入院中の親について、病院から「退院後は自宅へ戻るのが難しい」と言われると、家族は短期間で老人ホームや介護施設を探す必要が出てくることがあります。
そのとき頼りになるのが、病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)です。ただし、相談に行くだけで自動的に最適な施設が決まるわけではありません。本人の状態、希望、予算、家族の事情を整理して伝えることで、相談が進みやすくなります。
まず結論|MSWへの相談前に「退院後の希望・医療介護・予算・家族の支援力」を整理する
医療ソーシャルワーカーへ施設探しを相談するときは、本人が自宅復帰を希望しているか、要介護度、認知症、必要な医療処置、毎月支払える費用、家族がどこまで支援できるかを整理しておくと話が進みやすくなります。MSWは退院後の生活場所や介護サービスなどを一緒に考え、必要な関係機関につなぐ役割がありますが、最終的な施設選びと契約内容の確認は本人・家族が行います。
医療ソーシャルワーカーは何を相談できる人?
医療ソーシャルワーカー(MSW)は、病院などで患者や家族の相談を受け、社会福祉の立場から療養上のさまざまな課題の調整を行う専門職です。
厚生労働省の業務指針では、退院後の生活や療養の場、介護保険制度、地域のサービスなどについて相談・調整を行う役割が示されています。
退院後の生活場所を一緒に考える
自宅へ戻れるのか、老健などでリハビリを続けるのか、有料老人ホームや特養などを検討するのか、本人の状態に合わせて選択肢を整理します。
医師・看護師・リハビリ職などから得た情報を踏まえながら、退院後の生活上の課題を社会福祉の視点で調整します。
介護保険や地域の支援につなぐ
要介護認定が必要な場合や、在宅介護サービスを利用する場合には、介護保険制度の利用方法や地域の相談先につなぐ支援を受けられることがあります。
すでにケアマネジャーがいる場合は、病院と地域の支援者の間をつなぐ役割も重要です。
相談前に準備1|本人の退院後の希望を整理する
最初に整理したいのは、「家族がどうしたいか」だけでなく、本人がどのような生活を希望しているかです。
自宅へ戻りたいのか、施設も受け入れられるのか
本人が自宅復帰を強く希望している場合、まず在宅サービスや住宅環境の調整で生活を続けられるかを検討する必要があります。
一方、本人も施設入居を希望している、または自宅生活が現実的に難しい場合は、施設種別や地域を絞る相談へ進みやすくなります。
本人が大切にしている生活条件を確認する
家族の近くに住みたい、今の地域を離れたくない、個室がよい、外出したい、夫婦で入りたいなど、本人の希望を書き出しておきます。
すべての条件を満たせない場合に備え、「譲れない条件」と「できれば希望する条件」に分けておくと施設候補を絞りやすくなります。
相談前に準備2|現在の医療・介護状態を把握する
施設を探すときは、病名だけでなく「退院後にどのような介護・医療が必要か」が重要です。
01
要介護度を確認する
現在の要介護認定がある場合は、要支援・要介護の区分を確認します。
入院前から状態が大きく変わっている場合は、認定区分の見直しが必要になることもあります。MSWやケアマネジャーなどと相談してください。
02
移動・排せつ・食事などの介助量を確認する
歩けるか、車いすが必要か、トイレへ一人で行けるか、食事介助が必要かなどを整理します。
家族が「以前は歩けていました」と伝えるだけでは、退院時の状態とずれることがあります。現在どの程度の介助が必要なのかを病棟職員へ確認してください。
03
認知症や行動面の状況を確認する
認知症の診断だけでなく、見当識、夜間の不眠、外へ出ようとする行動、介護への拒否など、実際の生活上の様子を整理します。
施設側の受け入れ判断に関わる場合があるため、困っている行動を隠さず伝えることが重要です。
04
必要な医療処置を具体的にする
