認知症が進行すると、ティッシュ、紙、洗剤、石けん、植物、薬など、食べ物ではない物を口に入れようとする「異食」がみられることがあります。
家族にとっては、「目を離したら危険な物を食べてしまうのでは」「異食があると老人ホームへ入れないのでは」と大きな不安になります。
異食があるからといって、すべての老人ホームで入居できないわけではありません。ただし、何を口にするのか、どのくらいの頻度か、見守りが必要な時間帯、過去の誤飲・中毒事故などによって必要な環境と職員体制は変わります。
まず結論|異食のある人は「何を食べるか」と「危険物をどう遠ざけるか」を具体的に確認する
認知症で異食がある人の老人ホーム選びでは、「異食あり」とだけ伝えず、ティッシュ・洗剤・薬・植物など何を口にしたことがあるか、頻度、時間帯、過去の誤飲・窒息・受診歴まで施設へ具体的に伝えてください。厚生労働省は異食行動を認知症に伴う行動症状の一つとして扱っています。施設見学では、危険物の保管、居室・共用部の環境、ゴミ箱や洗剤・薬の管理、職員の見守り、異食が起きたときの医療連携、状態悪化時の退去条件まで確認することが重要です。
認知症の異食とは?
異食は、通常は食べ物として扱わない物を口に入れたり、食べようとしたりする行動です。
厚生労働省も認知症の行動症状として扱っている
厚生労働省の要介護認定に関する手引きでは、「異食行動」を、通常は避けるような物体や味に対して異常な食欲・嗜好を示す状態として説明しています。
また、認知症の行動・心理症状(BPSD)に関する資料でも、認知症の進行に伴って食行動の異常がみられることがあるとされています。
異食の対象は人によって異なる
紙類、ティッシュ、包装材、石けん、植物などを口にしようとする人もいれば、薬や洗剤など危険性の高い物を誤って口にする人もいます。
施設側へは「異食があります」という病状だけでなく、実際に何を食べたことがあるのかを伝える必要があります。
施設へ最初に伝える情報
異食のある人では、具体的な行動を伝えるほど、施設側が安全対策を検討しやすくなります。
01
何を口にするか
ティッシュ、紙、石けん、薬、洗剤、植物など、これまで口にした物を具体的に伝えます。
02
どのくらいの頻度か
毎日なのか、週に数回なのか、過去に一度だけなのかを伝えます。
03
起こりやすい時間帯
空腹時、夜間、一人になったときなど、傾向が分かっていれば共有します。
04
過去の事故
窒息、嘔吐、中毒、救急搬送、受診などがあった場合は必ず伝えます。
05
止めたときの反応
声かけで手放すのか、強く怒るのか、別の物へ注意を向けると落ち着くのかを伝えます。
「危険な物を食べないようにする環境」を確認する
異食への対応では、本人を常に叱って止めるより、口にすると危険な物へ容易に触れない環境をつくることが重要です。
洗剤・消毒剤の保管
洗剤、漂白剤、消毒剤などが入居者の手の届く場所に置かれていないか確認します。
薬の管理
本人の薬だけでなく、他の入居者の薬へ触れられない管理になっているかを確認してください。
清掃用品の管理
清掃用薬剤や業務用品が共用スペースに放置されない仕組みがあるかを見ます。
小物の置き方
ボタン、電池、小型部品など、誤飲すると危険な小物が簡単に手に取れる場所にないか確認します。
POINT
異食対策では「本人から目を離さない」だけでは限界があります。危険物を本人の生活動線から減らし、誤って手に取っても重大事故につながりにくい環境を整えている施設かを見ることが大切です。
ゴミ箱の管理を確認する
異食のある人は、ゴミ箱の中の物を食べ物と誤認して取り出すことがあります。
食堂・共用部のゴミ箱
食べ残し、包装材、紙類などへ簡単に手が届く配置になっていないか確認します。
居室のゴミ箱
本人の居室へ一般的なゴミ箱を置くか、職員が回収する方法にするかは、本人の異食内容によって調整が必要です。
他の入居者の居室への出入り
認知症が進行して他の人の居室へ入ることがある場合、そこに置かれた薬や小物にも注意が必要です。
ティッシュ・紙を食べる人の場合
ティッシュや紙を口にする人では、生活に必要な物をすべて取り上げるのではなく、安全と使いやすさの両方を考えます。
置き場所を工夫する
