老人ホームの入居契約を結んだ後に、「やはり別の施設にしたい」「本人が入居を嫌がっている」「家族の事情が変わった」と気持ちが変わることがあります。
契約後だからといって、必ずそのまま入居しなければならないわけではありません。ただし、入居前か入居後か、前払金を支払っているか、契約書にどのような解除手続きが定められているかによって、返金額や負担する費用は変わります。
まず結論|契約後でも解除できる場合はある。最初に「入居前か」「入居後か」「前払金があるか」を確認する
老人ホームの入居契約後に気が変わったときは、まず施設へ早めに連絡し、入居契約書・重要事項説明書の契約解除条項と返金条件を確認してください。有料老人ホームについて厚生労働省の標準指導指針では、入居開始可能日前の契約解除では既受領金の全額返還を求めています。また、前払金を受領する有料老人ホームでは、入居後3か月までの短期解約について老人福祉法上の返還ルールがあります。ただし、すでに利用したサービスや入居日数に応じた費用などは差し引かれることがあります。
契約後に気が変わったら最初に確認する3つのこと
01
まだ入居していないか
契約は済んでいても、まだ入居開始可能日前であれば、入居後とは返金の考え方が異なります。
有料老人ホームの標準指導指針では、入居開始可能日前の契約解除について、既に受領した金銭を全額返還することが示されています。
02
すでに入居しているか
すでに入居を開始している場合は、居住日数、食費、サービス利用分など、実際に発生した費用が精算されることがあります。
前払金を支払っている場合は、その返還額の計算方法も確認します。
03
前払金・入居一時金を支払っているか
月払い方式か、前払金方式かによって、契約解除時に確認する内容は大きく変わります。
前払金がある場合は、返還対象額、償却方法、返還時期を契約書で確認してください。
まだ入居前ならどうなる?
契約後でも、まだ入居開始可能日前であれば、まず施設へ契約解除の意思を伝えます。
有料老人ホームでは既受領金の全額返還が標準指導指針に示されている
厚生労働省の「有料老人ホーム設置運営標準指導指針」では、入居開始可能日前の契約解除の場合、既受領金の全額を返還することとされています。
前払金や申込金などをすでに支払っている場合は、「何という名目でいくら支払ったか」を確認してください。
実費が発生していると言われたら内訳を確認する
施設からキャンセルに伴う費用を求められた場合は、契約書上の根拠と金額の内訳を確認します。
「契約したから返金できない」とだけ説明された場合は、そのまま受け入れず、重要事項説明書と入居契約書の解除・返金条項を確認してください。
入居後でも契約解除できる?
入居後であっても、入居者側から契約解除できる契約が一般的ですが、手続き方法や予告期間は契約内容によって異なります。
契約解除条項を確認する
厚生労働省の標準指導指針では、入居契約書に「契約解除の要件及びその場合の対応」を明示することが求められています。
本人・家族から解除を申し出る場合の予告期間、書面提出の要否、退去日までに支払う費用などを確認してください。
退去日までの利用料が発生することがある
契約解除を申し出た日と、実際の退去日が同じとは限りません。
契約上の予告期間がある場合や、退去まで居室を利用する場合は、その期間の家賃・管理費・食費等が発生することがあります。
前払金を支払っている場合の短期解約ルール
有料老人ホームで前払金を支払っている場合は、老人福祉法上の返還ルールを確認します。
入居後3か月までの短期解約に返還ルールがある
老人福祉法と施行規則では、有料老人ホームが前払金を受領する場合、入居後3か月までに契約が解除されたときには、一定の方法で計算した額を控除した残額を返還する契約を締結することが求められています。
一般に「90日ルール」などと呼ばれることがありますが、制度上は「3か月」が基準です。
前払金が全額そのまま戻るとは限らない
入居後に解除した場合は、実際に入居していた期間に応じた家賃等の費用など、法令上認められる額を控除して返還額を計算します。
「3か月以内なら必ず全額返金」と理解しないようにしてください。
短期解約制度とクーリングオフは同じではない
有料老人ホームの前払金返還ルールは、訪問販売などで使われる一般的なクーリングオフ制度とは別の仕組みです。契約解除を考えるときは、入居契約書と老人福祉法上の返還ルールを確認してください。
3か月を過ぎたら前払金は返らない?
