車椅子を使っていると、「老人ホームには問題なく入れるのか」「どの施設なら生活しやすいのか」と迷うことがあります。
多くの老人ホームでは車椅子利用者を受け入れていますが、重要なのは「車椅子対応」という表示だけではありません。
本人が自走できるのか、移乗に介助が必要なのか、トイレ・入浴をどこまで自分で行えるのか、リクライニング車椅子やティルト車椅子を使っているのかによって、必要な設備と介護体制は変わります。
そのため施設選びでは、建物のバリアフリーに加えて、本人の車椅子で実際に居室・トイレ・食堂・浴室まで移動し、必要な介助を受けられるかを確認することが重要です。
まず結論|車椅子の人は「設備」と「介助」の両方を確認する
車椅子でも入居できる老人ホームは多くあります。ただし、「バリアフリーだから安心」とは限りません。選ぶときは、①居室・廊下・エレベーターの動線、②車椅子で使えるトイレ・洗面、③移乗介助の方法、④入浴設備、⑤食堂や共用部までの移動、⑥夜間のトイレ介助、⑦将来介助量が増えた場合の継続入居まで確認してください。本人が普段使っている車椅子で実際に見学すると、生活上の問題を見つけやすくなります。
車椅子でも老人ホームに入れる?
車椅子を使用していることだけを理由に、老人ホームへ入れないとは限りません。
車椅子利用者を受け入れる施設は多い
介護付き有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、特養、老健など、車椅子利用者が生活している施設は数多くあります。
ただし、必要な介助量や医療ニーズ、認知症の状態なども含めて入居審査が行われます。
重要なのは「どの程度介助が必要か」
自分で車椅子を操作できる人と、ベッドから車椅子への移乗に二人介助が必要な人では、施設側に必要な人員・設備が違います。
POINT
施設へ問い合わせるときは「車椅子です」だけでなく、「自走できるか」「立位が取れるか」「移乗は何人介助か」「トイレ介助はどの程度必要か」まで伝えてください。
最初に本人の車椅子生活を整理する
施設を探す前に、本人が日常生活でどのような支援を必要としているか整理します。
01
車椅子を自走できるか
手や足で自分で動かせるのか、常に職員が押す必要があるのかを確認します。
02
立位が取れるか
ベッド・便座への移乗時に立ち上がれるかで必要な介助方法が変わります。
03
移乗は何人介助か
一人介助、二人介助、移乗用リフトなど、現在の方法を施設へ伝えます。
04
座位を保てるか
長時間普通型車椅子に座れるか、リクライニングやティルト機能が必要かを確認します。
05
排泄・入浴介助
トイレ移乗や入浴時にどこまで介助が必要かを整理します。
居室の広さは実際の動作で確認する
パンフレットの居室面積だけでは、車椅子で生活しやすいか判断できません。
ベッド横に車椅子を付けられるか
移乗する側に十分なスペースがあるか確認します。
車椅子で方向転換できるか
家具を置いた状態で、車椅子が無理なく向きを変えられるか見ます。
ベッド位置を変更できるか
本人の麻痺側や介助方法に合わせて、ベッドの向き・位置を調整できると生活しやすくなります。
収納を車椅子から使えるか
クローゼットや棚が高すぎないか、本人が自分で使う場合は確認してください。
居室の出入口を確認する
車椅子では、出入口の幅と扉の形状が生活のしやすさに直結します。
本人の車椅子が通れるか
一般的な車椅子だけでなく、幅の広いリクライニング車椅子等を使用している場合は、実物で確認した方が確実です。
開き戸より引き戸が使いやすい場合がある
車椅子に乗ったまま扉を開閉する場合、開き戸では車椅子を後退させるスペースが必要になることがあります。
段差・敷居を見る
数センチの段差でも、自走する人には負担になることがあります。
廊下は幅だけでなく「すれ違い」を見る
厚生労働省の有料老人ホーム設置運営標準指導指針では、介護居室のある区域の廊下について、車椅子等で安全かつ円滑に移動できるよう一定の幅を確保する考え方が示されています。
実際に人がいる状態を見る
廊下に配膳車、歩行器、他の入居者の車椅子があると、図面上の幅より狭く感じることがあります。
曲がり角を確認する
長い車椅子やリクライニング車椅子では、直角の曲がり角で回りにくい場合があります。
手すり・家具の張り出しを見る
壁際の家具や消火設備等が移動の妨げになっていないか確認します。
エレベーターに車椅子で乗れるか確認する
多階建ての施設ではエレベーターが日常生活に欠かせません。
車椅子と介助者が一緒に乗れるか
本人だけでなく、介助者や荷物も一緒に乗れる広さか確認します。
ストレッチャー対応も確認する
将来、寝たまま移動する必要が生じた場合に備え、ストレッチャーが利用できるか確認しておくと安心です。
非常時の対応を聞く
火災や停電でエレベーターが使えないとき、車椅子利用者をどのように避難させるのか確認します。
トイレは車椅子で使えるか
車椅子生活では、トイレの使いやすさが本人の自立度に大きく影響します。
便器横に車椅子を付けられるか
本人が移乗する方向に十分なスペースがあるかを確認します。
手すりの位置を見る
本人の立ち上がり方や麻痺側に合う位置か確認します。
介助者が入れる広さか
一人介助・二人介助が必要な場合、便器周囲に職員が入れるスペースが必要です。
居室内トイレだけにこだわらない
居室トイレが狭い場合でも、フロアに広い車椅子対応トイレがあり、実際に使いやすいことがあります。
本人の介助方法に合う方を確認してください。
洗面台は車椅子のまま使える?
