特別養護老人ホーム(特養)を検討していると、「最期まで施設で暮らせる?」「状態が悪くなったら病院へ移る?」「看取りを希望した場合、家族は何を決めればよい?」と気になることがあります。
特養では看取りに対応している施設があります。ただし、すべての特養が同じ体制で看取りを行っているわけではありません。医師との連携、看護職員の配置、夜間対応、酸素・吸引等の医療ニーズへの対応範囲、家族への連絡体制などは施設ごとに異なります。
また、「看取り対応あり」と書かれていても、どのような状態まで施設内で支援できるかは別に確認が必要です。
まず結論|特養で看取りはできるが「施設ごとの実際の対応範囲」を確認する
特養の看取りを確認するときは、①看取り方針の説明、②医師・看護職員との連携、③夜間の急変対応、④救急搬送の考え方、⑤酸素・吸引・経管栄養などへの対応範囲、⑥苦痛緩和、⑦家族への連絡・面会、⑧個室・静養室の利用、⑨本人の意思をどう確認するかを見ます。「看取り可」という一言だけで決めず、最期の数日から数時間をどのように支えるのかまで具体的に聞いてください。
特養で看取りはできる?
特養では、看取りに対応している施設があります。
看取り介護加算という仕組みがある
介護保険制度では、一定の施設基準を満たす特養が、医師の医学的判断のもとで回復の見込みがないとされた入所者に対し、医師、看護職員、介護職員、介護支援専門員などが連携して看取りを行った場合に評価される「看取り介護加算」があります。
ただし全施設で同じではない
看取り介護加算を算定しているかどうかだけでなく、夜間の看護体制、協力医療機関との連携、医療処置への対応範囲は施設ごとに異なります。
本人の病状によって病院搬送になる場合もある
看取り方針を選んでいても、骨折、大量出血、強い呼吸苦など、本人の苦痛緩和や治療のために病院受診・入院が必要になることがあります。
POINT
「看取り対応」とは「どんな状態でも必ず施設で最期を迎えられる」という意味ではありません。施設内で対応できる医療・ケアの範囲と、病院へつなぐ条件の両方を確認してください。
特養の看取りで施設に求められる体制
厚生労働省の施設基準では、看取り介護加算に関して、看取りに関する指針を定め、入所時に本人または家族等へ説明し同意を得ること、職員研修を行うこと、看取り時に個室または静養室を利用できるよう配慮することなどが示されています。
看取りに関する指針
施設として、人生の最終段階をどのように支援するか基本方針を定めています。
多職種での連携
医師、生活相談員、看護職員、介護職員、管理栄養士、ケアマネジャーなどが協議しながら方針を共有します。
職員研修
看取り時のケア、本人・家族への支援、急変時対応などについて職員研修を行うことが求められています。
個室・静養室への配慮
看取り時に本人と家族が落ち着いて過ごせるよう、個室や静養室を利用できるよう配慮することが施設基準に含まれています。
看取りが始まるタイミングは一律ではない
「あと何日になったら看取り」という決まった線引きがあるわけではありません。
医師が医学的に状態を評価する
病気や老衰が進行し、治療による回復が見込みにくい状態かどうかを医師が判断します。
本人・家族等と話し合う
どこで、どのような医療・ケアを受けたいかについて、本人の意思を基本に話し合います。
状態が変われば方針も見直す
一度看取り方針になっても、新たな病気が見つかった、本人の希望が変わったなどの場合には方針を見直します。
本人の意思を基本に考える
人生の最終段階の医療・ケアは、家族だけで決めるものではありません。
厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」では、本人による意思決定を基本とし、医療・ケアチームと十分に話し合うことが最も重要な原則とされています。
意思を伝えられるうちに確認する
「できるだけ施設で過ごしたい」「苦痛が強いときは病院へ行きたい」など、本人の希望を早い段階から確認します。
意思は変わることがある
厚生労働省のガイドラインでも、本人の意思は変化しうるため、繰り返し話し合うことが重要とされています。
意思確認が難しくなった場合
以前の発言、価値観、生活歴などから本人の推定意思を考え、家族等と医療・ケアチームで本人にとって最善の方針を検討します。
入所時から看取り方針を確認する
元気なうちは看取りについて考えにくいものですが、状態が急変してから初めて話し合うと、家族が短時間で判断を迫られることがあります。
施設の看取り指針を読む
入所時の重要事項説明や看取り方針の説明で、施設がどのような考え方で支援するか確認します。
救急搬送の考え方を確認する
心肺停止時、発熱時、転倒・骨折時など、それぞれどのように対応するか聞きます。
本人の希望を書面で共有する
話し合った内容を記録しておくと、夜間や急変時にも職員間で共有しやすくなります。
夜間の看護体制を確認する
特養では、施設によって夜間の看護体制が異なります。
看護職員が夜間も施設内にいるか
