高齢の夫婦や親子で介護を続けていると、「まだ家で見られる」「本人も施設を嫌がっている」と考え、施設探しを先延ばしにしてしまうことがあります。
しかし、老老介護では、介護する側も高齢であるため、腰痛や持病、睡眠不足、通院などが重なり、ある日突然「これ以上は続けられない」という状態になることがあります。
施設入居を検討することは、在宅介護を諦めることではありません。本人と介護者の生活を守るために、限界になる前に選択肢を持っておくことが重要です。
まず結論|「まだ介護できる」段階から施設を探し始める
老老介護では、介護者が倒れてから施設を探し始めると、空室・医療対応・費用・本人との相性を十分に比較できないまま決断することがあります。夜間介護で眠れない、介護者の通院が難しい、転倒や認知症への対応が増えた、介護者自身の体調が悪化しているなどの変化が出たら、入居を即決する必要はなくても、地域包括支援センターやケアマネジャーへ相談し、候補施設を調べ始める時期です。
老老介護で施設を考え始めたいサイン
「何歳になったら施設へ入る」という一律の基準はありません。
判断したいのは年齢そのものではなく、本人と介護者の生活が無理なく続いているかです。
01
夜間介護で介護者が眠れていない
夜間のトイレ介助、体位変換、見守り、認知症による覚醒などが続き、介護者が十分に眠れない状態は大きな負担です。睡眠不足が常態化しているなら、在宅サービスの見直しと同時に施設入居も選択肢として考えます。
02
移乗・入浴・排せつ介助が身体的に難しくなった
介護者自身の筋力低下や腰痛などにより、ベッドから車いすへの移乗、入浴、排せつ介助が危険になっている場合は注意が必要です。本人だけでなく、介護者が転倒・負傷する可能性もあります。
03
介護者自身の通院や治療を後回しにしている
「本人を一人にできない」という理由で、介護者が自分の受診や治療を延期している場合、在宅介護の継続性に問題が出始めています。
04
認知症への対応が一人では難しくなった
夜間の外出、強い帰宅願望、介助拒否、火の管理など、常時の見守りが必要になり、介護者が休めない状態では専門的な支援が必要です。
05
介護者が「もう無理」と感じることが増えた
明確な病気や事故がなくても、強い疲労や不安、いら立ちが続くことがあります。その感覚自体を「まだ頑張れる」と無視せず、支援を増やすきっかけとして扱います。
介護者が倒れてからでは施設を十分に比較しにくい
老老介護で最も避けたいのは、介護者の急な入院や体調悪化によって、短期間で入居先を決めなければならなくなることです。
空いている施設だけから選ぶことになりやすい
急いで入居先を探す場合、本人の希望より「すぐ入れるか」が優先されやすくなります。
本来なら、介護体制、医療対応、認知症ケア、費用、立地、食事、職員との相性などを比較したいところですが、時間がないと十分な検討が難しくなります。
本人も家族も心の準備ができない
突然「来週から施設へ」と決まると、本人が強く拒否したり、家族が罪悪感を抱えたりすることがあります。
厚生労働省の家族支援に関する資料でも、施設入所は家族にとって大きな決断であり、入所後も不安や葛藤が続くことがあるとされています。施設選びは、生活面だけでなく心理面でも準備期間がある方が進めやすくなります。
POINT
施設探しを始めることと、すぐ入居することは別です。元気なうちに候補を知っておけば、在宅介護を続けながら「必要になったらここを検討する」という準備ができます。
まず地域包括支援センターやケアマネジャーへ相談する
老老介護の負担が増えてきたとき、家族だけで施設を探し始める必要はありません。
地域包括支援センターは高齢者の総合相談窓口
地域包括支援センターは、市町村が設置する高齢者の総合相談窓口です。
保健師、社会福祉士、主任ケアマネジャーなどが、高齢者本人や家族から介護・福祉・生活上の相談を受け、必要な制度やサービスにつなぐ役割を担います。
まだ要介護認定を受けていない場合や、「施設に入るほどなのか分からない」という段階でも相談できます。
担当ケアマネジャーには介護者側の困りごとも伝える
すでに介護保険サービスを利用している場合は、担当ケアマネジャーへ本人の状態だけでなく、介護者の負担も伝えます。
「夜に眠れていない」「腰痛で移乗が難しい」「自分の通院に行けない」など、具体的に伝えることで、ショートステイや訪問介護など在宅支援の見直しと、施設入居の両方を検討しやすくなります。
施設入居の前に在宅サービスを増やす方法もある