毎日の歯磨きや整容を自分で続けたい人にとって、洗面台の使いやすさは重要です。
膝が入るスペースを見る
洗面台下に収納があると、車椅子のまま近づけない場合があります。
蛇口・鏡の高さを見る
本人の手が届くか、車椅子から鏡を見られるかを確認します。
本人ができることを維持できるか
施設職員がすべて代行するのではなく、本人が自分で行える環境があることも重要です。
入浴設備を確認する
車椅子利用者では、現在だけでなく将来の身体状態も考えて入浴設備を確認します。
一般浴・個浴
手すりを使って立位を保てる人なら、個浴を利用できることがあります。
リフト浴
座った状態で浴槽へ移動できる機器を備えている施設があります。
機械浴・寝台浴
座位保持が難しい人や全介助の人では、機械浴等が必要になることがあります。
将来使う設備も見る
今は個浴を使えても、身体機能が低下したときに機械浴へ切り替えられるか確認してください。
移乗介助の方法を確認する
車椅子からベッド、トイレ、浴室などへの移乗は、本人と職員双方の安全に関わります。
現在の介助方法を再現してもらう
一人介助なのか、二人介助なのか、スライディングボード等を使うのかを伝えます。
移乗用リフトがあるか
立位が難しい人では、移乗用リフト等を使うことで安全に介助できる場合があります。
職員によって介助方法がばらつかないか
本人に合う移乗方法をケア計画として共有し、職員間で統一できるか確認します。
二人介助が必要でも入居できる?
二人介助が必要だから一律に入居できないわけではありません。
施設の人員体制による
日中は対応できても、夜間は職員数が少なく二人介助が難しい施設があります。
必要な場面を具体的に伝える
移乗のみ二人介助なのか、排泄・入浴も二人介助なのかで負担は異なります。
夜間のトイレ介助も確認する
夜中に何度もトイレへ行く人では、必要な介助を夜勤者が継続できるかが重要です。
リクライニング・ティルト車椅子の場合
普通型車椅子より大きい車椅子を使う人は、設備面をより具体的に確認する必要があります。
居室内に置けるか
ベッド横に置いた状態で職員が介助できるスペースが残るか確認します。
エレベーター・食堂へ入れるか
全長・幅が大きいため、曲がり角やエレベーターで取り回せないことがあります。
食事姿勢を確認する
車椅子に座ったまま食事するのか、食堂のテーブル高さと合うか確認します。
食堂・共用スペースへの移動を確認する
車椅子で居室から出られても、施設内の生活範囲が狭くなってしまっては本人の生活の質に影響します。
食堂までの距離
自走する人では毎日往復できる距離か確認します。
テーブルの高さ
車椅子のアームサポートがテーブルに当たり、十分近づけない場合があります。
レクリエーション参加
車椅子のまま共有スペースへ参加できるか、職員の移動介助を受けられるか確認します。
床材・段差・傾斜を見る
国土交通省の建築物移動等円滑化基準でも、車椅子利用者が円滑に移動できるよう、出入口・廊下・傾斜路等への配慮が示されています。
床が滑りすぎないか
自走する人ではタイヤが滑りやすくないか、介助する側にとっても安全か確認します。
小さな段差を見る
玄関、バルコニー、浴室入口などに段差がないか確認します。
坂道の勾配を見る
建物内がバリアフリーでも、駐車場から玄関まで急な坂があると外出時の負担になります。
車椅子のまま送迎車に乗れる?
