支援方法がつながっている
「自立支援」など抽象的な言葉だけでなく、誰が・いつ・どのように支援するかが具体的か確認します。
職員が変わっても同じ方向で支援できる内容が重要です。
03
状態変化に合わせて見直せる
一度決めた内容へ本人を合わせるのではなく、本人の体調・希望・生活の変化に応じて更新できることが重要です。
モニタリングと担当者間の情報共有が機能しているか確認してください。
まとめ|特養のケアプランは「本人がどう暮らしたいか」を具体的な支援へつなげる計画
特養の施設サービス計画は、本人の希望、生活上の課題、長期・短期目標、介護・看護・機能訓練・食事などの具体的な支援内容をまとめる計画です。
厚生労働省の基準では、計画担当介護支援専門員が原案を作成し、本人へ説明して文書で同意を得たうえで交付し、作成後も定期的な面接・モニタリングを行い、必要に応じて変更することが求められています。
また、施設サービス計画は介護だけではなく、本人の生活全般を支援する観点から、家族との交流や施設行事、日課なども含めて総合的に考えることが重要です。
「ケアプランがありますか」だけではなく、「本人の希望がどこに反映され、目標のために日常で何を行い、状態が変わったらどう見直しますか」と具体的に確認することが、特養のケアプランを理解するポイントです。