老人ホームへ入居するとき、「今までのかかりつけ医を変えなければならないのか」と心配する家族は少なくありません。
結論から言えば、老人ホームへ入ったからといって、必ず今のかかりつけ医を変更しなければならないわけではありません。ただし、施設の医療体制や本人の通院距離、訪問診療の利用、緊急時対応によっては、入居後に主治医を変更したほうが生活しやすい場合があります。
まず結論|かかりつけ医は必ず変える必要はないが、施設の医療体制と通院方法を確認する
老人ホーム入居後も、本人が希望し、通院を継続できるなら、これまでのかかりつけ医を続けられる場合があります。一方で、施設の協力医療機関や訪問診療へ切り替えることで、通院負担や緊急時対応がしやすくなることもあります。重要なのは、「今の主治医を続けられるか」「施設医・協力医療機関との役割分担はどうなるか」「通院時に誰が付き添うか」を入居前に確認することです。
老人ホームに入るとかかりつけ医は必ず変わるのか
老人ホームへ入居しただけで、これまでの主治医との関係が自動的に終了するわけではありません。
有料老人ホームでは医療機関の選択を妨げないことが基本
厚生労働省の有料老人ホーム設置運営標準指導指針では、入居者が医療機関を自由に選択することを妨げないよう求めています。
協力医療機関は施設が提示する選択肢の一つであり、原則として「入居したら必ず協力医療機関へ変更しなければならない」という位置づけではありません。
施設種別によって医療との関わり方は違う
有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅では、外部の医療機関へ通院したり訪問診療を受けたりする形が多くあります。
一方、介護老人保健施設や介護医療院などでは施設内の医師が医療管理を担う場面があり、入所中の医療の受け方が在宅時と異なることがあります。
POINT
「老人ホーム」という呼び方だけで判断せず、入居する施設で誰が日常的な医療管理を担うのかを確認してください。
今のかかりつけ医を続けるメリット
長く診てもらっている医師を継続することにはメリットがあります。
これまでの病歴を理解している
長年の治療経過、薬の変更歴、本人の体質などを把握している医師であれば、過去の情報を踏まえて診療を続けてもらえます。
複数の慢性疾患がある人では、これまでの経過を知っていることが安心につながる場合があります。
本人が医師を信頼している
高齢者にとって、慣れた医師へ相談できることは心理的な安心になることがあります。
認知症がある人でも、長く通ってきた医院であれば受診時の不安が少ない場合があります。
今のかかりつけ医を続けるときの確認ポイント
継続できるかどうかは、本人の希望だけでなく、実際に通院できるかが重要です。
施設から病院まで通える距離か
以前は自宅から近かった病院でも、老人ホームからは遠くなることがあります。
月1回・2回と定期受診する場合は、距離と移動時間が長期的な負担にならないか確認してください。
誰が通院に付き添うか
家族が付き添うのか、施設職員が同行できるのかを確認します。
施設職員の通院付き添いが有料の場合は、料金と対応可能な時間・距離も確認してください。
主治医が施設入居後も診療を継続できるか
本人が施設へ入居することを現在のかかりつけ医へ伝え、今後も通院を続けられるか相談します。
医師側から、施設近くの医療機関や訪問診療への移行を勧められる場合もあります。
施設の協力医療機関とは
老人ホームでは、入居者の病状急変などに備えて協力医療機関を定めている場合があります。
緊急時や健康相談で連携する医療機関
協力医療機関は、施設と連携し、健康相談や急変時の診療などに対応する役割を担います。
どこまで対応するかは施設と医療機関の協力内容によって異なるため、協力医療機関名だけでなく具体的な連携内容を確認してください。
協力医療機関が必ず主治医になるわけではない
協力医療機関があるからといって、入居者全員の主治医になるとは限りません。
本人が現在の主治医を継続する場合でも、急変時は施設の協力医療機関が対応するなど、役割を分けることがあります。
訪問診療へ切り替える場合
老人ホームによっては、医師が定期的に施設を訪問して診察する訪問診療を利用できます。
通院負担を減らしやすい
歩行が難しい人や車いす利用者では、病院へ出かけるだけでも大きな負担になります。
訪問診療を利用すれば、施設内で定期的な診察を受けられるため、移動負担を減らせる場合があります。
すべての診療科を訪問診療だけで完結できるとは限らない
眼科、整形外科、専門検査などは外部医療機関への通院が必要になることがあります。
訪問診療へ切り替える場合も、「何を施設内で対応でき、何は外来受診が必要か」を確認してください。
施設の提携医へ変更したほうがよい場合
今の主治医を続けることが必ず最善とは限りません。
01
現在の病院が遠くなった場合
施設から片道1時間以上かかるなど、通院が本人・家族の負担になる場合があります。
定期受診が多い人ほど、施設近くの医療機関へ変更するメリットが大きくなります。
02
通院そのものが身体的負担になった場合
要介護度が上がり、移動や待ち時間が本人の体力を消耗するようになった場合です。
訪問診療へ切り替えることで、本人の負担を減らせることがあります。
03
施設との医療連携を重視したい場合
施設と日常的に連携している医師であれば、職員との情報共有が行いやすい場合があります。
急な体調変化や看取りを見据える場合は、施設の医療連携体制を確認して選ぶことも重要です。
今の主治医と施設医の両方に診てもらえるのか
本人の病気によっては、複数の医師が関わることがあります。
役割を分ける場合がある
日常的な健康管理は施設の訪問医、専門疾患は従来の専門医というように分担することがあります。