通院や外出を考えるなら、車への乗降方法も確認します。
福祉車両があるか
車椅子のまま乗車できるリフト・スロープ付き車両を用意している施設があります。
通院利用が可能か
施設車両はレクリエーション専用で、個別通院には使えない場合があります。
介護タクシー費用も確認する
外部の介護タクシーを利用する場合、施設利用料とは別に費用がかかります。
車椅子利用者の褥瘡予防も確認する
長時間座って過ごす人では、臀部などに圧が集中することがあります。
クッションを使用できるか
現在使用している車椅子クッションを持ち込めるか確認します。
座り直しを支援できるか
自分で除圧できない人は、職員による姿勢調整が必要になる場合があります。
ベッドで休む時間を確保できるか
朝から夜まで車椅子に座り続けるのではなく、本人の状態に応じて休めるケアか確認します。
転落・ずり落ちへの対応を確認する
体幹保持が難しい人では、車椅子上で姿勢が崩れることがあります。
姿勢保持を評価してもらえるか
理学療法士・作業療法士等がいる施設では、車椅子姿勢について相談できる場合があります。
ベルトを安易に使わない
転落予防のためであっても、本人の身体を固定する方法は身体拘束に当たる可能性があります。
必要性・代替方法を含めて慎重に検討する必要があります。
車椅子そのものが本人に合っているか確認する
座面幅、奥行き、足台の高さなどが合わないと姿勢崩れや痛みにつながります。
災害時の避難方法を確認する
車椅子利用者は、エレベーターが停止した災害時の避難方法を確認しておくことが重要です。
居室階を確認する
高層階の場合、火災・停電時にどのような避難計画になっているか聞きます。
避難補助器具を確認する
階段避難車などの設備があるか、職員が訓練しているか確認します。
夜間の避難体制も聞く
職員数が少ない夜間に、車椅子利用者をどのように避難誘導するのか確認してください。
見学は本人の車椅子で行く
可能であれば、施設見学には本人が普段使っている車椅子で行くことをおすすめします。
玄関から居室まで移動する
パンフレットでは分からない傾斜・曲がり角・扉の使いにくさを確認できます。
居室で方向転換する
家具を置いた場合を想定して、ベッド周囲のスペースを見ます。
トイレへ実際に入る
車椅子の横付け、介助者の立ち位置、手すりの位置を確認します。
食堂の席まで移動する
毎日使う動線を本人が負担なく移動できるか確認します。
施設へそのまま聞ける質問
車椅子利用者の確認項目
- この車椅子のまま入居できますか
- 居室内で車椅子を方向転換できますか
- ベッド横へ車椅子を付けられますか
- トイレは車椅子で入れますか
- 二人介助の移乗にも対応できますか
- 移乗用リフトはありますか
- 夜間のトイレ介助はどこまでできますか
- 機械浴・リフト浴はありますか
- リクライニング車椅子でもエレベーターに乗れますか
- 食堂のテーブルは車椅子で利用できますか
- 車椅子クッションを持ち込めますか
- 通院時に福祉車両を利用できますか
- 身体機能が低下しても継続入居できますか
- 災害時は車椅子利用者をどのように避難させますか
将来の介護量増加も確認する
入居時は自走できていても、加齢や病気によって介助量が増えることがあります。
自走できなくなった場合
食堂・浴室等への移動を職員が介助できるか確認します。
一人介助から二人介助になった場合
人員体制上、継続して対応できるか確認します。
普通型からリクライニング車椅子になった場合
居室・エレベーター・共用部のスペースに対応できるか確認します。
寝たきりに近くなった場合
機械浴、体位変換、褥瘡予防、看取り等まで対応できるかも、長期入居を希望する場合は確認しておきます。
車椅子対応だけで施設を決めない
建物が使いやすくても、本人に合う施設とは限りません。
職員の介助を見る
見学時に、職員が車椅子利用者へ声をかけてから介助しているか、急いで押していないかを見ます。
本人の表情を見る
車椅子利用者が共用スペースで過ごしているか、居室にいる人が多いかなど、生活の様子を確認します。
本人の希望を聞く
自分で動きたい、外へ出たい、食堂で食べたいなど、本人が大切にしている生活を続けられるか確認します。
まとめ|車椅子で「実際に暮らせるか」を見学で確認する
車椅子を使用していても、本人の身体状態と施設の設備・介護体制が合っていれば、老人ホームへ入居できる可能性があります。
厚生労働省の有料老人ホーム設置運営標準指導指針でも、要介護者等が使用する浴室・便所を身体の不自由な人が利用しやすいものとし、介護居室のある区域の廊下は車椅子等で安全かつ円滑に移動できるようにする考え方が示されています。
ただし、建築上の基準を満たしていても、本人の車椅子や介助方法に合うとは限りません。
最も重要なのは、「車椅子対応」という設備表示ではなく、「本人が使っている車椅子で、居室・トイレ・食堂・浴室まで実際に生活できるか」を確認することです。
見学にはできるだけ普段の車椅子で参加し、現在の移乗・排泄・入浴方法を施設へ具体的に伝え、将来介助量が増えた場合も住み続けられるかまで確認して選びましょう。