血管性認知症の人の老人ホーム選び

血管性認知症のある家族の老人ホームを探すときは、「認知症対応可」という条件だけで決めないことが大切です。

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって起こる認知症です。認知機能の低下だけでなく、片麻痺、言語障害、嚥下障害、失禁など、脳血管障害の場所や広がりに応じた身体症状がみられることがあります。

まず結論|血管性認知症は「認知症ケア」と「脳卒中後の身体介護・再発予防」を一緒に見る

血管性認知症の人の老人ホーム選びでは、認知機能だけでなく、片麻痺、失語・構音障害、嚥下障害、歩行、排せつ、服薬、脳卒中の再発リスクまで施設へ具体的に伝えてください。日本神経学会は、血管性認知症では脳血管障害の部位や広がりによって症状が異なり、典型例では脳血管障害を繰り返すたび認知機能が階段状に低下することがあるとしています。施設は、リハビリ・転倒予防・食事・医療連携を含め、本人の残っている力を生かして生活を支えられるかで比較することが重要です。

血管性認知症とは?

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害の結果として生じる認知症です。

症状は脳血管障害の場所によって異なる

日本神経学会では、血管性認知症では認知症症状だけでなく、手足の麻痺、言語障害、嚥下障害、失禁など、さまざまな症状がみられるとしています。

そのため、老人ホーム選びでは「もの忘れがどの程度か」だけを見るのではなく、実際の生活で何に介助が必要かを整理する必要があります。

典型的には階段状に悪化することがある

脳梗塞などの脳血管障害を再び起こすたびに、認知機能や身体機能が段階的に低下することがあります。

ただし、すべての人が同じ経過をたどるわけではありません。本人の現在の症状と過去の脳卒中歴を施設へ伝えてください。

施設へ最初に伝えるべき情報

入居相談では「血管性認知症です」だけでなく、脳卒中後に残っている症状を具体的に共有します。

01

麻痺の有無

右・左のどちらに麻痺があるか、立ち上がりや移乗にどの程度介助が必要かを伝えます。

02

歩行状態

杖、歩行器、車いすなど現在使用している福祉用具と、歩ける距離を伝えます。

03

言葉の障害

言葉が出にくい、発音が不明瞭、相手の言葉を理解しにくいなど、会話上の特徴を伝えます。

04

嚥下状態

食事や水分でむせるか、食形態やとろみが必要かを伝えます。

05

過去の脳卒中歴

脳梗塞・脳出血の時期、回数、再発予防の治療内容を共有します。

認知機能だけでなく「できる動作」を見る

血管性認知症では、認知機能の低下と身体機能の低下が同時にみられることがあります。

できることと難しいことに差がある場合がある

会話は難しくても、着替えの一部は自分でできるなど、能力にばらつきがみられることがあります。

全部介助にしない施設か確認する

時間がかかっても本人ができる動作を待ち、難しい部分だけ介助する施設かを見ます。

本人の自尊心への配慮を見る

言葉が出にくいからといって理解できないと決めつけず、本人へ説明しながら介助する姿勢が大切です。

POINT

血管性認知症では、話す力と理解する力、認知機能と身体機能が同じ程度に低下するとは限りません。職員が本人の「できる部分」を見極め、尊重できる施設か確認してください。