老老介護が大変になったからといって、必ずすぐ施設入居になるわけではありません。
介護サービスの組み合わせを見直す
訪問介護、通所介護、ショートステイ、福祉用具などを見直すことで、介護者の負担を減らせる場合があります。
例えば、入浴介助が最も大変なら通所サービスで入浴する、夜間の移動が危険なら福祉用具を見直すなど、負担の大きい場面から調整します。
ショートステイを使って介護者が休む
短期入所生活介護などを利用し、一定期間本人に施設で過ごしてもらう方法があります。
介護者の休息、通院、冠婚葬祭などにも利用されます。
ただし、空床や要介護状態などによって利用条件が変わるため、担当ケアマネジャーへ相談します。
「施設か在宅か」の二択にしない
施設入居を検討しながら在宅サービスを増やすこともできます。すぐ入居する必要がなくても、候補施設を調べつつ介護者の負担を減らしておくと、より落ち着いて判断できます。
老老介護で施設を選ぶときに重視したいこと
施設の種類や設備だけでなく、入居後に家族がどこまで支援できるかを考えて選びます。
家族が頻繁に行かなくても生活が成り立つか
高齢の配偶者が主な家族である場合、「毎週衣類を届ける」「通院のたびに同行する」といった支援を長期間続けるのが難しくなることがあります。
洗濯、買い物、通院支援、日用品の補充など、施設がどこまで対応し、どこから家族対応になるのかを確認します。
介護度が上がっても住み続けられるか
入居時に比較的元気でも、数年後には移乗、排せつ、食事などの介助量が増える可能性があります。
介護度が上がった場合の対応、追加費用、居室移動、退去条件を確認します。
医療ニーズが増えた場合の対応を見る
看護職員の配置時間、訪問診療、協力医療機関、夜間の連絡体制などを確認します。
「医療対応可」だけでなく、本人に現在必要な処置と、今後想定される医療ニーズを伝えて確認してください。
本人の状態に合う施設種別を考える
老老介護だから特定の施設に入るという決まりはありません。
本人の要介護度、認知症、医療ニーズ、予算、今後の生活方針によって候補は変わります。
01
特別養護老人ホーム(特養)
常時介護が必要で、在宅生活の継続が難しい人の長期的な生活の場となる施設です。新規入所は原則要介護3以上で、要介護1・2でも一定の事情がある場合は特例入所の対象になることがあります。
02
介護付き有料老人ホーム
特定施設入居者生活介護の指定を受けた施設では、施設の介護職員などから介護保険サービスを受けながら生活します。
03
住宅型有料老人ホーム・サ高住
住まいを確保しながら、必要に応じて外部の介護サービスを組み合わせる形が基本です。サ高住は高齢者向け住宅であり、介護の提供方法は物件ごとに異なります。
04
グループホーム
認知症対応型共同生活介護で、認知症のある要支援2または要介護1〜5の人が少人数の共同生活を送る地域密着型サービスです。
夫婦のうち一人だけ入居する場合も考える
老老介護では、「夫婦だから一緒に施設へ入らなければならない」と考える必要はありません。
介護が必要な人だけ施設へ入る選択肢
一方の介護度が高く、もう一方は自立した生活を送れる場合、介護が必要な人だけが施設へ入居する方法があります。
介護者だった配偶者は、自宅で生活を続けながら面会する形に変わります。
身体介護から解放されることで、夫婦として穏やかに関われるようになるケースもあります。
夫婦同室だけを条件にしない
夫婦で一緒に入りたい場合、二人部屋を持つ施設は選択肢の一つです。
ただし、二人の介護度や必要なサービスが異なる場合、同じ施設が双方に最適とは限りません。
「一緒に入れるか」だけでなく、二人それぞれに必要な介護・医療が受けられるかを確認します。
費用は「夫婦の年金だけで払えるか」を具体的に見る
老老介護から施設入居へ移るとき、費用は大きな判断材料です。
月額表示だけで判断しない
家賃・居住費、管理費、食費だけでなく、介護保険自己負担、加算、医療費、薬代、日用品などを含めて考えます。
住宅型有料老人ホームやサ高住では、外部介護サービスの利用量によって自己負担が変わる場合があります。
自宅を維持する費用も含めて考える
夫婦の一人だけが施設へ入る場合、自宅の固定資産税、家賃、光熱費などが残ります。
施設費だけでなく、残る配偶者の生活費を含めて家計を確認します。
預貯金を何年間使えるか計算する
現在の月額費用が支払えるかだけでなく、数年継続した場合に資金が不足しないかを考えます。