在宅酸素、インスリン、たんの吸引、経管栄養、人工透析、褥瘡処置などがある場合は、具体的な内容と頻度を確認します。
「医療対応が必要」とだけ伝えるより、何をいつ行う必要があるかが分かる方が、受け入れ可能な施設を絞りやすくなります。
相談前に準備3|予算を具体的に決める
施設探しでは、予算が曖昧なままだと候補が広がりすぎます。
毎月支払える上限を整理する
本人の年金収入、預貯金、家族が支援できる金額などから、毎月どこまで支払えるかを考えます。
施設の月額表示だけでなく、介護保険自己負担、医療費、薬代、日用品などを含めた総額で考えることが重要です。
初期費用に使える金額も確認する
有料老人ホームなどでは、前払金や敷金が必要な場合があります。
初期費用を抑えたいのか、一定の前払金を支払って月額を抑えるプランも検討できるのかを整理しておくと、候補を絞りやすくなります。
POINT
MSWには「できるだけ安い施設」ではなく、実際に支払える金額を伝える方が探しやすくなります。
たとえば「月15万円程度まで」「初期費用は50万円以内」など、家族内で現実的な上限を共有しておきましょう。
相談前に準備4|希望する地域を決める
施設を探す地域も、相談前にある程度整理しておくとよいでしょう。
本人の自宅近くで探すか
住み慣れた地域に残れば、これまでの医療機関や知人とのつながりを保ちやすい場合があります。
一方、家族が遠方にいる場合は、面会や緊急時の対応が負担になることがあります。
家族の近くへ呼び寄せるか
家族の居住地近くへ移れば、面会や緊急時に動きやすくなります。
ただし、本人にとっては大きな環境変化になります。特に認知症がある場合は、本人の希望や環境変化への影響も考えて決めてください。
相談前に準備5|家族ができること・できないことを明確にする
施設へ入居した後も、家族に一定の対応を求める施設があります。
通院・緊急時に家族が動けるか
通院のたびに家族が付き添えるのか、遠方で難しいのかを整理します。
家族が対応できない場合は、職員の通院同行や外部サービスを利用できる施設を探す必要があります。
身元引受人・連絡先になれる人を確認する
施設契約時に、身元引受人や緊急連絡先を求める場合があります。
誰が施設との連絡窓口になるか、兄弟姉妹がいる場合は役割分担も話し合っておくと相談が進みやすくなります。
家族の介護負担を正直に伝える
「本当は自宅で見たいが仕事があって無理」「夜間介護で家族が限界」といった事情も重要な情報です。
家族が無理を前提にした退院計画にならないよう、できないことも含めてMSWへ伝えてください。
MSWに施設名を紹介してもらえばそれで決めてよい?
MSWから施設や相談先の情報を得られることがありますが、紹介された施設が本人に最適だと保証されるわけではありません。
候補を知るための支援と考える
MSWは退院支援の一環として、本人の状態や地域資源を踏まえ、退院後の生活場所について情報提供や関係機関との調整を行います。
一方、施設の空室、料金、詳細なサービス内容は日々変わります。候補が出たら家族自身でも施設へ問い合わせて確認します。
最終的には見学して契約内容を確認する
可能であれば、家族または本人が施設を見学してください。
職員と入居者の様子、食事、居室、医療体制などを確認し、重要事項説明書や契約書を読んだうえで最終判断します。
MSWは「老人ホーム紹介会社」と同じではない
医療ソーシャルワーカーは、患者・家族の療養上の課題を社会福祉の立場から支援する職種です。特定の施設を販売することが主な役割ではありません。退院後の生活全体を相談し、その中で必要な施設や地域サービスを検討します。
退院期限が迫っている場合に確認すること
入院中は治療やリハビリの経過によって退院時期が決まるため、施設探しに使える時間が限られる場合があります。
「いつまでに退院先を決める必要があるか」を具体的に聞く
「もうすぐ退院です」だけではなく、退院の目安日や、施設側の受け入れ調整にどの程度時間を取れるのかを確認します。
