親が老人ホームへ入居していると、「施設費は医療費控除にできるのか」「別居になったら扶養から外れるのか」と迷うことがあります。
この2つは別の制度です。医療費控除は、実際に支払った費用のうち税法上対象になる医療費を確認します。一方、扶養控除は、親の所得や生計を一にしているかなどの要件で判定します。
まず結論|「施設費全部が医療費控除」「老人ホーム入居で扶養から外れる」とは考えない
老人ホーム入居者の確定申告では、まず施設の種類と領収書の内訳を確認します。特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院などは医療費控除の対象になる範囲が定められていますが、日常生活費や特別なサービス費用など対象外の費用もあります。また、親が老人ホームへ入所すると「同居老親等」には該当しませんが、所得や生計を一にする要件などを満たせば、扶養控除そのものの対象になる可能性はあります。医療費控除と扶養控除を分けて確認することが重要です。
老人ホーム入居者の確定申告で確認することは大きく2つ
老人ホームに関する税金では、医療費控除と扶養控除が混同されやすくなります。
01
支払った施設費のうち医療費控除の対象になるもの
介護保険制度の施設サービスなどには、医療費控除の対象になる費用があります。
ただし、施設の種類や費用項目によって対象範囲が異なるため、請求総額をそのまま医療費として扱うことはできません。
02
親を扶養控除の対象にできるか
親が老人ホームに入居して住所や居所が別になっていても、それだけで扶養控除の対象外になるとは限りません。
親の所得や納税者との生計関係など、扶養親族の要件を個別に確認します。
POINT
「医療費控除の対象か」と「扶養控除の対象か」は別々に判定します。どちらか一方に該当しても、もう一方が自動的に認められるわけではありません。
老人ホーム費用はすべて医療費控除になるわけではない
老人ホームや介護施設へ支払った費用のすべてが医療費控除の対象になるわけではありません。
施設種別によって対象範囲が違う
国税庁では、介護保険制度の施設サービスについて、施設種別ごとに医療費控除の対象範囲を示しています。
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、介護医療院などでは扱いが異なるため、まず本人がどの施設種別を利用しているか確認してください。
日常生活費や特別なサービス費用は対象外になるものがある
理美容、日用品、本人の希望による特別なサービスなどは、施設サービス費とは分けて請求されることがあります。
「施設へ払った金額」という理由だけで医療費控除へ含めず、領収書や明細で対象項目を確認することが重要です。
特別養護老人ホームの医療費控除
特別養護老人ホームは、国税庁の案内上、施設サービスの対価の一定部分が医療費控除の対象になります。
施設サービスの対価の2分の1相当額が対象
指定介護老人福祉施設や指定地域密着型介護老人福祉施設では、介護費、食費、居住費として支払った施設サービスの対価の2分の1に相当する金額が医療費控除の対象とされています。
一方、日常生活費や特別なサービス費用は対象外とされています。
領収書の医療費控除対象額を確認する
施設から交付される領収書等に、医療費控除の対象となる金額が分かる形で記載されている場合があります。
家族が独自に総額を2分の1にするのではなく、施設から交付された書類の記載内容を確認してください。
介護老人保健施設・介護医療院の医療費控除
介護老人保健施設や介護医療院についても、介護保険制度下の施設サービスの対価が医療費控除の対象になる場合があります。
介護費・食費・居住費が対象になる
国税庁の案内では、介護老人保健施設と介護医療院について、施設サービスの対価として支払った介護費、食費、居住費が医療費控除の対象とされています。
ただし、日常生活費や特別なサービスの費用など、医療費控除の対象外になる支出は分けて考えます。
請求書と領収書を保管する
確定申告時に対象額を確認できるよう、施設から受け取る請求書・領収書を保管します。