3か月を過ぎたからといって、前払金が一切返らないとは限りません。
想定居住期間に応じた返還契約を確認する
老人福祉法では、前払金を受領する場合、入居後3か月を超えた後についても、前払金の算定の基礎とした想定居住期間が経過するまでの間に契約が終了した場合の返還ルールを設けることとされています。
具体的な返還額は、前払金の金額、償却方法、入居期間などによって変わります。
契約書に返還金の算定方式が明示されているか確認する
厚生労働省の標準指導指針では、前払金の返還金の有無、返還金の算定方式、支払時期などを入居契約書に明示することが求められています。
返還額に疑問がある場合は、施設へ計算根拠を示してもらってください。
「入居申込」と「入居契約」は分けて考える
施設探しでは、見学後に「申込書」を提出し、その後に入居契約を結ぶことがあります。
申込段階なら契約前の可能性がある
入居申込書を提出しただけで、まだ正式な入居契約を締結していない場合があります。
この場合は、まず申込書や預り金の規定を確認します。
申込金を支払っている場合は返還条件を確認する
申込時に金銭を支払っている場合は、その名目、返還条件、契約成立時の扱いを確認してください。
「申込金」「予約金」など名称だけで扱いを判断せず、書面の内容を確認することが大切です。
気が変わった理由を整理する
解除手続きを始める前に、「なぜ気が変わったのか」を整理すると、その後の判断がしやすくなります。
本人が入居を嫌がっている
家族が契約を進めた後に、本人が強く入居を拒否することがあります。
本人が契約内容や生活場所の変更を理解できる状態であれば、本人の意思を改めて確認してください。
別の施設の方が条件に合っている
契約後に、医療対応、費用、立地などでより適した施設が見つかることがあります。
新しい施設へ移る場合は、現在の契約解除と次の施設契約のタイミングを調整し、住まいが空白にならないようにします。
家族の事情が変わった
家族が在宅介護を続けられることになった、転居が決まった、資金計画が変わったなどの事情もあります。
感情だけで契約解除を進めるのではなく、解除後の生活場所と費用を確認してから判断してください。
本人の意思と家族の意思が違うとき
老人ホームの契約後に、本人と家族で意見が分かれることがあります。
本人が判断できるなら本人の意思を尊重する
本人が契約内容や生活場所について理解し意思表示できる場合は、家族の都合だけで入居・解除を決めないことが大切です。
本人が何を不安に感じているのかを聞き、必要であれば施設を再見学する方法もあります。
認知症がある場合も本人の意向を確認する
認知症があるからといって、本人の意思確認ができないとは限りません。
説明の仕方やタイミングを工夫し、可能な範囲で本人の希望を確認してください。
法的な代理権が必要な場面は専門家へ
判断能力が大きく低下し、本人名義の契約解除や財産処分を家族だけで進められない場合があります。
成年後見制度などが関係する可能性があるときは、施設、市区町村、地域包括支援センター、専門職などへ相談してください。
契約解除で確認したい費用
施設へ確認したい精算項目
- 前払金・入居一時金の返還額
- 返還金の計算方法
- 返還される時期
- 入居日まで・退去日までの家賃
- 管理費
- 食費
- 介護サービス利用分
- 自費サービス利用分
- 日用品費
- 居室の原状回復費
- 引っ越し費用
- 契約上の予告期間中の費用
- 預り金・保証金の精算
契約解除の予告期間を確認する
入居後に本人側から契約解除する場合、契約書に一定の予告期間が定められていることがあります。
「申し出た日=契約終了日」とは限らない
たとえば、1か月前までの申し出を求める契約であれば、退去日や利用料の精算に影響することがあります。
契約解除を決めたら、できるだけ早く施設へ連絡してください。
短期解約の返還ルールを不当に短くしないことが求められている
厚生労働省の標準指導指針では、契約解除の予告期間を設けることで、老人福祉法上の前払金返還義務がある期間を事実上短縮し、入居者の利益を不当に害してはならないとされています。
予告期間を理由に短期解約の返還が受けられないような説明を受けた場合は、契約内容と制度を確認してください。
契約解除は書面で残す
電話だけで「キャンセルします」と伝えるのではなく、施設が指定する正式な手続きを確認してください。
解除届・退去届を提出する
施設所定の契約解除届や退去届がある場合は、その書面を提出します。
提出日が予告期間や精算日の基準になることがあるため、控えを残してください。
メールや書面の記録も保管する
いつ解除を申し出たか、施設がいつ受理したかが分かるように記録を残します。
返金額や退去日について説明を受けた場合も、できれば書面やメールで確認してください。