片麻痺がある場合は移乗・歩行介助を確認する

脳卒中後の片麻痺が残っている人では、日常生活のさまざまな場面で介助が必要になります。

ベッドから車いすへの移乗

一人介助で可能か、二人介助が必要か、移乗用具を使用しているかを施設へ伝えます。

トイレでの立ち上がり

手すりの位置や便座の高さが本人の麻痺側に合っているか確認してください。

歩行器・杖を使えるスペース

廊下や居室内の動線が狭すぎないか、床に段差やつまずきやすい物がないかを見ます。

転倒予防と活動維持の両方を見る

片麻痺やバランス障害があると転倒リスクが高くなる場合があります。

危険だから歩かせないだけでは不十分

安全だけを優先して車いすで過ごす時間が増えると、本人の身体機能が低下する場合があります。

本人に合った見守りがあるか

歩行器、手すり、職員の見守りなどを組み合わせ、できる範囲で歩く機会を残せるか確認します。

転倒歴を伝える

どの場面で転んだか、夜間か日中か、方向転換時かなどを共有すると対策を立てやすくなります。

リハビリをどこまで続けられるか確認する

脳卒中後の後遺症がある人では、入居後も身体機能を維持する視点が重要です。

専門職の配置

理学療法士、作業療法士、言語聴覚士等が施設内にいるか、外部サービスを利用するのかを確認します。

個別訓練の頻度

「リハビリあり」という案内だけでなく、週何回、どのような内容を行うのかを聞いてください。

生活そのものをリハビリにできるか

食堂まで歩く、トイレで立つ、着替えを自分で行うなど、日常動作を維持する支援があるか確認します。

失語症がある人への対応を見る

血管性認知症の人では、脳血管障害によって失語症がみられることがあります。

言葉が出ないだけで理解できないとは限らない

話したいことがあっても言葉が出にくい人がいます。職員が返事を急かさず、本人の表情やジェスチャーも見ているか確認してください。

短い言葉や選択肢を使えるか

「どうしたいですか」と広く尋ねるより、「お茶にしますか、水にしますか」と選びやすい聞き方が合う場合があります。

本人の前で本人抜きに話さない

言葉が出にくくても本人の理解力が保たれている場合があります。家族と職員だけで本人を無視するように話さない施設かを見ることが大切です。

構音障害がある場合

構音障害では、言葉そのものは分かっていても、発音が不明瞭になることがあります。

聞き取れないときに決めつけない

職員が「分からない」で終わらせず、聞き返したり、指差しや筆談を使ったりできるか確認します。

意思表示の方法を共有する

家族が本人の発音や身振りを理解できる場合は、入居前に職員へ伝えてください。

嚥下障害がある場合は食事対応を確認する

日本神経学会は、血管性認知症では脳血管障害の部位によって嚥下障害がみられることがあるとしています。

現在の食形態を伝える

普通食、一口大、やわらか食、ペースト食など、現在安全に食べられている形を施設へ伝えます。

水分のとろみ

水やお茶にとろみが必要な場合は、現在の濃さや医療職からの指示を共有します。

むせ・誤嚥性肺炎歴

食後の咳、むせ、過去の誤嚥性肺炎がある場合は必ず伝えてください。

食事介助の方法を見る

嚥下障害や片麻痺がある人では、食事の姿勢や介助方法が重要です。

座位姿勢を整えられるか

体が麻痺側へ傾く人では、クッションや車いす調整などで姿勢を安定させる必要があります。

一口量・食べる速さ

本人が飲み込むのを待ち、急かさず介助できるか確認します。

食後の変化を観察できるか

咳、痰、湿った声、呼吸状態などに変化があったとき、看護職員へつなげられる体制が必要です。

排せつ障害・失禁への対応を確認する

血管性認知症では、脳血管障害によって失禁などの症状がみられる場合があります。

本人の排せつパターンを把握する

定時誘導だけでなく、本人がトイレへ行きやすい時間帯を把握しているか確認します。

麻痺があってもトイレを使えるか

車いすや歩行器から安全に移乗できる環境か見てください。

失禁だけでおむつ中心にしない