入居一時金がある施設では、途中退去時の返還条件も確認します。
見学では「介護者が通い続けられるか」も確認する
本人に合う施設かだけでなく、高齢の配偶者が無理なく関わり続けられるかも重要です。
01
自宅からの移動時間
車を運転できなくなった後も、公共交通機関や家族の送迎で通える場所かを確認します。
02
面会方法
面会できる曜日・時間、予約の必要性、居室まで入れるかなどを確認します。
03
通院時の家族負担
施設職員が同行するのか、家族対応が基本なのか、別料金になるのかを確認します。
04
日用品や衣類の補充
施設で購入代行や洗濯を頼めるか、家族が定期的に届ける必要があるかを確認します。
05
緊急時の家族対応
深夜の体調急変や救急搬送時に、家族へ何を求めるのかを確認します。
本人が施設入居を拒否しているとき
老老介護では、介護を受けている本人が「家から出たくない」と強く希望し、介護者が無理を続けてしまうことがあります。
「もう無理だから施設へ」と突然伝えない
本人にとって、自宅を離れることは大きな変化です。
介護者の疲労が限界になってから一方的に入居を伝えるより、早い段階から「将来どんな暮らし方がよいか」を話しておく方が選択肢を共有しやすくなります。
見学や体験入居から始める方法もある
施設によっては、見学や体験入居を利用できます。
本人が「施設は嫌だ」というイメージを持っている場合も、実際に見て、食事や職員の雰囲気を知ることで考えが変わることがあります。
ただし、見学したから入居しなければならないわけではありません。
施設探しを始める前に家族で決めたいこと
最低限整理したい5項目
- 在宅介護で現在最も負担になっていること
- 本人が施設入居をどう考えているか
- 毎月無理なく支払える金額
- 家族がどこまで面会・通院・緊急対応できるか
- どの状態になったら入居へ切り替えるか
特に「どの状態になったら入居へ切り替えるか」を決めておくことは重要です。
たとえば、「夜間介助が毎日必要になったら」「介護者が入院したら」「一人で移乗できなくなったら」など、家庭ごとの目安を作っておくと判断しやすくなります。
すぐ入居しなくても候補施設は見ておく
施設探しは、入居が決まってから始める必要はありません。
2〜3施設見ておくと比較基準ができる
一つの施設だけでは、職員体制や費用、居室、食事などが一般的なのか判断しにくいことがあります。
複数の施設を見ると、「ここは夜間体制が手厚い」「こちらは通いやすい」など違いが分かりやすくなります。
空室がなくても将来の候補になる
特養などでは、申し込みから入所まで時間がかかることがあります。
すぐ入れない施設でも、本人に合うなら今後の候補として相談・申込みを検討できます。
特養は新規入所が原則要介護3以上ですが、要介護1・2でも認知症、家族による支援が難しいなど一定の事情がある場合には特例入所の対象になり得ます。
限界を迎えたときは家族だけで抱え込まない
介護者が体調を崩した、本人の安全を守れない、介護を続けることに強い不安があるなど、すでに限界に近い場合は早めに外部へ相談します。
地域包括支援センターへ相談する
地域包括支援センターは、介護に不安がある段階から相談できる高齢者の総合相談窓口です。
本人の住んでいる地域を担当するセンターへ連絡し、現在の介護状況と介護者の状態を伝えます。
担当ケアマネジャーへ緊急性を具体的に伝える
「少し大変です」ではなく、「昨夜も眠れていない」「介護者が来週入院する」「一人では移乗できない」など、今起きている問題を具体的に伝えます。
緊急性が伝われば、ショートステイを含む支援方法や施設入所の調整を検討しやすくなります。
まとめ|施設選びは介護者が倒れる前に始める
老老介護では、介護を受ける本人だけでなく、介護する側も高齢です。
現在は何とか続けられていても、介護者の病気や転倒、睡眠不足などをきっかけに、急に在宅介護が難しくなることがあります。
施設を探し始めることは、すぐ入居を決めることではありません。在宅サービスを見直しながら、地域包括支援センターやケアマネジャーへ相談し、本人に合う施設を事前に知っておくことができます。
特に、夜間介護で眠れない、身体介助が危険になった、介護者自身の通院ができない、認知症への対応で常時見守りが必要になったといった変化が出たら、施設選びを具体的に始めるサインです。
介護者が倒れてから「空いている施設」を探すのではなく、まだ選べる段階で「本人と家族が無理なく暮らせる施設」を比較しておくことが、老老介護を続けるうえで重要です。