家族の仕事や遠方からの見学がある場合は、その事情も早めにMSWへ伝えてください。
第一希望だけに絞りすぎない
希望する施設に空室がない場合や、医療処置の関係で受け入れ不可となる場合があります。
地域、費用、居室などの条件に優先順位を付け、第二・第三候補も検討できるようにしておくと、退院先調整が進みやすくなります。
老健・有料老人ホーム・特養などの役割を混同しない
退院後の施設候補として名前が挙がっても、各施設の目的は同じではありません。
老健は在宅復帰・在宅療養支援を目的とする
介護老人保健施設(老健)は、要介護者にリハビリ、介護、看護などを提供し、自宅等での生活へ戻ることを支援する施設です。
「退院後にとりあえず長く住める老人ホーム」という位置づけではありません。一律に3か月で退所する制度ではありませんが、長期居住を第一目的とする施設ではない点を理解しておきます。
有料老人ホームは類型によって介護の受け方が違う
介護付き有料老人ホームでは、特定施設入居者生活介護として施設が介護を包括的に提供します。
住宅型有料老人ホームでは、必要な介護を外部の訪問介護などと契約して利用するのが基本です。本人の介護量や医療状態に合う類型かを確認します。
特養は新規入所が原則要介護3以上
特別養護老人ホーム(特養)は、新規入所が原則として要介護3以上です。要介護1・2でも、居宅生活が困難な一定の事情がある場合には特例入所の対象になることがあります。
本人の要介護度や必要性によって入所判断が行われるため、希望すればすぐ入所できるとは限りません。
MSWとの相談で伝えたい情報を一覧にしておく
施設探しの相談前に準備したい情報
- 本人の退院後の希望
- 要介護度・要支援区分
- 認知症の有無と生活上の様子
- 歩行・移乗・排せつ・食事などの介助状況
- 必要な医療処置と実施時間
- リハビリの必要性
- 希望する施設地域
- 個室・夫婦入居などの希望
- 毎月支払える費用の上限
- 初期費用に使える金額
- 家族が通院同行できるか
- 家族が緊急時に駆けつけられるか
- 施設との連絡担当者
- 退院予定時期
- 譲れない条件
すべてを完璧に調べてから相談する必要はありません。分からない項目があれば、「何を病棟に確認すればよいか」も含めてMSWへ相談できます。
相談後は候補施設へ何を確認する?
施設候補が出たら、MSWからの情報だけでなく、施設へ直接確認します。
現在の医療・介護状態で受け入れ可能か
病院からの診療情報提供書などをもとに、施設側が受け入れ可能か判断することがあります。
特に医療処置がある場合は、施設見学前に対応可否を確認すると、候補外の施設へ何度も足を運ぶ負担を減らせます。
退院後すぐ入居できるか
空室があっても、入居前面談や健康診断、書類審査などが必要で、すぐ入居できるとは限りません。
病院の退院予定日を施設へ伝え、最短でいつから入居可能かを確認してください。
費用と退去条件を確認する
月額料金だけでなく、介護費、医療費、追加サービスなどを含めた総費用を確認します。
また、医療ニーズが高まった場合や長期入院時など、退去となる条件も契約前に確認することが重要です。
まとめ|MSWには「施設を探して」ではなく必要条件を具体的に伝える
病院の医療ソーシャルワーカーは、患者・家族の相談を受け、退院後の生活や療養場所、介護サービス、制度利用などを調整する専門職です。
施設探しを相談するときは、本人の退院後の希望、要介護度、認知症、医療処置、予算、希望地域、家族ができる支援などを整理しておくと、必要な選択肢を検討しやすくなります。
ただし、MSWから施設情報を得ても、それだけで入居先を決める必要はありません。候補施設へ直接確認し、可能であれば見学し、契約内容を読んだうえで判断します。
「どこか入れる施設を探してください」と任せきりにするより、「本人は何を必要としていて、家族は何ができないのか」を具体的に共有することが、退院後の生活に合う選択肢を見つける第一歩です。