ティッシュを本人の目の前に大量に置かず、必要なときに職員が渡す方法が合う場合があります。
本人が何を求めているかを見る
食べ物と認識しているのか、手持ち無沙汰で口へ運んでいるのかなど、行動する場面を観察します。
生活を不便にしすぎない
危険を避けるために必要な日用品まで一律に撤去すると、本人の生活が制限されることがあります。
本人の行動を見ながら、必要最小限の環境調整ができる施設か確認してください。
洗剤・石けんを口にする人の場合
洗剤や石けんなどの化学製品を飲み込むと、中毒や消化管への刺激などが問題になることがあります。
洗面所・浴室の管理を見る
液体石けん、洗剤、シャンプーなどが本人だけで自由に取り出せる状態になっていないか確認します。
清掃中の一時置きにも注意する
普段は施錠保管していても、清掃時に薬剤を廊下や洗面台へ置いたままにすると事故につながる可能性があります。
誤飲時の対応手順を聞く
何をどのくらい飲んだ可能性があるか確認し、医療機関や中毒に関する専門窓口へ相談できる体制があるかを確認してください。
薬を食べようとする場合
薬を食べ物と誤認する人では、服薬管理だけでなく保管場所が重要です。
本人が自由に薬へ触れない管理にする
認知症による異食がある場合、自己管理から施設管理へ切り替える必要がないか検討します。
他の入居者の薬にも注意する
食堂等で複数人へ薬を配るとき、別の入居者の薬へ手を伸ばさないよう、職員がどのように管理しているか確認してください。
誤薬と異食の両方を防ぐ
薬は種類によって少量でも重大な影響を及ぼす場合があります。本人の薬だから多く飲んでもよいということはありません。
植物や土を口にする場合
施設には観葉植物や庭があり、本人が葉や土を口にしようとする場合があります。
植物の種類と配置を確認する
本人が頻繁に植物へ手を伸ばす場合は、居室や共用部での置き場所を調整できるか確認します。
散歩を禁止するだけにしない
植物への異食があるからといって、外へ出る機会をすべてなくすのではなく、職員の見守りで安全に散歩できるかを確認してください。
異食が起きたときの応急対応を確認する
どれだけ環境を整えても、異食を完全に防げない場合があります。
まず何を口にしたか確認する
日本中毒情報センターは、中毒事故が起きた場合、まず原因物質を確認し、容器や残量などから摂取した物と量を把握することが重要と案内しています。
家庭的な判断で無理に吐かせない
日本中毒情報センターは、誤飲時に家庭で吐かせることを勧めていません。吐物が気管に入るなど、かえって危険になる場合があります。
重い症状があれば救急要請する
意識がない、けいれんしている、呼吸がおかしい、窒息が疑われるなど重い状態では、速やかな救急対応が必要です。
異食後の対応は「何を食べたか」で変わる
洗剤、薬、たばこ、化学製品などは、物質によって必要な対応が異なります。何をどの程度口にした可能性があるかを確認し、医療機関や日本中毒情報センターの中毒110番などへ相談してください。自己判断で吐かせることは避けます。
窒息につながる物への対策を見る
異食では中毒だけでなく、喉につまる事故にも注意が必要です。
小さな日用品
小型部品、包装材、キャップなどを手に取りやすい場所へ放置しない仕組みがあるか確認します。
食事中以外も見守る
異食は食堂だけで起こるとは限りません。居室、廊下、洗面所など、本人がよく過ごす場所での環境を確認してください。
窒息時の職員対応
施設で窒息事故が疑われた場合の救命対応や救急要請について、職員研修を行っているか確認する方法もあります。
異食を叱って止めることを前提にしない
本人は、危険なことをしていると理解できていない場合があります。
強く叱っても理解できないことがある
「食べてはいけません」と強く叱られても、本人には理由が分からず、不安や怒りが強くなることがあります。
注意を別の物へ向ける
安全な食べ物や活動へ誘導するなど、本人の興味を切り替える方法が合う場合があります。
行動の背景を観察する
空腹のときに増えるのか、一人になると増えるのか、手持ち無沙汰なときに起きやすいのかなど、本人ごとの傾向を見つけることが重要です。
食事量・空腹との関係も確認する
異食がある人では、日々の食事状態も確認します。
食事を十分に取れているか