本人の能力に応じ、トイレで排せつできる機会を残す支援があるかを確認します。

脳卒中の再発予防を続けられるか確認する

血管性認知症では、新たな脳血管障害を防ぐことが重要です。

高血圧・糖尿病・脂質異常症などの管理

日本神経学会は、脳血管障害の原因となる高血圧、糖尿病、脂質異常症などの管理が重要としています。

服薬を継続できるか

降圧薬、糖尿病治療薬、脂質異常症治療薬、抗血小板薬、抗凝固薬など、本人に処方されている薬を施設で適切に管理できるか確認します。

定期受診を続けられるか

脳神経内科、脳神経外科、内科など、現在の主治医へ通院できるか、施設の協力医へ引き継ぐかを確認してください。

抗血小板薬・抗凝固薬を使っている場合

脳梗塞の再発予防などで、血液を固まりにくくする薬を服用している人がいます。

薬の飲み忘れを防ぐ

認知症がある場合、服薬自己管理が難しくなることがあります。施設で薬を預かり、服用を確認できるか聞いてください。

転倒後の観察を確認する

転倒して頭を打った場合など、出血リスクを踏まえて医療へ相談できる体制かを確認します。

自己判断で中止しない

出血が心配でも、本人や家族、施設だけで薬を中止せず主治医へ相談してください。

急な症状は「認知症が進んだ」と決めつけない

血管性認知症がある人に急な変化が起きた場合、新しい脳卒中の可能性も考える必要があります。

突然片方の手足が動きにくくなった

これまでと違う麻痺が急に出た場合は、速やかな医療対応が必要になることがあります。

突然言葉が出なくなった・理解できなくなった

認知症の進行と決めつけず、新たな神経症状として対応できる施設か確認してください。

急な意識状態の変化

急に反応が悪くなった場合も、脳卒中だけでなく感染症や低血糖などさまざまな原因が考えられます。

急な神経症状は早めの医療対応が重要

血管性認知症がある人でも、突然の麻痺、言葉の異常、意識状態の変化などがあれば、「もともとの認知症」と考えず、医療職へ連絡し必要に応じて救急対応につなげる体制を確認してください。

夜間の転倒・急変対応を見る

脳卒中後の麻痺や認知症がある人では、夜間の移動で転倒することがあります。

夜勤職員数

夜間に何人の職員で何人の入居者を支援しているか確認します。

ナースコールを使えない場合

認知症でナースコールの意味を理解できない場合、巡回やセンサーなどをどう活用するか聞いてください。

夜間の医療連携

新しい麻痺や意識低下が疑われたとき、夜間に看護職員・医師へどう連絡するかを確認します。

感情の変化・意欲低下への対応を見る

血管性認知症では、感情や意欲の変化がみられる場合があります。

何もしないから「やる気がない」と決めつけない

脳血管障害による意欲低下や身体機能の制限が影響している場合があります。

本人が参加しやすい活動を探す

集団レクリエーションが苦手でも、散歩、新聞、音楽など本人が取り組みやすい活動があるか確認します。

急な感情変化を医療へ相談できるか

抑うつ、強い不安、興奮などが続く場合に、主治医へ相談できる体制があるかを確認してください。

本人を急かさない施設か見る

麻痺や言語障害があると、動作や返答に時間がかかることがあります。

返事を待てるか

職員が質問した直後に答えを決めつけず、本人の返答を待てるか見ます。

動作を待てるか

着替えや立ち上がりをすぐ代わりに行うのではなく、本人ができる部分を待てるか確認します。

命令口調になっていないか

「早くしてください」「座ってください」など急かす声かけが多くないか、見学時に職員の関わりを見てください。

身体拘束を前提にしない施設か確認する

転倒リスクが高くても、「動かないようにすればよい」と単純に考えることはできません。

介護保険の施設・入居系サービスでは身体拘束等は原則禁止

本人または他の利用者等の生命・身体を守るため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他の行動制限は原則として禁止されています。