この場合、処方薬や検査結果が重複しないよう、医師同士・施設との情報共有が重要です。
主治医が誰なのか曖昧にしない
複数の医療機関へ通う場合でも、全体の薬や病状を誰が管理するのかを確認します。
特に高齢者は複数の薬を使っていることがあるため、処方内容を一元的に確認できる体制が望まれます。
薬の処方はどうなるのか
かかりつけ医を変更すると、薬の処方や管理方法も変わることがあります。
現在の薬を正確に引き継ぐ
お薬手帳、薬剤情報提供書、診療情報提供書などを準備します。
自己判断で薬を中止・変更せず、新しい医師へ現在の処方内容を伝えてください。
施設での服薬管理方法を確認する
本人が自己管理するのか、施設職員が管理するのかを確認します。
処方日数や薬局との連携方法が決まっている場合もあるため、入居前に聞いておくと安心です。
診療情報提供書を準備しておく
主治医を変更する場合は、これまでの治療情報を新しい医師へ引き継ぐことが重要です。
現在の主治医へ紹介状を相談する
診療情報提供書には、病名、治療経過、現在の薬、検査結果などが記載されます。
老人ホーム入居に伴って医療機関を変更することを伝え、必要な情報を書いてもらえるか相談してください。
検査結果・画像情報も必要か確認する
専門疾患がある場合は、血液検査や画像検査の結果が必要になることがあります。
新しい医療機関へ何を持参するか、事前に確認すると診療を引き継ぎやすくなります。
緊急時はいつもの主治医ではない場合がある
今のかかりつけ医を継続しても、夜間や休日の急変時まで同じ医師が対応するとは限りません。
夜間・休日の連絡先を確認する
施設内で体調が急変した場合、誰が医師へ連絡するのか確認します。
協力医療機関、訪問診療医、救急医療機関など、時間帯によって対応先が変わることがあります。
救急搬送先が決まっているか確認する
施設の協力病院があっても、必ずその病院へ搬送されるとは限りません。
本人の病状や救急隊の判断、病院の受け入れ状況によって搬送先が変わる可能性があります。
看取りまで希望する場合は主治医体制を確認する
施設で最期まで暮らしたい場合は、看取り時に誰が医療を担うか確認します。
看取りを担当する医師を確認する
施設の訪問医、協力医療機関、外部の在宅医など、誰が看取りに関わるのか確認します。
現在のかかりつけ医を継続していても、施設での看取り対応までは行っていない場合があります。
夜間の急変時対応を聞く
医師が常駐していない施設では、夜間はオンコール等で対応する場合があります。
看取り方針と、急変時に救急搬送するケースの違いを事前に確認してください。
入居前に現在のかかりつけ医へ相談しておく
施設だけでなく、現在の主治医にも入居予定を伝えておくとスムーズです。
通院継続が現実的か聞く
施設の場所を伝え、今後も定期通院を続けられるか相談します。
主治医側から、より近い医療機関への紹介を提案してもらえる場合があります。
入居後に必要な医療情報を準備する
診療情報提供書、検査結果、服薬情報など、施設や新しい医療機関へ渡す書類を確認します。
入居直前に慌てないよう、施設が求める書類の締切も合わせて確認してください。
施設へ確認したい質問
かかりつけ医について入居前に聞くこと
- 今のかかりつけ医へ通い続けることはできますか
- 施設の協力医療機関はどこですか
- 協力医療機関を利用することは必須ですか
- 施設で訪問診療を受けられますか
- 訪問診療はどのくらいの頻度ですか
- 専門外来は外部病院へ通えますか
- 通院時に家族の付き添いは必要ですか
- 施設職員の同行は可能ですか
- 同行料金はいくらですか
- 夜間・休日に体調が悪くなった場合は誰に連絡しますか
- 薬は誰が管理しますか
- 看取り時はどの医師が担当しますか
かかりつけ医を変えるときの引き継ぎチェックリスト
新しい医師へ引き継ぎたい情報
- 現在の診断名
- これまでの治療経過
- 現在の処方薬
- 薬のアレルギー・副作用歴
- 直近の血液検査結果
- 画像検査等の結果
- 入院歴・手術歴
- 認知症の状態
- 本人・家族の治療希望
- 緊急時の連絡先
かかりつけ医を変えない場合にも情報共有は必要
以前の主治医を継続する場合でも、施設側が本人の医療情報を把握できるようにする必要があります。
受診結果を施設へ伝える
薬が変わった、検査結果に異常があったなど、介護上必要な情報を施設へ共有します。
家族だけが診療内容を把握し、施設へ伝わっていない状態は避けてください。
施設から主治医へ伝える情報も確認する
食事量、血圧、体重、転倒、睡眠状態など、施設での生活情報が診療の参考になることがあります。
本人・家族の同意のもとで、どのように医療機関と情報共有するかを確認しておくと安心です。
協力医療機関があるからといって、すべての医療を施設内で受けられるわけではありません
施設内で対応できる診療・検査には限界があります。専門診療や検査、急性期治療が必要な場合は、外部医療機関への通院や入院が必要になることがあります。
まとめ|かかりつけ医は「変更するか」より医療が途切れないことが重要
老人ホームへ入居しても、これまでのかかりつけ医を必ず変更しなければならないわけではありません。
今の主治医を続ける場合は、施設からの距離、通院方法、付き添い、緊急時対応を確認します。施設の訪問診療や協力医療機関へ変更する場合は、これまでの病歴・検査・服薬情報を確実に引き継ぐことが重要です。
また、現在の主治医と施設医・専門医を併用する場合は、誰が全体の医療管理を担うのかを明確にしてください。
「今の医師を変えたくない」「施設の医師に任せたい」という希望だけで決めず、本人の医療が途切れず、通院・服薬・緊急時対応まで無理なく続けられる体制を選ぶことが、入居後の医療で最も大切です。