食事量が減っている、食事を食べたことを忘れているなどの状況がないか確認します。
間食の使い方を相談する
本人の病気や栄養状態に問題がなければ、食事と食事の間に安全に食べられる物を用意することで落ち着く人もいます。
糖尿病など治療上の制限がある場合は、医師・管理栄養士等と相談してください。
食べたことを忘れる人もいる
認知症によって食事を済ませたこと自体を忘れ、食べられる物を探し続ける場合があります。
単に食事量を増やすのではなく、本人の栄養状態や生活リズムを含めて対応を考えます。
急に異食が始まった場合は医療面も確認する
これまで異食がなかった人に急に行動が出た場合は、「認知症が進んだから」と決めつけず、本人の状態を確認することが大切です。
体調変化を確認する
発熱、便秘、痛み、睡眠不足など、本人が不快感をうまく伝えられず行動が変化することがあります。
薬の変更を確認する
新しい薬が始まった時期と行動の変化が重なる場合は、医師・薬剤師へ伝えます。
認知症の専門医へ相談する場合もある
異食が頻回で事故の危険が高い場合は、認知症疾患医療センターなど専門的な医療相談につなげる選択肢があります。
厚生労働省は、認知症疾患医療センターの役割として、認知症の鑑別診断やBPSD、身体合併症への専門医療相談、地域の関係機関との連携などを挙げています。
常に一対一で見守ってもらえるとは限らない
老人ホームでは、通常、一人の職員が複数の入居者を支援しています。
「24時間見守り」を具体的に聞く
24時間職員が施設内にいることと、本人へ一対一で常時付き添うことは別です。
環境対策との組み合わせが重要
一対一の見守りだけに頼らず、危険物の保管、居場所の工夫、職員間の情報共有で事故を防いでいるか確認します。
必要な個別対応が自費になる場合もある
通常の介護体制を超える個別の付き添い等が必要な場合、施設によっては対応できなかったり、自費サービスとなったりすることがあります。
夜間に異食がある人は夜勤体制を見る
日中だけでなく、夜中に居室から出て物を探す人もいます。
夜勤職員数を確認する
夜間に何人の職員が何人の入居者を担当するか確認します。
夜間の共用部管理を見る
食堂、キッチン、洗面所、清掃用品などへ本人が自由にアクセスできる環境かを確認してください。
センサー等の使用方法を聞く
必要に応じて離床センサーや出入口の見守り機器を使う施設があります。
本人の行動を一律に制限するのではなく、安全確保のためにどのように活用しているかを確認します。
身体拘束を前提にした異食対策ではないか確認する
異食の危険があっても、「動けないようにすれば安全」と単純に考えることはできません。
介護保険サービスでは身体拘束等は原則禁止
介護保険の施設・入居系サービスでは、本人または他の利用者等の生命・身体を守るため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他の行動制限は原則として禁止されています。
環境調整を優先しているか
危険物を片付ける、本人の居場所を工夫する、活動や食事を調整するなど、拘束以外の方法を検討する施設か確認してください。
グループホームが合う場合
認知症対応型共同生活介護(グループホーム)は、認知症のある人が少人数で共同生活を送りながら支援を受ける地域密着型サービスです。
要支援2・要介護1~5が対象
認知症の診断があり、要支援2または要介護1~5の人が対象です。要支援1は対象外です。
少人数で生活行動を把握しやすい場合がある
本人の生活パターンや異食が起きやすい場面を職員が把握しやすい環境が合う人もいます。
異食があるから必ず入居できるわけではない
異食の対象や頻度、見守り量、共同生活への影響、医療ニーズなどを踏まえて各施設が受け入れ可否を判断します。
介護付き有料老人ホームを選ぶ場合
介護付き有料老人ホームでは、施設職員が介護サービスを提供します。
認知症ケアの経験を確認する
異食のある人を受け入れた経験があるか、どのように環境を整えるかを聞きます。
夜間体制を見る
夜中にも異食がある場合は、夜勤職員数や巡回方法が重要です。
医療連携を見る
誤飲・中毒・窒息が疑われたとき、看護職員や協力医療機関へすぐつなげられるか確認してください。