夜間常駐か、オンコールで連絡を受ける体制かを確認します。
介護職員から看護職員への連絡方法
呼吸状態の変化、発熱、出血などがあったとき、誰が看護職員へ連絡するか聞きます。
医師への連絡
夜間・休日に医師へ相談できる方法があるか確認します。
家族への連絡基準
どの段階で家族へ電話が来るのか、夜間でも連絡するのかを確認しておきます。
医師との連携方法を確認する
特養の看取りでは、医師との連携が重要です。
配置医師・協力医療機関
日常の健康管理を担当する医師と、急変時に対応する医療機関の役割を確認します。
診察頻度
看取り期にどの程度診察を行うのか、状態変化時に臨時診察が可能か聞きます。
死亡確認
施設内で亡くなった場合、誰がどのように死亡確認を行うか確認します。
救急搬送をしない=何もしない、ではない
看取りを選択すると、「病院へ行かない=治療をしない」と誤解されることがあります。
苦痛を和らげるケアは続く
痛み、呼吸苦、口腔乾燥、不安、発熱などに対して、本人の状態に応じた症状緩和を行います。
食事・水分も状態に合わせる
食べる力が低下した場合に、無理に食べさせず、本人が負担なく摂取できる範囲を医療・ケアチームで検討します。
必要な医療は続ける
本人の希望と医学的な必要性を踏まえ、薬や酸素など必要な医療・ケアを継続します。
「救急搬送しない」と「心肺蘇生しない」は別に確認する
救急搬送、心肺蘇生、入院、点滴、酸素などはそれぞれ別の選択です。「延命治療は希望しません」とだけ伝えるのではなく、具体的にどの場面で何を希望するかを本人・家族等・医療ケアチームで確認してください。
酸素・吸引など医療処置の対応範囲を確認する
終末期になると、医療的な支援が増えることがあります。
酸素療法
酸素濃縮器等を施設内で使用できるか、夜間も対応できるか確認します。
喀痰吸引
吸引が必要な場合、実施できる職員と時間帯を確認します。
経管栄養
胃ろう等を使用している場合、看取り期にどのような方針で継続・調整するか主治医と話し合います。
点滴
施設でできる点滴の範囲は施設ごとに異なります。終末期に点滴が必要になった場合の対応も確認してください。
痛み・呼吸苦などの症状緩和を確認する
人生の最終段階では、本人の苦痛をできるだけ軽減することが重要です。
痛み
痛みがある場合、医師へ相談し、薬の調整や体位変更などで緩和できるか確認します。
呼吸苦
姿勢調整、酸素、薬剤等、本人の状態に応じた方法を検討します。
不安・落ち着かなさ
身体症状だけでなく、心理的な不安への声かけや家族との時間も大切です。
口腔乾燥
食事量・水分量が減った後も、口腔ケアや保湿を続けます。
食べられなくなったときの対応を確認する
看取り期には、食欲や飲み込む力が徐々に低下することがあります。
無理に食べさせない
本人が苦しそうな状態で無理に食事を勧めると、誤嚥につながることがあります。
本人が望む範囲で楽しむ
安全面を確認しながら、本人が好む味を少量楽しむことを検討する場合もあります。
栄養・水分の方針を話し合う
点滴、経管栄養、経口摂取をどのように考えるかは、本人の状態や希望を踏まえて医師・多職種と相談します。
家族の面会・付き添いを確認する
看取り期は、家族が本人と過ごす時間も重要です。
面会時間の柔軟性
通常の面会時間外でも、状態が悪化した場合に面会できるか確認します。
夜間の付き添い
家族が希望する場合、居室で過ごせるか、椅子や簡易ベッドなどを利用できるか聞きます。
遠方家族への連絡
「今夜が山場かもしれない」など、どの段階で連絡をもらえるか相談しておきます。
個室・静養室を利用できるか
多床室で生活している人でも、看取り期に個室や静養室へ移る場合があります。
利用条件
空室状況によって必ず利用できるとは限らないため、施設の運用を確認します。
追加費用
個室利用に別途費用が発生するか確認します。
本人の希望
長く暮らした居室を移りたくない人もいます。家族の希望だけでなく本人の意向を確認します。
認知症がある場合も本人の意思をできる限り確認する
認知症があるからといって、本人の意思確認を最初から諦める必要はありません。
分かりやすい質問をする
一度に多くの説明をせず、「ここで過ごしたいですか」など本人が答えやすい形で確認します。
表情や反応も見る
言葉で十分に表現できない場合でも、表情、拒否、安心した様子などが意思を推測する手掛かりになることがあります。
以前の発言を確認する
元気な頃に本人が話していた希望や価値観を家族等から共有します。
急変時のルールを具体的に確認する
看取り期でも、すべての急変を同じように扱うわけではありません。
発熱
感染症が疑われる場合、施設内で治療するのか、病院受診するのかを本人の状態と方針に合わせて判断します。
転倒・骨折
強い痛みや変形がある場合は、看取り方針中でも病院受診が必要になることがあります。
大量出血
施設内で対応困難な場合は救急搬送を検討します。
心肺停止
心肺蘇生を希望するか、救急搬送するかを事前に話し合っておきます。
「看取り介護加算あり」だけで判断しない