別の施設へ移るなら先に次の受け入れを確認する
現在の施設との契約を解除してから次を探し始めると、退去日までに新しい住まいが決まらないことがあります。
次の施設の入居可否を確認する
空室があっても、本人の介護度、認知症、医療ニーズによって入居できない場合があります。
正式に受け入れ可能かを確認してから、現在の施設の退去日を調整します。
二重に施設費が発生する期間を確認する
現在の施設の予告期間と新しい施設の入居開始日が重なると、両方の費用が発生する可能性があります。
契約解除を急ぐ前に、日程と費用を並べて確認してください。
契約後に不安を感じたときは重要事項説明書を読み直す
契約後に気が変わる理由の中には、説明を受けたつもりでも理解が不十分だったケースがあります。
解除・返金に関する項目を見る
入居契約書では、契約解除の要件、返還金の有無、返還金の算定方法、返還時期などを確認します。
料金に関する項目を見る
退去までに発生する家賃、管理費、食費、追加サービス費などを確認します。
退去条件も読み直す
今回解除しない場合でも、将来どのような条件で契約終了になるか確認しておくと、今後の生活設計に役立ちます。
施設の説明と契約書の内容が違うと感じたら
契約前に聞いていた説明と、契約書や実際のサービス内容が違うと感じることがあります。
まず施設へ書面で確認する
「見学時にはこう説明された」「契約書ではこのように書かれている」と具体的に整理し、施設へ確認してください。
口頭の印象だけではなく、パンフレット、メール、重要事項説明書などの資料も確認します。
解決しない場合は外部相談窓口も利用する
契約や返金について施設と意見が合わない場合は、都道府県・市区町村の有料老人ホーム担当窓口や、消費生活センターなどへ相談する方法があります。
金額が大きい、契約上の争いになっている場合は、弁護士等への相談も検討してください。
「クーリングオフできる?」と考える前に確認したいこと
老人ホーム契約後の解除を考えると、「クーリングオフ」という言葉を思い浮かべる人もいます。
一般的なクーリングオフと施設契約の返還ルールは別
有料老人ホームには、前払金について入居前の返還や入居後3か月までの短期解約に関する制度があります。
これは、訪問販売などの特定商取引で使われるクーリングオフと同じ制度ではありません。
契約書と法令上の返還制度を確認する
「クーリングオフできるか」だけで判断するより、今が入居前か入居後か、前払金があるか、契約解除条項がどうなっているかを確認する方が実務的です。
契約解除前のチェックリスト
老人ホーム契約後に気が変わったときの確認事項
- 正式な入居契約を締結済みか
- まだ入居前か、すでに入居後か
- 入居開始可能日はいつか
- 前払金・入居一時金を支払っているか
- 契約解除条項を確認したか
- 解除の予告期間はあるか
- 解除届などの提出が必要か
- 前払金の返還額はいくらか
- 返還額の計算根拠を確認したか
- 返還時期を確認したか
- 退去日までに発生する利用料はいくらか
- 原状回復費の条件を確認したか
- 本人の意思を確認したか
- 次の生活場所が決まっているか
- 新しい施設との費用重複がないか
解除を決めたら早めに施設へ連絡する
気持ちが変わったまま連絡を先延ばしすると、入居開始日や予告期間が近づき、費用や手続きが複雑になることがあります。
迷っている段階でも相談してよい
契約解除を最終決定していなくても、「本人が入居を迷っている」「別施設も検討している」と施設へ相談できます。
入居開始日の変更や契約条件について相談できる場合もあります。
口頭説明だけで判断しない
返金額や解除条件について説明されたら、契約書の該当箇所と照らし合わせてください。
金額が大きい場合は、計算書や精算書を受け取り、内容を確認してから手続きを進めます。
まとめ|契約後に気が変わったら、早めに解除条件と返金額を確認する
老人ホームの入居契約を結んだ後でも、事情が変われば契約解除を検討することはできます。
ただし、まだ入居前なのか、すでに入居しているのか、前払金を支払っているのかによって、返金や精算の考え方は異なります。
有料老人ホームでは、厚生労働省の標準指導指針上、入居開始可能日前の契約解除では既受領金の全額返還が示されています。また、前払金を受領する場合には、入居後3か月までの短期解約や、その後の想定居住期間内の返還ルールがあります。
契約解除を考えたら、施設へ早めに連絡し、入居契約書・重要事項説明書で解除手続き、予告期間、返還金、退去までの利用料を確認してください。
最も大切なのは、契約したという理由だけで無理に入居を進めることでも、感情だけで急いで解除することでもありません。本人の意思、次の生活場所、返金・費用条件を整理したうえで判断することです。