住宅型有料老人ホームを選ぶ場合
住宅型有料老人ホームでも認知症の人を受け入れている施設があります。
生活支援時間と訪問介護時間を分けて見る
外部の訪問介護を利用する時間だけでなく、それ以外の時間に施設職員がどの程度見守るかを確認します。
夜間の配置を確認する
夜間の職員数、共用部へのアクセス管理、緊急時対応を確認してください。
施設見学で実際の環境を見る
異食がある人の施設選びでは、パンフレットより現場の環境を見ることが重要です。
食堂
調味料、小物、他の入居者の薬などが本人の手に届きやすくないかを見ます。
洗面所・浴室
洗剤、石けん、清掃用品の置き方を確認します。
廊下・共用スペース
観葉植物、装飾品、小物など、本人が口にする可能性がある物の配置を見ます。
職員の動き
入居者が物を口にしようとしたとき、強く叱るのではなく、落ち着いて安全な物へ注意を切り替えられるかも確認材料になります。
施設へ伝える情報チェックリスト
異食について共有したいこと
- これまで口にした物
- 異食の頻度
- 起こりやすい時間帯
- 起こりやすい場所
- 空腹時との関係
- 夜間の異食の有無
- 過去の窒息歴
- 過去の中毒・誤飲歴
- 受診・救急搬送歴
- 止めたときの反応
- 落ち着きやすい声かけ
- 注意を切り替えやすい活動
- 認知症の診断名
- 要介護度
- 持病・服薬
施設見学で確認したいチェックリスト
異食がある人の施設選び
- 現在の異食の状態で受け入れ可能か
- 過去に異食のある人を支援した経験
- 洗剤・薬・清掃用品の保管方法
- ゴミ箱の管理
- 小物・電池等の管理
- 植物・装飾品の配置
- 居室の環境調整ができるか
- 共用部での見守り方法
- 夜勤職員数
- 夜間の異食への対応
- 身体拘束等を防ぐ取り組み
- 異食発生時の記録
- 中毒が疑われる場合の対応
- 窒息時の緊急対応
- 看護職員の勤務時間
- 協力医療機関
- 家族への連絡基準
- 状態悪化時の退去条件
異食が増えた場合の退去条件を確認する
入居時には対応できても、異食の頻度や危険性が高くなったときに、施設での継続生活が難しくなる場合があります。
どの状態で退去相談になるか
常時一対一の見守りが必要になった場合、重大な中毒・窒息事故を繰り返す場合など、施設が対応できる範囲を確認します。
すぐ退去ではなく対策を検討するか
居室環境の変更、医療相談、生活リズムの見直しなどを行ったうえで判断するのか、施設の対応手順を聞いてください。
重要事項説明書・入居契約書を見る
施設側から契約解除できる条件、医療ニーズが高くなった場合の対応を契約前に確認します。
家族も「危険物リスト」を施設と共有する
家族がこれまでの介護で気づいたことは、施設にとって重要な情報です。
実際に食べた物を一覧にする
「何でも口にします」ではなく、過去に口にした物を具体的に書き出します。
危険度が高い物を優先する
薬、洗剤、たばこ、電池、鋭利な物など、重大な事故につながる物は特に強調して伝えてください。
うまくいった対応も書く
おやつを出すと落ち着く、散歩へ誘うと注意が切り替わるなど、家庭で有効だった対応も共有します。
まとめ|異食のある人は「見守り」だけでなく環境管理と緊急対応で施設を選ぶ
認知症で異食がある人でも、本人の行動と施設の認知症ケア体制が合えば、老人ホームへ入居できる場合があります。
厚生労働省は、異食行動を認知症に伴ってみられる行動症状の一つとして扱っています。施設へは「異食があります」だけではなく、何を口にするのか、頻度、時間帯、過去の事故まで具体的に伝えてください。
施設選びで特に重要なのは、本人を常時叱って止めることではなく、洗剤、薬、小物、ゴミなど危険物へ簡単に触れない環境をつくり、本人の生活を必要以上に制限せず安全を確保できるかどうかです。
また、日本中毒情報センターは、化学製品や医薬品などの誤飲事故では、原因物質を確認し、物質に応じて適切な対応を取る必要があり、家庭で無理に吐かせることは勧めていません。
見学時には、危険物の保管、職員の見守り、夜勤体制、異食発生時の記録、窒息・中毒時の医療連携、状態悪化時の退去条件まで確認し、本人ができるだけ自由に生活しながら重大事故を防げる施設を選ぶことが大切です。