看取り介護加算を算定している施設は、一定の看取り体制を整えていることを確認する材料になります。
ただし、加算の有無だけで本人に合う看取りができるとは限りません。
年間の看取り実績
年間何人程度を施設内で看取っているか聞くと、実際の経験を把握しやすくなります。
病院搬送になる主な条件
どのような状態では施設内看取りを続けられないのか確認します。
夜間の体制
最期の数時間に呼吸状態が変化した場合、誰が本人を見守り、家族・医師へ連絡するか確認します。
特養を見学するときの確認ポイント
01
看取り方針
施設の看取り指針を説明してもらい、本人・家族との話し合いをどの時点で行うか確認します。
02
医療連携
配置医師、協力医療機関、夜間連絡、臨時診察の方法を確認します。
03
夜間体制
夜間の看護職員配置、オンコール、家族への連絡方法を確認します。
04
症状緩和
痛み・呼吸苦・口腔乾燥・不安などへどのように対応するか確認します。
05
家族との時間
面会時間、夜間面会、付き添い、個室・静養室の利用を確認します。
施設へそのまま聞ける質問
特養の看取り確認項目
- 施設内での看取りを行っていますか
- 看取り介護加算を算定していますか
- 年間どのくらい施設内看取りの実績がありますか
- 看取り方針はいつ本人・家族へ説明しますか
- 夜間は看護師が施設内にいますか、オンコールですか
- 夜間・休日に医師へ連絡できますか
- 酸素・吸引・点滴にはどこまで対応できますか
- どのような状態では病院搬送になりますか
- 心肺停止時の対応はどのように確認しますか
- 痛みや呼吸苦への症状緩和はどのように行いますか
- 食べられなくなった場合はどう対応しますか
- 看取り期は面会時間を柔軟にできますか
- 家族が夜間付き添うことはできますか
- 個室・静養室を利用できますか
家族が事前に話し合っておきたいこと
急変してから決めるのではなく、本人の意思を確認できる時期から話し合っておくことが大切です。
どこで過ごしたいか
できるだけ特養で過ごしたいのか、状態が悪化したら病院を希望するのか確認します。
救急搬送
どのような病気・けがなら病院へ行きたいかを考えます。
心肺蘇生
心肺停止時の対応について、主治医から説明を受けて本人の希望を確認します。
食事・栄養
食べられなくなった場合の点滴や経管栄養について、本人の価値観を踏まえて話し合います。
家族の連絡順位
急変時に施設が誰へ最初に連絡するかを決めておきます。
家族の意見が分かれた場合
看取り方針をめぐって、家族の意見が一致しないことがあります。
本人の希望に戻る
「家族はどうしたいか」だけでなく、本人なら何を希望するかを中心に考えます。
医療・ケアチームと話し合う
病状、治療によって期待できること、本人への負担などを医師から説明してもらいます。
一度で結論を出さなくてもよい
緊急性がない段階では、複数回話し合い、状態変化に応じて方針を見直します。
看取り方針は途中で変更できる
一度「施設で看取りたい」と決めても、その後の状況によって希望が変わることがあります。
本人が病院治療を希望した場合
本人が意思を示せる場合は、その希望を改めて確認します。
治療可能な病気が見つかった場合
肺炎、骨折など、治療により苦痛軽減や生活改善が期待できる場合は、受診・入院を検討します。
家族が不安になった場合
不安を抱えたまま看取りを続けるのではなく、施設・医師へ相談し、方針を再確認します。
特養の看取りで費用面も確認する
看取り期に必要となる費用は、施設・医療内容・本人の負担割合などによって異なります。
介護保険の自己負担
看取り介護加算などが算定される場合、本人の介護保険自己負担に反映されます。
医療費
医師の診察、薬、酸素等について医療保険の自己負担が生じる場合があります。
個室利用等
静養室・個室の扱いや費用は施設へ確認してください。
固定的な金額だけで判断せず、「看取り期に通常月額以外で何が追加される可能性があるか」を確認すると安心です。
まとめ|特養の看取りは「できるか」より「どう行うか」を確認する
特養では、一定の体制を整えて看取りを行っている施設があります。厚生労働省の看取り介護加算の施設基準でも、看取り指針の整備と説明、多職種での協議、職員研修、個室・静養室への配慮などが求められています。
一方で、看護職員の配置、夜間対応、医師との連携、酸素・吸引・点滴などの対応範囲は施設ごとに異なります。
また、人生の最終段階の医療・ケアは、本人による意思決定を基本に、医療・介護の多職種と十分に話し合いながら進めることが厚生労働省のガイドラインでも重視されています。
最も重要なのは、「看取り可」という表示だけを見るのではなく、本人が苦痛をできるだけ抑えて過ごせるか、急変時に誰が判断し、家族へどう連絡し、どの状態なら病院へつなぐのかまで確認することです。
入所時から本人の希望を少しずつ確認し、状態が変わるたびに施設・医師・家族等で話し合いながら、その人に合った最終段階の過ごし方を考えていきましょう。