費用項目が分かりにくい場合は、施設の事務担当者へ医療費控除対象額の記載場所を確認してください。
有料老人ホームの月額料金を丸ごと医療費控除にしない
有料老人ホームでは、家賃、管理費、食費、生活支援費など、住まいや生活に関する費用が多く含まれます。
家賃や管理費は「施設に払ったから医療費」ではない
老人ホームへ支払う月額利用料のうち、住居費や生活サービス費まで自動的に医療費控除になるわけではありません。
医療費控除を検討するときは、医療機関への支払い、薬代、控除対象となる介護サービスなどを別に確認します。
介護サービス部分は内容を確認する
有料老人ホーム入居中でも、介護保険制度上の一定のサービスが医療費控除と関係する場合があります。
ただし、サービス種類や医療との関係によって扱いが異なるため、領収書やサービス明細を確認し、不明な場合は税務署等へ確認してください。
施設の月額請求書をそのまま医療費控除へ入れない
老人ホームの請求には、家賃、管理費、食費、介護、日用品など性質の異なる費用が含まれることがあります。医療費控除では対象となる費用だけを確認してください。
老人ホームから病院へ通院した交通費はどうなるか
施設入居中でも、外部の医療機関へ通院することがあります。
通常必要な公共交通機関の通院費は対象になり得る
国税庁は、医師等による診療を受けるために直接必要な通院費について、通常必要なものは医療費控除の対象になるとしています。
電車やバスなどを利用した場合は、日付、医療機関、経路、金額を記録しておくと整理しやすくなります。
タクシーや自家用車は扱いが違う
タクシー代は、公共交通機関を利用できない場合などを除き、原則として医療費控除の対象には含まれません。
また、自家用車で通院した際のガソリン代や駐車場料金は、医療費控除の対象には含まれないとされています。
医療費を誰が払ったかも重要
医療費控除は、単に本人名義の医療費かどうかだけではなく、誰が実際に支払ったかを確認する必要があります。
本人が自分で支払った場合
本人に課税所得があり、本人が医療費を支払っている場合は、本人自身の確定申告で医療費控除を検討します。
年金収入や源泉徴収税額などを確認し、申告によって税金の還付等が生じるか確認してください。
子どもなどが支払った場合
生計を一にする親族の医療費を納税者が実際に支払った場合は、その納税者側で医療費控除を検討できることがあります。
親の口座から引き落とされたのか、子どもが自分のお金で負担したのかを、領収書だけでなく支払い実態まで整理しておくことが大切です。
老人ホームに入ると親は扶養から外れるのか
親が老人ホームへ入居すると住所が別になるため、「扶養控除はもう使えない」と考えることがあります。
別居だけで扶養控除の対象外になるとは限らない
扶養親族に該当するかは、親族関係、所得要件、生計を一にしていることなどの条件で判定します。
老人ホームへ入居して別居していることだけで、扶養控除そのものが必ず使えなくなるわけではありません。
生活費等の負担実態を確認する
親の施設費や生活費を子どもが継続して負担しているなど、別居中でも生計を一にしていると判断される場合があります。
一方、親が十分な収入・資産で独立して生活し、子どもから生活費等の援助を受けていない場合などは、状況が異なります。
老人ホーム入居者は「同居老親等」には該当しない
70歳以上の親については、扶養控除の中で「同居老親等」に該当するかどうかも控除額に関係します。
老人ホームが親の居所になる
国税庁は、老親等が老人ホームなどへ入所している場合、その老人ホームが居所となるため、納税者と同居しているとはいえないと案内しています。
そのため、入居前に同居していた親でも、老人ホーム入居後は原則として「同居老親等」には該当しません。
扶養控除そのものとは分けて考える
「同居老親等に該当しない」ことと、「扶養控除を一切受けられない」ことは同じではありません。
70歳以上の親がその他の老人扶養親族に該当する可能性もあるため、所得や生計関係など他の要件を確認してください。