環境調整と見守りを組み合わせる

手すり、歩行補助具、家具配置、センサー、職員の見守りなどを使い、本人が安全に動ける環境をつくる施設か確認してください。

グループホームが合う場合

認知症対応型共同生活介護(グループホーム)は、認知症のある人が少人数で共同生活を送る地域密着型サービスです。

要支援2・要介護1~5が対象

認知症の診断があり、要支援2または要介護1~5が対象です。要支援1は対象外です。

身体介護の必要量を確認する

片麻痺、嚥下障害、二人介助など身体介護量が大きい場合は、施設の職員配置や設備で対応できるか確認してください。

医療ニーズが高い場合

脳卒中再発リスクや医療処置がある場合は、看護・医療連携まで確認します。

介護付き有料老人ホームが合う場合

介護付き有料老人ホームでは、施設の職員が介護サービスを提供します。

身体介護と認知症ケアを一体で見やすい

移動、排せつ、食事、服薬など複数の介助が必要な場合、施設内のケア体制をまとめて確認できます。

リハビリ体制は施設ごとに確認する

理学療法士等の配置や機能訓練の頻度は施設によって異なります。

住宅型有料老人ホームを選ぶ場合

住宅型有料老人ホームでは、訪問介護や訪問看護など外部サービスを組み合わせることがあります。

介護量が増えた場合のサービス設計を見る

片麻痺や認知症が進行し介助量が増えた場合、必要な訪問回数や費用がどう変わるかを確認します。

リハビリを外部サービスで受ける場合

訪問リハビリ等の利用可否や、生活支援との組み合わせを確認してください。

特別養護老人ホーム(特養)が候補になる場合

常時介護が必要で長期的な生活の場を必要とする人では、特別養護老人ホーム(特養)が候補になります。

新規入所は原則要介護3以上

特養の新規入所は原則として要介護3以上ですが、要介護1・2でもやむを得ない事情がある場合は特例入所の対象になることがあります。

リハビリ・医療連携を確認する

脳卒中後の身体機能維持、嚥下、再発時の医療連携など、本人に必要な支援を施設ごとに確認してください。

施設見学で職員の接し方を見る

血管性認知症の人は、言語障害や麻痺があることで意思を表現しにくくなる場合があります。

本人へ直接話しかけているか

家族だけに説明するのではなく、本人にも目を合わせて話しかけているかを見ます。

返答を待っているか

言葉が出るまで時間がかかる人を急かしていないか確認します。

できないことだけで評価していないか

麻痺がある側だけを見るのではなく、残っている力を生かした介助を行っているか確認してください。

本人を見学へ連れて行くときのポイント

可能であれば、家族が候補を絞った後に本人にも施設を見てもらいます。

歩行動線を本人と確認する

居室から食堂、トイレまで、本人が実際に移動できそうか確認します。

職員とのコミュニケーションを見る

言葉が出にくい本人に対して、職員が待って話を聞けるか見てください。

本人の反応を見る

共用スペースで落ち着けるか、職員の声かけに安心した表情を見せるかも判断材料になります。

施設へ伝える情報チェックリスト

入居相談時に共有したいこと

  • 血管性認知症の診断
  • 過去の脳梗塞・脳出血歴
  • 要介護度
  • 片麻痺の有無と麻痺側
  • 歩行状態
  • 移乗介助の程度
  • 失語・構音障害の有無
  • 本人が理解しやすい会話方法
  • 嚥下状態
  • 食形態・とろみ
  • 誤嚥性肺炎歴
  • 排せつ状態
  • 転倒歴
  • 高血圧・糖尿病・脂質異常症等
  • 現在の薬剤
  • 主治医・通院先

施設見学で確認したいチェックリスト

血管性認知症の施設選び

  • 現在の介助量で受け入れ可能か
  • 片麻痺の移乗・歩行介助
  • 転倒予防
  • リハビリ専門職の配置
  • 個別機能訓練の内容
  • 失語・構音障害への対応
  • 嚥下・食事対応
  • 服薬管理
  • 血圧等の健康管理
  • 脳卒中再発時の緊急対応
  • 夜勤職員数
  • 看護職員の勤務時間
  • 協力医療機関
  • 身体拘束等を防ぐ取り組み
  • 状態悪化時の退去条件
  • 看取り対応

状態が変わった場合の退去条件も確認する

血管性認知症では、新たな脳卒中によって身体機能や介護量が大きく変わる場合があります。

全介助になった場合

歩行できていた人が車いす・寝たきりになっても継続入居できるか確認します。

嚥下障害が進行した場合

食形態変更、吸引、経管栄養などが必要になったときの受け入れ範囲を聞いてください。

長期入院後に戻れるか

新たな脳卒中で入院し、退院後に介護量が増えた場合の再入居条件を確認します。

重要事項説明書・入居契約書を見る

医療ニーズや介護量の増加を理由とする契約解除・退去条件を契約前に確認してください。

まとめ|血管性認知症は「再発予防」と「残っている力を生かす介護」で選ぶ

血管性認知症の人でも、本人の認知症症状、身体機能、医療ニーズに合った老人ホームなら入居できる場合があります。

日本神経学会では、血管性認知症は脳梗塞や脳出血などの脳血管障害によって起こり、脳血管障害の場所や広がりによって、麻痺、言語障害、嚥下障害、失禁などさまざまな症状がみられるとしています。また、再発予防のために高血圧、糖尿病、脂質異常症などの管理も重要です。

施設へは診断名だけでなく、麻痺側、歩行・移乗、言葉の理解と表出、食事・嚥下、排せつ、転倒歴、服薬、過去の脳卒中歴まで具体的に伝えてください。

施設見学では、本人の動作や返答を急かさず、できる部分を生かして介助しているか、日常生活の中で体を動かす機会を残しているか、急な麻痺や意識変化を医療へつなげられるかを確認します。

最も大切なのは、「認知症対応可」という表示だけで決めることではありません。認知症ケア、身体介護、リハビリ、脳卒中再発予防、急変対応を一つの生活として支えられる施設を選ぶことです。

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