扶養控除で確認したい親の所得
親を扶養控除の対象にするには、親自身の所得が要件を満たしているか確認する必要があります。
年金の「受取額」だけでは判定しない
公的年金を受け取っている場合、年金収入そのものと税法上の所得金額は同じではありません。
公的年金等控除などを反映した所得金額で判定するため、源泉徴収票などを確認します。
年ごとの税制改正に注意する
扶養控除等の所得要件は税制改正で変わることがあります。
確定申告する年分の国税庁資料を確認し、前年の基準をそのまま使わないようにしてください。
医療費控除と扶養控除の書類を分けて準備する
確定申告をスムーズにするには、医療費に関する書類と扶養判定に必要な資料を分けて整理します。
準備しておきたい資料
- 施設の年間領収書・利用料明細
- 施設が示した医療費控除対象額
- 病院・歯科の領収書
- 薬局の領収書
- 通院交通費の記録
- 親の年金の源泉徴収票
- 親のその他の所得が分かる資料
- 家族が支払った施設費・医療費の記録
- 親への生活費等の送金記録
- 本人・家族それぞれの源泉徴収票等
施設の領収書は捨てずに保管する
介護施設によっては、医療費控除の対象額が分かるよう領収書に記載していることがあります。
毎月の請求書だけでなく、年間の領収書や支払証明書が発行されるか施設へ確認してください。
家族が親の確定申告を手伝うときの注意点
高齢の親に代わって、子どもが書類を集めたり申告準備を手伝ったりすることがあります。
誰の申告で控除するのかを先に決める
医療費控除では、実際に医療費を負担した人が誰かを確認します。
親自身の申告なのか、子どもなど生計を一にする家族側の申告なのかを整理してから明細を作ると、二重計上などを防ぎやすくなります。
親の扶養を兄弟姉妹で重複させない
兄弟姉妹がそれぞれ親を扶養していると考えていても、同じ親を複数人の扶養親族として重複して扱うことはできません。
誰が扶養控除を受けるのか、生活費の負担実態も含めて家族で整理してください。
判断に迷ったら税務署・税理士へ確認する
老人ホーム費用は、施設種別、介護サービス、医療費の支払者、親の所得などによって税務上の扱いが変わります。
施設名と費用内訳を伝えて相談する
「老人ホーム代は医療費控除になりますか」とだけ聞くのではなく、施設種別と領収書の内訳を伝えると確認しやすくなります。
施設から発行された領収書や重要事項説明書など、費用内容が分かる資料を手元に用意してください。
扶養は親の所得と生活費負担を伝える
親の年金やその他の所得、老人ホーム費を誰が負担しているか、普段の生活費を誰が支えているかを整理して相談します。
「同居していない」という事実だけで判断せず、実際の生計関係を説明することが重要です。
確定申告前に確認したいチェックリスト
老人ホーム入居者の税務確認
- 本人が入居している施設種別は何か
- 施設費のうち医療費控除対象額はいくらか
- 日常生活費など対象外費用を分けたか
- 病院・薬局の医療費を合算したか
- 通院交通費の記録があるか
- 医療費を実際に支払ったのは誰か
- 親の年間所得はいくらか
- 親と生計を一にしているか
- 老人ホーム入居後は同居老親等に該当しないことを確認したか
- 兄弟姉妹で扶養控除を重複していないか
- 申告する年分の最新の所得要件を確認したか
まとめ|医療費控除と扶養控除を別々に確認する
老人ホーム入居者の確定申告では、「施設費を払っているから医療費控除」「親を援助しているから扶養控除」と単純には判断できません。
医療費控除では、まず施設種別を確認し、施設サービス費のうち対象になる金額、病院・薬局の支払い、通院費などを整理します。
扶養控除では、親の所得や生計を一にしているかなどの要件を確認します。老人ホームへ入所している親は原則として同居老親等には該当しませんが、それだけで扶養控除全体が使えなくなるわけではありません。
「老人ホーム費用」という一つの支出として考えず、「医療費控除の対象額」と「親を扶養親族として扱えるか」をそれぞれ別の要件で確認することが、申告時の基本です。